違法カジノの制圧が間近となった時、ブラウ・ローゼによって解放された人質達を保護している仮拠点は慌ただしかった。
保護された人質達の怪我の治療を行ったり、腹を空かしている者達に胃に優しい食料を提供するなど作戦には参加しなかった戦術人形達や職員が何かに追われているかの様に急ぎ足で行き交う。そこはまるで銃声一つ鳴り響かない戦場の様だ。
かなりの人数が囚われていたのか、今居る人数でも対処出来るか怪しい。現に行き交う人形と職員達の顔には焦りの表情が浮かんでいた。
そこに一台の装甲車が仮拠点に到着しドアが開く。車内から降りてきたのはMG4とシーナの二人であった。
「指揮官様!?どうしてここに!?」
現れたシーナに小走りで歩み寄るのは親衛隊の様な黒い制服が特徴のSMGの戦術人形 MP40。
S10地区前線基地が発足当初から居る古参メンバーの一人である。
今回は作戦には参加せず、仮拠点での人質の介抱に就いていた。
「カジノの方は殆ど制圧済みだからそっちの方に行ってこいって教官に言われてね。だからこっちに来た。それでMP40、手を必要としている所は?」
「食料提供班の手助けをお願いします!私は医療班の方の手助けに入りますので!」
「うん、分かった」
シーナからの了承を得られるとMP40はお願いします!と一礼してから医療班がいる方へと駆け出していった。
向かって行く彼女を見届けるとシーナは傍らに立つMG4に視線を飛ばす。
その視線の意味を理解したMG4は頷き、歩き出したシーナの背を追った。先行くシーナの背を追いながらMG4は周囲を見渡す。
銃砲店やガンスミスを生業をしていた者達が一時的でありながらもパートナーだった人形や子供の介抱をしている様子、自分よりも怪我人を優先する者達がいる様子が目に映っていた。
自分は元気だから、自分よりも怪我人や人形、子供達を優先してくれという声にMG4は己の内の中にある何かが温まる感覚を覚えた。
だが今は和んでいる場合ではない。一刻も早く援助へと向かわなくてはならない。
頭を切り替えてMG4は既に援助にへと動き出したシーナの傍に歩み寄り手伝い始める。協力して食料を渡していく二人。そして偶然にも二人は人質として捕まっていたロック・ゴールドスタインとIWS2000の傍へと歩み寄っていた。
「どうぞ」
「ん?ああ、ありがとう」
MG4から渡された食料にお礼を伝えながら受け取るロック。
彼の隣にいたIWS2000を見て、何かを確信した様な表情を浮かべたシーナが彼女の前で片膝を着き声を掛けた。
「私はS10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサ。…怪我はない?IWS2000」
「大丈夫です。…運が良かったんでしょう。私とロックさんは酷い事はされなかったので」
「…そっか」
確かに二人は運が良かった。
捕まっていた人質の中にはパートナーを死なせてしまい、自分だけが助かってしまった事に涙を流す者達の姿もあった。
その姿を見て胸に手を当てながらシーナは口を開く。
「理不尽によって大事な者が奪われた時…残された者の痛みは直ぐに取り除く事は出来ない。時間掛けて割り切るか…あるいは何かで埋める事でその痛みを紛らわすしかないんだよね」
その台詞が聞こえていたのだろう。
彼女の近くで渡された食料を口にしていたロックが不思議そうな表情を浮かべながらシーナに話しかけた。
「…まるで経験してきたみたいな言い方をするんだな?」
「…まぁ私も色々あったからね。ただ…埋める方法は決して良いものではなかったけど」
ロックの問いに対し頷き肯定を示すシーナ。
その表情は寂しい笑顔が浮かんでいた。
そこから先は聞かない方が良い。そう思ったロックが必要以上に問う事はしなかった。
(…神様ってのはこんなにも若い少女に何か恨みでもあんのかね)
ただその胸の内ではこの世界を見ている神様に対し愚痴を呟いていた。
二人が加わった事により何とか落ち着き始めた仮拠点。
今でも人質の介抱は行われているが、人手は十分に足りているのか簡易的な指示を飛ばした後シーナとMG4は戦闘を続けているカジノ組と通信を取っていた。
通信に応対してくれたのは、AR小隊のM16A1であった。
『残存勢力は少なくはないが、ネロが派手に暴れ回っているのもあって五分もせずに片付くだろうな』
「分かった。戦闘終わり次第、予定通りカジノの爆破。良いね?」
『了解。あとソルシエールはそっちに向かわせた。何もないと思いたいが、一応念の為と思ってな』
「うん、ありがとう。…気をつけてね」
『了解。さて早めに終わらせて一杯飲まないとな』
通信を切り、シーナは装甲車から下りる。
その時、一発の銃声が鳴り響いた。
