長い通路に反響する歩く音。
薄っすらと灯った灯りが不気味な空間を作り出しているにも関わらずこの者達はそんな事は知った事でないと歩みを止める事はなかった。
一人は日本刀を片手に黒いコートをなびかせ、もう一人は右手と一体化した大剣が特徴で正直悪魔と言われてもおかしくない姿をしている。
共闘しているにも関わらず二人の間では会話が弾むわけがなく、それどころか最初のやり取りから一言も発していない。
この場にブレイクでも居れば多少なりとも会話はやり取りはあっただろうが残念な事に彼はランページゴーストの三人と共に絶賛リムジンを堪能している所である。
因みに四人の様子はというと…
「良いねぇ!いきなりじゃじゃ馬になりやがったぜ!」
「何がリムジンだよ!!ジェットコースターじゃねぇか!!」
「このスピードでどうしてブレイクは立ってられるのおぉぉ!!??」
「彼だからじゃないでしょうか…!」
さっきまで緩やかに走っていたのに、何が起きたのかジェットコースター並みの速さで走り出したリムジン。
ランページゴーストの三人はともかく十分すぎる程にブレイクはリムジンを堪能?していた。
中央動力区画まであと半分まで迫りギルヴァと蛮族戦士を迎え入れたのは、少しばかり広い部屋であった。
周囲には分かれ道は存在せず、あるのは奥には中央動力区画へと通ずる扉だけ。
そしてその中央に佇む一体の人形。
大盾と大槍を装備し見るからに重武装の身長の高い人形を見てギルヴァはあの時彼女は渡してきたメモの 内容を思い出す。
(Mk18のメモに記してあったハイエンドモデルか。もう一体は見えんが…)
―どっかにいるのは間違いねぇな。…どうする?向こうにも何らかの事情があるみてぇだが相手するか?
(無論。そのつもりだ)
「先に行け。奴は俺が相手する」
現状相手に何らかの事情があるという事を知っているのは自分だけ。
蛮族戦士を巻き込むつもりなどなく、可能ならば追跡者の力を弱めてもらえばとギルヴァは思っていた。
それに今自身がいる地点から中央動力区画へ通ずる扉からは禍々しいまでの魔力が溢れ出ており、蛮族戦士もそれに気付いているだろうと。
そしてこの者がそう簡単にやられる存在ではない。それ故の判断であった。
「シトメテモ モンク イワナイ コト ダナ」
「安心しろ、すぐに追い付く。それまで…」
無銘の鯉口が切られる音が小さく響く。
彼の右手が柄を掴んだと同時に黒塗りの鞘から刃が抜き放たれ、白銀の刀身が一瞬だけ淡く輝きその全貌を露わにする。
気合いを入れるかの様に低く唸る様に息を吐きながら彼はゆっくりと腰を落とす。
刀身の切っ先が相手へと向け、柄の頭部分に左手を当てギルヴァは名も知らぬ相手を睨んだ。
敵対する気はないとは言え向こうも彼を攻撃をせざる得ない状況にある。
ギルヴァが臨戦態勢を整えた事を察すると相手も武器を構えた。
いつぶつかっておかしくない状況に静寂が訪れるもそれはすぐに破られる事となる。
「楽しむ事だな」
「!」
地を蹴り突進するギルヴァに対し相手も動き出す。その隙に蛮族戦士は言われた通り追跡者が居る中央動力区画へと向かって行った。
ギルヴァと鉄血のハイエンドモデル。お互いの距離が縮まっていく。そして―
「!」
「ッ!」
無銘の刃が振るわれ、大盾がそれを防ぎ火花を散らす。
黒いコートの悪魔と鉄血のハイエンドモデル…守護者が今ぶつかった。
ギルヴァが守護者とぶつかり合った今、蛮族戦士は追跡者が居る中央動力区画へと向かっていた。
通路の奥から感じる禍々しい程までの魔力にそこに混じる濃厚な殺気。普通の人間なら気絶するかも知れない。
だが蛮族戦士にとってはもはや喜びでしかなく、彼の表情には満面の笑みが浮かんでいた。更なる高みへと至る為、強者に出会う為、そしてその者と戦う為…。
闘争心が刺激されている彼。通路を歩き切ると左手で扉を押し開け中央動力区画へと足を踏み入れた。
「ホウ…」
そしてそこに居た追跡者であろう者を見て、彼は感嘆の声を漏らした。
暴走しているとは言え、意外な事に追跡者は決して得体の知れない何かへと変貌はしていなかった。
これは誰にも分からなかった事であるのだが、一度追跡者は得体の知れない何かへと変貌している。
だがどういう訳か、本来の姿を取り戻してしまい今に至っていた。
しかし普段から閉じられている両目は開眼、溢れ出す魔力が彼女の背に翼となって具現化。
左手には愛用する鞘に納めれた日本刀を模った武器、大して武器を手にしてない右腕は不気味なものへと姿を変えており、どういう仕組みか刀身を収める鞘と一体化を果たしていた。
手にしている日本刀の鞘ではない。鞘に収まっているのは一振りの大剣だ。それを軽々と持っているのだから追跡者がそれ程の力を得たのかが分かる。
