Devils front line   作:白黒モンブラン

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もう戻れないならば


Act138 Your name

特殊作戦「chase game」及び「grave guard」が無事成功した日から翌日。

早朝にも関わらずS10地区前線基地に所属する面々が戦後処理と残骸処理に追われ、処刑人は案山子が眠っている病室へと訪れていた。

黒かった髪は白く染まり、特徴的であった髪型は崩されてガスマスクも外されている。

静かに眠る様はさながら眠り姫とも言えるだろう。

案山子が眠っているベットの傍で椅子に腰掛ける処刑人ともう一人、この場に居た。

 

「…」

 

何かを話に来た訳ではなく訪れてからずっと病室の出入口近くの壁に背を預け沈黙を保つ錬金術士だった。

二人の間で会話が弾む様子もなく、病室に訪れてから30分は経つ。

自身は案山子の様子を見に来ただけなのだが、錬金術士が何のために此処に訪れたのかは未だ明かされていない。それが気になった処刑人は錬金術士へと話しかけた。

 

「何のために来たのか聞いて良いか?」

 

「ここに来る事など一つしかないだろう?」

 

「答えになってねぇよ。あと疑問を疑問で返すな」

 

「細かいな。そんな性格だったか?」

 

理由を明かそうとせずはぐらかそうとする錬金術士に処刑人は苛立ちを覚えた。

このまま殴りかかってしまう程に。

しかしここは病室。大声を上げる訳にもいかないし、暴れる訳にもいかない。

小さく舌打ちすると処刑人は苛立った様子で口を開く。

 

「んで?何のために来たんだ。漫才をしに来た訳じゃねぇんだろ」

 

「当たり前だ。そんなものをやった所でしらけるのがオチだ」

 

背を預けていた壁から離れ、錬金術士は処刑人の隣に立つ。

塞がれてない目が眠る案山子を見つめる。その表情は何処か悲しそうだ。

それに処刑人は気付く事はない。

再び訪れる沈黙。しかしそれはすぐに破られる事となった。

 

「…お前たちと会う前、私と侵入者は案山子に会っている」

 

その台詞を聞き先程まで苛立っていた処刑人は一瞬にして冷静になった。

自分達と会う前。

それは何らかの理由でダレン達と共に行動していた時期であると処刑人は察する。

S10地区前線基地襲撃以降、彼女がどうしていたのか知る由はない。だが異世界から帰ってきた時にダレンとルージュらと共に一緒に居た事からそう判断していた。

 

「…それで?」

 

「化け物になって追ってきた案山子と戦い…そして私が撃った」

 

自分と会う前にアルテミスと化した案山子と会い錬金術士が撃った事を聞いても処刑人は沈黙を貫いた。

同じハイエンドモデルであり、かつて同じ組織にいた彼女とて錬金術士の事は知っている。

残忍な性格であるが仲間意識が強い。

もしかしてと彼女は思う。

錬金術士が此処に訪れた理由。それは―

 

「謝りに来たのか。こいつを…撃った事に対して」

 

「…ああ。笑うか?」

 

「どうかな」

 

錬金術士の問いに対しそう返す処刑人。

軽く肩を竦めると彼女は少しだけ目を伏せてから言葉を続けた。

 

「…俺もあの化け物の中に案山子が居る事なんて知らずにえげつない技を放ったんだ。下手すればこいつを完全に消失させる程のモンもやったしな。度合いで言うなら俺の方がヤバいさ」

 

知らなかったとは言え、気付くまでの間、魔物の中に仲間がいた事に気付かずガーベラによる照射レーザーを放ったり、魔物の口にクイーンを刺しこんだ挙句内部から燃やそうとし地面へ投げつけたりもした。

度合いで示すのであれば処刑人の方が酷く感じられる。

 

「…確かにお前の方がえぐいな。私の方が可愛く感じてきた」

 

「かもな。…性格は可愛くねぇが」

 

「聞こえてるぞ」

 

その声に聞いていないフリをして処刑人は椅子から立ち上がると軽く背伸びした。

今すぐではないが、昼頃には「墓場」に向かう予定となっている。

今回はシーナも同行する事になっており、処刑人はその護衛として共に赴く事になっていた。

 

「さて…ギルヴァの所に行くかな」

 

例の場所に向かうまではまだまだ時間がある。

ギルヴァに鍛錬の相手をお願いするついでに代理人にコーヒーを淹れてもらおうと思い歩き出した時であった。錬金術士が呼び止め、尋ねてきた。

 

