─何故なら人間じゃないのだから─
「では…ロックさんと呼べば良いですか?」
「ああ。それでいい。えっと…君の名前を聞いて良いか?」
こんな薄暗く部屋で吞気にお喋りしている暇などあるのだろうかと、つい思ってしまう。
だがここがどこなのか、そして何故自分は此処に居て、目の前に居る彼女はここに居るのか知る必要があった。
「IWS2000と言います。…グリフィン所属です」
IWS2000。
一目見た時からそうではないかと思っていたが名前とグリフィンの名を聞いた時点で確信した。
彼女は戦術人形だ。その戦術人形がこんな薄暗い牢屋みたい所に居るのか不思議でならない。
人権保護団体過激派に捕まったという考えも出来るが、それならば何故自分までと疑問に思う。確かに住んでいた町は民用人形は居たし、話した事だって何度もある。
その点を思うと、どうも自分がこんな所に居る理由が別にあるのではないだろうか。
何か手がかりになるものはないものかと記憶の棚から探り始めた時、一週間前に聞いたとある噂を思い出す。
──【それ】が行われている場所がここだとするのであれば…
憶測でしかない。
だが目覚めた時にうっすらと聞こえたあの歓声が決定的な証拠になりかけていた。
まだ決まった訳ではない。そう、まだ決まった訳ではないのだ。
そこにある現実から目を背ける様にして、答えを先送りにし、自分はIWS2000にある事を尋ねる。
「グリフィン所属の君がどうしてここに?」
「…それは」
彼女の顔に影が差した。
聞いたら不味い事だったと理解するに時間は掛からず、別に話題へと切り替えようとした時だった。
呟く様に彼女は喋った。
「…欠陥品だったんです、私」
外見に何かある様に見えない。
ならば内部の問題なのだろう。銃に関しては分かるが生憎人形に関してはからっきしなので分からないが。
当然ながら不調をこさえた戦術人形がどうなるかさえ分かる筈がない。
ただの民間人がそんな事を知っている訳がないのだ。
「そいつはまた…。原因は分かってるのか?」
「いいえ。それを調べるために私は一度I.O.Pへと戻る予定でした。戻る道中で何かが起きて…」
「ここに居たって訳か。何時から此処に?」
「二日前です…。その間外へ出る事が無ければ、誰がここに来た事もないです。人に会ったのはロックさんが初めてです」
二日。特に何かあった訳でもないと来た。
自分の予想は外れているのではと小さな期待を抱いてしまう。
しかしここがそうでなかったとしても危険な場所である事には変わりない。
どうにかしてここから出られないものかと考えた時、IWS2000は静かに呟いた。
「さっき私はロックさんの問いに対して嘘をつきました。ここがどこなのか…私は知っています」
「っ!」
冷や汗が流れる。
間違いであって欲しいと願ってしまう。だがそれが無意味と悟ったのはその直後だった。
「嘘をついた事に関しては謝ります。初めて会う人だった事もあって警戒していたので…」
「…」
「噂で聞いていました。ここは子供と人形が殺し合う賭け試合が行われる場所…ここに来て直ぐ分かりましたから」
はっきりと彼女はそう言った。
これが現実を認めようとはしなかった自分への罰だろうか。
絶望が圧し掛かる一方で、何処か冷静に居る自分が居た。
その時だった。この部屋に置かれていた電話がけたたましい音を立てて鳴り響いた。
突然鳴り響いた事に驚きつつも、恐る恐る電話の近くへと歩み寄り受話器を手に取る。
『初めまして、ロック・ゴールドスタインさん。気分は如何かしら?』
受話器の向こう側から聞こえたのは女の声。
だがその声が初めて聞いた声だとは何故か思えなかった。聞き覚えのある声だという事は分かる。
どこでその声を聞いたのか思い出せないが女は気分はどうかと聞いてきたので素直に感想を伝える。
「最悪だね。こんな肥溜めみたいな所に放り込まれて感謝の言葉が出ると思ってんのか?」
『あら。辺鄙な所で銃砲店を営んでいる貴方にはお似合いと思うのだけど?』
「この…っ」
苛立ちが募る。
だがこのまま感情を爆発させたら、それでこそ相手の思う壺だろう。
何とか抑えつつ、女へと尋ねる。
「何が目的だ?辺鄙な町で銃砲店を営んでいる野郎を捕まえて、何がしたい?」
『そんな事を聞かずとも…貴方も気付いているじゃないかしら』
「ここが子供と人形を殺し合わせる賭け試合が行われているクソみたい場所以外は分かんねぇな」
『そう。なら教えてあげる。ちゃんと教えてあげるのも務めですから』
「!」
最後の台詞を聞いた瞬間、電話の相手が誰なのか分かった気がした。
電話の相手…恐らくであるが大手企業「モンゴリー・エレクトロニクス」の女社長のグレイス・モンゴリーだと思われる。
