朝陽が昇り、外の光が店内に差し込む。
昨夜激しく彼女達と交わったギルヴァは、眠っている皆を起こさぬ様にベットで抜け出すと普段の服へと着替え書斎に腰掛けて本を読んでいた。
朝とは言え、時間は7時台。未だに眠っている者もいる為音楽をかける訳にも行かない。その代わりに言うべきか小鳥の囀りを耳にしながら本のページをめくっていく。
合間を縫って淹れたての珈琲を味わっている中、今し方戻ってきたのか蒼の声が彼の中で響く。
―よっ。おはようさん
(…今戻ってきたのか)
―流石におっぱじめてる所に戻る訳に行かねぇだろ?空気を読んだ事に感謝してほしいね。…それでどうだった?誰が一番激しかったよ?
(…黙秘を貫かせてもらう)
―ちえっ
そういった手合いの話には乗らないギルヴァに蒼は軽く舌打ちした。
本人は素知らぬふりをし読書に没頭。次のページを捲った時、身だしなみを整えたノーネイムが自室から出てきた。
「父よ、おはよう」
「ああ。…珈琲を淹れてある。好きに飲め」
「そうさせてもらう」
愛用しているマグカップを棚から取り出し珈琲を注ぐノーネイム。
ある程度注ぐくと彼女はソファーにへ腰掛け淹れたての珈琲を一口飲み始めた。基本的に起きるのが早いのはギルヴァ、次にノーネイムである。
この朝の時間にたまに会話をしたりするなど交流は図っている。そして今日も何時もの様にノーネイムは他愛のない会話を始めようとした時、ギルヴァが読書を中断し彼女の名を呼び、ある事を伝えた。
「…母親が二人増えたぞ」
さり気なく彼の口から告げられた事にノーネイムは少しばかり驚いた表情を浮かべた。
いきなりそんな事を言われたのだから無理もない。だがノーネイムも何時しか増えるだろうとは予感はしていた。
彼に好意を抱いている者達がいる事も知っていた。いずれ父たるギルヴァと相手がそういった関係になるという事になればその先がどうなるかも予想していた。
「そうか。…それはとても喜ばしい事だ」
前もって予感していたからこそ、彼女はそれをすんなりと受け入れた。
娘がすんなり受け入れた事にギルヴァは意外だなと感じた。だがそれを問おうとはしなかった。
読書を再開しようとした時、ノーネイムの口からとんでもない台詞が飛び出た。
「…私も娘ではなく、貴方の妻という立場になってみたいものね」
それを聞いた瞬間、ギルヴァは固まった。
そんな台詞が彼女の口が出てくるとは思わなかった。流石にそれは不味いとしか思えず、ギルヴァは恐る恐るノーネイムへと問おうした時、彼女はそっと微笑むと口を開いた。
「冗談だ。そう本気にしないでくれ、父よ。私は貴方の娘という立場が良い。それ以上を望む気など私にはない」
その割には本気に聞こえたのだが、とつい言いそうになるギルヴァ。
何とかそれを押さえて彼は読書を再開。部屋で眠っている者達が目覚める間、二人はこの朝の静けさを堪能する事にした。
時刻は昼前。全員が起床し改めて結婚を果たした416と95式をノーネイムに紹介したギルヴァ。
大きい娘が出来た事に416も95式も少々戸惑い気味であったが、ノーネイムに母さんと呼ばれその嬉しさもあってか抱きついていたのは言うまででもないだろう。
その後、ギルヴァと代理人はシーナに呼び出され、昨日助けた戦術人形が居る医務棟へと向かっていた。
病室前でシーナ、そして後方幕僚のマギーと合流を果たすと早速彼は呼び出された理由を尋ねる。
「呼ばれた理由を聞こうか」
「うん。昨日ギルヴァさん達が助けた人形がさっき目覚めてね。何があったのかを知る為に事情聴取に同席して欲しいの。助けてくれた人が居たら安心かなと思うし」
「成程。しかし代理人を同席させて大丈夫なのか?こちら側についたとは言え元鉄血。何も知らん相手が彼女を見れば混乱するぞ」
「その点には大丈夫。前もって先に説明しておいたから。多少の混乱は避けられないと思うけど、突然襲い掛かってくる事はないと思う」
事前に説明しているのであれば問題ないと判断したギルヴァは納得した表情を見せる。
彼に納得してもらったと見たシーナは病室のドアを軽くノックしてから開いた。先に入っていくシーナとマギーの後に続く様にギルヴァと代理人は室内へと足を踏み入れる。
病室のベットでは上半身だけ起こし、その赤い瞳で彼らを見つめる一人の戦術人形。対してシーナは彼女の傍へと歩み寄ると近くの椅子に腰掛けて話しかけた。
「気分はどう?Five-Seven」
Five-Sevenと呼ばれた人形は軽く腕を回して、大丈夫とアピールする。
しかし本調子ではないのか、何処か無理しているとシーナは感じていた。
