―その者は災いをもたらす者である。
「代理人…一体何が起きているのか、教えて」
処刑人の怒号は通信機器を付けている全員の耳に行き届いており、先に基地へと突入していったギルヴァ達の前で何が起きているのか誰も想像が付かなかった。
現場の三人以外で状況が分かるのは高台にいる代理人と判断したのか、シーナは彼女に何が起きているのか知らせるように伝えた。
今目の前には余りにも惨いとも言える光景が広がっている。その事をありのまま伝える事に高台でその光景を目にしている代理人はシーナからの通信を聞いた時躊躇った。
しかしわざと内容を濁して言った所で、ギルヴァ達の後に基地へと突撃する突撃部隊には知られる事。向かってきている敵の正体に気付いた時、撃つ事を躊躇い、逆に撃たれて破壊されたという事態は避けなければならない。
一つ息を吐き、険しい表情で彼女は通信機のマイクへと喋りかけた。
「…現在基地正面広場にて悪魔と思われる敵が出現。人型の檻が自立して動き出したと思われます。ただ…」
『ただ…?』
「動き出した人型の鉄の檻に囚われているには…肉がそぎ落とされ、内部骨格だけとなった…かつての人形達と思われます」
『…え?』
残酷極まりない事実を突き付けられたシーナは言葉を失った。
先程響いた処刑人の怒号はその事に対する怒りだと察すると己の中で並みならぬ怒りが沸き立つ。そんな惨い事を平然とやってのけた奴らを彼女達にやったように、同じ事をやってやらないと気が済まない程に。
しかし怒りに飲まれてはならない。それは視野を狭くし、命令にも乱れが出る。今にも動き出しそうな体を押さえつけ、強引にでもシーナは冷静をなろうとする。
代理人から聞いた事実を突撃部隊の彼女達に伝えなくてはならない。でなくては、撃てずにこちらが壊される事になるのだから。
「皆…よく聞いて。代理人からの情報で敵基地正面広場で悪魔と思われる敵が出現したみたいなの。人型で鉄の檻の姿をした悪魔がね。ただ…」
『指揮官?』
その声に返答したのは第二部隊のスプリングフィールド。
通信越しだと言うのに彼女はその雰囲気がいつもと違う事に気付いていた。
何があったのかと問われる前にシーナは淡々と残酷過ぎる現実を告げた。
「その中に囚われているのは肉はそぎ落とされ、内部骨格だけとなった人形達なの」
彼女の口から告げられたそれに通信越しではどよめきの声が響く。
このまま事実を伝えず、相手が人形の真似事をしている悪魔だと伝えれば良かったかも知れない。だが部隊の中には勘のいい人形もいる。
それに気付いたからといって狼狽える彼女達ではないのかも知れない。それでも伝える必要がある。
いざという時に撃てなくなる事が起きない様にするためにも。
「…良い?会敵しても躊躇ったら駄目。迷わず撃って。…もう彼女達は戻れないから」
もう助ける事は出来ない。だから撃て。
いずれこんな命令をしなくてはならない時が来る。覚悟をしていた事だと言うのに胸の内が張り避けそうな痛みをシーナは感じられずにはいられなかった。
「だからお願い…!犠牲になった彼女達を、もう一度眠らせてあげて…!」
「おらぁッ!!」
全身を駆使して、クイーンの刀身を右から左へと薙ぎ払い重たい一撃を変わり果てた彼女達…ドールフィニス達へとぶつける処刑人。始まって間もないというのに彼女の周りには骨格を形成するフレームや金属パーツ、そして犠牲となった彼女達の持ち物である銃が無数に地面に散乱していた。
倒すと人型の鉄の檻は勝手に消えるというのに彼女達の銃やパーツは残される。倒せば倒すほどその数は多くなる。
卑劣な行為を良しとしない処刑人にはそれが返って火に油を注ぐ事となっていた。
基地からの攻撃はなく、戦っているギルヴァやブレイク、処刑人の三人を嘲笑っているかのようだ。
「死体を弄んでおきながら、自分達は高見の見物ってか?クソ悪魔どもが」
「落ち着けよ。煽りに乗っちまうと向こうの思う壺だぜ?」
愛銃であるフォルテ&アレグロを連射し、周囲のドールフィニスを仕留めていくブレイクが処刑人に落ち着く様に諭した。余裕のある笑みは変わらないが、それは顔だけであり目は真剣そのものであった。
ブレイクも人形売買組織の行いを許すつもりなどなかった。当然その胸の内は憤怒で満ちている。
できるだけ早く基地へと突撃する必要があるがこうも囲まれてはそれすらも叶わない。
迫りくるドールフィニス達。愛銃を収めブレイクは背負っていたリベリオンの柄へと手を伸ばした矢先であった。
「躊躇うな!全員撃てッ!」
どこからか響く無数の銃声。
飛来する弾丸の嵐が群がるドールフィニス達を瞬く間に倒していった。
伸ばしていた手を下げ、銃声がした方を見るブレイク。
そこにいたのはS10地区前線基地の突撃部隊。銃を構えるその表情は既に覚悟を決めている様子であった。
防衛線が展開され、ドールフィニス達へと迷う事無く銃撃を開始。
ギルヴァ達が先に数を減らしていた為、この場にいるドールフィニスの数はそう多くない。
この数ならS10地区前線基地の部隊だけでも対処出来る。第一部隊の小隊長 FALが叫んだ。
「ギルヴァ!ブレイク!処刑人!あなたたちは基地へと突撃して!ここは受け持つ!」
「んじゃ、任せるぜ。無茶すんなよ!」
FALの声に返答したのはブレイク。