「ギルヴァ…もしやあの黒いコートの男か?」

 

「そうだが?何だ、あいつに用でもあんのかよ?」

 

「ここを襲撃した時にそのギルヴァとやらと殺し合ったのさ。まぁ此処に居る以上挨拶程度はしておこうと思ってな」

 

(ギルヴァと遭遇しちまったのはご愁傷様としか言いようがないな…。にしても殺し合ったというのに、今度は挨拶と来たか。…当事者でもねぇのに変な気分だぜ)

 

複雑な気分になりながらも、自身も似た様な事をしている事を思い出すと自分も同じかと小さく呟き処刑人は錬金術士を連れて病室を出て目覚めの一杯を貰うべく便利屋「デビルメイクライ」へと向かうのであった。

 

「ところでだが…」

 

「何だよ」

 

「いつもの義手はどうした?それとその右腕はなんだ?」

 

錬金術士に指摘されデビルブリンガーが姿を現したままである事を気付く処刑人。

指摘してきた彼女と侵入者には右腕の事を教えてないままだった事を思い出すと、処刑人はうんざりした様なため息をつくと移動しながらであるが、右腕の事を話すのであった。

 

 

その頃、シーナは着ている制服の肩にマギーが生み出した魔の技術が施された特殊コート「servant」をかけて基地の廊下を歩いており、鄰ではシャドウが一緒に歩いていた。

向かう先は基地と隣接している便利屋「デビルメイクライ」。

まだ時間があるとは言え、今日の午後には昨日行われた特殊作戦「grave guard」の舞台となった墓場と呼ばれる拠点に向かわなくてはならない。

理由としては今回の一件にて情報を教えてくれた追跡者の本来の人格「墓守」の回収及び墓場に隠されている魔具といった回収が主な理由である。

護衛役として処刑人も同行する事になっているがギルヴァにも同行してもらおうと判断しており、その事を頼む為にシーナは行動していた。

「デビルメイクライ」へと向かう道中の十字路で彼女は右の通路から出てきた少女を見つける。

白と赤のグラデーションがかかった長い髪が特徴の少女。それだけで誰かなど分かっておりシーナはその者に声をかけた。

 

「ルージュ、おはよう」

 

シーナに声を掛けられた少女 ルージュはそれに気付くと優しく微笑み挨拶を返す。

 

「おはようございます、シーナ指揮官。夕べはよく眠れましたか?」

 

ここを統べる人だけあってその仕事量は戦うだけの自身とは比べ物ならない事を理解しているルージュ。

自身は特殊である為、二日三日寝なくても問題ないが目の前に居るシーナは違う。

ちょっとした気遣いでルージュはそう尋ねたのだ。

 

「うん、よく眠れたよ」

 

笑顔を見せながら答えるシーナだがそれは全くの嘘であった。

悪魔が関わる案件によってシーナの睡眠時間は減りつつある。それもS11地区後方支援基地を舞台とした「End of nightmare」の時からずっとそうなのだ。

一番ひどい時は一睡しなかった事もあった。今では若干落ち着いているものの、就寝に就く時間帯は午前3時だったり、午前4時だったりする。

それでも疲弊した表情を見せないのは周りに心配かけない様にする為だったりするのだが、そんなシーナの無茶をここに所属する人形達は既に見抜いている。

マギーですらそれを見抜いており、何度か休み様に打診した程。

 

「…」

 

ルージュはシーナが嘘を言い無茶をしている事は気付いていた。

どうにか彼女は休ませる方法はないだろうかと思っても良い案が思い付かない。

考えに考えても良い答えは出てこず、ルージュはそのまま「デビルメイクライ」へと向かうシーナについて行く他なかった。

 

 

便利屋「デビルメイクライ」にシーナとルージュは訪れた時には、侵入者及び案山子を除く元鉄血所属のハイエンドモデルたちが集まっていた。

代理人、ノーネイム、処刑人、錬金術士…。

今となっては彼女達はここにいるが、鉄血の財政状況が如何なものかは分からない上に、もしかすれば彼女達そのままそっくりの人形を投入してくるかも知れない。

S10地区前線基地所属であると示すために、シーナは前々から考えていた事を告げた。

 

「名前を決めよっか」

 

墓場へと向かう前のちょっとした騒動が幕を開ける瞬間であった。




色々飛ばし気味でありますが…そろそろS10地区前線基地所属の鉄血のハイエンドモデルたちの名を決めようかと…。
これは募集した方がいいのかね…?


では次回!
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