Devils front line   作:白黒モンブラン

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―――最初は小さな出来事からだった…


Act111 small event

ダンタリオン達によって悪夢の一端が明かされた事を知る筈もなく、S10地区前線基地は普段通りの業務をこなしていた。

ある部隊は後方支援に、ある部隊は哨戒任務へ、ある部隊は非番なので思い思いの一日を過ごす。

一方で便利屋「デビルメイクライ」ではUMP45が不満そうな表情を浮かべ、ギルヴァがいつも座っている椅子に腰掛けていた。任務から帰還し、9とG11がカフェへと向かって行くのを見届け何時ものように彼へと甘えようと足早に戻ってきたら、代理人の買い出しの付き添いでギルヴァも外へ出ていったとグリフォンとフードゥルと共に基地の方へ向かったノーネイムに知らされたのだ。

甘える時間が遠のいてしまった事により、45は先程から不満な表情を浮かべていたのだ。

 

「少しは落ち着いたらどうかしら。あの時みたいに一週間も帰ってこない訳じゃないのだから」

 

「むうぅ…」

 

頬を膨らませ頬杖を突く45。

咎める様に彼女に話しかけたのはソファーに腰掛け、本を読んでいた416だった。

出掛ける前に代理人が淹れてくれた紅茶を味わいつつ、器用に片手でページをめくる。

完璧と自称する416だが、決して訓練を怠る様な人形ではない。自主的に射撃訓練は行い、時間が空いた時には戦術指南者を手に取る事もあった。

しかしギルヴァが愛読している小説や詩集を読む事は殆どなかった。小説は彼の好みがある為か多少の偏りはあるが、詩集に関しては幅広く集めているようで息抜きの時には416は小説よりも詩集の方を好んで読む事が多い。

そして今も詩集を読んでおり、その姿を見ていた45はかつて416が呟いたある台詞を思い出しそれを口にした。

 

「欲望あれど動かむ者には災いあり…。ねぇ、いつになったら貴女動くのかしら?」

 

「…うぐ」

 

45は416がいつギルヴァと結ばれる為に動くのか期待して待っていた。

しかし日が経てど経てど彼女に動く様子はない。

だが416にもある理由があった。

 

「…彼が寝ている所に忍び込もうとはしたのだけど、急に恥ずかしくなって…」

 

「えぇ…」

 

強引にギルヴァのファーストキスを奪っておきながらそんな台詞が出てくるとは誰が思うだろうか。

流石の45もそれには予想にしておらず、困惑した声を上げた。

このままじゃ肝心な時にヘタれては一歩も進まない。

どうしたものかと45が頭を悩ませた時だった。店の裏口へと通ずるドアが開く音が店内に響いた。

 

「こ、こんにちは」

 

入ってきたのはAR小隊の小隊長 M4A1に…

 

「よっ、邪魔するよ」

 

M16A1。そしてもう一人。

 

「こんにちは。お邪魔しますね」

 

「ニャ」

 

ニャン丸を抱えた95式であった。それを見て珍しい組み合わせね~と素直に感想を述べる45。

一方で95式は兎も角、二人が訪れた瞬間416は機嫌を悪くした。しかしここは彼の店であり、身を置かせてもらっている以上は帰れとはすぐに言わなかった。

最も依頼をしに来た訳でないのであれば、店主たる彼に代わってとっとと帰れと伝える気でそれを気取られぬ様に416は読書を再開し45がここへと訪れた理由を尋ねる。

 

「95式は兎も角、二人はどうしたのかしら?暇になって遊びに来た訳じゃないでしょ?」

 

「ええ。…えっと、ギルヴァさんは…不在ですか?」

 

「ギルヴァ?彼なら代理人と一緒に買い出しへ向かったけど?彼に何か用かしら」

 

M4がギルヴァに用があると聞いた瞬間、45の言葉が何処か刺々しいものに移り変わっている事にM4もM16も気付いていた。M4がどう説明しようかと悩んだ時、M16がここに来た目的を明かす。

 

「妹が何度か世話になったって聞いてね。そのお礼を言いに来たのさ」

 

「なら貴女一人で来たらいいじゃない。わざわざ付き人を付ける必要なんてないでしょ?」

 

