それは『死』と隣り合わせのゲームの誘い
違法組織での調査は無事終了し、シーナ達はダレンら四人を連れて基地へ帰還。
早速情報開示及び報告会を行うつもりでいたのだが、報告書やら、書類やらを纏めなければならない、調達品のリストや然るべき所に送る武器リスト製作など作成しなくてはならないという事もあり、情報開示及び報告会はまた後日という形になってしまった。
またこの基地で過ごす事となった四人の為にも部屋を設けなければならないのだが、何時になるのか目途が立たない為、ダレンとルージュはマギーの部屋で、錬金術士と侵入者は処刑人が使用している部屋で過ごす事となった。
マギーの部屋や処刑人の部屋もそうであるが、基地にある寮舎はもとより多人数の共同生活を主としている為、それなりに広い。
その広さを利用してマギーは部屋を改装し自室兼個人工房として利用しているが、それでも広さは確保できている為住人が二人増えた所で大した問題にはならなかった。
またマギーとダレンは旧知の仲という事もあって尚の事問題はない。
ただ一つだけある事が起きていた。
「何を作っているのですか?」
それはダレンたちがこの基地で過ごす事となって数日が経った時の事であった。
ダレンと同じ様にマギーの部屋で過ごす事となったルージュ。
偶然にもマギーが工房で作業している姿を見かけ、興味本位から彼女は声を掛けた。
「ちょっとしたものですよ」
作業に集中している為か振り向く事はせずその問いに答えるマギー。
しかし作業台に置かれているものは到底"ちょっとしたもの"とは言い難いものであった。
何かのパーツが取り付けられていて、かつ部品が机上に散乱しているが一定の原型は保たれているのか、何処か引き気味になりながもルージュはそれの正体を口にした。
「ロケットランチャーがちょっとしたものとは言えませんよ。しかもそれが二丁って普通に物騒なんですが」
「まぁそうでしょうね」
苦笑いを浮かべながらもマギーは作業を続けていく。
一体なにを作ろうと考えているのかルージュには分からない。
武器という事は分かるが魔界では有名な魔工職人がその頭の中で何か思い付いたのかなど分かる筈もない。
作業に邪魔をしない為にその場から去ろうとした時、ふと別の作業台に置かれているものが彼女の目の端に映った。
「これは…」
一つは先日の組織の金庫から回収した例のエンブレム。そしてもう一つはバレルが取り替えられた二丁のデザートイーグルであった。
これを使って一つの作品を生み出すとは到底思えず、邪魔をしてしまうと分かっていながら好奇心が抑えられなかったルージュはマギーへと尋ねる。
「あの、これらで何を作る気で?」
「ああ、それですか?」
ちょっと休憩しましょうかと作業していた手を止めて椅子から立ち上がるマギー。
本棚から一冊のアルバムを取り出すと、ルージュの隣に立った。
「エンブレムの方はまだ未定ですが、こちらの銃の方はどの様にするかは決まっています」
「そうなのですね…。えっと、どんな感じにするか聞いても?」
基本的に武器などは現地調達がよくある事、そして武器や物を作りだす職人とこうして話せている事が嬉しい事もあって、ついついルージュは好奇心に負け尋ねてしまう。
そんな姿を見てマギーは、この基地の修繕工事の際に増員としてやってきたメンバーの内の一人と出会った時を思い出した。
試作武装「プロトタイプ・ナイトメア」を渡した彼女は今どうしているのかは分からない。
だが三度の飯より未知の武器や兵器を愛する彼女は、自分の作品を見せた時あれこれと質問してきた。
そんな姿が今のルージュとどこか似ており、クスリと微笑むとマギーは手に持っていたアルバムを広げた。
そこには今まで自身が手掛けた作品や参考の為にと撮った武器の写真が沢山収められていた。
(そろそろ新しいアルバムを買わないといけませんね)
マギーがこの人間界に来てからする様になったものであるが、気付かぬうちに写真の数は数えるのも億劫になる程撮っていた。
新しいアルバムの購入を頭の中に置きつつも彼女はアルバムのページをめくっていく。
そしてあるページに来ると、マギーはルージュへとを見せる。
そこに映るは銃の写真を収めたページであった。
「私があの二丁を使って作ろうとしているのは、この写真らに写る銃の系統になるものですよ」
マギーが指さすのは、とある二丁拳銃を撮った写真。
