―全く…何度ぶっ壊せば気が済むんだい?―
―悪いね。こっちだって必死だったのさ―
―毎度毎度ヤバい状況に陥って銃をぶっ壊す。…ブレイク、あんた便利屋辞めたらどうだい?―
―辞めた所で求人出してんのはグリフィンぐらいさ。デスクワークとか俺に合わねぇよ―
―だろうね。あの赤い制服をあんたが着ていると思うと笑い過ぎて天に召されちまいそうだ―
―ひでぇ事言ってくれるぜ―
―ハハッ。…ほら、直ったよ。次はもっと丁寧に扱いなよ―
―はいはい…。ありがとよ、"婆さん"―
―おい…婆さん…!!目を開けろよ!婆さんッ!!!―
―ごほっ…ごほっ……そんなに叫ばんといてくれ…。びっくりして天に召されちまうよ…―
―冗談言ってる場合じゃねぇだろ!急いで此処を出るぞ!―
―この感じだとあたしも店も長くはもたんさ…。あんただけでも逃げな…まだ若いんだから…―
―ッ…! 何一つ返せてねぇんだぞ!あんたに、何一つ…!―
―ハハッ…あんたらしくない、ねぇ…。…良いさ…十分な位、貰ったさ…。最後の最後に、ね…―
―婆さん…―
―…あれを持っていきな…。あんた専用の銃さ…。ぶっ壊すんじゃないよ…?それはね…―
それは赤き外套を纏う前の過去。
失ってしまった痛み。失ってしまった悲しみ。
それは忘れる事の無い傷ついた暗き思い出。
「ブレイク…?」
ダレンからの依頼を受け、準備の為に基地へ戻っていたグローザ。
事務所へと戻ってきた時、机の上に腰掛ける彼の姿を見てどこか様子が変だと感じた彼女は心配げに彼の名前を口にした。
「ん?…ああ、戻ってきてたのか」
「ええ、ついさっき。それよりもさっき様子が変だっただけど…大丈夫?」
「問題ねぇよ。少し考え事をしていただけさ」
肩を竦め、いつもの笑みを湛えるブレイク。
彼がそう言うのであれば、とそれ以上の事は追及せずグローザは仕事の話を切り出した。
「ダレンの手回しが早くて助かったわ。指揮官の許可を得て、車を一台借りる事が出来たから」
「幸先が良いな。これならピクニックじゃなくドライブに洒落込めそうだな」
リベリオンを納めたギターケースを背負い、ブレイクは事務所の出入口へと歩き出す。
先行く彼の後を追うグローザ。
事務所の扉の掛け看板を「open」から「close」にひっくり返すと基地から借りた車の運転席に彼女は乗り込むのであった。
S10地区を後にし、適当な道を走る車両。
運転を担当しているグローザは頃合いと感じ、シートの背もたれを傾けダッシュボードに足を乗せるブレイクへ問いかけた。
「それで?地区は出たけど、何処へ向かえば良いのかしら」
「フシール・ハンデル。そこへ向かってくれ」
「フシール・ハンデル?確かそこって…」
ブレイクの口から出たその名前を聞き返す様に言いつつもグローザはその名前に聞き覚えがあった。
戦術人形になる前、彼女が民用人形だった時に何度も聞いた町のあだ名。
それがフシール・ハンデル。造語であるが「銃の貿易」と呼ばれている。
地区と地区の間に存在する比較的大きな町であり、総人口もS10地区と比べると多い。
生活に必要な店が多くあり、交通面も発達しておりこの町に移住する者も少なくない。
そしてフシール・ハンデルの名の通り、この町は新米ガンスミスの修行の町としても有名だ。
その理由としてはフシール・ハンデルにはベテランとも言えるガンスミス達が多く住んでいる。
新米達はこの者達に弟子入りし様々な事を教わり一人前と認められた時に町を出て各々で店を構える。
有名な町だという事もあるが、グローザはブレイクに尋ねたのは他の理由があった。
それを分かっていたのか、ブレイクは一つ頷き答える。
「ああ。フェーンベルツを訪れる前に、住んでいた町さ」
ブレイクがそう言った様に、フシール・ハンデルはフェーンベルツを訪れる前の彼が住んでいた町だ。
彼がかつて住んでいた町。そして金色の原石。
その二つがどう関連するのか、フシール・ハンデルへと車を走らせるグローザには見当が付かなかった。
ブレイクとグローザがフシール・ハンデルに到達した時は既に陽は沈んでいた。
流石にこのまま調査…という訳には行かず、二人は近くの酒場へと来ていた。
仕事上がりの一杯、親しい者達と酒盛り。各々の理由で盛り上がるこの場でブレイクとグローザは端の席に座って飲んでいた。
「こうして飲むなんて…久しぶりね」
「あれからどれだけ経ったかは覚えてねぇけどな」
「私は覚えてるわよ?貴方と出会った時もね?」
酒を煽るグローザにブレイクは軽く笑みを浮かべる。
彼にとってグローザとの出会いは印象的であったとも言えた。
色々あったなと思っていると、グラスを空にしたグローザが問う。
それは彼女が彼へと予め聞こうとしていた事だ。
「聞いていいかしら?…金色の原石について」
「そうだな…」
同じくしてグラスを空にしたブレイクは懐かしく、何処か悲しそうな表情を浮かべた。
彼の事をよく知るグローザからすれば、金色の原石についてはあまり話したくないのだなと思いながらも聞くつもりでいた。
今回の一件はただの依頼で終わらないと思っていたからだ。
「金色の原石……いや、ゴールドスタインって名はこの町だと俺を含む一部の便利屋や多くのガンスミスの中じゃ誰しもが知っている名さ。俺も有名人だという事は知っていたからな」
「…貴方との関連は?」
「分かりやすく言えば…アレグロとフォルテの生みの親でそれを俺が貰ったというべきだな」
アレグロとフォルテ。
それはブレイクが愛用する大型二丁拳銃の事を指す。
音楽用語を与えられた二丁の銃、そして二丁の銃を製作したとされるゴールドスタインと呼ばれる人物。
それが今回の一件に繋がるのかは分からない。
ただグローザは一つだけであるが確信していた。
(今回の一件…ブレイクが大きく関わっているわね)
ただの事件では終わらない。
過去からやってきた事件は大きな騒動へと変質する事にグローザもブレイクも確信するのであった。
だいぶ短いですが許しておくれ…。
次回は…どうするか未定です。
では次回ノシ