「プロトタイプ・エルダーブレインだと…?」
ダンタリオンの口から告げられた言葉に錬金術士はありえないといった声を上げた。
彼女の隣で座っていた侵入者でさえ驚きの表情を見せており、その存在を知っている訳ではなかった。
最初は嘘だと二人は思った。しかしダンタリオンが現れ、その言葉の略称を口にした時夢想家の反応が違っていた点を踏まえると彼女の言っている事が嘘ではない事は明白であった。
「鉄血のお前さんらでも知らんとはのう。…まぁそれもその筈か。存在すら都市伝説並みに怪しかったのじゃからな」
「しかしそれは存在していた、か…。では何故我々の元を離れている?」
「さぁの。それはあやつすら知らんといっておったの」
先程のダンタリオンの口振りはまるで実際にプロトタイプ・エルダーブレインから聞いた様な口振りだった。
傍で聞いていた侵入者はそれに対し疑問に思い、ダンタリオンへと尋ねた。
「その口振りですと、目の前で会話した事がある様にも思えますが?」
「そうじゃよ。今は抜けておるが、かつては鉄血にそれを餌に交渉を吹っ掛けた宗教団体…"神の代行者"に属しておったからのう」
それを聞いた瞬間、ダンタリオンの顔面に銃口が突き付けられる。
銃口を突き付けたのは錬金術士。夢想家が言っていたどっかの宗教団体にかつて属していた女。それを知れば敵かも知れないと疑っても可笑しくない。
ダンタリオンもこうなる事は予測済みだった。しかし表情を一転していた。
笑みから真剣な面持ちへと一転しており、ジッと錬金術士の目を見つめている。
運転席でその行動を目撃したルージュ。咄嗟に急ブレーキを踏もうとした時だった。
「ルージュ、何もするでない。このまま走らせい」
それに気づいていたのかダンタリオンがルージュへとそう促した。
声には真剣味が帯びている事もあり、彼女は言われた様に何もせず運転に集中する。
車のエンジン音と道の上を走る音だけが車内を支配する。一触即発の状況の中、ダンタリオンは錬金術士へと話しかける。
「お主らがわしを警戒するのは当然じゃ。今信用しろとは言わん。だがの…これだけは言っておこう。わしの狙いはお前さんらと敵対する事ではない。あやつを鉄血の手に渡さぬ事、そして代行者共が信仰する神とやらを地獄に堕とす事が目的なのじゃ」
錬金術士の目にはダンタリオンが決して嘘を言っている様にも思えなかった。
それどころか彼女の瞳にはそれ相応の覚悟を宿している。
錬金術士にそう思わせるだけの凄味と覚悟がそこに存在していた。一瞬迷いはしたものの今は争うべきでないと考えを改め手にしていた銃を下ろすと、近くの座席へと腰掛けた。そこから何か問う事はしなかったので、彼女と交代する形で侵入者が問う。
「神の代行者と呼ばれる宗教団体がプロトタイプ・エルダーブレインを餌に鉄血に交渉を吹っ掛けたのは理解致しました。しかしその様な団体は初めて耳にしましたわ。この辺りでは活動していないのでしょうか」
「その事か。確かにこの辺りでは活動しとらんよ。その理由としては本拠地がここから相当離れてるからの。わざわざこんな遠い所まで布教目的で出向く事はあるまい。それにあそこは引きこもり体質での」
「引きこもり体質…ですか?」
「うむ。周囲には白く染められた大きな城塞よって街全体を囲んでおる。それはまるで外との関わりを絶つ様にの。その中央に存在する大聖堂は外からでも見える大きなでの。名も無き都市は何時しかこう呼ばれる様になった」
煙管の火皿から灰を落としつつ、再び新たな刻み煙草を火皿へと詰め込むダンタリオン。
火をつけ、ゆっくりと味わうと静かに紫煙を吐いた。
ゆらゆらとそれが昇っていく中、侵入者はダンタリオンの口からその場所の名が出てくるのを待った。
一服した時、彼女は静かに口を開き、その名を口にした。
「城塞都市 ホワイト・カテドラル。…プロトタイプ・エルダーブレインも今はそこにおるよ」
「ホワイト・カテドラル…」
繰り返す様に侵入者がその名を口にすると、突然車両が速度を上げルージュ以外の全員が態勢を崩した。
いち早く体勢を立て直したダンタリオンはルージュへ叫ぶ。
「ルージュ、何事じゃ!?」
「後方から敵の様です。どうやらあいつら、人形ではなく魔物を送ってきたそうです」
「魔物じゃと!?」
車窓を開き顔を出すダンタリオン。
そして後ろを振り向き、視線を空へと向けるとそこにはルージュの言った通り空飛ぶ魔物が追ってきていた。
既にダンタリオン達を捉えているのか、六翼から光弾を一斉発射。無数の光弾が車両の後方と上方からへと襲い掛かってくる。
「ルージュ!全部躱せいッ!!!」
「言われなくても分かっていますッ!!!」
巧みなハンドル操作で車両を右へ左へと動かしながら攻撃を回避していくルージュ。
何とか最初の攻撃は躱せたものの、油断はできない。
このままでは狙い撃たれる一方でどうにかこの状況を退ける必要がある。それを思ったルージュはダンタリオンへと提案する。
