シーナが召喚したナイトメアによる攻撃によりトリスマギアは完全に沈黙。
幸いにも基地の損傷及び人形達に怪我はなく、彼女達は訪れた束の間の安息に胸を撫でおろした。
しかし数十分後に突如として入ってきた通信によって、戦いはまだ終わっていないのだと気付くのは最早時間の問題と言えた。
そして通信室で基地の指揮官としてシーナは通信を入れてきて来た相手と相対していた。
画面に映る相手に睨みを効かせながら。
『あー…えっと、こうして話すのは初めてかな?』
画面に映し出されているのは、あろうことかあの追跡者。
しかし雰囲気が違う。どこか気まずそうにしている。
それはシーナにとって十分すぎるほどに大きな違和感であった。
「初めて?一週間前の事をもう忘れたというの?随分とおめでたい頭をしてるね。…死ぬ前に懺悔しに来たなら諦めた方が賢明と言っておくよ。懺悔を聞いてくれる神様は有給を取ってベガスへ旅行しに行ったから」
捲し立てる様に言う事を伝えて通信を切ろうとするシーナ。
それに対し追跡者?は必死の形相で通信を切らないでと説得する
『待って待って!姿は本体と同じだけど中身は違うんだから!!』
「…どういう意味?」
その言葉が引っかかったのか、通信を切るボタンが押される直前でシーナはその手を止める。
通信を切られる事がなかった事に相手は安堵の息を漏らした。
器がない状態では出来る事も限られる。そして収拾が付かなくなる程までに事態は深刻化している事は追跡者?は理解していた。
この事態を解決するには複数の基地に頼み込むよりも先にこの基地…否、悪魔との戦いを幾度どなく関わってきた狩人たちの力が必要不可欠だった。
『この姿だと紛らわしいと思うけど許してほしい。今はこの姿しか用意できなかったんだ。…初めまして、S10地区前線基地の指揮官。僕の名は
一週間前に宣戦布告した追跡者と比べると確かに性格の違いはあると思うと同時にシーナは疑問に思っていた。
画面に映っている墓守の性格が本来のものであるなら、あの追跡者は一体何者なのか。
それを見抜いていたのか、あるいは説明すべきと判断していたのか墓守は話し出す。
『僕は生み出されながらも採用されなかった人形なんだ。保管庫…僕は
「成程。…つまり貴女が私達に連絡をしてきたのは本体を破壊してほしいという事でいいの?」
『本体を破壊して欲しいという点ではあってる。ただ…』
「ただ?」
『どうやら魔の力?それによって暴走した本体を破壊して欲しいんだ』
「…」
それを聞いてシーナは驚かなかった。
何度もその力によって姿を変えた者達とこの基地は戦ってきた。もう慣れた上に今回もそれが関わっているであろうと彼女は内心予想していた。
鉄血がどうやって悪魔の技術を取り得たのか分からないが戦う理由にはなる。
だがとある懸念が一つあった。
(信憑性に欠ける…)
姿が同じという事もあるが、追跡者が暴走しているという確固たる証拠がない。
それに加え墓守という存在は追跡者による自作自演ではないかという疑いもある為、はい、分かりましたと言って鵜呑みにする訳にも行かなかった。
本当に追跡者が暴走している事を尋ねようとした時、いつ居たのか通信室の出入口でその者は壁に背を預けその場で佇みながら口を開いた。
「成程。通りで変な気配が遠くから感じられる訳だ」
「ブレイクさん?どうしてここに」
背を預けていた壁から離れブレイクはシーナの傍に歩み寄った。
「ギルヴァに言われてその気配の事を伝えに来たのさ。どうやらそれも必要ないみたいだが」
「という事は彼女が言っている事は本当に…」
「あっちがどういう風に言ってきたのか知らねぇが、確実に面倒ごとが起きている点については間違ってないと思うぜ」
普段と変わらぬ態度。
先程まで激闘を繰り広げていたにも関わらずブレイクに疲れている様子はなかった。
「ところで画面に映っているお嬢ちゃんは誰だい?紹介してくれないか」
「彼女は墓守。どうやら追跡者の本来の人格と言うのかな…」
「ふーん…まぁ細かい事に興味ない。で?墓守の嬢ちゃん。パーティー会場は分かっているのかい?」
突然話しかけられ、一瞬だけであるが肩が跳ねる墓守。
