─ただ謎は全て明らかにはならない─
─同時に配達時間が訪れた─
朝陽が昇った時戦場と化していたカジノは既に跡形もなく消え去り、その場に残ったのは只の更地だけであった。
最後の仕上げも無事完了した事により作戦は成功した。
ただし戦闘は終えただけであり、S10地区前線基地の仕事は終わってなどいなかった。
人質として捕まっていた者達を元の居場所へと帰す仕事が残っていたのだ。
大人数が捕まっていた事もあって流石にS10地区前線基地の者達だけでは時間が掛かり過ぎてしまう事に懸念を抱いていたのかシーナが他の基地に協力を仰いだのはすぐの事であった。
そうしてS10地区前線基地、及び他の基地による送迎サービスが数日間掛けて行われたのはごく最近の事であった。
そして今日。S10地区前線基地では送迎サービスを必要する最後の一人…ロック・ゴールドスタインtと謎の不調を調べるためにI.O.PにIWS2000を送る日がやって来た。
まずは最初に送る事になったのはIWS2000。
性格なのだろうか。基地のヘリポートで彼女は助けてくれた者達一人一人にお礼を伝えて回っていた。
全員にお礼を伝えると彼女はロックの前に立ち、そっと手を差し出した。
「…傍に居てくれてありがとうございました。ロックさん」
「お礼を言われる程の事はやってない。ただ行き合わせが良かっただけさ」
戦術人形とは言え、目の前に居るのは美少女。
それも漫画かアニメの世界から出てきたのではと思いたくなる程の美貌を兼ね備えた少女。
そんな少女にお礼を言われたら、ロックとて悪い気はしなかった。
差し出された手を握り返し、彼は微笑むと何かを思い付いたのかある事を話しだした。
「戦術人形だから銃の手入れにガンスミスの助けなんぞ要らねぇと思うが、もし必要となったらフシール・ハンデルという町に来てくれ。そこでRock's Guns&Ammoって名前で店を経営しているからさ。凄腕という訳じゃねぇがあんたが来た時は整備位は格安でやってやるよ」
「はい!その時はお願いしますね」
最後の握手を交わし、IWS2000は最後に全員へと一礼してからI.O.P行きのヘリへと乗り込んだ。
扉が閉じられ、彼女を乗せたヘリはゆっくりと上昇。そして送り先へと向くとヘリはそのままローター音をお響かせながら基地から飛び立っていった。
段々と小さくなっていくヘリを見つめながらシーナは疑問に思った。
何故彼女が今まで不調を抱える事になってしまったのだろうかと。
その疑問が顔に出ていたのだろう。シーナの隣で腕を組みながら立っていたパイソンが答えた。
「バグの原因は明らかになっていない。だがある日を境に銃を撃つ事はおろか、握る事すら出来なくなったそうだ。まるで銃にトラウマを抱えている様にな」
「…ある日を境に、ですか」
「言っておくが不調を起こす前の日に何があったか、それに関しての詳しい事情は知らん」
「…」
ある日を境に起きたIWS2000の不調。
きな臭い感じがしたのか、シーナの目つきが変わる。
被っている制帽の唾をつまんだ。その癖を見せると止めろと言わんばかりにパイソンが雑に彼女の頭にへと手を置いた。
「何を考えているかは何となく分かっているが不要だ。いずれ明らかになるだろう」
新米だった時のシーナの事を知っているからこそだろう。
パイソンが彼女の頭を撫でる手つきは優しさに満ちていた。
最も誰かにそれを指摘されなければパイソンも気付く事もないだろうが。
成すがままに頭を撫でられるシーナは観念したかの様に小さくため息をついた。
「はあっ…分かりましたよ」
「それでいい。…融通が利くか利かないかに関しては新米の時と比べるはマシになった方か」
「…貴女の元で色々教わりましたからね。昔と比べると落ち着いていますよ」
「だろうな」
頭に置いていた手を退けるとパイソンはヘリポートを後にしようと出口へ向かって歩き出した。
彼女もまた迎えが必要とし、空路でなく陸路で本社へと戻る事になっていた。
既に迎えは来ているのでこのままヘリポートを出て基地の外へ向かえば良いのだが、何かを思い出したのかふと足を止めてパイソンは背を向けたままシーナへとある事を尋ねた。
「シーナ。貴様、今幾つになった」
「18です。あと少しで19になりますね」
「そうか。…最後に墓参りに行ったのは何時だ」
その事を問われた時、シーナの様子が変わる。
生まれる沈黙。風が吹く音だけその場を支配した時、彼女は帽子を深く被り表情を隠しながら答えた。
「五年前ですね…。それからは一度も」
その答えにパイソンは何処か呆れた様なため息を吐いた。
「…いい加減自分を許したらどうだ。お前がそのままでは二人も浮かばれんぞ」
「…覚えておきます」
「…その言葉、覚えたからな」
その言葉を最後にパイソンはまた会おうと伝えてから、ヘリポートから去っていった。
訪れる沈黙。誰も言葉を発しない。
そんな中、シーナは小さく呟いた。
「許せる訳がないでしょ…」
まるで自分に言い聞かせる様に呟いたセリフは風が吹く音によってかき消されるのだった。
IWS2000がI.O.Pへ、パイソンが本社へと戻っていった後、ロックはシーナの命令により送迎を頼まれたMG4が運転する車両の中に居た。
まるで自分が何か犯罪をやらかした様な気分を感じながら、揺れる車内で彼は頬杖をつき外を眺めていた。
基地を出てからそれなりに時間は経っている。にも関わらず車内は沈黙に包まれている。
その時、運転していたMG4が後部座席に座っていたロックにある事を尋ねた。