「ダンタリオン、運転をお願いします。私が奴を何とか退けます」
この状況が続けば後が厄介だという事はダンタリオンも理解している。
しかし彼女は運転が得意な方ではない。先程の攻撃を躱せるかと聞かれば自信はない。
だがやるしかない。駄々をこねている場合ではないのだから。
「やれやれ、年寄りに無茶をさせるもんじゃ」
「無茶は今まで何度も経験してきたでしょう?…大丈夫、貴女ならやれますよ」
「お主にそう言われると少しは安心できるの。…さて、運転代ろうか」
「はい…!」
運転をルージュと交代するダンタリオン。
アクセルをべた踏みし車両の速度を上げ、少しでも追ってくる魔物との距離を取ろうとする。
対するルージュは大鎌を手に後部ドアを開き、軽やかな動きで外へ飛び出すと車両の上へと飛び移った。
彼女が車両の上部へと行くと、車内では武器を構えた錬金術士と侵入者が荷台側ドアを開き、空飛ぶ魔物と対面する。
それを相対したにも関わらず二人に竦む様子はない。それどころか見慣れたのか笑みすら浮かべる程だ。
「喋る狼や猛禽類、あまつさえは空間を斬る剣士を目にしたせいか。あれを見ても大して驚かんな」
「剣士に関しては少し気になりますね。…そして私も同じ気持ちですわ。もう慣れたのか驚きませんね」
空飛ぶ魔物が攻撃を仕掛けようと動き出す。
それをさせまいと二人は魔物へ向けて銃撃を開始。そしてルージュも大鎌を構えるとその場から勢いよく飛び出し魔物へと攻撃を開始。
ルージュとて空を飛ぶような技を持ち合わせてはいない。一撃を与えては相手の体を足場にして元の位置に戻るといって戦法を取る他なかった。
「やりづらい相手ですが…何もしないよりかはマシでしょう!」
魔物の体目掛けて刀身に魔力が注がれた大鎌を振るい傷を負わせる。
痛覚はないのか、或いは鈍いのか鋭い一撃を受けたにも関わらず魔物に怯む様子はない。それに対し舌打ちしながらもルージュは続けざまに大鎌を振るう。
だが魔物とて何度も攻撃を貰う様な魔物ではない。大鎌による攻撃を躱す為に回避行動へと動き出し始める。それを察してルージュは魔物が距離を取る前に体を足場にして車内の上へと飛び移った。
彼女が戻った時には魔物は距離を取っており、そこから攻撃へ移行。
何処からともなく現れるピットの様なものが飛び出し、ルージュに目掛けて飛んで行く。
一方で魔物から放たれたピットを見て錬金術士は言葉を失った。
少し姿は変わっているが、形自体に変わりはない。そしてそのピットは自分達の仲間が使っている武装であると確信し、彼女は追っ手たる魔物へ向かって叫んだ。
「まさかお前…
その声に案山子と言われた魔物は反応する事はない。
無慈悲にも攻撃を仕掛ける一方で錬金術士は舌打ちをする。かつての仲間に銃撃を仕掛ける事を躊躇いそうになるが生き残る為だ。心の中で謝罪しながらも銃口を突き付ける。
侵入者の攻撃なら兎も角、錬金術士は持つ銃では距離をあり過ぎて届かない。流石に侵入者やルージュ任せでは良くないと思った矢先。運転中であるダンタリオンが錬金術士へと叫んだ。
「おい、眼帯!そこの木箱に良い物がある。一発かましたれいッ!!」
ダンタリオンの声に反応し、錬金術士は近くにあった木箱を開け、そこにあったものを手を伸ばす。
木箱の中に入っていた良い物とはバレットM82対物ライフル。
これならあの魔物に強烈な一撃を与えられる。その思いを胸に錬金術士は弾倉を差し込み、姿勢を整えつつスコープを覗く。移動している事もあって中々狙いが定まらない。
侵入者が錬金術士に攻撃を行かない様に銃撃を続け、ルージュがピットの対処。
隙を晒すを待ち続けた時、魔物の頭部当たる部分が晒された。それを見逃さなかった錬金術士は目つきを鋭くし、引き金に指をかけた。
彼女の中で時がゆっくりとなる。引き金を引く指が軽くなり、錬金術士は静かに呟く。
「許せよ、案山子」
発砲。銃口から大口径の弾丸が放たれる。
真っ直ぐと決して軌道がずれる事無く、弾丸は頭部目掛けて飛んで行く。
そしてその一発は魔物の頭部を穿った。中の体液を飛び散り、魔物は怯み地面へと墜落。それが隙となりダンタリオンが運転する車両はその場から離脱していき、何とか状況を切り抜ける。
切り抜けた事に安堵しルージュが車両へと戻る中、錬金術士は遠ざかっていくかつての仲間へと言葉を投げかける。
「…そのまま眠れ、案山子」
その言葉を傍で耳にしながら侵入者は何も言わなかった。
ただ遠ざかっていく魔物を見つめるだけ。
朝陽が昇り、そのまま車両はとある地区…L地区へと入っていくのだった。
変わり果てたかつての仲間。
そしてそれと敵対した錬金術士たち。
色々と飛ばし飛ばしですが、ご容赦を…。
それとこれは未定なのですが、うちに属している鉄血のハイエンドモデルたちに新たな名前を名付けようと考えています。もしかしたら「良い名前ない?」みたいな感じで活動報告にて聞くかも知れないです。
必ずしもとは言えないのでご容赦を。
では次回ノシ