―一方で存在した証拠でもある―
そこは以前と変わらない様子であった。
古びた民家が所々に点在し平原が広がるだけ人気を感じられない。
名も無き地区は墓守の保護及び調査に訪れたシーナ達を歓迎する様子はなく、しかし歓迎しない様子もない。
もはやこの地区は息すらしていない。死臭を放たない死体みたいだ。
墓場の近くに着陸したヘリから降り立ったノーネイムは周囲を眺めながら静かにそう思った。
そこにシーナがノーネイムのと隣に並び立ち、景色を眺めながら彼女へ話しかける。
「静かで平穏を保っているのに何も残っていないね…。人も木も灯りも何かも残っていない」
「ここはもう息をしていない。…私にはそう思えるな」
「そうかもね…。でも私はこう思ったりするかな」
「それは?」
ふとシーナの顔を見るノーネイム。
それに気付く事もなくシーナは答える。
「誰かがここで住んでくれる事を望んでいる。そういう風にも考えてもいいんじゃないかな」
ノーネイムの目にはシーナのその横顔は何故か未来の…大人に成長した彼女が見えていた。
突然の事に驚いたノーネイムは一度瞬きして、再度横へと振り向いた。
先程の姿は何処にいったのか、そこには居たのはいつも見る普段のシーナだった。
(今のは…)
錯覚だったのだろうかと判断するノーネイム。
もしそうだとして人形である自身がそれが起きたのか不思議でならなかった。
「ん?どうしたの、ノーネイム」
先程から一言も話さなくなった事に気付いたのか心配そうな声でノーネイムに話しかけるシーナ。
「あ、いや…何でも無い」
頭を正面へと戻しノーネイムは再度映る景色を眺めた。
その隣で不思議そうな表情を浮かべるシーナ。そして彼女達の後方から処刑人が二人を呼ぶ。
「おーい、そろそろ行くぜ」
「了解。すぐ行く」
そう返答してからシーナは後ろへと振り向き歩き出した。
ノーネイムもそれにつられて彼女の後を追うのであった。
「どういう事…?」
以前の戦いから損傷を負い破棄された「墓場」に到達し、内部に足を踏み入れたシーナは目の前で起きている事に驚愕を飛び越え困惑した様な声を上げていた。
彼女の知る限りではこの「墓場」で目覚めたのは追跡者の本来の人格である「墓守」だけ。
そう思い込んでいたシーナは出迎えも「墓守」一人だけと思っていた。
しかしこれはどういう事だろうか。
「一人増えてない?」
出迎えに来たのは墓守だけではなく、見知らぬ人形が彼女と一緒にいるではないか。
「増えてますね」
「増えてんな」
「みたいだな」
「ああ」
シーナの台詞に代理人、処刑人、錬金術士、ノーネイムが流れる様に肯定の台詞を口にする。
後頭部に手を当てながら苦笑交じりに墓守はシーナ達に説明した。
「い、いつの間にか目覚めていたみたいでね。彼女の名前は祈祷師って言うんだ」
「ど、どうも…」
墓守から紹介を受け緊張しながらも祈祷師はシーナへと小さく一礼する。
それを受けシーナも同じ様に一礼すると祈祷師の特徴とも言える耳に気付く。
祈祷師の耳へ向けられた視線に気付いた墓守がシーナ達が来る以前に集めておいた情報の中で見つけた祈祷師を今の様な姿にした理由を話し始めた。
「開発者自らそうしたみたいだよ?どうやらそういったのが趣味というのかな…うん」
それを聞かされたシーナを除く元の鉄血のハイエンドモデルたちはホッとした気分になった。
同時にもし自分のボディが祈祷師のボディを設計した者によって生み出されたらどんな姿になっていたのだろうかと少しばかり思うのだった。
そんな様子を見てシーナ達は首を傾げるが特に何かある訳ではないと判断し話を進める事にした時、祈祷師が小さく手を挙げた。
「あのー…」
「ん?何かな」
「貴女の傍に居る動物たちは一体…?」
祈祷師の視線はシーナの傍で待機している白狼とその白狼の頭の上に乗っている猛禽類に向けられている。
それは隣に立っていた墓守も気になっていた事であった。
「俺は俺さ。それ以外に何があると思う?ネェちゃんよォ」
突然喋った事により目を見開きながらも固まる墓守と祈祷師。
驚かせる事に成功したグリフォンはニヤリと嘴を歪め、フードゥルはやれやれと言った様子で頭を振った。
しかしグリフォンが先に喋ってしまった以上はこちらも喋るべきと判断したフードゥルは二人へと話しかける。
「グリフォンが失礼した。この者はこういう事が得意であってな」
「え、あ、はい…?」
フードゥルがそう話しかけるも返答した祈祷師の反応は困惑といった様子であった。
それが分からない訳でないフードゥルは冷静に対処する。
