─あの時から忘れられぬ味─
─それが二人を結んだ味─
─さぁ、たまには一杯飲もうか─
その日の夜。
この時間帯に起きているのは、夜間警備の任務に就いている人形か、指揮官くらいなもので便利屋で過ごしている人形を含めてほとんどの人形が眠りに就いている。
404小隊の隊長であるUMP45もそうなのだが、暗闇に包まれた自室でベットの上に寝転がっていながらも金色の瞳は開かれたままで、ジッと天井を見つめていた。
(…寝れない)
人形である身。スリープモードへと移行すれば素早く寝れるだろう。
だが何故45が寝れずにいた。別のベットで眠っているUMP9やHK416 、Gr G11は静かな寝息を立てているというのに。
このまま寝ていても意味がないと思い45は上半身を起こして、額に手を当てつつ小さくため息をついた。
(いや…寝たくないのかもね)
人形であるというのに何故こんな事が起きるのだろうかと自虐的な笑みを浮かべると45はベットから降り立ち、部屋のドアに手を掛ける。
少し水でも呼んでこよう。
それで寝れるかは分からないものの、気分を変えるのは丁度良いだろう。願わくば愛する彼がまだ起きている事を願い、彼女は部屋を出た。
「…寒い」
この時期は夜はとても冷える。外の寒さは人形でも氷漬けにされるのではないかと思える程の寒さだ。
部屋を出た彼女を薄暗く寒い廊下が出迎える。しっかりと着込んでなかったら部屋を出るどころか、ベットから出るのも一苦労するだろう。
風が吹く音がまるで唸り声の様に響く中、ドアをそっと閉じ彼女は下へと続く階段へと歩き出す。
404小隊の部屋以外にも95式の部屋やネージュ、シリエジオの部屋が並んでいる。その前を通り過ぎ、階段を降りていくと45はエントランス…ギルヴァがいつも本で居る部屋へと通ずる扉の向こうから灯りが薄っすらと漏れている事に気付く。
(まだ起きている?)
この時間帯は大体ギルヴァは床に就いている。そんな事を45はとっくに知っている。
但し大体である為、決してとは言えない。彼女は知らぬ事ではあるがギルヴァはこの時間帯でも偶に起きていたりすることはある。その時は読書している事が多い。
それは兎も角として、台処はエントランスを入ってすぐの左手にある。どちらにせよ中へ入らなくはならないのは明白であった。
同時に彼がまだ起きているという事を知ると不思議とその足取りは軽くなり、階段を降り切った45は扉を開いた。
暖房が効いているのか中は暖かいが、灯りは最小されており少々薄暗い。
その室内でこの便利屋「デビルメイクライ」のオーナーであるギルヴァは書斎に工具を広げ何やら作業していた。
机上に置かれていたのは使う頻度は決して多いとは言えないが愛用している特殊大型拳銃 レーゾンデートル。
二つの銃身から13mmという規格外の弾丸をほぼ同時に発射するというリボルバーであり、反動は馬鹿げた反動を有するが、威力は悪魔を倒すのであれば申し分ない。
重量も馬鹿げており、人間では撃つ事は不可、人形が撃ったとしても確実に腕が吹き飛ぶ。
45からすれば何度か見た銃であり、その都度思っていた事を口にする。
「いつ見てもとんでもない銃ね」
「そうだな。…眠れないのか」
「ええ。…まぁ眠りたくないという方が合ってるかも」
軽く肩を竦めた後、45は台処へと歩き出す。
照明を灯さず台処の棚からガラスコップを手に取った時、彼女はある物を見つける。あったのはウイスキーボトル。
それもギルヴァが好む銘柄であり、また45も好む銘柄であった。
長い事飲んでいない。それを思い出し久しぶりに飲みたくなった彼女は行動を起こす。
ガラスコップを元の場所へと戻しグラスを二つ手に取り、ウイスキーボトルを空いた手で握ると台処の出入口付近で凭れながら手に持ったそれをギルヴァへと見せながら訪ねる。
「一杯どう?」
その誘いにギルヴァは工具を片付けメンテナンスを終えたレーゾンデートルを組み立てながら答える。
「…一杯だけならな」
「やった♪」
久しぶりの酒に45は可愛らしい笑みを浮かべた。
書斎に広げられていた工具やらが片付けられて、その代わりに置かれるはウイスキーボトル。
ギルヴァの隣に椅子を置き、座る45。そして二人はウイスキーが注がれたグラスを軽くぶつけた。
グラスがぶつかる音が小さく響き、45は久しぶりの酒に舌鼓む。
独特の香りと胸を焼く様な味わい。かつて本社で飲んだそれと同じ。ギルヴァと飲む前はあまり飲む事もなかった45だが、今となってはその味にハマっていた。
「三回目かしらね…こうやって飲むのって」
「ああ。…意外と少ないものだな」
「だね。一緒に居る事が多いというのに」
小さな笑いを上げると45は隣に座るギルヴァの横顔を見つめた。
金色の瞳が彼を捉える。何処か熱が籠っているが、45は決して何かしようという気にはなれなかった。
ただその代わり彼女は彼の体に凭れ、そっと頭を肩に預けた。
「もしも…」
「む?」
「もしも私が実は敵でしたという事を知ったら…ギルヴァは私を捨てる?」
酔った勢いによるタチの悪い冗談か。或いは秘密多き少女が明かした秘密の一つなのか。
ちらりと彼女の表情を見れば笑みを湛えたまま。
故に冗談か秘密の一つなのか、それを知る術はギルヴァにはなかった。
だが彼の答えは既に決まっている。
「例えそうだとして俺がお前を捨てるという事などない」
「その理由を聞いても良い…?」
グラスの中でカランと氷が踊る。
注がれたウイスキーを一口飲んでからギルヴァは彼女の問いに答える。
「理由などない。全てを受け入れる覚悟でいる。それだけの事だ」
「…どんな事でも?」
「余程変わったものではなかったらな。お前も変わった趣味を持ち合わせてはなかろう」
「まぁね。そこまで狂った覚えはないから」
グラスのウイスキーを一気に煽り、ギルヴァの腕を力強く抱きしめる45。
酒を一気に煽った影響か、彼女の顔は少々赤くなっていた。それでもと言わんばかりに彼女は愛する人と触れ合う今を味わいながらうわ言の様に45は呟く。
「私を一人にしないで…。一人になるのはもう嫌なの…」
「…」
「その代わり私が貴方を守るから…。あらゆる障害から全て…。何もかもから…」
酒に酔った余韻に浸りながら45は静かにスリープモードへと移行した。
静かな寝息を立てながらギルヴァの腕に抱きつく彼女。
それを見てギルヴァは45を起こさぬように抱き上げ、自室へと向かった。
質素な自室に置かれたベットに彼女を寝かせ、冷えぬ様に布団をかぶせる。
そっと頭を撫でてから彼はエントランスへと戻っていく。そのまま書斎の上に置かれたグラスやウイスキーボトルを片付けると、毛布を持ち出し明かりを消してから彼は来客用のソファーへと寝転がった。
暗闇が支配するエントランス。その中で彼は静かに瞼を下ろす。
明日は45と共に何処かへと出かけるかと思いながら。
短いですか45&ギルヴァ回。
次回も二人を登場させようかと思っています。
では次回ノシ