一枚はブレイクが愛用しているフォルテとアレグロ、そしてもう一枚は、とある基地の彼女が愛用している連射性に特化した白銀の二丁拳銃 アジダートとフォルツァンドだ。
フォルテとアレグロに関しては、アレグロの塗装が剥げる前と剥げた後の写真が収められている。
「フォルテとアレグロが威力と連射の両立。アジダートとフォルツァンドは連射性特化。ならば次に作るのは…」
「威力特化…ですか?」
ルージュの問いにマギーはニヤリと笑みを浮かべながら頷く。
残念ながらフォルテとアレグロは彼女が製作したものではないが、どの二丁拳銃にも一貫して言える事が音楽用語が使われている事だ。
この特徴をマギーは勝手に総称して「
「ベースがベースなので誰でも愛用できるとは行きませんが…。良い音楽を奏でる為、楽譜に新しいものを吹き込もうではありませんか」
連射性特化のアジダート&フォルツァンドと対になる威力特化の二丁拳銃。
それがいつお披露目になるかは分からない。
「そして来るべき戦いに備えて早めに完成させるつもりでいますよ。この銃も、そしてあの二つも」
柔和な表情を浮かべる一方でその眼差しは鋭い。
マギーのその表情を何度も見た事がある旧知の仲であるダレンはこう名付けている。
「魔工職人の本気モードってやつじゃよ」
そんな彼女であるが、二人が話している時には一人基地の通信室である所へ連絡を入れていた。
グリフィン本部での扱いは存在すら怪しいとされている為、基本的に彼女は本部に身を置く事はない。
各地を転々としていながらも、諜報活動に勤しんでいた。
しかし基地に身を置く事になれば、話は別。
ダレンは信頼できる者の一人に連絡を入れていた。
モニターに映し出される一人の女性。グリフィンの制服を身に纏い、片眼鏡をかけている。
『久しぶりだな、ダレン』
そう、ダレンが信頼している者達の一人とはへリアンの事である。
「そうじゃな。こうして顔を見るのは何時振りかの。…それはそうと先日の合コンの結果はどうじゃったかえ?」
『な!?ど、どこでそれを知った!?』
「ほっほっ、わしの情報網をなめて貰ったら困るの」
煙管を吹かすダレン。
秘密裏に行った合コンがバレている事に赤面するへリアンを見てひとしきり笑うと、彼女は本題へ入った。
「今後の行動に連絡を入れておこうかと思っての。暫くS10地区前線基地に身を置く事にする」
『! どういう風の吹き回しだ?以前なら人気のない所を選んでいた筈だが』
「ちょいと気が変わっての。人肌が恋しくなったとでも言っておこうかの」
明確な理由を明かすつもりはない。
ただ、この基地で過ごす事だけを伝えるのみ。
それ以外の事を言う気などダレンにはなかった。
「わしに何かあれば、個人の端末に連絡するか、ここに来るが良い。ではの」
『おい、ま』
制止の声を聞く気はなく、通信を切るダレン。
紫煙を吐くと、通信室の外へ向かって歩き出した。
「さてと、茶でも飲みに行くかのう」
ともあれマギーの部屋で過ごす事なったダレンとルージュの二人には何ら問題はなかった。
ただ処刑人の方ではこうとは行かなかった。
この基地に居座る事となって代理人程とは言えないが、勝手が分かってきた処刑人。
部屋も自分好みにしているのだが、過ごす事となった錬金術士の一言が火種となった。
「殺風景にも程があるだろ」
必要最低限の家具に本棚、愛用するクイーンやアニマ、弾薬、デビルブレイカーを収納するウェポンラック。それだけなのである。
一緒に過ごす事となった以上、もう少し色が欲しい所。しかし錬金術士のストレートな台詞に、流石の処刑人も黙っていなかった。
「んだよ。一緒に過ごす事になったからといって早速いちゃもんつけんのかよ?」
「そのまま言っただけだが?一体どういった感性をしてるんだ。狂ったか?幾ら私でもこうにはならんぞ」
「寧ろお前の方がヤバい部屋造りそうな気がするんだが?倒した悪魔の頭を壁にぶっ刺して飾ってそうだしな。まさかとは言わねぇが、そんな事しないでくれよ?修繕費だって馬鹿にはならねぇだろうし、何よりも同居人がイカレ女なのはごめんだ」
煽られたら煽り返す。
こっちに来てから落ち着きの性格になったと思えたが、そうでもなかった処刑人。
そして煽り返された錬金術士は処刑人を睨んだ。
「何だ、ヤル気か?」
「上等だ。ぶちのめして粗大ゴミ置き場に放り込んでやる」
にらみ合う二人。もはや一触即発状態。