「まぁそれもそうなんだがな。生憎とここに来て短くてね。私より先にここに来たM4に案内を頼んだ訳さ。覚えておいては損はないだろう?」

 

M16の意見にも一理あった。

それに対し45も認めざるを得なかった。何処か険悪な雰囲気を感じさせるこの状況に困惑といった表情を浮かべる95式。取り敢えず周りの邪魔にならぬ様に彼女は店内端に置いてあった椅子に腰掛け、事態が収まる事を祈りながら見守る事に徹する。

因みに95式がここに訪れた理由はニャン丸と一緒に彼に会いに行こうといった理由で、まさかAR小隊の二人と行動するとは思ってもなかった。

出かけにいった彼が早く帰ってこないかなと願いつつ95式は甘えてくるニャン丸の相手をする。

慣れた手つきでニャン丸を撫でている際にふと彼女は思った。

 

(95式は兎も角って言っていたけど…あれ?私、あの人に好意抱いているの見抜かれてる…?)

 

それに気づいた瞬間、95式の顔が真っ赤になる。

どうして真っ赤になったのか分からず、ニャン丸は95式へと首を傾げながらにゃー?と鳴くのだった。

 

 

その頃、ギルヴァは代理人と共に町にあるカフェで一服していた。

既に購入するものは終えたのか食材やら必要なものが詰められた紙袋が椅子の上に二つ程置かれており、その隣で代理人は淹れたての紅茶の味を楽しんでいた。

対面に座るギルヴァは注文していた珈琲を既に飲み終えており、代理人が飲み終えるまで外の景色を見つめ沈黙を保っていた。

時刻は昼下がり時。この時間帯ならカフェにはそれなりの客がいるのだが、今日は客は少ないのか空いている席が多い。店内に流れるのんびりとした曲を耳にしながら彼は考えに沈んでいた。

議題はM16が撮影した映像に出てきた例の"赤い竜"についてで、どうしたものかと思っていた。そこに蒼がギルヴァへ話しかける。

 

―やっぱ気になるか?あの赤い竜が

 

(当たり前だろう。あの時以降、暴走した覚えがないのだからな。誰が、どうやって紛い物を作ったのか気にならん方がどうかしている)

 

―そこなんだよな。色は違うが、あの姿はかつて暴走し異形と化したお前にそっくりだ。…あんま考えたくないが、俺達が出会ったあの日…お前がぶっ殺したあいつらの中に奇跡的に"生き延びていた奴"がいたという可能性も否定できねぇ

 

(生き残りか…)

 

ギルヴァとて赤い竜を見たとはいえ暴走した時の記憶を全て思い出せてはいなかった。思い出せているのは妹の本当の最期と思われる一端と自身が魔に囚われ暴走した時の姿だけ。

かつて蒼が明かした様に暴走し、家族を奪った奴らの所へ襲撃し全員殺害した、と聞かされているがそれすらも覚えていなかった。覚えていないが故に蒼の推測も否定できるものではない。

肝心な時に何故覚えていないのかと自身を責めつつもそれを顔には出さないでいるギルヴァ。

ふとその時、ギルヴァの顔をまじまじと見つめていた代理人が話しかけた。

 

「何か悩み事ですか?難しい顔をしていますよ」

 

「…何故そう思う」

 

「明確な理由はありません。ただ共に過ごす事になって今日という日まで私は貴方を見てきた」

 

カップをソーサーの上へ置き自身の顎付近まで手を組む代理人。

ギルヴァの目をじっと見つめながら小首を傾げ彼女は微笑んだ。

 

「だからでしょうか。ギルヴァが何を考えているのか分かる様になってきたんですよ」

 

そこに裏などない。純粋な気持ちだけで形成された美しい笑みが存在していた。

彼女が人形だと知らずに、ましてや鉄血の人形だと知らずに今の笑みを見せられてしまえば、どんな男でも一発で心を射止められてしまうだろう。

それ程までに美しく、魅力的であった。現にその笑みにギルヴァはつい見とれており、それが代理人に気付かれそうになるとすぐさま顔を窓側へと逸らした。その行動にクスリと小さな笑みを上げる代理人。

自分らしくないと恥じ入りながらも外の光景と見つめていた時であった。ふとギルヴァは小さく声を漏らした。

 

「む…?」

 

「どうされましたか?」

 

