Devils front line   作:白黒モンブラン

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─暗闇に踏み入れる一歩前─


Act197 February 14th Revenge 5

リツから銃の扱い、また様々な事を学び始めて早三年。

13歳になったナギサだが、あと一週間程度で14回目の誕生日を迎えようとしていた。

戦闘訓練には事欠かさず、リツと同伴であれば射撃場で入り浸り、様々な銃を撃ち、その扱い方を知り、同伴してなかったら人気の居ない所で本物のナイフで戦闘訓練し、たまにアンジュルの店で服の製作に協力するという毎日を過ごしていた。

とある日の夜。

普段であれば帰ってきている筈のリツが何故か帰ってきていない家の自室にて、先に夕飯を食べ終えたナギサがマテバ2006Mを手慣れた手つきで分解していた時の事だった。

部屋に置いてある電話がやかましい位の音で鳴り響いた。

その音が聞こえない訳がなく作業の手を止め、急ぎ足で電話が置いてある所まで向かうとナギサは受話器を手に取る。

 

「もしもし。どちら様でしょうか?」

 

リツからだろうかと思いながら相手へと話しかける。

しかし電話を掛けてきたのはリツではなく、ナギサが予想していなかった者からであった。

 

『ナ、ナギサちゃん…』

 

震えた声。

しかしそれが誰なのかナギサは悟る。

 

「その声……もしかしてアリシアのお母さん?」

 

『ええ…久しぶりね。元気してたかしら…』

 

「まぁ、特に変わりなく。それよりどうしました?様子が変と言うか…さっきから声が震えている様な…」

 

自身の名を呼んできた時から相手の様子がおかしい事は気付いていた。

その事を問いつつもナギサは何か嫌な予感というものを感じ取っていた。出来ればそれが気のせいであると思いたかった。

だが彼女の運命には理不尽が付きまとう。嫌な予感が当たっていたと知るのはその直後であった。

 

『アリシアが…失踪したの…』

 

「…え?」

 

握っていた受話器をつい落としそうになるも、すぐさま持ち直すナギサ。

しかしその表情は困惑と驚愕と疑問が入り混じっていた。

どう返したら良いのか分からず言葉に詰まる中、アリシアの母は言葉を続ける。

 

『三日前学校に行ったきり帰ってこなくて…警察に捜索願いを出したんだけど、それでも行方分からなくて…そっちの方でアリシアを見たりはしてない…?』

 

「ごめんなさい…こっちでは見てないです…」

 

『そう…。もしあの娘に似た娘を見つけたら連絡してくれる…?』

 

「はい…分かりました。…失礼します」

 

受話器を下ろし元の位置へと戻すとあまりのショックにナギサはその場で崩れ落ちる。

その表情は無表情で、瞳には光がなく闇が宿っていた。

事件に巻き込まれたのでは…。嫌な考えが彼女の頭に浮かぶ。

願わくばそうでない事を祈りたい。しかし勘は告げていた。

家出ではない。何かに巻き込まれた、と。

今の自分では何もできない。無力な自分を呪い始めた時、ふたたび電話が鳴った。

もしかすれば何か進展があったのかも知れないと急いで受話器を手に取るナギサはその期待は裏切られる事になる。

 

『ナギサ様でございますか?夜分遅く失礼します。アンジュルです』

 

「アンジュルさん?えっと…どうかしましたか?」

 

『ええ、取り急ぎ貴女様にご連絡したくて。……良いですか、落ち着いて聞いてください』

 

アリシアの母ではなかった事にナギサは内心残念に思うが、アンジュルが態々こんな時間帯に連絡してきた事に首を傾げた。

それにこの時間帯であれば店は閉まっている。リツが中々帰ってこない事と何か関連はあるのだろうかと思っているとアンジュルの口から、今のナギサが聞いてはいけない事が告げられた。

 

 

 

 

『警察から連絡がありまして…仕事で隣町で出向いていたリツさんが遺体として発見されました』

 

 

 

 

「…え?」

 

何かが砕ける様な…そんな幻聴がナギサの中で響いた。

まるで硝子細工が砕ける音、破片となってパラパラと落ちていって、そして粉々になっていく音が連鎖する。心が乱れる。頭が回らない。

何もかもっが真っ白になり、気付けば彼女はその場でしゃがみ込み呼吸を荒くしていた。

 

『ナギサ様?ナギサ様!!どうか気をしっかり持ってください!!ナギサ様!!』

 

受話器越しから声が響く。

しかしその声はまるで騒音の様に響き、言葉として彼女の耳には入ってこない。

 

「ああ…」

 

何故?と、彼女は問う。

何故自分の周りの人たちがこうも簡単に消えていくのか。

どうしてだ?だれがこんな事をした?