そんな様子を見てブレイクは気にする様子もなく、彼女は急いでパーティー会場がある地図を画面に映し出した。
S地区から遠く離れたパーティー会場。フェーンベルツほどではないにしろ遠い事には変わりなかった。
追跡者が暴走している以上、陸路では時間がかかり過ぎる。空路で向かって行くのが最適と言えた。
「やはりのう。パーティー会場はあそこであったか」
何よりもその場こそシーナの付き添いで来ていたダレンが知っている場所であった。
彼女とて一度訪れた場所が会場になるとは思っていなかったが、薄っすらとだが予想はしていた。
追跡者と出会った時はあの場所であった。
そして追跡者の終わりもそこで迎える事はなる。それはある意味運命のようであった。
「知ってるのかい、婆さん」
「うむ。お前さんらと合流する前に下見にして行ってたのじゃ」
「内装はどうだった?」
「悪魔どもの墓場にするのであれば最高級と言っていいぞ」
「ハハッ!そりゃいい」
勝手に盛り上がっている二人を他所にシーナは墓守へ話しかける。
「場所は把握した。それで敵は暴走している追跡者のみ?」
「ううん。本体以外に確認出来ているのは二体いる。正直言って化け物みたいな姿している」
「特徴は?」
「一体は宙に浮かんでいて六枚の羽?みたいなのが特徴で、もう一体は巨人で怪力を誇るタイプだった。もしかしたら他にもいるかもしれない」
追跡者以外化け物…魔物が二体いる。
どんな能力を持っているか分からない。決してギルヴァや処刑人、ルージュ、傍でダレンと話しているブレイクの実力を疑っている訳でない。
しかし念には念を。シーナは後ろで控えていたマギーへと伝えた。
「マギーさん。他の基地に応援連絡を入れてください。どこでも良い。片っ端から連絡して」
「了解致しました。…作戦名は何にします?」
「作戦名…そうだね」
ブレイクやダレンは追跡者が居る拠点をパーティー会場と称していた。
だが墓守は生み出されながらも採用されなかった者達が行き着く墓場と称していた。
恐らくであるがそこでは墓守以外にも生み出されたにも関わらず眠りについている人形達がいるであろう。
その墓場で魔物は我が物でうろついている。心のない悪魔どもにくれてやる墓場も墓標などない。
そんな奴らを屠る為、そして画面に映っている彼女を見て…シーナは思いついた作戦名は口にする。
「
「僕の名前を作戦名に使うんだね…」
「嫌だった?」
「嫌ではないけど…ちょっと複雑な気分かな」
苦笑いを浮かべる墓守に見てシーナはフッと笑みを浮かべる。
するとそこに一人の人形が通信室に飛び込んできた。
急を要する事だったのだろう。息を整えている辺りで走ってきたのが伺える。
その様子を見てシーナは他の基地への連絡をマギーに任せるとその人形の傍に歩み寄り声を掛けた。
「大丈夫、Spit-Fire?何かあったの」
「はぁっ、はぁっ…はい、大丈夫です。…実は基地正面入口に見た事無い化け物は現れて、泥の巨人を出した女に会わせろと…!」
「見た事のない化け物…悪魔じゃなくて?」
「それは分かりません。聞いても返答してくれなくて。他の皆さんが相手してますけど、何が起きるかは分かりませんし…」
次から次へと舞い込んでくる問題。
いい加減にして欲しいものだとシーナは思った。
だが向こうが自身を要求しているのであれば出向くしかない。他の皆に危害を加えられる前に何とかしなくてはならないのだから。
「分かった。…案内してくれる?その化け物が居る場所に」
「正気ですか!?」
「正気だよ。それに相手は泥の巨人…つまりナイトメアを目撃している。それって基地近く、或いはその周辺で追跡者達と戦っていた者かも知れないでしょ?敵か味方かは今の所分からないけど、会って話してみる。言葉が通じるなら何とかなるでしょうし」
悪魔という得体の知れない存在を何度も見てきた事もあってシーナは冷静だった。
ただこの状況。正直そんな事をしている暇もない。
にも関わらずやって来た客人にシーナは少し、ほんの少しだけであるが憤りを感じていた。
そして案内を頼まれたSpit-Fireは悩むに悩んだ末に彼女を例の客人がいる基地正面入口に案内するのであった。