「我の名はフードゥル。そして我の頭の上に乗っておるのがグリフォン。今は名だけ名乗らせてもらう。どう見ても混乱されている様子でな…落ち着いた時に機会を設けて再度説明させてもらうがよろしいか」
「は、はい!そうしてくれると助かります」
「うむ。承知した」
こういう時に備えて連れてきた訳でないが、フードゥルを連れてきて正解だったと思うシーナ。
この中で不測の事態に冷静な判断を下させるのは代理人や処刑人、フードゥルだったりする。
特にフードゥルは魔界で精鋭部隊の隊長を務めていたという事もあり、判断能力や状況分析能力に長けている点やその他を含めてフードゥルはシーナにとって心強い存在と言えた。
かと言ってシーナがS10地区前線基地所属する戦術人形や便利屋「デビルメイクライ」に属する者達の事を信頼していない訳ではなく、当然心強い存在とも思っている事は忘れてはならない。
「さて…本題に移ろうか」
此処に来た目的は墓守の保護と調査。
少し目的に変更があったとはいえ支障はない。今日一日で調査や物品の回収は終える事はないとは既に把握している。
暫くは時間が掛かるであろう「墓場」での調査は幕を開いた。
「一応自分達で出来る範囲のことはしておいた。ただ全機能復活とは言い難いかな」
墓守と祈祷師によって行われた「墓場」復旧作業は決して満足いくものとは言いづらいであり、シーナ達もそれは覚悟していた事であった。
それにこの「墓場」は一時的な拠点として且つ戦場として扱われた事は明白な上、戦闘によるダメージを受けている事は当然。完全復活が見込めない事は考えなくても分かる事であった。
「情報の類とかは?それも見れない感じかな」
「大半は既に削除されていて駄目だった。けど一つだけ…夢想家とやり取りしていた組織名だけ残されていたね」
「それって…"神の代行者"じゃないよね」
「あれ?知っていたのかい」
異世界から帰還した時、シーナはマギーから壊滅させた人形売買組織が"神の代行者"と呼ばれる組織と繋がっていたという事を聞いていた。
そして残虐な行いをした追跡者はどういう訳かその人形売買組織と関わりがあった。
その両者の背後にいたのは"神の代行者"と呼ばれる組織…という事まで分かっていた。
となる今回の一件もそこが関わっていると予想していたシーナだったが、それは見事に当たっていた。
(予測はしていたけど…一体何者なの…?)
ここでも聞く事になった組織の名。
一体何が目的なのかシーナには見当が付かなかった。
だがあの人物なら何かを知っているだろうと思っていた。
(…時期を見てダレンさんに聞くしかない。あの人が何かを知っている…)
今回の一件といい、例の組織といいシーナはダレンが大きく関与していると見ていた。
余りにも謎が多すぎるという事もあるが、何の為に自分達に接触してきたのかすら明らかになっていない。
ただ敵ではない事は明らかなのだが。
(嫌な予感がする…)
戦いは避けられない。ダレンから全てを聞いた時、先の見えない戦いが幕を開ける。
それまでに準備をしなくてはならないのは明白であった。
これから先、何が起きるのかすら予想は付かない。だが戦わなければならない。
生き残る為、そして守る為にも。
そして今回の一件で言える事は二つ。
『世界規模の戦い』になるという事と下手すれば『S10地区前線基地が壊滅する可能性がある』戦いになるという事だろう。
(覚悟を決めなきゃね…)
心の内で覚悟を決めなくてはならないと決意しながらもシーナはそれを気取られる事無く墓守へと話しかける。
「情報に関してはここから先は得られないとして、他には何があるかな?」
「そうだね…えっと…」
思い出す様な素振りを見せる墓守。
すると隣で聞いていた祈祷師が墓守へと伝える。
「こちらの操作で開ける事が出来た保管区画でしょうか」
「あぁ、あの保管庫が無数にある区画か」
「はい」
どうやら情報以外に何かあるのだなと察するシーナ。
ここで駄弁っていても進まないので墓守と祈祷師の先導のもとシーナ達は保管区画へ向かう事に。
生み出されながらも破棄された人形達が眠る「墓場」は幾つもの区画に分かれており、以前ギルヴァ達が戦った区画とはまた別にある区画に「保管区画」は存在する。
そこはここで眠る人形達の為に製作された専用武装、人形専用四肢の予備パーツに衣服、壊滅する前の鉄血工廠で生み出さながらも破棄されたもの、未完成で終わったもの、何処で回収されたのか奇妙なものなどが眠っている。
保管区画の保管庫に訪れ、物がずらりと並ぶその様に圧倒されるシーナ達。墓守と祈祷師も此処に訪れたのは今回が初めてだった為、同じ様に圧倒されていた。
