「名前?」
便利屋「デビルメイクライ」でシーナが放った言葉を聞き返す処刑人。
それに対し彼女は頷き肯定を示すと、名前を付ける理由を明かした。
「いつまでもその名で呼ぶのはどうかなって前々から思っていてね。本来ならノーネイムに付ける予定でいたんだけど…」
「ここに居る事になった元鉄血のハイエンドモデルも私を含め5人。今や鉄血ではない事もありますが…差別化を図る為でもありますね?シーナ」
「流石代理人。私の考えが読める様になった?」
「さぁ?どうでしょう?」
笑みを浮かべ、肩を竦める代理人。
その姿に小さく微笑むシーナに静かに聞いていた錬金術士が尋ねる。
「最近になってここに来た奴にも名前を付ける気か?」
代理人、処刑人、ノーネイムと比べると錬金術士と侵入者は此処に来て浅い。
今の名を気にいっている訳ではないにしろ、名付けされるには幾分か早すぎるとも彼女は思った。
事情が変わった為に此処に居るとは言え一度は此処を襲撃した身。
そこまで信頼などされていないと思っている。
だが同時に差別化を図るという考えに賛成していた。
今更鉄血に未練などないのだが自身で名前を考える気も無いから今の名を使っているのが大きかった。
その点に関しては代理人や処刑人も同じ考えであった。
「そうだよ」
「…即答か。お前は人を疑うという事を知らないのか」
何処か困惑した様な声で尋ねる錬金術士。
しかしシーナの答えは一つしかない。
「知っているよ。…それに今更裏切る気なんてないんでしょ、錬金術士?」
女性らしさを交えた笑みを残しつつもシーナのその目はしっかりと錬金術士の目を捉えていた。
―答えろ。今すぐに―
そう語りかける彼女の目に錬金術士はほんの小さくであるがたじろいだ。
自身の前に居る少女は本当に18歳の少女なのか。少女らしからぬ圧を生み出している。
(すっげぇ圧…。こりゃ悪魔も裸足で逃げ出そうだな?)
(そうですね…。そして何度見ても思います。二十歳にも満たないというのに、どうしてここまでのものを発する事が出来るのだと)
(…確かにな)
こそこそとシーナが見せるそれについて話し合う処刑人と代理人。
二人もそうであったが此処に居る戦術人形や元鉄血所属のハイエンドモデルたちがまず一番に驚くのは彼女のその変貌っぷりだ。
普段は年相応の反応を見せるというのに、緊急を要する事や作戦前、緊迫した状況などではその反応は消え去り今の様な姿を見せる。
特に自ら戦場へと出た時は相手が同じ人間であろうと敵ではあれば躊躇いも無く撃つといった修羅の片鱗すら垣間見えさせた程。
何があればここまでのものが発せられるかのかと誰もが思うだろう。
シーナの過去に関してはあまり知られていないものの、一部の人形は語る。
生い立ち自体は普通であったが本人の口からは全てが語られる事はなかった為、もしかすれば彼女の過去に何かあるかも知れないと。
(普通の少女が兼ね備えていたものか、或いは経験による積み重ねによるものか…?)
最初こそは驚きながらも錬金術士は冷静に彼女のそれについて思考を巡らせていた。
しかし最近になってこの基地に身を置く事となった彼女にそれが分かる訳もなく、裏切りに対しての返答を口にした。
「向こうから切り捨てたんだ。ならば私が何をしようが勝手。…まぁ此処に置いてくれている以上はお前の指示が聞くつもりだ」
それにと前置きの言葉を口にすると彼女はニヤリと口角を吊り上げる。
敵からすれば恐怖でしかないが、味方である以上は特に問題ないだろう。
「ここに居れば退屈しそうにないのでな」
「やっぱこのネェちゃん中々だねぇ。思考もそのデカい二つに吸われちまってんのかよ」
ジュークボックスの上で停まっていたグリフォンが錬金術士の笑みを見て笑い声にも似た様な声を漏らした。
「安心しろよ、眼帯のネェちゃん。ここは年中パーティー騒ぎやってるからよ」
「それは楽しみだ。それなら出し物にも満足しそうだ」
(年中パーティー騒ぎって言っても、好き好んでやってる訳じゃないんだけどなぁ…)
グリフォンと錬金術士の会話を傍で聞いていたシーナは指で頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。
ただ悪魔絡みの騒動を確実に片付けられる場所とは言えば、ギルヴァら便利屋「デビルメイクライ」とS10地区前線基地である事は忘れてはならない。
一部の間ではS10地区前線基地は「悪魔も泣き出すレベルでヤバい基地」とも言われていたりするのだがシーナや此処に居る者達がそれを知る筈もない。