「!」
カジノの方からではなかった。
もっと近く。それも解放された人たちが居る方からであった。
良からぬ事が起きている。シーナがそう認識するまで一秒も要らなかった。
ホルスターに納めてあったM92Fを引き抜くと同じく銃を手にしたMG4と共に駆け出した。
二人が到達した時仮拠点では子供や人形、怪我人に守る様にガンスミス達が前に立ち、そして戦術人形達が銃を構えてある方向へと向けていた。
銃口が向けらている先に居たのは、少女の頭に銃を突き付け騒ぎ立てる男が一人。
ただその出で立ちは傭兵らしかぬ小奇麗なスーツを身に纏っていた。
「クソ!クソ!!クソ!人形が居なきゃ何も出来ねぇ連中が調子こきやがって!!テメェらのせいで取引が台無しだッ!!美味しい汁を吸っていける所まで来ていたと言うのによぉ!!」
どうやら男は傭兵ではなく、カジノで何らかの取引を行おうとしていた売人だったのだろう。
スーツ姿はそういう事なのだと誰もしも理解し、戦術人形の一人が叫ぶ。
「投降しなさい!逃げ場などありません!」
「うるせぇ!テメェらこそ銃を下ろしやがれ!!ガキがどうなってもいいのか!!ああ?!」
人質として捕まっている少女は助けてと泣きながらその言葉を口にしており、体も酷く震えていた。
このままでは不味いと判断したシーナが戦術人形達の前に出て指示する。
「全員銃を下して。今すぐ」
「しかし!」
「下して。これは命令よ」
そう言われれば戦術人形達も従うしかない。
男に睨みを聞かせながら相対するシーナ。男はシーナに銃を向けた時、何かを思い出したのか突如としてその顔が青ざめた。
銃を構える手を震えており、その様子に戦術人形達も状況が分からず困惑した表情を浮かべていた。
「お前…お前、あの菓子屋のガキの…!間違いねぇ!テメェ【ペイン】だろ!?何で生きてやがるんだ!?死んだ筈だろ?!」
その台詞を理解出来たのはシーナだけであった。
周りの者達は益々困惑した表情を浮かべ、シーナは被っていた制帽の唾を摘まみ深く被る。
鋭い目つきが男を睨みつけ、纏う雰囲気もかつて見せた修羅の様だ。
「成程…。貴方は生き残りね…?」
「ああ!そうだよ!テメェのせいで何もかも失った!…テメェさえ…!テメェさえいなければッ!!」
少女の頭に突き付けていた男の銃がシーナへと向けられる。
流石に不味いと感じMG4含む戦術人形達も銃を構えようとした。
引き金に指が掛けられた時、突如として男は痛みに悶える様な声を上げた。
何が起きたのか。その場にいた誰もが言葉を失う中、ワーロックの機能を用いて背後から男に近づいていたソルシエールが姿を現した。
「指揮官にも手を出されたら困るけど、その子にも手を出されたら困るんだよね」
浮かんでいた表情は笑みでも目は笑っていない。
まるで万力の如くソルシエールは男の腕を締め上げ、手にしていた銃が落ちたのを確認するとそれを蹴り飛ばし、無力化した後に男を蹴り飛ばし少女を抱き寄せる。
素早くその場から離れ、味方の射線上から飛び退きつつソルシエールはシーナへと視線を飛ばす。
それに対しシーナは頷き、上半身を起こし睨みつける男の傍にへと歩み寄る。
銃身をスライドさせ、薬室に銃弾を送り込むとシーナは男へと銃口を向ける。だが男は諦めていないのか、怒鳴り散らす。その姿は余りにも哀れと言えた。
彼女の冷たい瞳が男を睨み、引き金に指が駆けられる。
「…あの世で反省会でもしていなさい」
その台詞の直後、シーナは何の躊躇いもなく引き金を引いた。
乾いた音と共に男の頭に風穴が開かれる。
転がる薬莢。漂う硝煙の中、シーナは絶命した男をジッと見つめていた。
戦術人形達からすればその背は余りにも寂しく感じさせ、男とシーナのやり取りを聞いていたロックは思い出したのか様に呟いた。
「ペインって…単身でマフィアをぶっ潰したっていう…?」
その声が聞こえていたのかMG4はシーナの背を見つめる。
ロックが言っていた事が本当なのかは彼女にも分からない。
聞く事だって出来たかも知れない。
だがMG4は聞こうとはしなかった。今はそれを聞くべきではないと判断した為である。
(…シーナ指揮官、貴女は一体…)
只の指揮官ではない。
今回の一件でそれだけはその場にいた戦術人形達が感じ取った事であった。
これにてoperation777は終了です!
今回参加して頂いた方々、ありがとうございました!!
また何かあればよろしくお願いいたします!!
今回はシーナ指揮官の過去に何かあった、という感じの話でした。
今後も彼女の過去に触れる話も導入していこうかと思っています。
次回…operation777が終わった以降の話と…とある所への配達の前触れ編をえがきましょうか。