Spit-Fireに案内され基地正面入口へ来たシーナ。
確かに人型であるが決して人間とは言えない姿をしている。しかし悪魔にも見えない。
考えられるのは一つだったが、有り得ないと思っていた。
もしそれが現れたのであればどう考えても町に何らかの影響が起きている。そういった情報が上がってきていないという理由が大きい。
何を仕掛けてくるか分からない相手。シーナは密かに首に提げているクイックシルバーを発動できるようにした。
「ハジメマシテ ト イウベキカナ?…スコシ ハナシ ヲ シヨウカ」
シーナを指名してきた相手…蛮族戦士は彼女が姿を現すとカタコトであるが挨拶をしてきた。
話へと移行しようとする蛮族戦士に対しシーナは手を上げて待ったを掛けた。
「話をする前に自己紹介させてもらってもいい?」
「…カマワナイ」
「ありがとう。…私はシーナ・ナギサ。見ての通りここS10地区前線基地の指揮官。私に話って何かな?」
「サキホド ノ タタカイ ヲ ミテイタ ジツ ニ ミゴト ダッタ」
先程の戦いと言われシーナは確信する。
この者はナイトメアを召喚していた所を見ている。同時に追跡者達の集合体とも戦ったとも。
実のところ、あの集合体の反応は別の箇所でも確認されていた。基地から少し離れた場所で確認されたのだが、何時の間にか反応は消失し何者かが討伐したのだと思われた。
そしてそれを討伐したのだが、目の前にいる彼だと確信していた。
集合体の討伐をしてくれた事には感謝しているが、何が目的がこの者が姿を現したのかは分からない。
依然シーナは警戒心を強めたまま接する。
「イロイロ カタリタイ コト ハ アルガ…」
「あるけどその時ではない。…もしかして貴方、この戦いが終わっていない事に気付いていて?」
「イカニモ。 マダミヌ ツワモノタチ…。 ソノモノタチ ノ タタカイカタ ヲ ミルタメ。 キョウリョク サセテ モラオウ」
相手が敵対する様子でない。
それには安堵するシーナだったが、同時に警戒した。
まだ見ぬ強者達。その点で彼女は気付いていた。
この者の狙いはギルヴァ達であると。確かに彼らは強い。最近ここに来たルージュだって強い。
彼ら、彼女らと戦いたい。恐らく理由はそうであろうと予想した。
そして…
「協力してくれるのは嬉しい。でもね…」
「ナンダ?」
「彼ら、彼女らと戦いという事に関しては一つ忠告しておく」
きっぱりと彼女は言い切った。
そして相手の反応を待つ事もなく言葉を続けた。
「貴方からは戦いたいといったそれが感じられるし、何か目指しているのも感じられる。何を目指しているのか…想像はつかない」
その瞬間シーナの目つきが変わる。
「だけどもし…あの人達を殺し、更なる力を得ようと考えているのであれば覚悟しておく事ね。ついで言っておくけど、いきなりあの人達に攻撃を仕掛けるなんてしたらその瞬間私達を敵に回すという事を肝に銘じておきなさい」
過去に何度か見せた18の少女とは思えぬ圧を放ちながら。
それで怯む相手ではない事はシーナも分かっている。
聞いてくれるかどうか分からずとも忠告しておく必要があった。それ程までに相手が危険な存在であると認識していた為だ。
「ただ…あの人達が許可したのであれば私は介入しない」
「…リョウカイ シタ」
「それで良し。…さて、準備しないとね」
応援がどれだけ来るのかは分からない。
最悪、自分達と彼で何とかするしかないだろう。
願わくば誰かが来てくれることをシーナは願うのであった。
束の間の平穏から一転。
追跡者の本来の性格と思われる「墓守」からの依頼。
そして試作強化型アサルト様作「危険指定存在徘徊中」にて登場する蛮族戦士を出させて頂きました。こんな感じでいいのかな…?
また本編を読んだら分かる通り追加依頼「operation Grave guard」参加協力依頼を
活動報告 Devils front line 「operation chase game」参加協力依頼 の方に追記致しました。
また追加依頼に関しては強制ではありません。トリスマギアを倒して終了でも構いませんので。