さて二話目。戦闘描写を入れた訳ですが上手く出来ているか不安だ…。
心地よい風。
それは眠っていた自分を優しく起こしてくれるものとなっていた。
伏せていた目を開き、体を起こす。窓から差し込む太陽の光が全てを照らし、包み込む。まるで新しい一日を知らせている様だ。今が荒廃した地球だという事を忘れる位に。
「ふむ。今日も太陽が綺麗だ」
―だな。この世界が荒れていなければ、その美しさに酔いしれていたいものだ。
蒼も思う所があるのだろう。流石は人智を超え、長くを生きる存在。
人間では無理であろうその先を何倍にして楽しむことが出来る。もし自分がまだ「人間」で「■■」の事を知っていたら確実に羨むだろう。誰だって死ぬ事は嫌なのだから。かつて自分が経験したように。
「さて…今日は……ん?」
―あれは…
蒼も見えているのだろう。互いにこそこそと動いている人影らしきものを見つけていた。何となくだが鉄血の人形部隊ではない…。だとするのであればグリフィンの人形部隊だろうか?こんな辺鄙な場所だというのに…随分な数だ。
これだけの数をこんな辺鄙な場所に集結させるとは…もしや何か大規模な作戦でも展開するというのだろうか?
―この数からしてその考えは間違ってはいないだろうな。しかし何故…?
「分からん。だがここに残っていると厄介な事に巻き込まれるのは目に見えてる」
―そうだな。戦闘が起きる前にさっさと…
蒼が言い切る前に各所に銃声が鳴り響いた。気付けば鉄血の人形部隊もそこにいる。
どうやら完全に脱出する機会を見失ってしまったみたいだ。
―これは穏便に済ます事は出来ないな。余計に鉄血の人形部隊と鉢合わせするな?
「おまけにグリフィンの人形部隊ともな。下手すれば両者に喧嘩を売る事になりそうだ」
―それはそれで良いんじゃないのか?
「馬鹿を言うな。両者から追われる日々など送りたくもない」
―なら慎重に動くか、或いは…
「味方だと思わせる行動をする…それぐらいだろうな」
―だな。
荷物を背負い、ローブを纏う。
しかし味方だと思わせる行動、か…。鉄血の人形部隊を散々斬り伏せてきた奴など向こうは信じてくれるかどうか…。どちらにせよ今はここからの脱出が第一目標だ。それに伴う弊害は状況に合わせて動くしかあるまい。
「さて。行くとするか」
歩きながらその場を後にする。
出来れば穏便に済ましたいと思っていたが、神様は俺たちの事を嫌っているのか部屋を出て数分後、鉄血の人形部隊を鉢合わせる事となった。
響く銃声、轟く爆発音と振動。
兵器工場外部ではグリフィン支援部隊と鉄血の人形部隊が交戦している中、内部でも戦闘は起きていた。
最もそれは一方的なものと言えるだった。
「…ッ!」
高速移動同時に放たれる神速の抜刀。
その攻撃は鉄血の人形部隊を一瞬にして斬り刻む。一度斬り刻まれば「死」というガラクタへと成り替わる事から逃れる術は存在しない。
その攻撃から逃れる事のなかった鉄血の人形部隊は瞬時にして壊滅。残るは残骸のみとなった。
ローブを纏う男…ギルヴァは鉄屑と化した人形には目もくれず、歩みを進めていく。
その間、彼は鉄血の人形部隊と遭遇する事になるのだが、いとも簡単にそれを斬り伏せていく。
遭遇した回数が5回となった所で彼は工場内のエントランスに出てきていた。散々敵を斬り伏せてきたせいか、敵の姿は確認できない。戦力は外部へと集中しているのだろうと判断した彼は正面からではなく裏口へと歩き出す。
これでこの場からおさらば出来る。
一歩、一歩とブーツの底が当たる音を響かせながら歩くギルヴァ。裏口に到達し、やっと思いでその場から離れる事が出来た彼。そのまま戦場から離脱するのかと思えば、ギルヴァの視線はある方向へと向けられた。
「あの建物…燃えてるな」
―みたいだなぁ。もしや兵器工場外部のグリフィンの連中は囮か?
「どうだろうな…。少なくともグリフィン以外にも他の何かが動いている。分かる事はそれぐらいだろう」
口角を少しだけ吊り上げ、刀を握る手を強めるギルヴァ。
本来であればそのまま戦場から離脱するのが当たり前だろうが、彼にはある思いがあった。鉄血の人形…その上位種と戦いたいというものだった。
「少しは楽しめそうだな…」
―この状況を楽しむやつなんざお前ぐらいだよ。
「かもな」
蒼のツッコミを軽く受け流して彼は歩きを止める事はなかった。
疲れを見せない歩きで軽々と燃え盛る建物へと到達。そのまま内部へと入り、進める道を通っていく。内部は炎と瓦礫で荒れているが、彼は気にせず歩いていく。逆にこの建物内にいるであろう何かを感じ取っており、それが鉄血の人形の上位種でないかと思っていた。もしそうなのであれば一戦交える気な彼。だが物事とは言うのはそう簡単に行くこともなく、ある場面に遭遇するのだった。
「が……ぐ……!」
片や首を絞められ、もがく者。
「そう…私を見なさい…。そして苦しみなさい…!!」
片や片腕で軽々と持ち上げ首を絞めるメイド服姿の者。
そんな状況に彼は遭遇してしまったのだった。
(ふむ…。厄介な状況に遭遇したな…)
―あれは…。おい、あのメイド服の女…鉄血の上位種だぞ
(ほう。では…もう一人は?)
