晴れ晴れとした空。
雲一つなく広がる青空の下、何度も踏まれ固められた道路を一台の車両が駆け抜けていた。
その車両はかつて試験運用の際にネージュの専用装備 パトローネを運搬する為に使用された大型トレーラーであり、今回は配達の品が多い為、何時もの車両ではなくこちらに乗ってルージュの運転の元、ギルヴァ達は隣の地区へと向かっていた。
揺れる車内。備え付けのオーディオから流れるラジオは他愛の話で盛り上がっている。目的地に着くまでの暇つぶしには丁度良いのだが、流石に聞き飽きたのか助手席に座っていたネロがうんざりした様な表情を浮かべた。
「全く碌な番組がねぇな」
そう言ってラジオのスイッチを切ると動いているにも関わらず彼女は助手席から立ち上がると、後部座席に座っているギルヴァとシーナの間を抜けていくと車内の後ろに置かれてある年代物のジュークボックスへと歩き出しながら、ふと口を開いた。
「で、何でシーナまで一緒に居るのか聞いても良いか?」
ジュークボックスの選曲ボタンを押しながら、ネロはシーナの方へと顔を向ける。
マギーの部屋に訪れた時から何故か私服姿だった事に気になって仕方なかったのだ。問われたシーナはネロの方へと振り向き答えた。
「えっと……休めってへリアンさんから言われてね。しかも今日の朝に突然」
「にしちゃ何かあるって感じみてぇだが?休めって言われたぐらいじゃそんな顔にはならないだろ」
ネロの目からしてもシーナの今の表情は何処か引き攣った笑みを浮かべていた。
その表情こそが何かあると思わざる終えなかった。
それを指摘されたシーナは頬を指で掻きながら答える。
「…グリフィンに入ってから今に至るまで全く休んでいないのがバレて。おまけに教官が私が全く寝れていない事に気付き、それをへリアンさんに報告した事によって…その、えっと…」
全部を聞く事もなくネロは察した。
要はシーナが全く休んでいない事がバレてしまい強制的に休まざるおえなくなったのだと。
だが彼女が強制的に休まされる事になったのは、丁度良かったと言えた。
ネロも、そして運転しているルージュも気付いていた事ではあったが、シーナは睡眠時間を削ってまで執務に没頭している事は多かった。
故に深夜の三時や四時に寝て、朝の六時に起きると言った生活を送っていた。下手をすれば二、三日一睡もしないという事もありS10地区前線基地に所属する者達は何時か倒れてしまうのでないかと心配する程。
中には休む様に求めた者も居たが、自分は元気だからと言ってシーナは休もうとはしなかった。
だが今回ばかりは休まないという選択は出来なかったからこそ今がある。
休む様に命令したへリアンと休んでいないという事を報告したパイソンの行動には今頃賞賛の声が上がっている事であろう。
「ま、命令されたからにはそれを全うしねぇとな。思う存分羽を伸ばせよ」
「それは分かっているけど。いざ休むとなれば何をしたらいいのか分からなくてね…」
「…マギーがお前を部屋に呼んで、配達に同行させたのが良く分かるぜ」
マギーも言外に休めという事を伝えたかったのだなとネロは思った。
「どうせだ。向こうの基地には行った事ねぇんだ。遊びに行く訳じゃねぇが、顔を出しても良いだろ」
「だね。それに以前のカジノ制圧作戦に向こうの基地の部隊…確かヤークトフントだったかな。そこが協力してくれたみたいだが、お礼もしないと」
そう言ってシーナは抱えているバスケットへと視線を下ろした。その中には福詰めされた彼女お手製のクッキーが入っており、ほんのり甘いクッキーもあれば、少々ビターな味わいの特徴のクッキーなどその種類は多い。
わざわざ多種類作らなくてもと思う者は居るだろうが、彼女からすればどの味が好みなのか分からないので、敢えて多く作る方が良いと考えている。
加えて言うのであれば、味が一つだけと言うのは少々寂しいとの事らしい。
「S09 P地区に入りました」
ネロとシーナが会話を広げている内に運転しているルージュは隣の地区に入った事を告げた。
地区に入ったとは言え、基地に着くまではまだ距離がある。
ふとルージュがシーナへと問いかけた。
「そう言えばこちらが配達に向かう事に向こうは了承済みなのですか?」
「マギーさんが言うには既にキャロルさんから了承を得ているみたい。だから大丈夫だよ」
「そうですか。ではこのまま基地へ向かいましょうか」