「ペイン…その名は何処で聞かれたのです?」
「町の酒飲み共が話しているのをつい聞いてな。それがどうしたんだ?」
「いえ…少し気になったので」
ロックが呟いたセリフが今でもMG4の電脳には残ったままであった。
単身でマフィアを壊滅させたとされる謎の人物、ペイン。
そしてあの時、少女を人質にして怒鳴り散らしていたスーツ姿の男はシーナを見て【ペイン】と呼称していた。
関連はある。そればかりは間違いなかった。
正直な所、MG4はペインと呼ばれる人物がシーナだとは思いたくなかった。だが今まで彼女が見せた少女らしからぬ所を見てきた為、どことなく納得してしまっている自身も居た。
(そういやこの嬢ちゃん…あの若い指揮官と一緒に居たな)
ふとシーナと共にMG4が一緒に居た事を思い出すロック。
ペインについて聞いてきたのも指揮官たる彼女の事が気になったからだと判断し、自身が知る限りの情報を明かした。
「詳しい事は知らんが…聞いた話だとペインって奴はマフィアに相当の恨みがあったらしい。どうやら両親が殺された上に家を焼かれたとか」
「何故マフィアがその家族を…?」
「さぁ、そこまで分からない」
こればかりはシーナに直接聞かないと駄目だとMG4は思った。
得られる情報がないと判断すると、そのまま運転に集中。
フシール・ハンデルに到達するまでの間、車内で会話が弾む事はなかった。
ロックを乗せた車両がフシール・ハンデルに到着したのは正午を過ぎた時であった。
停車した車から降り、久々に見る自身の店の看板を見上げた時、ふと運転席に座っていたMG4が声を掛けた。
「これを」
そう言ってMG4が着ている服の懐から取り出し、ロックへと差し出したのは一枚の写真であった。
見られたくないのか、或いはそれ以外の理由があるのか。ご丁寧に映っている部分を裏返してまで。
「えっと…どういうことだ?」
いきなり裏返されたままの写真を渡されては誰だって困惑する。
写真を受け取りながらもロックは困惑した様にMG4に尋ねた。
「ある人から渡す様に頼まれまして。…貴方の母親が作った最後の作品を使っている方から貴方にへと」
「!」
最後の作品。
その言葉を聞いた途端、ロックは驚愕し、すかさず写真を裏返した。
そこに映っているのは白と黒の大型二丁拳銃。
そう、それはブレイクが愛用するアレグロとフォルテである。
シンプルかつ美しい。幼少期の時から母の作品を見てきた彼からすれば、一目見ただけ分かる。
母の作品だ。それも最高傑作とも言える程に。
「…はは、こりゃすげぇな。流石はマ…」
ついマミィと言いそうになり、ロックは口を噤んだ。
口癖というべきか、彼は今は亡き母の事をマミィと呼ぶ癖があった。その事で何度か馬鹿にされた事もあった為か、人前で居る時はマミィと呼ぶのを控えていた。
「流石は母さんだな…。今の俺でも到底追い付く事が出来ねぇな…」
「…」
MG4もロックの母親が既に亡くなっている事を写真を渡す様に頼んできた人物から聞き及んでいる。
母親と同じ道を歩む様にロックもまた銃砲店を営んでいるが、その腕前は決して母親ほどとは言えないのだと察した。
だからといって腕前に関してどうこう言うつもりはなかった。彼には彼なりの特徴がある筈だと思ったからである。
「その写真を渡した本人から伝言です。今は行けないが、暇があったら相棒の整備を頼む、と」
「!…ああ、いつでも待っていると伝えてくれ」
「分かりました。…どうかお元気で」
その言葉にロックが頷くとMG4はアクセルを踏み、車両をS10地区へと向けて走らせた。
シーナの過去に関する事、ロック・ゴールドスタインに関わる事…。
多くの謎が一部明かされた感覚を覚えながら、MG4は運転に集中するのであった。
MG4が基地へ向かって戻っている一方でS10地区前線基地のマギーの部屋では、部屋主であるマギーと何故か私服姿のシーナとルージュが居た。
作業台の上には双刃を有しながらもその姿は槍を彷彿とさせる武器の内部機関を弄るマギー。未完成であるそれの内部機関にはかつての大型作戦にてリホ・ワイルダーから譲渡された武器、そしてマギーの手によって修理された武器【八卦炉】が内蔵されていた。
一体何を作る気なのか本人にしか分からず、黙々と作業する彼女の後ろ姿をシーナとルージュが見つめている中、部屋にとある二人が訪れた。
一人は黒いコートを羽織り右腕に義手を装備した黒髪の少女、もう一人は青い刺繡が施された黒いコートを羽織った銀髪の青年。
「呼ばれて飛んできたぜ、マギー。用はあるっていたが、何の用だ?」
義手をした黒髪の少女…ネロが作業しているマギーへと声をかけると、呼ばれた本人は作業していた手を止め、振り返った。
煤が頬に付着している事を気にする様子もなく、マギーはネロの問いに答える。
「少し配達をお願いしたくて」
手に持っていた工具を工具入れへと納めるとマギーは傍に置いてあったいくつかのアタッシュケースを作業台とは別の机の上に置いた。
中に何が入っているかはマギーを除く、この場にいる四人が分かる筈もなかった。
ただ─
「パーティーに良く参加してくれる隣の基地の方々にこれらを配達してくれませんか?勿論報酬は出しますよ?」
マギーの口から出たその台詞に何処へ配達するのかは四人とも察するのであった。
今回はoperation777の後の事を描きましたが、色々とごっちゃしてるのでお許しを。
さて次回は配達かな。
おもしれぇの送るしかねぇな…。
では次回ノシ