―もう一人は……。あぁ、成る程。あれはAR小隊のM4A1だな。どこかで見た事がある。
(そうか)
蒼が教えた情報にギルヴァは再度口角を吊り上げる。
まさか本当に鉄血の上位種が居るとは思わなかった。何かが居るとは分かっていたとしても完璧にそれとは限らない。いくら彼が■■であろうと完璧に当てられる程の自信はないのだ。
(まさしく僥倖と言った所か)
流石に鉄血に対して喧嘩を散々売ってきた事を反省している彼だが、この状況を逃すつもりはなかった。
ローブを脱ぎ捨て、腰を下ろすと刀の持ち手に手を添える。
狙うは一つ。斬るは一つ。ここでグリフィンに恩を売るのも忘れない。後は取り敢えず状況に任せる。
前者は兎も角、後者が適当過ぎる気もしなくはないが、そんな事を誰も知る由はない。
「ふっ…!!」
勢い良く地を蹴り、彼は鉄血の上位種…エージェントに襲撃を仕掛けるのだった。
「ッ!?」
突如として現れた第三者による攻撃。鞘から抜き放たれ、煌めく刀身はM4A1の首を絞めていたエージェントの手を斬り落とす。突然の襲撃にエージェントはその場から飛び退き、襲撃者を睨む。
長く伸ばされた髪を一つに束ね、前髪が目元を隠す程長い。黒を基調とし、うっすらと青い刺繡が施されているコートを纏い、その者は余裕そうに刀を鞘に収めている。
グリフィンの戦術人形ではない。直感的ながらもエージェントはそう判断する。
基本銃器を使う戦術人形。近接武器を用いるグリフィンの戦術人形など彼女は知らない。
だとすれば目の前に居る者は何者か?敵を仕留める邪魔をされたか彼女であるが冷静さを保っていた。
「何者ですか…?」
「知ってどうする?」
「邪魔をされた報復をする為です」
「そうか」
淡々と。しかし襲撃者に油断なければ隙すらない。
声からして男なのは間違いない。それと同時に視界に何かノイズの様な物が走っている事がエージェントは気がかりだった。それは助けられたM4A1もそれを感じており、目の前にいる者を警戒すると同時に不思議で仕方なかった。そんな事を知る筈もない襲撃者…ギルヴァはそっと口を開く。
「相手してもらおうか」
そう言いながら居合いの構えを作るギルヴァ。
それに対してエージェントも戦闘態勢を取る。今の彼女はボロボロの状態だがここで戦ったとしても勝ち目はあると判断していた。当然ながらその理由は手にしている武器だ。
ギルヴァが持つのは日本刀。対してエージェントの武器は遠距離武器。互いの距離が離れている今、どちらが有利なのか簡単に察する事が出来る。同時にギルヴァが人間であるとエージェントは思っていた。
人間が全てを上回る戦術人形に叶う筈がない。もしここに観客がいるとするであれば誰もがそう思うだろう。
彼が"普通の人間"であればの話だが。
「っ!」
緊迫した状況を先に破ったのはエージェントの方だった。片腕ながらもスカートの裾を捲り上げ、武器を展開する。その素早い動きにギルヴァは動く事をしない。
勝った。エージェントは思った。
所詮に人間など取る足らない存在だと。
だがそれは簡単に覆された。
「下らん」
「!!?」
驚くのも束の間、何かが歪んだと思った瞬間エージェントの装備していた武器がバラバラに崩れ落ちたのだった。
その様子に彼女も、ギルヴァの後ろで座り込むM4A1も驚かずにはいられなかった。
互いの距離が離れており、そして一切抜刀の動作を見せていない筈のギルヴァの攻撃が彼女の武器をバラバラに斬り刻んだのだから。
それもその筈。彼は常人には、ましてや戦術人形の目ですら追う事が難しい抜刀で空間を切り裂き、エージェント側へとその斬撃を浴びせたのだ。
それは■■となり、鍛錬を積む事によって出来たギルヴァの居合い抜刀術の一つ。
名も「次元斬」である。
「な、何が起きて……?」
冷静で対処できる筈もないエージェントは起きた一端に狼狽えるしかなかった。たかが人間と思っていた敵が自身の予想を大い上回る事をやってのけたのだから無理もない。一体この者は何者なのか?彼女の思考はそれで埋め尽くされていく。答えを導きだそうとしても空回りするのみ。
「有り得ない…!そんな人間など存在しないッ!!あなたは何者ですかッ!!!?」
「何者か、か…」
その瞬間、彼の姿が消える。
連続して起きる超常現象に処理速度が追いつかずにいるエージェント。そんな事は知った事ないと言わんばかりに彼女の目の前に現れたギルヴァは勢いよく納刀されたまま状態の刀で突きを入れた。
その一撃は軽々とエージェントは部屋の向こうへと吹き飛ばし壁に叩きつける。人間が人形を圧倒するという場面を終始目の当たりにしたM4A1は最早驚きのあまり言葉を失う。
だがギルヴァは一切その事を気にする事はなく、エージェントの問いに静かに答えた。
「心を持った悪魔だ」
主人公に終始圧倒されるエージェント。悪魔だから仕方ないね(ニッコリ
次はどんな展開するか未定ですので更新が遅れますのでご容赦を。
では次回お会いしましょう。ノシノシ