「グリフィンの者が何故ここに…。それに悪魔だと?」
「嘘は一つも言っておらんよ。まぁ信じるかはお前さんら次第じゃが」
グリフィンに属しながらも悪魔であるダンタリオンは訝し気な表情を見せる錬金術士に対しても決して態度を崩す事はなかった。
のんびりと煙管を吹かし夢想家の方へ向く。表情こそは笑っているが目は決して笑っていない。
武器とか言った類は一切持っておらず、どうぞ撃ってくださいと言わんばかりに隙を晒している。命を奪おうと思えば今すぐでも出来る。しかしそれが返って危険だと夢想家は感じた。
明確な理由は分からない。今はそうするべきでないと自身の中で警笛が鳴り響いているから。たったそれだけの理由でダンタリオンが現れ、相対しても彼女は攻撃を仕掛けなかった。
そして攻撃を仕掛けなかった事に対し正解だと感じていた。何せ相手は自分と一部の者しか知らない事を知っているのだから。何処でそれを知ったのか聞くまでは彼女はダンタリオンの命を奪う事をしなかった。
「聞かせてもらおうかしら。何処でその言葉を知ったのかを」
「何処で、か…。それは教えられんの。じゃがこれだけは言わせてもらうか。…"眠り姫"は目覚め、今は囚われの姫と生きておる」
「なんですって…」
その台詞に夢想家は驚愕の表情を見せた。
彼女の反応を見てダンタリオンは紫煙を吐きつつ、夢想家の反応の事を交えつつ言葉を続けた。
「その顔を見るに目覚めている事すら知らんと見る。…あやつは目覚めておるよ。自らの意思を有し、囚われの城から助け出してくれる者を待っておる。最もお主らを希望している訳ではなさそうだったが」
二人の間で行われている会話に錬金術士も侵入者もついていけなかった。
だが夢想家がP.T.E.Bとやらを欲しているという事。そしてそれはどこかの宗教団体にあるという事は理解していた。それが欲しいが為に自分達を実験体のデータ取りの相手として扱われ、切り捨てられた事も。
もはや聞かずとも分かった。これが夢想家の行動に対する真意だと。
裏切り者である身。これ以上ここにとどまる事は危険と判断したのか錬金術士はグレネードランチャーを夢想家へと狙いを定めた。
「これこれ。少し気が早いぞ」
しかしそれを見越していたのかダンタリオンが錬金術士の前に立ち、その行いを咎めた。
「邪魔しないでもらおうか。奴もろとも消してやろうか」
「それは御免じゃの。じゃがこちらとて奴に聞かねばならぬ事が多くての。こちらが終われば後はそちらが勝手にするが良い」
睨む合う両者。
しかしそれは傍で見ていた侵入者によって止められる事となる。
「喧嘩は後にした方がよろしいですよ。どうやらあちらはやり合う気みたいです。最も相手は夢想家ではなく見た事のない子のようですが」
武器を構えある方向へと向く侵入者に釣られ、二人もその方向へ向く。
通路の奥から灯りが照らす下に現れる日本刀を模った武器を手にした一体の人形。目を閉じていても前は見えているのかしっかりとした足取りでその者は彼女達の前に立つ。
錬金術士と侵入者を見た後この時を待っていたかの様に笑みを浮かべ、その目を見開く人形。
その笑みは柔和なものではない。寧ろ恐怖を感じさせる様な狂った笑みの様にも見える。
そんな笑みを浮かべながら、その者は口を開いた。
「初めましてかな。僕の名は追跡者。出会えて光栄だ」
「これはご丁寧に。ご存知かと思われますが、私は侵入者。これから仲良く…と言いたいですが、その様子だとその気はなさそうですね」
「そうだね。事情はあれど裏切り者には変わりない。死に逝く最後までどんな表情を見せてくれるのか…とても楽しみで仕方ないよ」
追跡者とのやり取りを経て、どこか錬金術士と似た所があると侵入者は思った。
浮かんだ笑みの中に潜められた殺意。残虐な行為を愉しみとしている点は似ているだろう。だがそれ以上に勝てる気がしないと感じていた。
少しでも攻撃姿勢を見せれば距離を詰められ切り捨てられる。それ程までに危険な相手だと思わざるを得なかった。
「夢想家。もう良いかな?斬りたくて仕方ないんだ」
「良いわ、錬金術士と侵入者は始末して。けどそこの女だけは生かすのよ?まぁ四肢は切り落としても良いけど」
追跡者に指示し、最後にダンタリオンを睨みつけたから夢想家は去って行った。
彼女が去り、この場に残るは錬金術士と侵入者、ダンタリオン、そして追跡者。
一触即発の気配が漂う中、空気が読めてないのかダンタリオンは煙管は吹かしていた。それが合図となって追跡者は彼女へと突撃した。
「まずは君からだ!」
「やれやれ、年寄りを労わる気はないとはの。最近の者は礼儀はなっとらん。そう思わんか?…ルージュよ」