「これは凄いですね。マギーが見たら発狂間違いなしですよ」
「だな。武器に予備パーツ、おまけに衣服まで置いてる。こりゃお宝だな」
そんなやり取りする二人の近くでシーナは偶々傍に居た錬金術士と共に歩きながら、保管されていた物を眺めていた。
どうやったらこの様な物を考え付くのだろうかと思いながら眺めていく中シーナは何かを見つけた。
「これは…?」
棚に置かれていたのは日本刀を模った近接武器であった。
しかしそのデザインはギルヴァの持つ無銘とは違い機械的な姿をしている。
鞘は黒と赤のツートンで彩られており、収められている刀身は深紅で染められていた。
ただ刀は一振りだけではなく、二振りの刀が一緒に置かれていた。
形状や刀身の長さは違うが同じ色合いの鞘が存在し、それを納めるためのホルダーパーツも付属していた。
「奇抜な発想をするものだな。三振りの刀の運用をメインに置いたものと見る。私には使いこなせる自信はないが…ギルヴァやブレイクとやらなら使いこなしそう気もするが」
「あー…それは否定できないかも」
シーナの脳裏に浮かぶのは、三振りの刀を巧みに、そしてスタイリッシュに戦うギルヴァやブレイクの姿。
流石にギルヴァさんはないかなと思いながらも、ブレイクさんならやりかねないなぁと引き攣った笑みを浮かべる。
「にしても…」
「む」
「これだけの数…どうしたものかな」
今回は保護と調査。
物品の回収も視野に入れていたが、これ程とは流石に思っていなかったシーナ。
このまま放置すれば、またこここが拠点として扱われる可能性もある。
それを聞いていた錬金術士が鼻を鳴らすと呆れた様に答えた。
「使われる事がないのだ。全て持って帰ればいいだろう」
「全てかぁ…」
そこでシーナは基地にS11地区後方支援基地から持ち帰ってきたリヴァイアサンを運搬するための専用トレーラーがある事を思い出す。
一回で終わるかどうか分からないが、荷台は十分な広さがあるので運搬には問題はない。
ただ問題はこれら全てが基地に収まるかどうかの話だ。
「知り合いの基地におすそ分けしないといけないかな?」
持っていた所で余るのであれば、戦力を必要とする所に修理し改造したものを送ろう。
シーナは保管庫に置かれたものを眺めながらそう決断し、墓守と祈祷師を探す為歩き出した。
幸いにも二人は近くに居た為、早速シーナは話しかけた。
「一つ聞いていいかな」
「良いよ、何かな」
相手から了承を得られた事で彼女は尋ねる。
ここに来た時から気になっていた事を。
「基地を襲撃した追跡者達…本体である追跡者は彼女達をどうやって生み出したの?」
追跡者が此処を拠点にしていたという事実。
本体はこの拠点で追跡者達を生み出したと考えるのが妥当であろう。
しかしここは生み出されながらも破棄された人形達が眠る場所であって製造工場ではない。武器はここからによるものだと推測できるが、どうやってあれだけの人数を用意出来たのかが疑問に残る。
シーナにとってそれが不思議でならなかった。
「それは…」
墓守の表情が曇る。
それを見てシーナは確信する。墓守は知っていると。
しかし問い詰める気はないが相手がその事を話すまで待つ気もなかった。
「貴女達の仕業ではない事は分かってる。…棺桶から掘り起こしたんだよね?」
「ああ…」
頷く墓守。
震える彼女の体を祈祷師が寄り添う。
ありがとうと伝えながら、墓守は語り出した。
「知っての通りここは目覚める事を許されなかった者達が眠る場所。その数は手足の指の数では足りなくなるほどの数が眠っている」
「そして一から製造できないのであれば、保管されている彼女達を使えば良い。そこに目を付け眠っていた者達の棺桶を掘り起こし追跡者は改造をした。自分と同じ姿にする為に、決して叫ぶ事のない彼女達の皮膚をそぎ落としそれを繰り返した…そうだよね?」
そう結論付けるには理由があった。
シーナはマギーとダレンがトリスマギアの調査の中間報告である事を聞かされていた。
追跡者達全員の内部骨格に記されている型番がどれも違う。
新しく生み出したのではなく、既存の人形に何かを施したのではないかと。
彼女は追跡者がどういう性格をしているかは初めて通信を寄越してきた時から把握している。
残虐な行いを好み、それで興奮を覚える狂った性格。
その時シーナはまさかと思った。
追跡者は仲間にもその様な行いをしたのでないかと。そしてその仲間とやらは此処で眠っていた者達ではないのかと。
