Devils front line   作:白黒モンブラン

198 / 278
─悪夢はいくつでもある─

─ただそれが味方か敵か、そのどちらかによるものだ─


Act179-Extra Ironblood May Cry Ⅹ

「…疾ッ!」

 

黒みを帯びた紅色が一筋の影となって駆け抜ける。

黒と赤に染められた鞘から抜き放たれるは同じ色彩に彩られた刀身。

華奢な体格からは信じられない速度で放たれる居合抜刀がWraithの軍団の一人を武器ごとその体を両断し、流れる様に次の標的へとルージュは鴉刃を振るう。

素早くXを描く様に斬撃を繰り出すも流石はWraithというべきか。攻撃を手にしたレーザーナイフで受け流す。

だがルージュは止まらず、態勢を低く維持。その状態から鴉刃を突き立てる様に構え、俊足の突きを放ち、一瞬の隙を突く様にWraithの腹部を穿ち素早く刀身を引き抜く。そこから片足を軸にして身を翻しつつ回転の勢いを利用して鴉刃を振り下ろし、Wraithの体を頭から股下にかけて縦一閃。

真っ二つに体が分かれ、崩れていくWraithを視界から外しルージュは構えを解く。

左手から右手へと鴉刃を投げ渡すと右腕を大きく振るい刀身に付着した人工血液を落し、そのまま鞘へと納刀し再び構えの態勢を取る。

 

(これで31。…中々に減らないものですね)

 

倒しても、倒しても減らない。

その光景がルージュの中で、とある光景と交わる。

薄暗い部屋。

武器を手に迫りくる騎士の様な格好をした何か。無数に転がる残骸。

無数の刃によって全身を突き刺され、針鼠と化した自分。

腹部から大量の血を流し、虚ろな瞳で倒れ伏す()()()()()()()()()()()

そして遠くからただ見つめる事しかしない…()()()()()()()()()()()

 

「っ…」

 

頭を振り、映像を強引に消し去る。

あの時とは違う。違うのだ。

だというのに何故今になって現れる?

胸の中でざわつく何かに嫌悪感を覚えながらも、飛んでくる攻撃を回避しその場から飛び退くとオートスコアラーのスユーフの傍に降り立つルージュ。

 

「数が多い…。手早く片付けないと不味いですね」

 

「ええ。それに敵はこちらを狙ってきていますからね。引こうにも引けないのが現状です」

 

手にした武装で迎撃しながらスユーフの声を聞きながらルージュは思案する。

確かに敵はオートスコアラーを狙っている節がある。

それでこそルージュを無視する様子が何度か見られた程に。

 

(敵の狙いは彼女達?…いいえ、恐らく幾つかマークしている筈。彼女達はその一つに過ぎないはず)

 

オートスコアラーがどういう存在かはルージュも分かっていない。

だが驚異と判断されたからこそ、敵は彼女達を狙っている。

このまま長々と時間をかけていたらいずれジリ貧になるのは明白。今の内にこの場にいる敵を一気に殲滅し、増援が来る前にオートスコアラーを撤退させる必要がある。

幸いというべきこの場にいる敵を一気に殲滅できるものは持ってきている。それを使わない手はなく、今がその時だと判断したルージュはスユーフに伝える。

 

「スユーフさん…撤退できる準備をしておいて下さい」

 

「…何をなさるつもりで?」

 

「…貴女達を撤退させるチャンスを作ります。私が合図した時に振り返らず撤退を。例えその時に何かが起きたとしても足を止めないでください。絶対にです」

 

何かが起きたとしても足を止めるな。

ルージュの言葉に重みを感じたスユーフであったが何も言わなかった。

今、この状況下で文句など言っていられないのだから。

スユーフの表情を見て、理解してくれた事を察するとルージュは衣服の内側に納めてあるクイックシルバーにへと手を当て、意識を集中させる。

 

(ゲリュオン…貴方の力を借ります)

 

ルージュの声に答える様にクイックシルバーが小さく振動する。

力を貸す事を了承している。シーナ指揮官も何という悪魔に好かれたものだと笑みを浮かべる。

でなければ魔具となって力を貸してくれることなどなかっただろうと。

敵が迫ってくる。オートスコアラーの撤退準備も出来ている。後は合図するだけ。

身を寄せていた物陰から飛び出したと同時にルージュは叫ぶ。

 