ダンタリオンがルージュと呼ばれる者の名を口にした時、突如として何かが砕け割れる音が響いた。
「ッ!?」
天窓を突き破り、空高く昇った月を背に一人の少女が降りてくる。禍々しくともどこか鮮やかに輝く弧を描いた刀身。揺れ、広がるコートの裾が何処か羽の様な物を彷彿とさせ、その姿はまるで死神の様だ。
そして彼女はダンタリオンに迫る追跡者へ向かって大鎌を振り下ろした。
刀身の切っ先が弧を描きながら追跡者へと襲い掛かる。それを軽やか動きで回避し、追跡者は襲い掛かった来た者と距離を取り睨みつけた。攻撃が掠ったのか、その頬から少量の人口血液を流しながら。
身の丈以上はある大鎌を手に、コートを羽織った少女。白と赤のグラデーションが掛かった髪。紅い瞳はダンタリオンと酷似している。相対している追跡者を睨み返しながらもルージュはダンタリオンへと話しかける。
「全く…勝手に一人で行かないでください。探すのが面倒でした」
「それは済まんの。じゃが鉄血の目的が例のアレという事は分かったぞ」
「やはりでしたか。…それで貴女の傍にいる二人は敵ですか?」
追跡者の方を向いたままであるが、ルージュはダンタリオンの傍に立っていた錬金術士と侵入者の事を尋ねる。
ダンタリオンの味方である事は間違いない。しかし自分達の味方とは限らないと判断したのだろう。錬金術士も侵入者も武器を構える。
だがダンタリオンが手を上げて制止。警戒を露わにしながらも二人は彼女を見つめる。
「どうやらこの二人は捨てられたみたいでの。どうせじゃ連れていこうかと思っての」
「おい、待て。私達はついて行くなど言ってないぞ」
「ならばここで果てるか?そんなのはお主とて望んでおらんじゃろう。ここまでされておきながら、はい分かりましたと言いながら死ぬ気か?どうせならやり返してみるのも悪くなかろうて」
やり返す。
その言葉が錬金術士の中で響いた。既に本来の目的は達している。この先どうするのも生き残ってから考える事にしていた。しかし今はそれが前倒しになり、選択しなくてはならない状況にある。
切り捨てられ、そして裏切り者となった今、引く事も出来ない。どうせならそれを実行してみようではないか。
その思いが錬金術士の中で沸き立つ。その印として彼女は覚悟を決めた表情を浮かべていた。
それを見ていた侵入者はやれやれと思いながらもついて行く事を決めると愛用している重火器を構え、この場に向かって集まりだしたかつての味方へと向け大きく、高らかに宣言する。
「御覧の通り。開演でございます!」
それが開幕の合図となり、その場は一気に戦場と化した。
榴弾、光弾が飛び交い爆発音や破砕音が連続して響く。その中で立っているにも関わらず追跡者とルージュは一歩動かず睨みあっていた。
「ルージュ!わしはこやつらと先にルートを確保しておく!少しの間、時間稼ぎを頼むぞ」
「分かりました。少しの間だけ時間を稼ぎましょうか」
弾幕を張り敵を近づけさせない侵入者。グレネードランチャーで榴弾を放ち敵を吹き飛ばしつつ、RDIストライカー12を片手で連射していく錬金術士。
ある程度敵の数を減らすと二人はダンタリオンの合図の元、その場から走り去っていく。ルージュは追跡者が相手する事を理解しているのか、リッパ―やヴェスピッド達はその後を追っていく。
この場には残るのは大鎌を構えたルージュと刀の柄に手を添えて構える追跡者。
両者の間に会話は訪れない。束の間の沈黙が訪れ…
「「!」」
両者がぶつかった。
凄まじい速さで繰り出される剣戟。火花が散りばめ、両者共に一歩も引かない。
追跡者が繰り出す攻撃を受け流しながら、大鎌のリーチを生かし即死級の一撃を与えようと攻める。
だがそう易々と攻撃を貰う追跡者ではない。大振りな薙ぎ払い攻撃に対し身をかがめて回避。そこから後方へと下がり居合の態勢を作る追跡者。地面を勢い良く蹴り、ルージュへと迫る。対するルージュは追跡者は使用した技を見て驚きの表情を見せた。
「その技は…!」
「これで終わりさ」
一瞬の内に距離を詰められ放たれた刃がルージュの首へと迫る。
しかし寸での所で自身と迫る刃との間に大鎌を滑りこませ、攻撃を受け止める。
そこから鍔迫り合いと発展し互いに押し込む合う中、先程の技の事をついてルージュが問いかける。
「先程の技…。貴女の技ではないですね?」
「おや?分かるのかい」
「ええ。随分前に見た事があるのでッ!」
自ら後ろへと引き、追跡者の体勢を崩すルージュ。
崩れた所を見逃さず、腹部に蹴りを叩き込み吹き飛ばすルージュ。だが何もなかったように追跡者は体を回転させて地面へと着地しルージュへと向けて余裕のある笑みを浮かべた。