その声を耳にした代理人が最後の一口を飲み干したティーカップをソーサーへと置きながら彼へと尋ねる。

それに対しギルヴァは顎で外へ指し示し代理人はその方向へと顔を向け、そこに映る光景を見つめた。

二人の視界に映ったのは髪は乱れ、服の所々破れているを気に留めず路地裏へと向かって行く一人の少女の姿だった。ウサギの耳の様な形をした黒いリボン。銀髪をポニーテール状にしてまとめ上げていた。

首にはチョーカーが付けられているが、どう見てもオシャレの為に物には見えない。ランプの様なものが取り付けられており、少々厚みがある。チョーカーというよりも首輪と言った方が正しいだろう。

少女は何処か恐怖に怯えており、何から逃げている様に見える。建物と建物の間にある路地裏奥へと消えていくと同時に追っ手なのか怒りを露わにし、体格のいい男が少女が入っていった路地裏へと入っていき奥へ消えていった。

 

「…何やら良からぬ感じがしますね」

 

「ああ」

 

二人は椅子から立ち上がり、料金を支払い買い物袋を手に取ると少女が消えていった路地裏へと向かった。

S10地区内の町の路地裏は妙に入り組んでいる。他の通りを目指して歩いたとしても行き止まりに当たる事の方が多い。ここに慣れていない者であれば確実に迷うだろうし、下手すればここに入っていった少女が行き止まりに当たってしまい、他の道を目指そうとした時にあの男に追い付かれる可能性もあった。

事情を知る訳ではないが、見て見ぬふりを決め込む気などギルヴァにも、代理人にもなかった。

少女を見つける為路地裏を歩いていくギルヴァと代理人。そしてギルヴァは少女とあの男の正体を気付いていた。

 

(人形に悪魔とはな…)

 

悪魔が何故人形を追っているのかは知りもしない。

だが悪魔はこの世に居てはならぬ存在。早々に地獄へ葬る必要があった。

今回愛刀「無銘」は持ってきていない彼だが低級悪魔程度なら遠距離攻撃で用いる幻影刀で始末できるので問題ない。

今は出来るだけ早く少女…人形を救い出す必要があるという事だけは明白であった。

人形と悪魔の気配を辿りつつギルヴァが先導し、その後をついて行く代理人。

そして十字路に差し掛かった時であった。

 

「来ないでッ!」

 

恐怖を織り交ぜた人形の声が路地裏内に反響した。

その一瞬で人形がどこに居るのか察知したギルヴァは勢いよく走り出した。彼が走り出した事により続く様に代理人も走り出しその後を追う。

二つ目の十字路に差し掛かると迷う事無く右へ曲がる。その先は行き止まりで追い詰められた人形がじわじわと歩み寄ってくる男に対し怯えた表情を浮かべながら一歩、また一歩と後退りしている光景が二人の目に映った。

 

「ゴミ人形が散々逃げ回りやがってッ!!てめぇが逃げたせいで客との商談が破談したんぞ!!覚悟は出来てんだろうなぁ!あぁ?!」

 

興奮しているのか、ギルヴァ達に気付く様子はなく男はズボンのポケットからあるものを取り出した。

手に握られているのは何かを起動する為のスイッチらしきもの。

アンテナを立たせ、近くのレバーを男が上げた瞬間少女の首のチョーカーのランプが発光し赤く点滅し始めた。

それが何を意味しているのかを理解したのか人形の表情が絶望へ切り替わった。

 

「い、嫌…やめて…」

 

「もう許さねぇ!てめぇの頭をふっ飛ばした後はあいつらだ!!良い体してるからな!使えなくなるまで相手してもらわねぇとなぁッ!」

 

どういう状況なのか二人は理解した。

男は拉致したのか人形を客に高値で売りさばく売人。そして人形は男の商品として売りさばかれる予定であったが隙を見て逃げてきた、と。

それが分かった時には既にギルヴァは男の方へ歩み始めていた。男の後方からギルヴァが歩み寄ってくるのを見た彼女は助けを乞う為に震える手を伸ばし、後ろから誰かが歩み寄って来ていると気付いたのか、男は勢いよく振り向くとギルヴァへと向かって怒号を上げる。

 

「何だ!てめぇ!見せもんじゃねぇぞ!さっさと失せやがれッ!」

 

