Devils front line   作:白黒モンブラン

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─空いた風穴─

─それは時間が経とうとも塞ぐ事はない─


Act196 February 14th Revenge 4

リツの素性に疑問を抱いたナギサであったが、今だけはそれを忘れる事にした。

忘れ物を職場までもっていかなくてはならず、それについて思考する余裕はなかったのだ。

秘密の部屋を後にし素早く身支度を済ませ、家を出る。

目指すはリツの職場。先程の事は忘れて、ナギサは目に映る景色や町の様子を眺めながらそこへと目指す事にした。

 

「変わらないね」

 

似た様な光景を何度も見る毎日。代わり映えのしない光景に飽きている様な口ぶり。

昔の彼女なら町はよく変わっていくから面白いと思っていたが今のナギサには昔ほどの純粋さはなく、彼女の性格は変わってしまった。

良く言えば落ち着いた。悪く言えば冷めた性格とも言える。

それも二年前に起きた事件、そして宿してしまった復讐心がそうさせてしまい、同時にナギサも自身が変わってしまった事に関しては薄っすらと気付いていた。

 

(ただそう分かっていた所で…)

 

昔には戻れない。

二年前には。楽しかった日々には。

 

 

ナギサがリツの職場に着いたのは、家を出て15分後の事であった。

店の前とは言わずとも近くのベンチに腰掛け、リツが来るまで待つ。

時期は三月の始め。暖かい日もあれば寒い日もある。

今日はその寒い日だったらしく。急速に発達した寒波の影響でとても冷え込んでいた。

 

「失礼」

 

「え?」

 

ふと声を掛けられ、ナギサはその方向へと向いた。

五十代後半と思われる眼鏡をかけた中年男性。

スーツを着こなしたその様はジェントルマンを彷彿とさせる。

 

「急にお声掛けして申し訳ございません。少しよろしいでしょうか」

 

「は、はあ…。どうぞ」

 

「ありがとうございます。…とても冷え込んでいる外で座っている貴女をお見かけしてつい居てもいられず。宜しければあちらにお入りなりませんか?」

 

男の言うあちらとはリツが働いている職場を指していた。

何故そこなのかという疑問と同時に、目の前に居る男は職場の人だろうかと思うナギサ。

 

「え、えっと…」

 

だがスーツを買いに来た訳ではない上に見に来た訳でもない。

確かに外は冷えるので長居はしたくないが何の用事もなく店内に入るというのは気が引けるというもの。

どう説明したものかと言葉に悩むナギサを見て男性はハッとした様子で何かに気付き、礼儀正しく頭を下げた。

 

「大変失礼いたしました。私、あちらの店で働いている者で、アンジュル・ムルシェと申します。貴女様…ナギサ様の事はリツさんからお伺いしております」

 

「叔父さんの…でもどうして?」

 

「急遽対応しなくてはならない事があり彼が対応を。それにより代役を頼まれまして」

 

「成程…。それじゃあ、えっと…少しの間ですがお邪魔します」

 

相手が良いと言ったとしてもそこは驕らず、礼儀正しく頭を下げるナギサ。

それを見てアンジュルはええ、と答え彼女を店内へと案内した。

店内は暖かく、同時に高級スーツやら様々な商品が展示されており、初めて訪れた店を興味深そうにナギサは見渡す。すると店の奥に展開されていたコーナーに目が留まる。

 

「女性用のスーツもあるんだ。てっきり男性だけのしか置いてないって思ってたけど」

 

「様々なお客様に対応させていただく為、当店では男性、女性問わず取り揃えさせてもらっております。スーツ以外にもナギサ様にとって身近なものも取り扱っておりますよ」

 

そう言ってアンジュルが先導する様にあるコーナーへと歩き出し、彼の後をナギサが追う。

レディースのコーナーを抜け、着いた先にあったのは、確かに今のナギサにとっては身近なものと言えるものが並んでいた。

 

「学生服…。何か意外というか。スーツだけじゃないんだ」

 

