全ての魔物及び元凶たる追跡者の討伐が無事完了し、彼、彼女達はS10地区前線基地に帰還。
特殊作戦が開始してからそれなりの時間が経ち、空はオレンジ色に染まり登った夕日がゆっくりと沈んでいる真っ最中。
トリスマギアとの戦いで損壊した基地の修復は今も尚行われており、シーナが召喚したナイトメアによって破壊されたトリスマギアは肉片は消滅もしたものの、装備がそこら辺に転がったまま。
それの回収作業も終わってないままであり、戦後処理が今日一日終わるとは言い難かった。
重機の駆動音が響く音、資材を運搬する者達が行き交う中、端末を手にしたシーナは特殊作戦を無事終え代表として彼女の元に訪れた処刑人から報告を聞いていた。
「魔物の討伐に追跡者の討伐が無事完了した事は純粋に嬉しいかな。皆に怪我はなかった?」
「ピンピンしてたさ。あとあの
"あいつ"。
それが誰の事を指しているのか、シーナは分かっている。
処刑人からの報告を聞く前に代理人から事前報告を聞いており、その中にその人物の事も耳にしていた。
「代理人の事前報告で聞いてる。スケアクロウの事だよね?」
「ああ。病室に運ばれたってのはさっき聞いた。…あいつの容態はどうだっだ?」
「マギーさんに一度診てもらったけど今の所は何とも言えないって…ただ」
「ただ?」
「本人の見解としては…彼女が目を覚ます可能性は限りなく低いみたい」
その事を告げられた時、意外な事に処刑人の表情が変わる事はなかった。
もしかすれば彼女も分かっていたのかも知れない。
スケアクロウが目覚める事はないという事を。
「ごめんなさい…。折角仲間を助けれたのにこんな事しか言えなくて」
処刑人に謝罪の言葉を伝えながらシーナは罪悪感を感じ取っていた。
仲間思いである事は理解しておりここに来てから仲間を気に掛ける節があった事も知っている。
がさつで品行方正とは言い難いが、仲間を思いやる点も把握している。
故意でなくともハンターの一件で戦友を失った処刑人に辛い思いをさせるのは不本意であった。
だが隠していた所でいつか知られる事。ならば前もって伝え処刑人に覚悟して貰う事も重要であるとも判断していた。
「お前が謝る事じゃねぇよ。覚悟は…していたさ」
「…」
「あいつの事で何かあれば言ってくれ。良い事も悪い事も含めてな」
「…うん、分かった」
「頼むぜ。…んじゃ俺は先に部屋に戻って休んでる」
約束を取り付けると処刑人は踵を返し基地の方へ歩き出す。
去っていくその背を見て何か言おうと言葉を模索するシーナであったが、言葉は出てこなかった。
ただ小さくなっていく処刑人の後ろ姿を静かに見つめる事しか出来なかった。
一方その頃、マギーの部屋兼工房ではノアからの依頼を受けて台座上に置いた分解したシュトイアークリンゲと睨み合うマギーにその対面では少し落ち着かないといった様子で立つノア。
その後ろでは椅子に腰掛け、同室者であるルージュが淹れてくれた紅茶を飲みながら休んでいたRFBと一緒に伝説の魔工職人が作り上げた作品の数々の写真が収められたアルバムを広げ興味深そうに見つめるアナ。
そしてルージュは椅子に腰掛けてのんびりと紅茶を嗜んでいた。
「ど、どうだ…?原因は分かったか?」
「ええ。不調の理由は内部機構にある一部のパーツの歪みですね。それが原因でへそを曲げて本来の出力が出せなかったのでしょう。損傷具合からして外部の強い衝撃によるもの…どうやら私達の知らない内に貴女方は大きな戦いに身を投じたのですね」
「どうしてそうだと言い切れる?事故によるものの可能性だってあんだろ?」
その問いに聞き、小さく笑みを浮かべマギーはシュトイアークリンゲの刀身にそっと手を伸ばし撫でた。
浮かべる笑みは我が子を愛でる母親の様だ。
「分かるんですよ。この傷は戦いによるものだと…。それにこの娘がそう教えてくれるんですよ」
「いまいちよく分かんねぇな…」
「ふふっ、こればかりは職人になってみないと分からないかもですね」
おっと、と前置きを口にしマギーは苦笑いを浮かべた。
話が脱線している事に気付いたのだろう。本題へと彼女は話を戻した。
「話が逸れてしまいましたね。これでしたら予備のパーツと交換で済みますよ。すぐに使える様にメンテナンスも行っておきましょう」
「直る上にメンテナンスもしてくれるとはありがてぇ。今から任せて良いか?」
「お任せを。待っている間はどうぞゆっくりしていって下さい」
「ああ、そうさせてもらう」
工具箱を取り出し、予備のパーツが入った箱を戸棚か取り出すと作業を始める