「…見ていられなかった!何でこんな惨い事が出来るんだって思った…!生み出されて、破棄されて…目覚める事が許されなかった彼女達が何をしたって言うんだ…!!」
泣き崩れる墓守。
ここで眠っていた彼女にとって、祈祷師や他の名も知らぬ人形達はある意味仲間であった。
そんな仲間たちが一人、また一人と泣き叫ぶ事もなく淡々と惨い行いをされる様を見ていられる筈がない。
彼女が体を取り戻る事を辞め、本体を討伐する事を依頼した理由は暴走したから辞めた訳ではない。
あんな惨い行いをする奴を破壊して欲しかった。それも含まれていた。
「全てが遅すぎた…!彼女達をちゃんとしたままの姿で眠っていて欲しかった…!それなのに、あいつは…!あいつはぁッ!!」
ここで眠っていた彼女達を思う墓守を見てシーナは思った。
墓守の名の通り、彼女はここの管理を任されていたのかも知れないと。
しかし彼女もまた眠りについていた身。彼女ですら気付かなかった位に無意識のうちに使命を全うできなかった事を悔やんでいるかも知れないと。
「墓守…」
ただひたすらにごめんなさいと同じ言葉を続ける墓守を祈祷師はそっと抱きしめ落ち着くまで寄り添う。
そんな二人にかける言葉が出ず、シーナ達はただ墓守が落ち着くまで見守る事しか出来なかった。
数十分経てば墓守も落ち着き、シーナ達は一旦基地へ戻る事にした。
調査自体は残されていた情報がほぼ得られない状態であり、また本来の目的である保護を最優先とした為である。
とは言え今日で終わりという訳ではないのだが。
墓守と祈祷師をヘリに乗せ、シーナが見つけた例の三振りの刀を乗せると代理人の操縦の元、シーナ達を乗せたヘリは上空へと飛びあがる。
代理人が勝手に取り付けたジュークボックスから曲が流れ、各々が自由に過ごす中。処刑人があるものをコートから取り出してじっと眺めた。
それは石の様で赤く透き通っており、墓場の保管庫にあったもの。
使えそうだからという理由で彼女が持ちだしたものだ。
「おいおい、そりゃあ…」
処刑人が何かを眺めていた事に気付いたグリフォンが何処か驚きを交えた声を出した。
「知ってんのか、この石っころの事を」
「普通の石っころじゃねぇぞ。そいつはオリハルコン。膨大な力を生み出す神石ってやつさ」
「神石って…マジか?」
「嘘は言ってねぇぜ?こりゃマギーに見せたら大喜びかもな!」
石っころにしか見えぬこれが神石とは思わなかったのか暫く固まる処刑人。
この後に基地に戻った彼女はオリハルコンをマギーに見せる。
その時のマギーの反応は自身がびっくりするぐらいの驚きぶりだったと処刑人は語る。
雨降るそこは地形が所々破壊されているが碁盤の様な計画的に建設された工場群。
工場群という事もあって化学液体燃料の球状タンクや工場などが立ち並んでいるのが確認できる。
工場群から少し離れた三階建ての古びた建物にギルヴァとルージュが居た。
三階の窓から静かに外を眺めるギルヴァ。
その後ろでマギーから試験運用を頼まれた二つの試作大型兵器『スパイラル』と『V.S.E.R』を背負い、愛用の大鎌を肩に担ぐルージュ。
二人はある者の依頼を受けて此処へと訪れていた。
「ダレンも突然依頼をしてくるものです…。幾ら情報を得たからといって急過ぎますよ…」
ギルヴァの隣に並び立ちながらルージュが愚痴る。
「私は兎も角、貴方にも依頼するなんて…今回の依頼は援護だけですよね?」
「ああ。…奴の考えている事など知らんが依頼を受けた以上はやる事はやるまでだ」
「…そうですね」
目を伏せ、その時が来るまで精神統一をはかるギルヴァ。
彼が静かになった事でルージュも静かにする事に。
そんな中、ギルヴァの中で蒼が話しかける。
―援護ってもなんか裏があるよなぁ…
(あったとしてもやる事は変わらん。俺達はただ裏方仕事をこなすだけだ)
―ま、それもそうだがな。でも油断はすんなよ?先行きがどうなんのか分かんねぇからな
(ああ。分かっている)
ただ静かに二人は待つ。
パーティーの開幕を告げる一発の銃声を。
まぁそういう事でございやす…。
墓守も無意識のうちに仇を討とうとしていたのも知れない…。
因みに墓場の保管庫で発見された物はまたいずれ明らかにします。
次回
「Act141-Extra
次回からはoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」のコラボ回にギルヴァとルージュが参加いたします。
と言ってもこちらは裏でチマチマと援護するぐらいですね。
参加する面々はうちらを見つけてもいいぞえ。
では次回!