「話がずれている。本題へ戻るべきでは」
「おっとそうだった」
ノーネイムに指摘され、話の内容は本題へ戻りシーナが話し出す。
「皆の名前を決めると言ったのは良いんだけどね。…ただ問題が一つあるの」
「問題?シーナ、それはどういった問題ですか?」
代理人のその問いに対し視線をそらし苦笑いを浮かべるシーナ。
その様子を見てその場にいた全員が察した。
言ったのは良いものの、どんな名前を与えるかはまだ決まっていないのだと。
そう簡単に決まる事無くかと思われた矢先、店の裏口のドアが勢いよく開いた。
その音にギルヴァを除く全員の視線が裏口へと向けられる。
居たのは着物姿のダレンと彼女から借りた着物を着た侵入者の二人であった。
「話は!」
「聞かせてもらいましたよ」
確実に盗み聞きしていたなと思われても仕方ない登場であったが、誰も敢えてそれを問う事はしない。
因みにギルヴァはダレンと侵入者が来た途端騒がしくなると判断したのか、傍にルージュと共に誰にも気づかれないままカフェへと避難している。
「わしらで決められぬのなら、第三者達に募集すればよい!」
「そういう訳で色々偽装を施した上で既に情報を流しておきました」
もう既に行動し終えている二人にシーナは啞然とし、代理人と処刑人の二人は固まったまま動かない彼女の肩に手を置きながらも何処かやれやれと言った表情を浮かべていた。
そして錬金術は此処に来て侵入者の性格が変わったのではないかと思いながらもククク…と言った笑い声を上げていた。
「次から一言言ってね…」
漸く意識を現実へと戻した時、シーナは引き攣った笑みを浮かべながら二人にそう言うのであった。
その後、一同は一旦解散となるのだが名前を付けるという話で完全に忘れていたのかギルヴァに例の基地「墓場」への同行してもらう様に伝え忘れるシーナであった。
結局「墓場」へと向かう面子はシーナ、代理人、ノーネイム、処刑人、錬金術士、グリフォン、フードゥルとなり、一行は代理人の操縦する大型ヘリに乗り込み「墓場」に居る追跡者の本来の人格「墓守」の保護と調査へと赴くのであった。
シーナ達が基地を離れた一方で「墓場」にて追跡者のスペアボディに改造を施した体を得た墓守は人形管理区画でコンソールパネルを操作していた。
「はぁー…」
ボディを得て電脳空間以外の外で動く事が出来た事に関しては墓守は嬉しく思っていたが、まさか自分以外の人格が目覚めて、ボディを与えた事をこれから迎えにやってくるであろうとシーナにどう説明したものかと考えていた。
憂鬱な表情を浮かべる墓守の隣で同じようにコンソールパネルを操作していた「墓場」で目覚めたハイエンドモデル「祈祷師」が何処か心配する様な表情で墓守を見た。
ハイエンドモデル特有の白い肌、琥珀色に輝く瞳。白と水色のグラデーションがかかった色に染まり肩まで伸ばされた長髪。ハイエンドモデルの中では上位に入るであろう錬金術士と渡り合えるだろうと思われる胸部。
特に祈祷師の特徴を示すものは耳である。何故か彼女の耳は人間の耳を模った耳ではなく、まるでファンタジーに出てくる「エルフ」と呼ばれる種族と同じ長い耳を持っている事であった。
「あの…大丈夫ですか?」
戦闘能力はあれど、その性格は心優しく。
心配そうに祈願者は墓守を見つめる。
「大丈夫。ただ君の事をどう説明したものかなって思っててね」
「ありのままに伝えれば良いのでは…?」
「それもそうなんだけどねぇ…」
祈祷師の言う通りありのままの事を伝えればいい。
しかしそれだけで向こうが信じてくれるのかどうかが墓守にとっては不安であった。
生み出されながらも捨てられた存在、そして追跡者のスペアボディに改造を施したボディを有しているとは言え、既に消滅した筈の追跡者による演技だと疑われているかも知れないといった不安が彼女にはあった。
(隠していても意味ないよねぇ…)
シーナ達がここに訪れるまでまだ時間はある。
墓場が有する最低限の機能を復活させるために巧みにキーボードを操作しながらその頭の中ではシーナ達に説明する内容を墓守は考えるのであった。
まぁ内容を見て分かる様に…
S10地区前線基地に居る鉄血のハイエンドモデルたちの名前を募集致します。
活動報告の方に「Devils front line 名前募集」という題名で投稿いたします。
※「Devils front line 名前募集」の名前募集は勝手ながら急遽募集を取りやめする事に致しました。ご迷惑をおかけいたします。
では次回ノシ