お互いに距離が空くと構えを解かずルージュは予感していた。
先程の技は一部違うが、かつて異形だった時の自身と戦った
そしてその予想は追跡者によって正解へと生まれ変わった。
「黒コートの悪魔。鉄血では有名でね。何せ単身で部隊を壊滅できる程の力を持つって言うじゃないか。味方の残した彼の戦闘データを解析し、その技を僕の物にしたという訳さ。」
「良くそんな事を言えますね。それは模倣というのですよ」
「そんな事は分かっているさ。だから僕はいずれ黒コートの悪魔をこの手で殺す。技を、全てを自分の物にする為にね」
それを聞き、何か可笑しな点があったのだろうか。突然としてルージュは小さく笑い始めた。
その態度に苛立ちを覚える追跡者だが、ルージュは笑う事を止めなかった。
理由として何を馬鹿な事を言っているのだろうと思わざるを得なかったからだ。かつて異形だった自身を相手にした正規軍ですら勝てなかったというのに相打ちにまで持ち込んだ彼にどう勝つつもりなのだろうか。
それどころか彼はあの時以上の力を身に付けている。たかだか模倣した程度で追跡者が彼に勝てる要素が何処にあるのかルージュは理解出来なかった。
ひとしきり笑った後、ルージュは追跡者の顔を見つめ静かに口を開いた。
「貴女がどれ程模倣し、どれ程その身に
「! それにも気付いているなんて。君は一体何者だ…?」
「さて何者なんでしょうね。聞きたければ私を捕えればよいだけの事。最もそう易々と捕まる気もありませんがね」
その場から勢い跳躍し天窓から外へと飛び出るルージュ。
流石にそれには追跡者も追いつけず、言葉を荒くし叫ぶ。
「逃げる気か!」
「そうなりますね。…こちらは時間稼ぎが目的。これ以上戯れを続ける気などないので。ではお元気で」
追跡者にそう告げるとルージュはその場から去って行った。
追うにも追いつけないと感じたのか追跡者はルージュが出ていった天窓を見つめながら刀身を静かに鞘へと納めるのだった。
時間稼ぎを終えたルージュが天窓から飛び出た一方で錬金術士らは外へと繋がる出口を目指して基地内部を駆け抜けていた。何処に隠れていたのか姿を現すかつての味方達を倒しながら突き進んでおり、漸く出口付近までたどり着いた矢先、待ち受けていた者を見て三人は足を止めた。
そこにいたのはルージュと相対していたはずの追跡者。しかし三人の前に現れた追跡者は一言も発しない分、狂った様な笑みを浮かべているのは同じで、標的を見つけたのか追跡者は錬金術士へと攻撃を仕掛けた。
だが動きが単調だったためか攻撃はあっさりと躱され、対する錬金術士は追跡者を地面へ叩き付け、その顔面に向かって散弾を叩きこんだ。
至近距離で散弾を叩きこまれば幾ら追跡者と言えど耐えられる筈がなく、顔面がぐしゃぐしゃに成り果てた追跡者が地面に横たわる。
「ダミーか。用意周到なのは結構だが、この程度ではな」
「そんな事言っている場合じゃないですよ。ほら、あの人が車を持ってきてくれましたよ。さっさと乗って休憩でもしましょ」
基地の出入口付近にダンタリオンが運転する車両が現れ、二人は敵が来る前に車内へと飛び込んだ。
そこに時間稼ぎを終えたルージュが現れ、二人に続く様に車内へと乗り込む。全員が乗り込んだのを確認するとダンタリオンは車両は基地の外へ向け、アクセルを勢い良く踏んだ。
車両は猛スピードで基地を離れていき、その姿が見えなくなるまで飛ばす。
基地の姿が見えなくなるまで離れると車両は速度を下げ、ダンタリオンは運転をルージュと交代。一息ついていると錬金術士が彼女に問いかけた。
「一先ず礼を言う。そして聞かせて欲しい。夢想家が欲しているP.T.E.Bとは何なのだ?」
「気付いていると思ったのじゃが。…まぁ良い、教えてやろうかの」
走っていた事もあって乱れた髪を整えつつ咥えていた煙管から紫煙を吹かすダンタリオン。
そして彼女は錬金術士の問いへと答えた。
「プロトタイプ・エルダーブレイン。その頭文字を取ってP.T.E.B。それがあの者が欲しているものの正体じゃよ」
つまりどっかの宗教団体が協力してくれたお礼としてあげるのがP.T.E.B…つまりプロトタイプ・エルダーブレイン。
起動しているか鉄血ですら分からなかったというのに、知っていたダンタリオン…。彼女は一体何者なんだ?
そして追跡者ですが。彼女はギルヴァの持つ技(一部)模倣しています。エアトリックや次元斬は無理ですが、それ抜きでも強い感じです。基地一つ潰す位なら難なくやってのけるレベルで。
またルージュに関しては追々という感じで。
次回も錬金術士ら四人編でお送りいたします。もう一つ出さないといけないのがあるので。
では次回ノシ