いつ、ぶつかっても可笑しくない状況にも関わらず侵入者は置かれてあったソファーに腰掛け、周りを見回していた。
「確かに少し殺風景ですね。ですが、自分好みの部屋を作っている点では感心していますが」
暴走によって人類抹殺を目的とした鉄血の人形達。
こうして落ち着く事はあれど、人形に徹したのか人間に真似る様な事はしなかった。
食事も質素で、過ごす部屋などこの部屋以上に殺風景。
故にどういう風な部屋を造るべきかと言われたら分からないのが事実。
殺風景と言えど自分好みに合わせた部屋を作っている処刑人に侵入者は感心していた。
「個人的には酒棚が欲しいですね。それとグラスを幾つか。ジュークボックスもあれは尚の事嬉しいですね」
「…それはお前の好みだろうが。だが、まぁそれもアリか」
侵入者の発言で一触即発の雰囲気は消え去り、錬金術士は苦笑いを浮かべながら近くの壁に背を預けた。
さっきまでの様子は何処へ消えたのか、何処か仲が良い二人を見て、処刑人は啞然とするのであった。
「こいつらって仲良かったか?錬金術士が夢想家と仲良いのは知ってんだがよぉ…」
訪れた束の間の平穏。
しかしその平穏は長く続かない。
何故ならこの者達によって、それは壊されるからだ。
ダレン達がS10地区前線基地にとどめる事になってさらに数日後。
かつては仲間だった一人がグレネードランチャーで建物の一部をふっ飛ばし、その爪痕が残った基地で夢想家は部屋で複数のモニターが並ぶそれの前で椅子に腰かけてキーボードを操作していた。
今後の事、そして今起こそうとしている事。そして"あちら"に送る報告書を纏めていた。
そこに武装した追跡者が部屋を訪れ、操作している夢想家の隣に立った。
先程まで追跡者はとある準備に追われていた。それを終えてここに来ていた。
「準備は終えたようね」
「ああ、人数も揃えた。これなら複数あるグリフィンの基地に襲撃できるよ」
モニターの一つに映る映像。
そこには追跡者と同じ姿をした人形達が、列を成して無数に並んでいた。
下手をすればその数は三桁は行くであろう。
まだ起動していないのか目を伏せられているが、手にしている武器は普通じゃない。
ある者は大盾を両手に、ある者はストライカーが持つガトリングガンを両手に、ある者は大型チェーンソーらしきものを手にしている。
その後方には以前錬金術士に一発を貰った魔物へと変わり果てた案山子。隣には案山子とは違う別の魔物が立っていた。
目を伏せている彼女達が動き出せば何が起きるのか。それはこの二人以外予想出来ないであろう。
「通信は出来る様にしてくれているかい?」
「ええ。いつでも出来る様にしているわ。ついでに逆探知も出来ない様に施してる」
「そいつは嬉しいね」
柔和な笑みを浮かべているにも関わらず追跡者から雰囲気は違った。
狂気の様な、歪んだ様な…それらがごちゃ混ぜになったかの様なものが放たれていた。
「楽しんできなさい、追跡者」
「ああ、そうするさ」
踵を返し部屋を後にしようと歩き出す追跡者。
そのまま出ていこうとした時…
「…好きにはさせないよ…」
そんなセリフで彼女の口から小さく漏れた。
何か言っている事が聞こえたのか不思議に思った夢想家は後ろを振り向き、追跡者へと尋ねる。
「何か言ったかしら?」
「え?僕、何か言ったかい?」
その返答に首を傾げる夢想家。
聞き間違いだろうか。
しかし人形である自分が聞き間違えることなどあるのだろうか。
答えは出てこない。本当に聞き間違いかも知れないと彼女はそう結論付けた。
「ごめんなさい、何でもないわ」
「そう?じゃあ、行ってくるよ」
終始を笑みを浮かべたまま追跡者は部屋を出ていく。
夢想家だけとなった部屋。
しかしその様子を遠からずとも見つめていた誰かが居た。
「好きにはさせないよ、夢想家に偽りの僕」
その者は体はない。
強いて言うのであれば、電子体というべきか。
電子の海でその者はそう喋りかける。
「体は返してもらう。だけど今じゃない」
追跡者と同じ声をしたその者は、踵を返し歩き出した。
何処か現れたのか真っ白な扉へ向かって行く。
「さて…準備をしないとね。」
伏せられた目が開かれる。
その目は覚悟を宿していた。
「戻った時にはS10地区前線基地にお世話になろうかな。退屈せずに済みそうだ♪」
執務室で執務をしていたシーナがマギーに突然呼び出されたのは数分前の出来事であった。