「今です!!」

 

合図が飛ぶ。

オートスコアラーの面々が駆け出す。敵が武器を構えようとした時。

 

「のんびり行きませんか?」

 

時計の針が動く音が響きし、世界が白黒へ彩られた。

敵の動きも駆け出していくオートスコアラーの動きもまるでスローモーションが掛かったかの様に遅い。

まるで全ての時の流れが緩やかになった世界が広がっていた。

発動者を除き、全ての時の流れを緩やかにする。

これこそがクイックシルバーの力。時を操る能力である。

 

「…!」

 

鴉刃の鯉口を切り、刀身を抜刀。敵の群れへと突進するルージュ。

己の身体能力を生かし、流れる様に鴉刃を振い敵を一体、また一体と斬り伏せていく。

舞い上がる頭部。ゆっくりと崩れていく亡骸。白黒の世界の中でルージュは舞う。

 

(次!)

 

鴉刃を左から右へと薙ぎ払い、Wraithの上半身と下半身へと別れさせると今度は狙いを装甲の固い奴へ変え、急速接近。刀身を納めた鞘で殴り上げ鴉刃ごと敵を宙へと舞い上げ、後ろ腰に携えた漆と朱を抜刀。

地面を蹴り、宙へと身を投じると体を回転。回転の勢いを利用し漆と朱を敵へと叩きつけ、地面へと吹き飛ばす。

だがクイックシルバーによって時が緩やかになっている事から敵は地面に吸い込まれる様に移動している。

その隙にルージュは地上の着地し、漆と朱を収め降ってきた鴉刃を左手で受け止める。

そのまま居合の態勢へと移行し、鴉刃の鞘に内蔵されたジェネレーターを起動し抜刀。

刀身を高速で振いながら、黒く染まった光の斬撃を次々と放ち、敵の数を減らしていく。

 

(…もう少し…!彼女達を追跡させない為にも…!お願い!もう少しもって!)

 

クイックシルバーが生み出した白黒の世界にも限界が近づいている事にルージュは気付いていた。

しかし敵の数を減らさなくてはならない。

このまま近接による攻撃を繰り出しても、今ここに集った敵を全て倒すには時間が掛かる。

一気に殲滅するほかない。

疾走居合に似た技で敵の群れを切り裂きつつ駆け抜けながら、コキュートスに自身が思い描いた攻撃イメージを送る。

それに反応しコキュートスが起動。辺り一帯に氷霧を展開させ、敵を包みこむとルージュは指を鳴らした。

パチンと鳴り響くと、氷霧が氷塊と化し包んでいた敵の群れを氷漬けにすると氷塊が自ら砕け散った。

敵の残骸が地面に散らばる。それと同時に世界は元の色彩を取り戻した。

構えを解き、後ろを向けばオートスコアラー達の姿はそこにない。無事撤退出来たであろうと祈りながらルージュは正面を向き、駆け出した。

この戦場のどこかに居る二人と合流を果たす為に。胸の中のざわめきが更に酷くなるのを感じながら。

 

 

リバイバーが展開したルーン・パピヨンによる一時期は戦況が変わったものの、鉄血はまるで嘲笑うかの様に戦力を投入してきていた。突如として現れた巨人の近くからギルヴァ、ブレイクの気配を感じ取ると同時に幻影の魔力を感じ取ったルージュはそこにランページゴーストのアナが居る事を察し、現場へと急行していた。

ギルヴァとブレイクが遅れを取る事はまずない。そしてアナも高い実力派を持つ一人だ。しかし戦力は多いに越した事はない。

援護すべく戦場を駆け抜けるルージュだったが、前方で壁に背を預け座り込む一体の戦術人形を発見した。

黒い髪は乱れ、白いリボンは所々が焼き焦げ、着ている制服はボロボロ。

左腕、両脚は吹き飛び、そこから人工血液が流れ出ていた。

片眼も攻撃により潰れておりそこからも血を流している。その姿は目を背けたくなる程に痛々しく、唯一無事なのは自身と同じ名の銃だけ。

そして奇跡というべきか、その戦術人形はまだ機能停止には至っていなかった。ルージュがその人形の傍へと駆け寄ると接近に気付いた戦術人形…64式自は下ろしていた顔を上げまだ機能している瞳で目の前に居るルージュを見つめながら微かな声で尋ねた。