そしてノアは部屋に飾られていた武器を眺めていた。
それは全ては今シュトイアークリンゲの修復作業をしている彼女が作り上げたもの。
とは言っても部屋に飾られているのは一部に過ぎない。
残りはリヴァイアサンを格納している第二格納庫に置かれているのだ。
「アーキテクトが見たら、ぜってぇはしゃぐなぁ…」
未知の技術の塊であるマギーの作品は技術者ならば誰であって興奮するであろう。
身近にそういう者が居るからこその台詞であった。
最もフードゥルⅡというマギーの技術が施された籠手と具足が彼女が所属する基地にS11地区の作戦時の報酬として送られている事は忘れてはならないが。
「ん?」
作品を眺めている内にノアはマギーが使っている作業台とは別の作業台の上に置かれていた二丁の銃を見つける。
黒と銀色に染め上げられ、外観こそは改造が加えられている為、元の姿こそは分からない。
しかしベースになった銃が大口径拳銃だと見抜くと彼女は銃のフレーム部分に英語表記で記されてた二つの銃の名前を見つけ、それを読み上げた。
「
「隊長?どうされましたか?」
そこにアルバムを見終えたアナが彼女の後ろから声をかける。
ノアはそれに反応する前にアナは机に置かれた黒と銀の二丁拳銃を見つける。そしてその銃に刻まれた名を見て、彼女は察した。
この黒と銀色に染められた二丁の銃はブレイクのアレグロとフォルテ、自身のアジダートとフォルツァンドに続く新たな楽器である事を。
「成程。私にも後輩が出来るみたいですね」
「いやいや…こんな大口径の銃を二丁も持って連射出来る奴がいると思うか?どうか考えても無理だろ」
「20mmバルカン砲を両手に持って連射している貴女がそれを言いますか?」
「うぐっ…」
この二丁の銃のベースとなったのが壊滅した人形売買組織にて回収した銃身が取り換えられたデザートイーグルだ。そこに反動抑制用のパーツ、同時に壊れない様に耐久力も上げている為、元の重量の倍以上の重量を有する。
連射性、取り回しは度外視。ただ威力だけに特化した二丁の銃…それがペサンテとグランディオーソだ。
一方その頃…
「成程…その様なものがあるのですか。物知りなのですね、RFB」
「ふっふーん。ゲームに関しては任せなさい!ってね」
娯楽に疎いルージュに分かりやすく説明しながらゲームの話を楽しそうに話すRFBの姿があった。
胸を張るRFBを見て微笑むルージュ。そんな彼女を見てRFBはあの時の言葉を思い出す。
―その為に尽きる事のない私が存在しているのですから―
それがRFBの中で引っかかって仕方なかったのだろう。
会って間もない相手だと分かっていながら彼女を意を決して尋ねる。
「あの、さ…その、言いづらかったら良いんだけどさ」
「?」
「尽きる事のない私ってどういう意味…?」
まさか聞かれるとは思ってなかったのだろう。ルージュは小さく驚いた。
「そうですね…。余り細かくは言えませんが私は―」
普通なら答えなくてもいい事。しかし彼女の中にその考えはなかった。
いずれ知られる事かも知れない。そして誰かに覚えていてもらいたい。
「決して老いによる死を迎えられない存在とだけは伝えておきます」
この世界にルージュという少女が居たという事実を。
「それって…」
そう言いかけた所でRFBは理解する。
今目の前に居る彼女…ルージュという少女は決して老いる事が無いのだ。
自ら命を絶たない限りその命は延々と時を刻み続ける。
老いる事が出来ないと聞けば逆にその若さを保っていられると思う者がいるかも知れない。
しかしルージュにとっては呪いでしかない。
愛する人を欲しいと願っても出来ない。
何故ならそれは自身よりも先に相手が逝ってしまうかも知れないから。
大事な人が出来れば出来る程、彼女は訪れる別れと孤独に耐えなくてはならない。
「…」
何か言わなくてはならない。
でも言葉が出てこない。
目の前に居る彼女に背負わされた呪いがあまりにも大きすぎるのだから。
言葉を失うRFBを見てルージュはそっと微笑み、彼女の頬に手を添えた。
「だから覚えていて下さい。私がここに居て貴女と話した…その思い出を」
最後に小さく微笑んでからルージュは椅子から立ち上がり、シュトイアークリンゲの修理とメンテナンスを終えたS地区応急支援基地から送られてきた転禍為福をメンテナンスをしているマギーの元へと歩み寄っていく。
軽い足取りで向かって行くルージュの背をRFBはただ見つめる事しか出来なかった。