そしてその姿はまるで追跡者だけ持つ悪魔の引き金を引いたかの様であった。
「彼じゃないのか…」
そんな姿になっても尚、明確な意識があるのか。
この場に現れた蛮族戦士を見て残念そうな表情を浮かべる追跡者だが、直ぐに表情は喜びへと変わった。
追跡者にとって一番に戦いたいのはギルヴァだ。彼がここにまだ来ていないのは残念であったが、体を温めるのであれば蛮族戦士は彼女にとって丁度良い相手だった。
右手で刀を抜刀すると彼女は刀身の切っ先を蛮族戦士へ突き付けた。
「さぁ…一曲踊ろうじゃないか」
「…ヨロコンデ」
ギルヴァ対守護者、追跡者対蛮族戦士…そしてこの者達も激闘を繰り広げる前まで来ていた。
長い通路をただ真っすぐと歩いていき、ルージュとMk18は資材搬入区画へと訪れていた。
資材搬入区画というだけあって保管庫も多く存在し、通路のあちこちに何かの為に使われるであろう無数の資材が地面に転がっていた。
歩きにくい。しかし二人は気にする事無く奥へ奥へと進んでいき、ある場所へと出た。
「ここは…エントランスホール?」
「見る限りそうみたいですね」
両脇に設けられた二階へと繋がる階段。そしてどこかへ繋がるであろう廊下の入り口が二つ。
エントランスホールの中央には円形の何かが置かれている。
そしてその奥には大きな窓硝子が一つ。枠組みの並びもあって大きな時計を彷彿させる。
そんな窓硝子の前で佇み二人を見つめる者が一人。
体の要所要所に西洋の騎士が使う甲冑をその身に装着し防御と機動力の両立させた佇まいから女騎士を思わせる。その手には身の丈以上あるであろう大剣を携えていた。
以前まで束ねていた髪は解かれ、それどころか長く伸びていた。
そして装着しているバイザーが二人を睨む様に怪しく光る。
姿はかなり変わり顔も判別付かない程に変化しているが、その面影が決め手となり自分達と相対している者の名をMk18が口にした。
「ブルート…」
鉄血の近距離戦闘ユニット ブルート。
目標に素早く接近し両手に持ったナイフを用いた攻撃を仕掛けてくる。装甲が薄い為破壊されやすいといった弱点を持つが、SGの戦術人形にとって脅威とも言える人形。
そのブルートに何らかの改造を施したのが目の前に居る奴だろうとMk18は思った。
(けど何なの…?改造を施したにしては明らかに嫌な何かを感じる…)
それもその筈でルージュとMk18の二人が相対しているブルートは現代科学と魔術を過剰なまでに施した結果今の様な姿を得た。
もはや人形としても面影は存在しない。あるのは悪魔としての姿だけである。
改造されたブルート…ブルート・アンジェロから放たれる魔力を正体までは分からずともMk18は感じ取っていた。
「…」
ブルート・アンジェロと遭遇してから一言も発さないルージュ。
肩に担いでいた大鎌を下ろし勢いよく振ってから両手で柄を掴み構える。。
それに合わせる様にブルート・アンジェロも手にしている大剣を天を突き刺す様に掲げた。体から目に見える程の魔力が放出され、オーラの様に揺らめかせながら包みこむ。
「騎士の姿を見ると思うんですよね…」
怪しく光るバイザーに負けじとブルート・アンジェロを睨むルージュの赤い瞳が輝くと突如として彼女の体から火の粉が舞い上がった。
「粉々になるまで―」
上がっていく火の粉の数はどんどん増していき、次の瞬間―
「破壊し尽くしたくなるッ!」
まるで火山の噴火とすら思える位に桜色の炎が噴出した。
体の各所から放出され、轟々と燃え盛る炎。
心なしかそれは彼女の怒りを表しているかのようであった。
「…」
そして突然の事にMk18は言葉を失っていた。
普通の少女とは思ってはいなかったが、いきなり体から炎を発生させるなど誰が思うか。
しかしいつまでも呆けている訳には行かない。素早く我を取り戻し、彼女は銃を構える。
言葉に怒気を交えているルージュの様子からして騎士か、或いはそれに関連する何かに因縁があるのだろう。
事情が事情とは言え、ここで死ぬつもりはない。今出来る事は彼女の援護。
「援護するわ。…粉々になるまで破壊し尽くしてやりましょう」
「もとよりそのつもりです…!」
炎を纏いしルージュが駆けだしブルート・アンジェロに向かって大鎌を振りかぶったと同時にMk18は銃の引き金に指をかけ引いた。
一発目の銃声が戦闘の始まりを告げるものだと知りながら。
一方…。
ジェットコースターと化したリムジンに乗っていたブレイク達は漸く終着駅にたどり着き、そこから降りて長い階段を上っていた。
細く長く続く階段。その先には扉が一つ。