 

「だ、レ…?」

 

発声機能が上手く機能していないのか、彼女の声はノイズが混じっていた。

 

「S10地区前線基地の者です。安心して下さい。私が安全な場所まで運びます」

 

「そん、な事…しなくていいわ…。も、う…もたない」

 

ここに放置され、だいぶ経っている。

64式自はこの体を動かすエネルギーが底を尽きかけている事を分かっていた。

同時に電脳も攻撃を受け過ぎた影響か、まともに機能していない。

ただこのまま電脳が馬鹿になって、そのまま機能停止するのを待つほかなく。そしてその時がすぐそこまで迫ってきている事を感じ取っていた。

 

「そんな事言わないでください。貴女はまだ生きている。だからまだ諦めないで」

 

胸の中でざわめきは酷くなるのをルージュは感じた。

そしてまた頭の中で映像が流れる。

今度は自身の腕の中で血反吐を吐きながら、笑みを向けてくれる自分と似た顔のした誰かがいた。

そこに居る64式自と同じように左腕と両脚は無くなっており、片眼もない。大量の血を流しながらも生きている事が奇跡と言える状態であった。

 

(っ!!…違う…。あの時とは違う…!)

 

まるで言い聞かせる様にして、ルージュは映像を頭の中から消し去る。

 

「…ま、るで……私を人間、として…見ている…言い方ね…?」

 

「そ、それは…」

 

思わず言葉が詰まってしまうルージュ。

分かっている。

いつ倒れても可笑しくない立場にある戦術人形人形には記憶のバックアップ機能がある事。だから今の体が完全に動かなくなっても、新しい体にその記憶が引き継がれる。

何も心配要らない。でも違う。言葉には表現できない何かがルージュの胸の中でざわつかせる。

返す言葉が見つからないルージュ。ふと64式自は何かに気付き辛うじて動く片腕を伸ばし、彼女の頬に触れた。ぎこちない笑みを浮かべながら、ルージュの瞳から流れる一筋のそれを拭う。

 

「何故…貴女が泣いているのかは分からない…。でもただの道具として見ていない事が良く分かる…」

 

「…」

 

「このまま一人寂しく死ぬ、のかなと…思っていた、けど…。最後の最後に…良い事も起きるもんだね…」

 

でも…と65式自は呟く。

 

「…さ、いご…に…だれか、に……看取ら、れて……逝け、るなんてさ」

 

止める事は出来ない。ルージュにもそれを止める事はできない。例えクイックシルバーを用いたとしても、その最後には必ず行き着いてしまう。

ルージュの頭の中で再び映像が流れる。それは先程と同じ映像。

今と同じ様に彼女の腕の中で、ルージュと似た顔した少女もまた手を伸ばし頬を触れている。

何かを喋っている。だけど聞き取れない。

 

「あ、りがと…う…」

 

そして次の瞬間─。

 

「あ、と…は…まか…せ、る……ね」

 

『あ、と…は…まか…せ、る……ね』

 

声が重なった。

言葉を失い、ただ呆然とするルージュ。

伸ばされていた腕が力尽きた様に落ち、64式自の瞳に光が消え失せ、彼女はゆっくりと地面へと横たわった。彼女はもう動かない。新しい体を得るまでは。

 

「ッぁ…!!!」

 

胸の中で激痛が走り、苦痛の表情を浮かべながらうずくまるルージュ。

心臓が今から飛び出そうとして、体の内側から裂かれそうな痛みが襲う。

 

(どうして…?)

 

問う。

 

(どうして……?)

 

再び問う。

 

(私は…誰も守れないの…?)

 

己へと。

 

「あぁ…」

 

涙が流れる。

ルージュの内から言葉に出来ない何かが溢れ出し始める。

 

「あああ…!」

 

濁流となって押し寄せる。もう止めらない。例え本人だろうと。

彼女の体から小さな光が浮かび上がる。コキュートスが冷気を放ち始める。

 

(ください─)

 

彼女は乞う。

 

(私に─)

 

己に。

 

(もっと力をッ!!!!)