転禍為福のメンテナンスをしていたマギーはルージュから使用感を聞きながら作業を行っていた。
変形機構を搭載されていると聞いた時、彼女は感心した様な声を上げた。
「変形機構を搭載させるとは流石というべきですかね」
「ただ浄化モードを放つ際の反動はすさまじかったです。またチャージに時間がかかるのがネックかと」
「成程。私なら…と言いたいですが流石に手を加えるのは止めておきましょう。何でもかんでも私が手を加えてしまったら、折角向こうの彼女の想いを、その努力を台無しにしてしまうので」
結果的に転禍為福はメンテナンスだけ行われた後にS地区応急支援基地に送られた。
その際にマギーは彼女宛に纏めた転禍為福の改善点を記したメモをこっそりと同封していたのでは言うまででもない。
その頃、シーナはS13地区の指揮官であり今回の作戦の協力者であるリホ・ワイルダーと話していた。
「基地が全損…?」
リホから今回の襲撃によって基地がほぼ全損とも言えるレベルで破壊されてしまった事を聞かされたシーナは聞き返す様に尋ねた。
「せや。その追跡者達の攻撃と亡骸が合体した巨人のせいでもうボロボロになってもうての」
「そうだったのですか…。でしたらうちから幾らか資材を送りましょう。満足して頂ける程とは行きませんが」
「ええんか?ここも色々大変そうにも見えるんやけど…」
「大丈夫です。幸いにもうちは基地自体に大きな被害は負わなかったので」
追跡者達及びトリスマギア戦は比較的基地から離れた場所で行われた事とギルヴァやブレイク、処刑人にルージュ、そして代理人の一撃もあって素早く討伐出来た事もあって基地自体に大きな損傷は負っていないかった。
決して資材が豊富とは言いづらいものの知り合いであり今回の作戦に協力してくれた者から聞いた話。
シーナからしたら何もしないという選択はなかった。
「そう言うんやったら甘えさせてもらうで。…それともう一つ聞きたいんやけど、ええか?」
「何でしょう?」
「今回の作戦…襲撃を受けた後にしては驚く程に詳しかったんや。シーナ指揮官…あんまり問い詰める真似はしとうないんやけど、聞くで。…情報元はどっからや?」
決して聞かれないと思ってはなかったのだろう。
その事を問われてもシーナは狼狽える事はしない。それどころか何時聞かれても可笑しくないと覚悟していた。
「依頼主は追跡者の…本来の人格である墓守と言われる者からの依頼でした。姿こそはあの追跡者と変わらなかったのですが、性格に違いはあると判断し依頼を受けました」
「てことは本来の人格である墓守があの情報をここに教えたって事でええんか?」
「はい。その解釈で間違いありません」
「なら安心したわ。すまんの…うち、疑い深い性格というか、色々気になってまう性格でな」
「お気になさらず。疑われて仕方ない事をしていたのはこちらですから」
お互いに微笑み合う二人。
そして話は別の話題へと切り替わっていく。
「この後どうするんや?作戦が終わってもあの拠点はまだ残ったままなんやろ?」
「ええ。暫くそこの調査に赴く感じです。色々知りたい事もあるので」
「そうか…。あんまり無理するやないで?」
「貴女に言われる程ではないかと思いますよ、元H&R社の女社長さん?」
「ほーん?初々しくオドオドしていた女指揮官が言うようになったやないか」
「あの時は新人だったんですから!わ、忘れてください…!」
頬を赤らめるシーナ。
その姿を見てリホはカラカラと笑うのであった。
こうして特殊作戦「grave guard」は終わりを迎える。
しかしS10地区前線基地からすれば墓場が関わる案件はまだ終わっていないのであった。
魔物及び本体が倒された事によって電脳空間に居た墓場は胸を撫で下ろしていた。
色々あったものの無事に終え、後はS10地区前線基地の者達が迎えに来るのを待つだけ。
しかし墓守でさえ予想だにしていない事が起きていた。
「えっと…どちら様でしょうか?」
「それはこっちが聞きたい…!」
いつ、どのタイミングで目覚めていたのか。
墓守はこの墓場で目覚めたと思われる人格で出会っていた。
これにてコラボ作戦「operation chase game」及び「operation grave guard」は終わりでございます。
今回参加して頂いたoldsnake様、焔薙様、鮭酒様、試作強化型アサルト様、本当にありがとうございました!
だいぶ長くなってしまい、大変ご迷惑をおかけしてしましたがとても楽しかったです!
また機会があればよろしくお願いします!
では次回!