「ぼちぼちと言ったところかな。それにしてもホントに鉄血のハイエンドモデルがいたのね…」
「びっくりした?」
「少しだけ。説明がなかったらもっと驚いているかも」
「そっか」
柔和な笑みを浮かべながらシーナは他のメンバーの紹介していく。
一人ずつ57と軽く交わし最後にギルヴァと挨拶を交わすと何かを思い出したかの様に彼女はギルヴァの顔をジッと見つめ、尋ねる。
「昨日助けてくれた人…よね?」
気を失う直後であった為か助けてくれた人物が完全に彼だという確証は57にはなかった。
それに対し尋ねられたギルヴァはそうだと頷き言葉を続けた。
「大事なくて安心した」
「貴方のおかげでね。このお礼はちゃんとさせてね?」
「完全に復帰した時に礼は受けよう。それまでは回復に努める事だな」
「優しいね…。ええ、完全に復帰したその時に、ね?」
ギルヴァに向かって可愛らしくかつ小悪魔っぽいウイングをする57。
それを離れてみていた代理人の中で57の印象が要注意人形へとランクが上がったのだが彼女が知る由もない。
挨拶を終えてシーナは57に何があったのか聞く。それを問われた時、彼女は浮かない表情を見せる。思い出したくないのか、或いは他の理由があるのかそれは本人にしか分からない。
しかしこのまま話さない事に抵抗を感じたのか、57は何があったのか明かし始めた。
「…何時だったかは覚えてないけど。鉄血に基地を襲撃され、皆と離れ離れになって彷徨っていたら誰かにいきなり動けなくなって頭から袋の様なのを被せられて…。その時に居た地点からどれ程移動したかは分からないけど、目覚めたら知らない部屋に閉じ込められていたわ」
「動きを制限…ドールジャマーの類かな?いつ、そこが人形売買組織だと気付いたの?」
「…目覚めてすぐね。誰かの声が響いて、泣き叫ぶ声が聞こえて、男の怒号が聞こえた。何事か思ったら同じ部屋にいた子が教えてくれた。さっきの子は売り飛ばされるってね。どれ程の間居たかは分からないけど、私も売り飛ばされる事になって。それが嫌で逃げ出した」
「そしてこの地区にまで逃げ延びた後にギルヴァさん達に助けられた訳か」
「ええ。…組織から逃げ出した後どれ程移動したかは覚えてないわ。逃げるので精一杯で、気付いたらS10地区だったから」
覚えているのはこれぐらいと締めくくる57。
話を聞いた後真剣な表情を浮かべながらシーナはマギーの方へと視線を飛ばす。何を意味しているのか理解したのかマギーは頷き、病室を出ていく。出ていくその背を見つめる代理人と病室の壁に背を預けるギルヴァ。
57の話を聞いていた二人もその行動の意味を理解していた。
流石に地区と地区の間を57が跨いだとは思えず、あの時助けた時も追っ手は一人。その事から人形売買組織はこのS10地区の近辺で行動していると察していた。
それを察していたからこそシーナは妙な活動している者達や最近になって頭角を現した組織を調べてもらう為にマギーに指示したのだと。ひいては基地の人形やこの地区で過ごしている民生用の人形達に被害が及ばぬ様に…。
見かけによらず随分と成長を果たしているとギルヴァも代理人も感心した。
このままお開きになると思った矢先、57はある事をシーナへと尋ねる。それはいずれ聞かれてもおかしくない問いであった。
「追っ手の男が得体の知れない化け物になったのをこの目で見たの…。あれはどういう事なの?」
「それは…」
どう説明したものかとシーナは言葉に詰まった。
それを見かねたギルヴァが彼女に代わって57の問いに答えた。
「お前が見たのは悪魔と呼ばれるこの世にて人知れず存在する種族だ」
「悪魔って…。ねぇ、馬鹿にしてる?」
「そう思うのは勝手だが、こちらは嘘は言っていない。男が本当の姿を晒した瞬間を見たのなら、あれが"悪魔"と信じる証拠にもなると思うが?」
その事を指摘され57は押し黙った。
反論のしようもなく、追っ手だった男が人間ではなく"悪魔"だと信じるほかなかったからだ。
それ以上57から問いが飛んでくる事がなく、一同は解散。
この後にマギーの調べによって人形売買組織の在り方が明らかとなる。
奇しくも人形売買組織が拠点としていたのは、かつてグリフィンの指揮官でありながら人権保護団体過激派と繋がりがあった悪魔が拠点としていた所であった。
そしてこれまた奇しくも言うべきか。S10地区に"彼女達"も集結しようとは誰も知る由もなかった。
次回は人形売買組織(悪魔の巣靴)との戦いか、その前日譚か。或いは別のなにかを書いて行こうかと。
感想(作者はメンタル豆腐の模様)または高評価をお待ちしております。
では次回ノシ