何が原因だ?

それは一つしかない。

全ての始まりはあの事件から…大事な家族を奪ったあの事件から始まっている。

 

(…………ヤル)

 

何かと共に復讐の炎が再び灯る。

まるでこの時を待っていたかのように。

 

(………テヤル)

 

涙は流れない。

流れるのは血。放たれるは銃弾。

 

(…ロシテヤル)

 

慈悲など与えない。全て撃つ。立ちふさがり、抵抗するものは全て。

それが女だろうが、子供だろうが知った事でない。

灯った炎は瞬く間に大きくなった。そしてそれは亡霊へと姿を変え彼女の背に憑りつく。

 

(コロシテヤル)

 

彼女の復讐を突き動かす原動力となり、復讐しろと耳元でささやいた。

 

「…」

 

思考がクリアになり、ナギサは顔を上げる。

しかしその表情は冷たい。外で降りしきる雪が暖かく感じられる程に。

 

『ナギサ様!聞こえますか!?』

 

「はい…聞こえますよ、アンジュルさん」

 

受話器を手に取り、アンジュルの声に答えるナギサ。

目に光は無い。暗黒が支配しているかのように。

抑揚のない声に電話越しであるにも関わらず、アンジュルは肝が冷える様な感覚を覚えた。

もはや普通ではない。つい声が震えそうになるが必死に抑え平静を保ちながら提案する。

 

『明日店の方にいらしてください。その感じだと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「分かりました。明日伺います…」

 

受話器をゆっくりと元の位置へ戻し、ナギサはふらふらと自室へ戻る。

机の上に広がる分解されたマテバを手早く組み立て直し手に取る。

そのまま近くにあった椅子に腰かけると彼女は一睡もすることなく次の朝を迎えた。

 

 

翌日。

必要な物を家から持ち出しナギサは学校の制服姿でアンジュルの店へと向かっていた。

男性用の大きめサイズの黒いショルダーバックを肩に下げ、行き交う人々の間を縫う様にして先へと進む。

ただ通りすがる人々は過ぎゆく彼女を見て、つい振り返ってしまう程、今のナギサは異様な雰囲気を纏っているのだがそんな事に興味を示す事無くアンジュルの店に到達。

迷う事無く店内にへと足を踏み入れると、今来る事を予期していたのかいつものようにしっかりとスーツを着こなしたアンジュルが待っていた。

 

「お持ちしておりました、ナギサ様。さ、奥へとどうぞ」

 

「ええ」

 

先行くアンジュルの後について行くナギサ。

バックヤードへと入っていき、そのままついて行くと周りの風景とは余りにも似つかわしくない扉が一つ。

まるで豪邸にありそうな造りをした扉。アンジュルがそこの扉の鍵を開き、ナギサへと奥へと誘う。

そしてそこに足を踏み入れた時、少々驚いた様にナギサは軽く周りを見渡した。

 

(裏だけの事はあるか…)

 

一つの壁に様々な銃が並べられ、違う方向へと顔を向ければ製作途中のスーツが複数のマネキンに着せられている。自分以外の誰かに渡す物なのだろうと思いながら、ナギサはアンジュルの方を向いた。

彼は銃が並べられている壁面を背にカウンター内に立っており、いつでもどうぞという状態を醸し出していた。無論ナギサも職場見学をしに来た訳でもないのでアンジュルの方へと歩み寄る。

 

「まずはリツさんの事、お悔やみ申し上げます。…葬式の方は私共方で受け持ちましょう」

 

「…ありがとう。裏の人間だからいつ命を落としてもおかしくないけど…そう言ってくれると嬉しい」

 

「はい。長い付き合いでしたからね。…では、始めましょうか」

 

アンジュルもナギサがここに来た理由はとっくに分かっていた。

とは言え若干の抵抗はあった。

二十歳に満たない。それどころか十四歳になろうとしている少女に銃を渡してもいいのか、と。

何十年にも渡り裏の世界で生きてきた彼でえ躊躇いがない訳ではないのだ。

しかし先逝ってしまった彼からの約束は守る必要がある。例の事件の調査を進めていく内に何者かに目を付けられ、いつ撃たれてもおかしくないと予知していた彼…リツからの約束を。