ラジオやテレビであの女社長の声を聞いていたからこそ電話に出た時に聞き覚えがあると感じたのだろう。
さっきの台詞もあの女の口癖だった筈。絶対そうとは言い切れないが確信に近いものは感じていた。
『貴方には試合に出る相棒の銃を整備してもらうわ。ちゃんと工具は揃えてあるから安心して』
試合に出る相棒…。
女が言う相棒とは恐らくIWSの事だ。
「…それで?」
『それだけよ。相棒がちゃんと戦えるように銃の整備を貴方がする。喜びなさい、ガンスミスとしての仕事が出来るわよ?』
「そうかい。…で?負けたらどうなるんだ?そのまま家に帰してくれるなんざ考えてねぇだろう」
この状況下でよく冷静にそんなセリフが出たなと今更ながら思う。
壊れてしまった世界。生み出された死と隣り合わせとなってしまった日々を普通にかつ必死に生きているのだ。
明日が自分の命日になるのかも知れないという恐怖に怯える自分が居れば、何処で覚悟を決めてしまっている自分が居たのだろう。
だからIWSがここの事を話した時、何処か冷静に居られる自分が居た。
収まっていく苛立ち。思考は冷静さを取り戻していく。
『当たり前でしょ。どうして負け犬を家に帰さなくてはならないのかしら?』
「…」
『それにあなたたちの試合が楽しみで仕方ないわぁ…。欠陥品を抱えた戦術人形が無様に死ぬ姿にかの有名なガンスミスの息子が試合に負けて無様に死ぬ様を見られるのだから』
「…」
『試合会場に来てくれる観客の殆どが刺激を求める人が多いのよ。そう言った連中はかなりの額を出してくれる。このご時世、退屈な日々を変えたい富裕層が多いの。そんな刺激的なものを私は提供している。お互いに良い関係だと思うでしょ?』
黙って話を聞いていて分かった事が一つだけあった。
ただ汚い金稼ぎをする為に何の関係のない子供や民用人形に殺しの片棒を担がせる。例え死のうがこの女には関係ない。金や権力を用いて、また補充するればいいのだから。
もはや狂っているとしか言いようがない。何かの影響で狂っていた訳ではない。この女は最初から狂っている存在だ。
「このっ…クソ女がッ!!」
故に狂った女に対してそう叫んだのは決して間違っていないだろう。
『アハハハッ!!最高の褒め言葉よ、それぇ!あなたたちの番が聞いたら私自ら連絡してあげる。それまで大人しくしてなさいな、アハハ!』
「地獄に落ちやがれッ!!!」
まるで捨て台詞の様に言葉を吐き出すと、勢い良く受話器を元の位置へと叩きつける。
再び訪れる静寂。
どうにかしようにもどうする事も出来ないのが非常に歯痒い。
このまま試合の日になるまで待つしかないのか。
「くそったれが…!」
非力な自分に対する台詞か、それともこの状況に対する台詞か。
どちらにせよこの苛立ちが誰かに届く事もない。
今自分が出来る事と言えば、ただ奇跡を起こる事を祈るほかなかった。
この時、彼は気付かなかった。いや、気付く筈もなかった。
既に奇跡は起きていた。
この場に【存在しない部隊】が情報収集の為に訪れていた事を。
とある一室に彼女達は居た。
久しぶりの事もあって勘が鈍っているかと思いきや、そんな事はなく。
数分も経たぬうちに彼女達は情報を引き抜き、HK416とG11は周囲の警戒に当たっていた。
「45姉、今の聞いた?」
「ええ、しっかりと。位置も特定済み。人員構成、内部構造、地下の構造も把握済み。因みに女社長さんの悪事の証拠もバッチリ」
「こっちもここ以外にある違法カジノの位置特定済み!後は…」
「悪魔の存在ね。そろそろグリフォンが戻ってくる頃と思うけど」
UMP45が情報を納めた端末をバックに納めた時、外から窓枠にへと一羽の猛禽類が降り立った。
「おかえり、グリフォン。どうだったかしら?」
「大当たりってやつだぜ。あの女社長さん、悪魔だな。おまけに地下に気配ありだ。見てきたら地下から地上に繋がる出口でキモイ悪魔どもがダンスしてやがった。あと数が少ねぇから、大方本社の方に置いてるんじゃんねぇの。ギルヴァやブレイク、ネロ、ルージュを行かせれば分かるだろうぜ」
「成程。悪魔となれば完全に大問題ね。…どうやらパーティー会場は複数になりそうね」
「派手になり過ぎてパーティー会場が木端微塵に吹っ飛ぶけどな」
「確かに。…9、416、G11、仕事は終わりよ。基地に戻るわ」
45のその声に三人は頷き、撤退を始める。
四人に続く様にグリフォンも後を追い、その場から姿を消した。
後にこの情報はシーナ指揮官へともたらされる。
通信越しであるがへリアンを含め、作戦会議が急遽行われたのは言うまででもない。
次回は作戦会議編。
また今回はパーティー会場は複数あるんで…。
もしかしたらパーティー会場の貸し出しをするかもです。
その時は改めて報告いたします。
では次回