─ちょっとした昔話をしようか─
ギルヴァと45が一杯だけ酒を飲んだ夜から翌日。
青空広がる空の下の街中を歩く二人の姿があった。
珍しく誘ったのはギルヴァであり、それを二つ返事へ受けたのが45。
とある場所へと二人は歩道をゆっくりと歩いていく。しかし45は軽く不機嫌であった。
そして…
「~♪」
何故かギルヴァの左隣ではfive-sevenが歩いており、吞気に鼻歌を歌っていた。
45が軽く不機嫌な理由は彼女にあった。
とは言うもののギルヴァと45の二人は偶然にも非番であり、買い物へと出かけていたfive-sevenで出くわしただけなのだ。
目的地は別なのでそのまま別れる事になると思いきや、five-sevenがとある事を思い出しギルヴァに伝えたのだ。
「あの時のお礼をさせて?勿論嫌とは言わせないわよ♪」
半ば強引とも言えるそれは流石の45とて看過できなかった。
確かにfive-sevenは違法人形売買組織から脱走し追っ手に追い詰められそうになった時に偶然にも居合わせたギルヴァとシリエジオ、そしてブレイクの三人に助けられている。
その恩を返すというのは納得が行く。しかしこうやって楽しい時間を楽しんでいるのを邪魔されたらたまったものではない。
追い返そうとした矢先、five-sevenは二人の手を握り、小悪魔みたいな笑みを浮かべてから伝えた。
「さ、行きましょ。45も一緒に行きましょうよ。良いお店、私知ってるのよ」
「え、あ、ちょ!ちょっと!?」
そんなこんなで二人だけのお出かけは中断され、三人でのお出かけとなった訳である。
(なってしまったものは仕方ないか…)
いい加減不機嫌で居るのもどうかと思い始める45。
それはそれで場の空気を乱すだけと感じ、今は今で楽しむべきだろうと頭を切り替える。
「それで?そのお気に入りのカフェまで後どれくらいなの?」
「もう少しよ。ほら、あそこ」
five-sevenの指さす先にあるのは最近になって出来たカフェである。
外観も万人受けであり、店から出てくる客は若者から年配とバラバラ。
「おしゃれというのもあるけど、ケーキが美味しいのよ」
「成程ね」
「それで…ギルヴァはケーキとか食べる方かしら?」
三人で行動する事となってからほぼ無言を貫いていたギルヴァへfive-sevenは訪ねる。
元より甘いのを好む様な性格には思えなかったからである。
どちらかというと彼はコーヒーや紅茶を好む方だと思っている。
「嫌いという訳ではない。あまり食べないだけだ」
出来れば彼にもお気に入りのカフェが出すケーキを味わってもらおうと思っていたfive-sevenであったが、彼の答えを聞き無理強いするつもりはなかった。
「そっかそっか。ケーキ以外にもコーヒーや紅茶も美味しいから。ギルヴァにはそっちがオススメかな」
「お前がそう言うならそうさせてもらおう」
「よし!じゃあ、お礼も兼ねているから私が出してあげる♪」
お礼も兼ねているという事もあって、ギルヴァは断るつもりはなかった。
相手の厚意を無下にするのもどうかと思ったからである。
三人が店内へと訪れた時は丁度客も少なかった時間帯であった。
ギルヴァの隣を45が占領し、対面にfive-sevenが座っていた。45とfive-sevenがケーキと紅茶を頼み、ギルヴァがコーヒーだけ頼むと三人は午後の一時を頼む事にした。
物静かな店内。今が世界が荒廃しているなどとは思えぬほどの平穏が保たれている。
「それで…基地に来てからそれなりには経つけど慣れてきたかしら?five-seven」
「まぁボチボチといった所よ。それに相手をする敵の事も多少もね」
five-sevenにとって悪魔を目にした事はあれど本格的に戦闘を行ったのは以前のカジノ制圧戦が初だった。
恐怖は確かにあったが、周りを居てくれた為戦えた。
そしてS10地区前線基地がどういう所なのかを知る事が出来た。
色んな意味でヤバい基地であるという事だけは理解していた。
「敵に関してはゆっくり慣れていく他ないわね。私も慣れるのに時間かかったから」
「へぇ?意外と言えば意外ね。あまり驚かない性格って思ってたけど」
「驚くわよ。特にギルヴァを見た時は言葉を失った程」
45にとって初めてギルヴァが悪魔としての力を見せた時の事は昨日の事の様に覚えていた。
それ程までにあの光景は印象的であった。
E.L.I.Dとは違う存在。おとぎ話や伝承でしか耳にする事の無い【悪魔】という存在がそこにいたのだから。