 

(恨みますよ、リツ…)

 

「リツさんからナギサ様の射撃の様子はお伺いしております。そこから判断し、私が貴女様に合う銃を見繕わせていただきました。まずこちらを」

 

嫌な役を押しつけてくれたものだと内心苦笑しながらもアンジュルは後ろにあるガンキャビネットからナギサ用に見繕った銃の内一つを持ち出し、彼女に渡した。

 

「まずはベレッタ92。そのままお渡ししても良かったのですが、僭越ながら私どもの方で少々手を加えさせていただきました」

 

「みたいね。マズルブレーキの装着、グリップも持ちやすい様に加工されてる。…ん?ああ…グリップに布張りが施してあるのか」

 

「よくお気づきで。ええ、長期戦が予想されると判断し施させて頂きました」

 

「成程…。お次は?」

 

「こちらでございます」

 

自分用にカスタマイズが施されたベレッタ92を傍に置き、アンジュルに手渡された銃を受け取るナギサ。

それは拳銃ではなく、サブマシンガンの部類に属するもの。

のちに未来の彼女が愛用する事となるMP5だった。

 

「ご愛用されているリボルバーと同じくこちらも良く利用なさっていたとの事で」

 

「うん。ほかのSMGも使ったけど、私にはこれが合ってるみたい」

 

「ふふっ、それを扱っている時の姿はまるで特殊部隊の部隊員みたいだとリツさんは言ってましたよ?」

 

「大袈裟だね。それにその台詞は姪に言う様な台詞じゃないと思うけど」

 

弾倉を差し込み、素早く構える素振りを見せるナギサ。

またよく利用していただけあってか、扱い方も手慣れている。リツの教えが出てきている事だろうか。

だがまだナギサは命のやり取りを経験していない。まだ踏みとどまるチャンスはある。

しかし彼女に纏わりつく亡霊は囁き続けるのだ。

復讐しろと。

だがこの荒れ狂った世界でも人殺しというのは決して勧められたものではない。

どんな理由があろうと一度その手を血に染めてしまえば戻れなくなる。まるで薬物に依存したジャンキーの様に。

 

(…殺す。誰であろうと)

 

彼女の覚悟はもはや城塞の如く堅牢なものへと化している。

だから止まらない。奪った奴らに銃弾を叩きつけるまでは。死を与えるまでは。

 

「ベレッタにMP5…まさかこれだけじゃないよね?」

 

「ええ、これだけではありませんよ。お次はごつくて大胆なのものでございます」

 

そういってアンジュルが次に差し出したのはイサカM37 ソウドオフモデル。

確かにごつくて大胆なものねと思いながらナギサはそれを受け取る。

三年間様々な銃を使ってきた彼女だが、長物に関しては苦戦した記憶があった。

ショットガンも例外ではなく、苦戦した覚えがある。とは言え銃を撃ち始めた時から三年経ち、身体的な成長も果たしている為、今はどうかと言われたら何とも言えないのが本音だったりする。

 

「本来であれば渡すべきものはここで終わりにするつもりでした。ですが…私も何度かお話させて頂いた身。年若い貴女様が亡くなられるのは心が痛みますので…。私から貴女様にいくつかプレゼントさせていただけませんか?」

 

それはアンジュルの本音とも言えた。

その思いを無下にする訳にはいかず、ナギサは静かに頷く。

 

「まずこれらを」

 

アンジュルからプレゼント。

幾つかの内、二つは銃であった。

 

「マテバ モデル6ウニカ。弾数は六。使用弾薬は.40S&W。そしてこちらは…」

 

「トンプソンコンテンダーでしょ?使用弾薬は…44マグナム弾ね」

 

「はい。…リツさんもこちらを使っていました。何故それを利用するかは教えてはくれませんでしたが」

 

「…そう。叔父さんが使ってたのならお守りとして持っていかないとね」

 

趣が過ぎると感じたナギサだが、何となくリツが射撃訓練場でそういう趣のある銃を使っていた事を思い出した。

アンジュルにバレない様に小さく苦笑いを浮かべる。

彼がそうであったように自分も人の事を言えた口ではないな、と。

 

「そして最後はあちらを。ナギサ様用に製作させて頂きました」

 