ヴァーン・ズィニヒを取り出し跨るとグリップを捻った。
やる気満々だとバイクのエンジン音が響き渡り、マフラーから火を噴き出すと勢いよくブレイクを乗せたヴァーン・ズィニヒは飛び出した。巧みな運転で進行を阻止しようとするドールフィニス達を躱していき、そのまま正面入口ドアへ猛スピードで向かって行く。
階段を駆け上がり、そのまま宙へ投じるとバイクの重量と飛びあがった勢いを利用して、塞がる正面入口ドアを破壊するブレイク。我先に基地の中へと消えていくのだった。
「便利なもん持ってるよな、あいつ…」
「喧しいがな」
羨ましそうに呟く処刑人に飽きれた様に返答するギルヴァ。
先に向かっていったブレイクに遅れて二人は基地内部へと足を踏み入れた。
二人よりも早く突撃したブレイクはそこに居なかった。何処から銃声が響いているので既に悪魔の討伐に動き出しているのだと思ったギルヴァは左側の廊下へ向かって歩き出し始めた。
「おい。どこに行くんだよ」
「ここからは別々に動く方が効率がいい。お前も好きにやれ」
処刑人の問いにそう返答するとギルヴァはそのまま奥へと消えていった。
消えていく背を見つめた後に処刑人もギルヴァが向かって行った道とは正反対の道へと向かって歩き出した。
「…確かに別々の方が気楽か」
静かに呟きながら、彼女は奥へと歩みを進めていく。
一歩ずつ進んでいく度に靴底が床に当たる音が響き、いつ、何処で悪魔が現れても対処出来る様に警戒。内部でも既に戦闘が始まっており、悪魔の叫ぶ声や銃声が何処からか響いていた。
しかし処刑人の方には一向に悪魔が出てくる様子がない。誘われていると思った彼女はわざと声を響かせ挑発する。
「おい、誘ってんのか?出てこいよ、クソ悪魔」
それでも悪魔が出てくる様子はない。
舌打ちしながらも処刑人は歩みを止めない。真っ直ぐと続く廊下を抜け、ある場所へと出る。
石を掘り作られた石像なのだが姿は何とも不気味で、それが列を成して並んでいた。禍々しいというよりおどろおどろしい。誰しもが長居したいとは到底思えない…そんな場所に彼女は到達していた。
「気味が悪いったらありゃしねぇな。何の為にこんなもん作ったんだか」
一つ細かく石像を調べる処刑人。
並んでいる石像はどれも同じ顔、姿をしており、何の為に作られたのか分かる訳がなかった。
一つだけ破壊してみようと考え、背負っているクイーンの柄へと手を伸ばした時、処刑人の目にあるものが映る。
並んでいた石像によって隠れていたのだろう。部屋の奥に祭壇が一つ。
何の変哲もない祭壇であるが、その上には装飾が施された杯が置かれてあった。
気になり近くまで歩み寄る処刑人。置かれていた杯を手に取った瞬間、突如として轟音が響き始めた。
何かの仕掛けが作動した様な音。その証拠として祭壇がゆっくりと奥へ動き出し始めていた。
突然の事に驚きながらも自身に害を及ぼすものでないと感じた処刑人は仕掛けが完全に止まるまで待った。
そして数十秒後には、先程まで祭壇があった場所には地下へと通ずる道が開かれていた。
「ご大層な仕掛けを用意してたもんだ。んじゃ行くか…ん?」
地下へ向かおうとした時、右腕のデビルブリンガーが妙な反応を示している事に処刑人は気付く。
右腕が反応を示す程となれば、この先に何かあると判断できる。
何時も以上に気を引き締めて、彼女は地下…地下遺跡へと足を踏み入れた。
明らかに人の手によって作られたとされる地下遺跡は妙に明るかった。
どういう原理なのか、淡く発光する石材によって灯りが灯されており何処でこの様な物を得たのか気になっても可笑しくない。
ここが何の為に作られた場所なのかは訪れた処刑人に分かる筈もなく、彼女は奥へとどんどん突き進んでいった。
道は真っ直ぐと続いており、何処かで曲がる様な道もない。只々真っ直ぐと続いているのみ。
戻る事は出来るが、デビルブリンガーの反応も気になった処刑人はそのまま進んでいった。そしてやけに広い場所に出た時、彼女は表情を険しくした。
(こいつ…普通じゃねぇ…)
そこに居たのは一体の悪魔。
骸骨姿。身に纏うは黒き炎。身の丈以上はあるであろう槍を手にし、その悪魔は処刑人を静かに睨んだ。
対する処刑人はその睨みに臆する事は無く険しい表情から一転、獰猛な笑みを浮かべる程であった。
ブレイクの真似をするように彼女は挑発を仕掛ける。
「堂々としてんだな。訂正するよ、クソ悪魔の中じゃそれなりにマシな方だってな」
「…」
「無視ってか。…それともおしゃべりは嫌いか?」
クイーンの柄へと手を伸ばし抜刀すると剣先を地面へと突き刺しグリップを捻る。
推進剤噴射機構が鳴り響き、マフラーから微量の噴射剤が吹き出すと処刑人は言葉を続けた。
「そりゃ気が合うね」
それを合図に処刑人と相対している悪魔も槍を構える。
かくして火蓋は切って落とされ、処刑人は立ち向かう。
魔界の戦士 ボルヴェルクに。
こっから色々とごっちゃするんでご容赦ください。
あと遅くなって申し訳ありません。コードヴェインが二週目に入ったもんで、ついね。
さて処刑人と相対した悪魔「ボルヴェルク」ですが、DMC2に登場します。
原作では二体の狼型悪魔を引きつれているのですが、こちらでは引きつれていない設定で行きます。
さて…魔界の戦士たる悪魔に処刑人はどう立ち向かうのか…。
では次回ノシ