「ギルヴァの何を見たのよ…?」
「秘密♪」
「えー」
初めてギルヴァと出会った時の事はあの場に居た者達だけの思い出。
良い思い出とは言えずとも、彼に助けられた事により生き延びた。45からしたら感謝しても感謝しきれない程であった。
こうして美味しいケーキと紅茶を楽しむ事が出来ている上に大切な人が出来たのだから。
(そう言えば…シリエジオとはどうやって出会ったのかしら)
自身と出会う前にギルヴァがシリエジオと出会っている事は知っている。
それに関してはシリエジオ本人から45は聞かされていたがどの様な経緯があったのかは聞かされていない。
気になった45は隣に座るギルヴァへと尋ねる。
「ギルヴァ、一つ聞いていい?」
「何だ」
「私と会う前にシリエジオと会ったって聞いたのだけど、いつ彼女と会ったの?」
「その事か」
手に持っていたカップをソーサーへと置いてからギルヴァは45の問いに答える。
その時の事を思い出しながら。
そして密かに思う。その出会いは決して華やかなものではなかったと。
「もうだいぶ前の事だ。放浪していた時に出会った。当然奴は向こう側に居た。意味は分かるな?」
当時のシリエジオは向こう側に居た。
そのセリフが何を意味しているのか45もfive-sevenも分からない訳ではなかった。
今でこそはこちら側に居るが、当時は違う。敵として出てきたらまず勝ち目などない。それ程までにシリエジオ…否、当時の名は代理人という人形は強力だった。
出会ったら確実に殺されるであろう人形にギルヴァは遭遇したというのだ。
「その時はグリフィンによる作戦が行なわれていた。たまたま身を休めていた場所が作戦領域となり、その場から離れる為にも行動していた。無論出くわした敵は全員斬り伏せたが」
「出くわした敵はご愁傷様としか言えないわね…」
five-sevenとて全てではないにしろギルヴァの強さは知っている。
一度敵対すれば斬られた事すら気付かない程の神速の居合術に加え、幻影刀という魔力で錬成された刀を飛ばすなど現実離れした技が多い。
そんな彼と相対した敵にはご愁傷様という言葉の以外思い付かなかった。
「その場を抜け、去ろうとした時だったか。燃えている建物が一つあった。そこから感じられた人形の気配。内一つは奴のものだった為、その建物へと侵入した」
「場を切り抜けたというのに何でそっちに向かったの…」
呆れた様に呟く45。
彼女の台詞は決して間違ってなどいなかった。
その場を切り抜けたのであれば、さっさと作戦領域から去ればいい。それが普通である。
「ああ。だが鉄血のハイエンドモデルと手合わせしてみたかったのでな。そっちを優先した」
「ああ、そう…。それで彼女と遭遇した時はどんな感じだったの?」
そう問われ、ギルヴァはふむと一つ前置きを置いた。
その時の記憶は事細かく覚えているが全てを語る気はなく、一つだけ教える事にした。
「詳細を省くが、奴の武装を斬った」
「…もしかしてお互いの距離は離れてた?」
「ああ」
距離が離れていたというのに、武装を斬った。
ギルヴァが持つ技の中でそんな事が出来るのは一つしかない。
それを初めて見た45も最初こそは何が起きたのか分からず混乱した。
「えっと…何をしたの?」
45には理解出来たとしても見た事の無いfive-sevenには理解出来なかった。
無理もない。距離があったというのに武装を斬ったというのだから、首を傾げるのも当然である。
彼女の問いに45が答える。
「超常現象というやつよ。空間を切り裂き、その斬撃を離れた相手に浴びせるってのね」
「ああ、うん…それ以上言わなくて良いわ。取り敢えず凄い事をやったという訳ね」
理解しようにも出来る筈もなく。
five-sevenはギルヴァが凄い事をやったのだなという事で納得する事にした。
彼女の反応に45はそれで良いわと返してから、ギルヴァへと問いかける。
「その後はどうだったの?」
「特になかった。店に開いた時に現れ、俺を追っていた事、鉄血を離反した事を聞かされた。後はお前の知る通りだ」
聞かれた事を答えるとギルヴァは再びコーヒーを味わう事にした。
あまり多くを語ろうとはせずともその当時のギルヴァの強さを知れた一時。
それが今後の役に立つかどうかは45もfive-sevenも少々引き攣ったえ笑みを浮かべるほかなかった
今回はちょっとした昔話編。
次回はシーナをだそうかと思っていますが未定。
気分によって異世界に渡る事も考えていたり…。
では次回ノシ