「うん。安全運転でお願いね」
「仰せの通りに」
安全運転をお願いされ、ルージュは頷く。
そのまま四人を乗せたトレーラーは基地へ向かって行くのであった。
因みにであるが基地に到達するまでの間、ギルヴァは静かに読書に没頭していた。
S09 P基地…今では早期警戒基地と名称が変更されており、S10地区前線基地との付き合いは過去に行われた大型特殊作戦【operation End Of nightmare】がきっかけである。
手助けしてもらったお礼にマギーお手製の武器を渡したりなどしており、特にランページゴーストのノアが持つシュトイアークリンゲ、アナが持つアジダートとフォルツァンドはマギーのお手製品だ。
その他にも渡されているのだが、今回は割愛。
大型トレーラーが基地の敷地内へと入っていき、停車すると四人が降りてくる。
ギルヴァからすれば三度目の来訪、ネロは二度目、ルージュとシーナからすれば初の来訪である。
「やっほー、待ってたよ」
「遠い所から態々ご足労いただきありがとうございます」
そして四人の来訪を出迎えてくれたのは、ランページゴースト所属のRFBとアナであった。
代表としてシーナが応対する。
「いえ、寧ろ突然の来訪にご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「お気になさらず。配達に来るという事は聞いていますので。…にしても今日は私服なのですね?シーナ指揮官」
「ええ。あんまり休んでいない事がバレてしまって、それで今日は非番です。そう言えばノアちゃんの姿が見えないのだけど…」
ランページゴーストと言えば、四人の出迎えに来てくれたアナとRFB、そして隊長であるノアの三人。
しかしこの場に隊長たるノアの姿はなかった。
何かあったのだろうかと思っているとRFBがシーナの問いに答える。
「隊長なら今、哨戒任務に出ているよ。任務が終わったらすぐ行くって」
「分かった。それじゃあ…」
振り向き、シーナはネロとルージュへと視線を飛ばし頷く。
その意味を理解したのか二人はトレーラーの荷台へ歩き出していった。そこから運び出されるのはこの基地へと送る配達の品々だ。
「配達の品々の確認、お願い出来ますか?」
「はいはーい!色々あるみたいだし…んじゃそれを一旦訓練室に持っていこっか!手伝うよ!」
人手は多いに越した事はない。
ネロ、ルージュに混ざってRFBも運搬作業を手伝い始める。
流石に作業が終わるまで見ている気はないのかギルヴァも手伝い始めようとした時、傍にいたアナが彼を呼び止めた。
「あの時は助かりました」
あの時。
それがどの時の事を言っているのかはギルヴァは分かっていた。
雨降りしきる工場地帯。謎の勢力に圧倒され、彼女達の撤退の時間稼ぎをする為にギルヴァとルージュが殿を務めた事。その時のお礼だと。
「礼を言われるまででもない。必要と感じやっただけに過ぎん」
だがギルヴァと言う男は素直に礼を受け取ろうとはしない男である。
この場でブレイクが居たら確実に彼を煽り、そこから喧嘩勃発は間違い無し。
とは言えここはS10地区前線基地ではない。知り合いの基地。
例えブレイクに煽られようがこの基地に迷惑が掛かる様な真似はしないだろう。
「素直ではないのですね」
「…かもな」
決して振り向く事もなく、ギルヴァはそのまま運搬作業を行っているシーナ達の元へ歩き出した。
その後を追う様にアナも歩き出すのであった。
ふとギルヴァはとある事を思い出した。今回の配達はノアのシュトイアークリンゲ用のメンテナンスキットとその他の配達となっている。
だがそこで自身から何かを渡してはいけないという制限は依頼主から言われていない。
(…託してみるのも一興か)
ちらりと彼はアナの方を見るも再び前へと向く。
この時、彼はとある物を作り出そうとしているのだがそれを知るのは彼の中に居る蒼だけだろう。
そしてその行動に蒼がカラカラと笑いながら彼へと指摘する。
―それって託すレベルのもんじゃねぇよな?今のままでも十分人形という枠を外れているというのに本気止めさす気かよ
本当に彼は何を作ろうとしているのか。
二人を除き、知る者は居ない。
前々からお隣の基地に配達へ伺おうとしていたので今回からその話に突入。
そして一旦ここで切ります。
次回は配達の品の確認だぞ。
おや…ギルヴァ兄貴、何をやるつもりで…?
では次回ノシ