「初めてここを訪れたお客様はそうおっしゃいます。今では需要がないとすら言われておりますが、機能性、デザインなど優れた衣装だと私は思っております。着方を変えさえすれば私服としても扱えますから」

 

「確かに…」

 

色とりどり、デザインも異なり、オプションも付いてくる。

幅広く揃えている点、これに対する力の入れようが実感できる。

展示されている商品を眺める中、後ろから小走り気味で二人に近づいてくるのが一人。

歩み寄ってくる音に気付いた二人は後ろへと振り向くと、そこにはスーツを着たリツがいた。

 

「すいません、店長。急なお願いを聞いていただいて」

 

「いえいえ、お気になさらず。私もリツさんの姪っ子であるナギサ様と少しお話してみたかったので」

 

(私と…?)

 

アンジュルの台詞に疑問を抱くナギサだが、あえて聞いていなかった振りをして、彼女はリツへと歩み寄り忘れ物である道具を差し出した。

家を出る前に見たあの部屋の事を思い出すと、リツに対する疑念は収まる事はない。

だがこの場でその事を問う程常識がない訳ではない。

 

「はい、これ。忘れ物」

 

「ありがとう。折角来たんだ。少し見ていくかい?」

 

「大丈夫だよ。さっきアンジュルさんが色々教えてくれたから」

 

元より長居するつもりはない。

やんわりと断りを入れるとナギサはアンジュルに一礼してから店の出入り口へと向かうのであった。

 

 

その日の夜。

仕事先から帰り、食事当番であるリツが作ったシチューを食しながら、リツと話しながらナギサは夕飯を楽しんでいた。

何時もの様に他愛のない話を広げる二人だが、ふとナギサは食べる手を止め、それに気付いたリツが問う。

 

「ん?どうしたんだい、ナギサ。もうお腹いっぱい?」

 

「うんん、違う」

 

お腹いっぱいになった訳ではない。

では一体何のなのかと首を傾げるリツにナギサは忘れ物を届ける前に見た、あの秘密の部屋の事を切り出した。

 

「私、見たの」

 

「何を?」

 

「…銃とか、何かの地図を置いてあったあの部屋を」

 

「!」

 

驚きを見せるリツ。

しかしその反応はナギサが思う程のものではない。

いつか知られるという事を覚悟していたのだろう。リツの表情は僅かに強張る。

 

「そっか」

 

「うん。…だから聞くね。叔父さん、何者?」

 

先程まで団欒は消え去り、温かったシチューは冷めてしまった。

今この場を支配するは冷たい静寂で、それを生み出すのは食卓を囲む二人のみ。

その静寂がどれほど続いたか。強張っていたリツの表情が緩み、彼は諦めたかの様な笑みを浮かべた。

 

「ご飯を食べたら話そう。それで良いかい?」

 

「…分かった」

 

夕飯を食べ終えるまでの間会話は無く、只々寂しいだけの空間が広がっていた。

第三者から見れば何とも居たたまれない光景である。

 

 

夕食を終え、ナギサはリツと共に例の部屋を訪れていた。

初めて訪れた時のまま、部屋には無数の銃と壁に貼り付けられた地図、写真。

冷静に考えれば、何かを探っているという事が分かる。そしてこれをやったのはリツだという事も明白である。

傍にあった椅子に腰かけるとリツは対面に立つナギサに先程の問いに対する答えを口にした。

 

「単刀直入に言おう。…僕は所謂便利屋紛いな事をやっていた殺し屋さ。かれこれ十年近くは続けている」

 

「あちこちを動いたのはそういう事だったの?」

 

「ああ。…ハルオやシズクさんにはこの事は伝えてない。身内に殺人鬼が居るだなんて思いたくないだろうからね」

 

その事にナギサは何も言えなかった。

叔父であるリツが裏の人間である事に対し少しばかりショックであったが、自身の父であり、そしてリツの弟でもあるハルオに対しリツがその事を言えるかどうかと言われると言えない。

明かすにもそれ相応の覚悟がいる上に、結果が決して良い方向に働くとは限らない。

だからリツは隠し通してきた。墓に持ち込む気でいたのだ。

だが彼は明かした。例の事件の生き残りであるナギサに。

 