「ほう?人に扮した悪魔でも三流じみた脅し文句が吐けるとはな。多少の知能は有している様だな」

 

「ッ!?」

 

まさか悪魔であると見抜かれているとは思わなかったのだろう。

驚きの表情を見せる男に対し、ギルヴァは流れる様に人に化けた悪魔へと挑発する。

 

「人に化ければ騙せると思ったか。貴様の様な悪魔の気配は分かりやすい。今度人に化けるのであれば気配の消し方でも覚えてくると良い。…最もそれが必要になるとは思えんがな」

 

「この…」

 

男の体が膨張し始める。

着ている服が次々と破れていき、段々と体格が変化していく。持っていた起爆スイッチはもうどうでも良いのか握り潰され次の瞬間、男の本来の姿が晒された。

剛腕に鋭い牙と爪、湾曲した角。紅い瞳が不気味に輝くと悪魔はギルヴァへ襲い掛かる。

 

「下等生物がァッ!!」

 

だが時に既に遅し。

悪魔がギルヴァへ襲い掛かった瞬間、周囲には複数の幻影刀が配置されていた。

伸ばした腕が届く前に展開された幻影刀が一斉に放たれ、その体を串刺しにする。その直後に何処からともなく髑髏の装飾が施された大剣が槍の如く飛来、刀身が後頭部にへと突き刺さり絶命した悪魔ごと連れてそのまま地面へと突き刺さった。

余りの事にし人形が言葉を失う中、大剣の持ち主たる男が建物の上からこの場へと降り立ち代理人が名を口にした。

 

「ブレイク、どうしてここに」

 

「やたら悪魔の臭いがするもんでね。食後の運動がてら出てきた感じさ」

 

何時も見せる余裕のある笑みを浮かべながら突き刺さったリベリオンを引き抜くブレイク。

刀身に付いた血を払い背へ納める傍らで、ギルヴァは呆然とする人形の傍へと歩み寄っていた。

姿勢を低くし目線を合わせつつ、彼は彼女へと話しかける。

 

「怪我はないか」

 

声を掛けられてやっと我を取り戻したのか、ハッとする人形。ゆっくりと首を動かしギルヴァの顔を見た瞬間、助かった事に安堵し、緊張の糸が解けたのかそのまま気を失ってしまった。

流石にここに置いておくわけには行かず、ギルヴァは彼女を背負い代理人と共に店ではなく、直接基地の方へ向かう事にした。悪魔が関わっている案件という事もあり、ブレイクもそれに同行する事になるのだった。

 

 

基地へと戻り、救出した人形を医務室のベットに寝かせた後ギルヴァ達はシーナへと事の顛末を話していた。

悪魔が関わっていると聞かされた時シーナの表情も険しくなるが彼女が目覚めるまで調査のしようもないので一旦保留という形となった。

報告を終えた後ブレイクはそのまま自分の店へと戻っていき、ギルヴァと代理人は店へと戻っていた。しかし店に入った瞬間、彼の表情が厳しくなり代理人に至っては啞然としていた。

二人の居ない内に、酒盛りが始まっていたのか店内には酒気が漂っており、酔いつぶれた416と未だに飲み続けているM16の姿。ギルヴァと代理人が帰ってきた事によってあたふたする45とM4A1に95式。

状況が掴めていないのか、店に戻ってきていたノーネイムらと9とG11は呆然とし、ギルヴァは指を額に当て一つため息を着くと静かに呟いた。

 

「…何があった」

 

その一言に状況が掴めていない者達全員が頷くのであった。




ここからS10地区前線基地&ギルヴァ達編へとお送りいたします。

さてそろそろ渡さなきゃねぇ…。ん?何をだって?それは次回に。

さて…気付けば今日はこの「Devils front line」を初めて投稿した日になるんですよね。
一年ってあっという間ですね、ほんとに。
投稿し始めた当初は「見てくれる人なんていねぇよな」とか「すぐにヘタレるかなぁ」とか思っていました。
けど見てくれる方々が居てくれたおかげで続いたもので今では話数も100話を超えました。正直ここまで続くとは私自身思いもしなかったです。

この作品を読んでいただいている方々に本当に感謝申し上げます。
今後とも「Devil front line」をよろしくお願いいたします。
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