そこへと向かっていく四人。ふとRFBが階段の下へ視線を向けた。
彼女の視界には溶岩が広がっていた。作り出された空間だというのに熱さを感じる。
その熱いさが広がっている溶岩が本物であると彼女をそう認識させる。
間違えて落ちてしまう事があれば一巻の終わり。当然助かる可能性は零。
体が震える。それでも何とか押さえつけ、足を進める。
「落ちるなよ、RFB」
「分かってるって、隊長」
彼女の視線が溶岩から階段の先にある大きな扉へと向けられている。
「正直今は真下に落ちる怖さよりもこの先に待つ受けている何かの方が数倍怖い…でも」
その先を言おうとした時、先頭にいたブレイクが口を開く。
「逃げ出す訳には行かない、だろ?」
「…うん」
振り返る事はしなかったがこの時ブレイクはふっと口角を吊り上げていた。
怖いけど逃げ出す訳には行かない。
その恐怖を力を変えようとしているRFBに彼は感心している。
だからこそ決意していた。
この者達は死なせはさせない。何があっても、と。
それを表に出さないのは流石と言うべきだろう。彼が階段を昇っていき、その後ろを三人が追う。
長い階段を登り切り、四人は扉の向こう側へと足を踏み入れる。
作られた空間は今も尚続いており、扉の先にある部屋も例外ではなかった。
何処か拷問部屋を思わせる造り。空間を作り出したにしてははっきりとし過ぎている点が否めない。
空間だけを作り出したのであればもっと曖昧で良い筈。ここまではっきりさせる理由は誰にも分からない。
「…居ねぇな」
「ええ…」
ノアの声に対しアナが頷き肯定する。
四人がここに訪れた時、居るであろうと思われる敵の姿はなかったのだ。
普通なら盛大に迎え入れてくれてもいい筈なのに居ない。
さっきまで旅はなんだったのかと思いたくなるが、それでここを立ち去る面々ではない。
もしかすれば何処にか身を潜ませているかも知れない。
各々が警戒し始めた時、何かを感じ取ったのかブレイクが天井へと視線を向けた刹那。
「ォォォォ!!!」
高らかに咆哮と共に天井に大きな穴が開くと何かが降ってきた。
灰色の体色に発達した四肢。特に両腕の剛腕が特徴であった。
降り注いでくる瓦礫を後ろへと飛び退くランページゴーストの三人。そしてブレイクは自身の頭上へ目掛けて向かってくる瓦礫を殴って破壊した。
「おいおい」
そしていつもの様に降ってきた者…ギガノスへと挨拶をし始めた。
「魔界の覇王様と言い、お前といい…なんで悪魔どもは天井をぶち破るのが好きなんだ?ママからドアの使い方習わなかったか?」
腕を広げながらそう問いかけるブレイクだが相手は話を聞いていなかったのか返答する事もなく、そして自我が存在しているのか勝手に話を変えていった。
「臭う…臭うぞ!」
それを聞き、自身の臭いを嗅ぐブレイク。
後ろにいるランページゴーストの三人に対しても「臭いか?」と聞くが返ってきた答えは臭くないとの事。
しかし目の前にいる相手は臭いと叫んでいた。
「そりゃ悪かったな。今度から香水を付けてくるから、それで良いかい?」
確かに聞こえている筈なのだが、ブレイクの台詞に答える様子もなくギガノスは拳を握りながら喋り出す。
「これは人形の臭い!我々鉄血に仇成すゴミ共の臭いッ!!!!」
「おっと!」
振るわれた腕による攻撃を後ろへと飛び退き躱すブレイク。
そろそろ本格的な戦闘が始まろうとしている。それに気付き始めたランページゴーストの三人は各々が持つ武器を構え始めた。
それを見てブレイクはニヤリと笑みを浮かべながらギガノスへと返答した。
「酷い臭い、か」
背を向けながらも彼の両手がホルスターに収められているアレグロとフォルテの持ち手へと伸ばされると振り向くと同時に二丁の拳銃の銃口が相手へ向けられた。
「俺から言えばお前の方がごみ溜め並みに酷い臭いだぜ?」
という訳で今回はそれぞれの戦いが始まる場面を描かせて貰いました。
ギルヴァさんは守護者の相手をしなくてはならないので…。
ギルヴァが追い付くまでの間、蛮族戦士対追跡者の戦い、試作強化型アサルトさん少し任せまっせ…。
因みに追跡者の攻撃手段ですが…簡単に言えば次元斬を使わない劣化ギルヴァと思っていただけたら幸いです。
パリィから疾走居合や瞬間移動して相手の背後に回る。力に物を言わせて大剣を振るってきたりします。
ん?処刑人とリホさんの方はだって?
そちらに関しては今回参加していただいているoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」の方で「☆魔剣士と魔法使い」の話でわかりますよー。
あちらが始まり部分書いたのだから…戦闘部分はこっちが書かないといけないかな…?
では次回ノシ