「…今でも続けているの?」

 

「ああ。昔みたいに動き回らず、この町に身を置きながら依頼を受けている。実の所、あのスーツ屋も表向きはああだが、僕みたいな連中が装備を整える為に行くような場所さ。銃、防弾使用の衣服やら色々取り揃えている。ブラックマーケットとでも言った方が良い」

 

「冗談と言いたいけど信じるほかないみたいだね。…ん?待って。じゃあどうしてあそこで働いているの?」

 

「それはアンジュルに誘われたからさ。君の事を話したら、表向きの顔として雇われないかって」

 

まさかアンジュルもそう言った人間だとはと驚きを覚えつつもナギサはそれ以上は問う事はせず、今度は壁に貼り付けられた地図の事を尋ねた。

 

「じゃああの地図は?お宝さがしをしている様には見えないけど……ん?」

 

ふと、ナギサはその地図を見てどこか違和感を感じた。

初めて見る地図ではない。そんな気がしてならなかったからだ。

どこでこの地図を見ただろうかと記憶の引き出しを引っ張り出していく。そして数分も経たぬ内にナギサはその地図がどこを示しているかの答えを導き出した。

 

「もしかして…私が居た町の地図?」

 

「そうだ。あの事件が起きてから二年間、僕はずっと調べていたんだ。ハルオとシズクが死んだあの事件は決してどこぞのチンピラが起こしたものではない」

 

「どういう意味…?」

 

その言い方はまるで誰かに狙われていたとでも言わんばかりの口振りであった。

ナギサ自身、決してあの時の事を割り切ってはいない。今でも錯乱する事があり、それが証拠だ。

ただ彼女はあの事件の犯人は町に居るどこぞのチンピラだと思っていた。

しかしリツは言う。突発的ではないというのだと。

 

「全て分かっている訳ではない。…あの事件は綿密に練られた計画的な犯行。それだけは断言してもいい」

 

「…」

 

「それにこの二年間、知り合いを通じて警察の動向も調べてもらった。そしたら警察はあの事件に関してはやたら消極的みたい。捜査している様に見せかけている節が多々確認できたそうだ」

 

「え…」

 

その事実にナギサは言葉を失う。

この二年間、警察から数回であるが捜査状況を電話越しであるが聞いていた。

しかし嘘であった。捜査しているだけと見せかけているだけの嘘。

それを理解した時、つい最近まで鳴りを潜めていた復讐の炎が再び燃え盛った。

警察は当てにはならない。ではどうするか?

 

「叔父さん」

 

「何かな?」

 

決まっている。

 

「私に銃の扱い方教えて」

 

残された者の役目として。

自身が裁きを下すまで。

それ以外の考えなどナギサにはなかった。

 

「ナギサ……うん、分かった」

 

少しだけ迷いながらもリツは教える事を約束した。

理不尽に奪われたのだ。大切な家族を。

まだまだ教えてもらう事もあった。まだまだ共に過ごしたかった。

しかし誰かの悪意が幸せを奪い、彼女は一人に残されたのだ。

殺しの技を覚えさせるのは気が引ける部分はある。それでもという思いが強かった。

 

「じゃあ、まず銃を選ぼうか。そこにあるので好きなのを選ぶと良いよ」

 

そう言われガンキャビネットに納められた銃を眺めるナギサ。

銃の事に関しては全くもって分からない。

だが直感を頼りに彼女は一丁の銃を手に取った。

 

「これにする」

 

それは銃身が下部に備えられているリボルバー。

今はあだ名をつけられてなど居ない。

だが後にその銃はPaine killer(鎮痛剤)と名付けられる様になる銃。

マテバ2006Mとの出会いである。

 

 

そして時は流れる。

シーナ・ナギサが14歳の誕生日を迎える直前に事件は起きた。

そしてその事件をきっかけに彼女は敢行する。

自身から全てを奪った者達に対しての復讐を。




相変わらずのぐだぐだっぷり…許せ。

次回は…さて、どうしたものかな。

では次回ノシ
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