 

更なる力を。

 

 

 

それは突然というべきであった。

戦況が一転してから数時間が経った時、それは起きた。

 

「────!!!!」

 

言葉にならない叫び声が戦場全体に響き渡り、地上から空へと向かって大きな青黒い光が奔る。

衝撃波が一気に駆け抜け、どういう訳か敵の戦術人形が動きが鈍くなり、それはギルヴァとブレイク、アナ、RFBと激闘を繰り広げていた巨人にも影響していた。

 

「何だ?動きが鈍くなったな?」

 

リベリオンを肩に担ぎながら、巨人の動きが鈍くなったのを指摘するブレイク。

傍に立っていたギルヴァはこの戦場に奔った魔力を感じ取り、近くで立っていたアナが尋ねる。

 

「幻影が反応を…。ギルヴァさん、今のは…」

 

「…ルージュか」

 

「今のはルージュさんが…?」

 

「恐らくな」

 

だが…とギルヴァは己の内で呟く。

確かにこの魔力はルージュの物。だがそれ以上の何かを彼は感じ取っていた。

その正体を探ろうとした時、RFBが、とある方向を見つめながら口を開いた。

 

「ねぇ…あれ、なに…?」

 

RFBが向く先。

その先にあったのは巨大な氷の城塞。あろう事かあの大量武装していた塔を取り込んでおり似た様な武装が氷によって形成され、どういう訳か敵に向かって攻撃を開始していた。

誰がどうやってあんなものを用意したのか検討が付かない。だがギルヴァは、あの氷の城塞はルージュがやったものだと判断していた。

 

(どうなっている…)

 

ルージュの力は知っている。

だがその力の中に氷結の能力はない。

ではアレは何か?

ギルヴァでも想像がつかなかった。

 

一方、青黒い光の発信源は辺り一帯が隆起した氷山の群れと化していた。

光の発信源の中央には、少女が一人。

機能停止した戦術人形 64式自を抱えており、少女は氷が発生していない所へとそっと寝かせた。

一時の眠りについた戦術人形の頬を優しく撫でると、彼女はゆっくりと立ち上がり背を向けて歩き出す。

一歩歩き出す度に地面が凍てついていき、それどころか襲い掛かってきた敵が彼女に触れる事もなく一瞬で氷漬けにされる。

 

「もう手加減なんてしていられないんですよね…」

 

背に背負っている魔具『コキュートス』が片翼を作り上げ、大きく広がる。

片目が青黒い色へと変化し、右腕には氷で創造された籠手を装備。

常に冷気を纏い、敵対するものは全て凍てつかせ、作り上げるは氷獄。全身の各所から青白い炎を展開し、彼女は向かってくる敵に伝える。

 

「…まさかと思いますが…」

 

三日月の様に口角を吊り上げる。

笑っている様で笑っていない笑顔がそこに存在していた。

 

「ニゲラレル ト オモワナイデ クダサイネ?」

 

それは誰一人とて逃がしはしないという悪夢の宣言。

そこには優しさなどない。降参も意味を成さない。必要であれば、生きたまま凍てつかせる。

死が訪れる最期まで恐怖を与える。

ただ敵の全てを凍てつかせる悪夢…氷獄が今から始まろうとしていた。




まぁ…はい。

ルージュが(コキュートスを介してデビルトリガー解放&常時デビルトリガー解放&常時コキュートス展開&半暴走状態)ととんでもない状態になりました。
接近戦を仕掛けても一瞬で氷漬けにされ、遠距離攻撃を仕掛けてもコキュートスで氷壁を展開され防御。
また氷の城塞も展開し、【Hell guard tower】の残骸も取り込んだ為、敵を片っ端から氷漬けにする為攻撃します。
因みに氷自体は魔力で形成されている為、破壊不可です、逆に氷に触れると味方関係なく、氷の棺桶行きです。

てか何故ルージュがこの様な事態になったのか?
わかりずらいとは思いますが…まぁ敵さんが過去にルージュの身に起きた事を偶然にも再現してしまい、もう二度と失うものかとルージュが力を求めた結果、コキュートスが呼応し…ああなりました。

まぁ…うん…言われたら直しますわ…。

では次回ノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。