通信室で彼女はマギー、そしてダレンと共にモニターに映っている彼女を見つめた。
黒い髪、白い肌、閉じられている瞼、柔和な笑み。
名前は分からずとも、鉄血のハイエンドモデルだという事はシーナは理解していた。
『初めまして、グリフィンの指揮官たち。僕の名は
追跡者が指揮官たちと言った時、ダレンは気付いた。
この通信はこの基地以外に他の基地にも流れていると。
『これから僕は数あるグリフィンの基地に対し攻撃を仕掛ける。それも同時にだ』
『ただ簡単に君たちがやられてしまったら面白くないから、猶予を与えるよ。今から一週間の猶予を与える。それまでに準備したらいいさ。僕は準備をしていた奴らが成す術もなく無様に死んでいく姿や恐怖で歪む顔を見るのが好きなんだ』
『さぁゲームと行こうじゃないか。君達の勝利条件は一つ。僕を倒す、分かりやすいだろう?』
『そして敗北条件は君達の全滅。これも分かりやすいだろう?』
『という訳で、宣戦布告したからね。後は君達がどこまで足掻けるかだ』
『あ、そうそう。S10地区前線基地の指揮官に伝えておくよ。君達が以前壊滅させた人形売買組織に居た人型の檻を覚えているかな?内部骨格だけとなった彼女達が囚われていたと思うけど』
『彼女達をあんな風にしたのは僕さ♪』
『中々に良い声を聞かせてもらったよ。片目くりぬかれた時に出した叫び声、人工皮膚を一枚一枚剥がされた時の悲鳴ッ!特に良かったッ!!我ながら昂り過ぎて変になってしまいそうだったよ…ア八ッ、アハハハハハッ!!』
追跡者の狂ったかの様な笑い声が響く。
この時シーナは冷静だった。
「…」
否、怒りを通り越して冷静だった。
鋭い眼光が追跡者を睨む。
『おっと…話が逸れたね、ごめんごめん。そうだ、一つ伝えておくよ。幾ら僕とてすべての基地に攻撃は無理だからね。当日僕からの攻撃がなかったら、その基地は運が良かったという事だ』
『それじゃ当日を楽しみにしているよ』
通信が途切れる。
通信室内部では沈黙が訪れ、シーナは帽子を深く被った。
「マギーさん、緊急招集をかけて。デビルメイクライの皆やブレイクさんも呼んで」
「分かりました」
指示を受けて、マギーは通信機器を操作し始める。
基地全体に緊急招集を促し始めた一方でダレンがシーナは話しかける。
「今回はわしも動こう。一週間の内にやれる事をさせてもらうが良いかの?」
「お願いします」
「うむ、任された」
煙管を咥えるとダレンは通信室を出ていく。
「指揮官、緊急招集をかけました。第一会議室に来るように伝えました」
「うん、ありがとう」
「いえ。…一つお願いがあるのですが良いですか?」
「何かな」
本来であればもう少し先になる予定であった。
しかし今回の一件…厳しい戦いを強いられる。
予定を早めてまでマギーは、例の"あれ"を使わなければならないと判断した。
「貴女が持っている特殊仕様のコート…そこに魔の技術を組み込みたいと思っています」
「…」
「恐らく今回の一件は前触れに過ぎないと思います。今後大きな戦いを巻き込まれる可能性もあるかと。そうなれば指揮官も戦場に立つ時が増えると思われます。…思い入れがあるのでしたら無視して構いません。貴女が良ければ使わせて頂けないでしょうか」
そこには死んで欲しくないという思いもあった。
二十歳にも満たぬ少女を死なせたくないという思いもある。
だが魔工職人とは言え、人が大事にして居る物を魔工を組み込むのは後ろめたさもあった。
断られても仕方ないと思いながらもマギーは頭を下げた。
「良いよ」
しかし考える間もなくシーナはそれに許可した。
「大事な物だけど、マギーさんが言っている事も分かる。但し条件として原形は残しておいてね?」
「感謝します…シーナ」
「うん。さて…皆に事情を話したら別の基地の指揮官とも連絡を取らないとね」
スッとシーナの目つきと雰囲気が変わる。
間違いなくシーナ・ナギサという少女は…
「やるからには徹底的に。喧嘩を売ってきた事を後悔させてやるまで…」
かつて見せた修羅へと化していた。
という訳で次回は前々から言っていた緊急コラボ作戦と参りたいと思います。
活動報告にDevils front line「operation chase game」参加協力依頼という題目で投稿致します。
参加したい方はそちらにてご一報ください。(…参加してくれる方、居るのかな…