製作途中のスーツが並ぶ中、奥に一着だけ完成された服があった。

それは女性もので、外見からして学生服っぽく見える。全体的に黒がメイン。灰色のシャツ、白のネクタイ、一筋の白のラインが施された黒のスカート、ブーツ。

それらはアンジュルが、そしてここで働く裏の者達が作り上げた一品。

この世に一着しかないものがそこにあった。

情報もなしどうやって作り上げたのだと思うナギサであったが、前々からアンジュルの店で服の製作に協力したことを思い出していた。

 

「見た目こそは学生服ですが、表地と裏地の間には最新式のボディーアーマーに使用される生地を縫い込んであります」

 

「流石というか…凄いね。そこは純粋にそう思えるよ」

 

「お褒めの言葉、感謝いたします。では着てみてください」

 

アンジュルらが製作した服を受け取ると更衣室へと入っていくナギサ。

数分も経たぬ内に学校の制服から新しい装いに身を包んだ彼女が更衣室から出てくる。

 

「どうですか?」

 

「うん、サイズぴったり。きつくもないし、全然動きやすい」

 

「それは良かった。それとこれもお持ちください」

 

そう言ってアンジュルがナギサに渡したのは黒いコートであった。

数年後に伝説の魔工職人によって【サーヴァント】と呼ばれる魔装へと生まれ変わる事となるもの。

因みに今彼女が来ている服装同様に表地と裏地には最新式のボディーアーマーに使用される生地が縫い込んである。

 

「私共からお渡しできるのは以上となります。またリツさんが調べていた事に関しては、彼の人望もあってか…命を救われた者達が協力してくれるみたいです。念の為連絡先はこちらのメモに記載しておきましたので、お持ちください。それとリツさんと暮らしていた家に関しては私どもの方にお任せください」

 

「何から何まで…本当にありがとう」

 

着ている服の上からコートを羽織ると渡された複数の銃、弾薬、メモ類などを収めたショルダーバックを肩に掛けるナギサ。

そのまま立ち去ろうとするが、ふと足を止めアンジュルへと振り返り話しかける。

 

「…短い間でしたが大変お世話になりました」

 

礼儀正しくその場で一礼。

その様に少々啞然とするアンジュルだが、すぐさま何時もの表情へと切り替わる。

 

「いえ、私も貴女様とお話し出来て嬉しく思います。願わくば再びお会いできる事を…心の底から願っております。どうかご無事で、ナギサ様」

 

「…うん、ありがとう」

 

それを最後にナギサは売り場の方と歩き出す。

その後ろ姿が小さくなるまでその場に残ったアンジュルは彼女を見届けた。

 

 

店を出るとナギサは迷う事無くかつて過ごしていた町へと向かう事にした。

駅のホームで列車に乗り、そのまま揺れる車内で僅かな旅を楽しむ。だがその表情はどうにも楽しんでいる様子ではなく、どちらかと言えば悲しんでいる様にも見えるだろう。

しかし残念な事にそれに気付く者は居る訳でもなく、居たとしても声をかける奴はいない。

数年前、ある日を境に全てを失った町に到達するとナギサはまず安ホテルで部屋を借り、荷物を置いた後再び外へと出た。

花屋で花を買った後、彼女が向かったのは町の端にある集合墓地。

その墓地には理不尽によって命を奪われたナギサの両親が眠っている。

事件があった後はその時の事を思い出してしまい錯乱する事があった為に数年間町を離れていた。しかし今の彼女は割り切っていた。決して全部とは言いずらいが。

 

「…お父さん、お母さん…」

 

二人の名前が刻まれた墓標を見つけると抱えた花束をそっと墓標の前に置いた。

 

「…大きくなったよ。この姿を見せたかった」

 

町を離れてからの数年間。

それを語るかの様にナギサは二人へと伝える。

これが最後になるから。会わせる顔がなくなるから。だから立ち寄った。

神が与えてくれた最後の…本当の最後のチャンスを使って。

 

「…これから先、私はとんでもない親不孝者になる。許してほしいとは言わない。何故なら私が選んだ道だから」

 

薄っすらとナギサの声が上ずる。

頬を伝う一筋の涙が声が上ずる理由を物語っていた。

 

「…あっちで会う事ができたら会いましょう。出来なかった時は地獄の底から二人に向けて手紙を送るから」

 

伝えるべきこと伝えた後ナギサは静かにその場から去っていく。

復讐を成し遂げる為、全てを終わらせる為…。

シーナ・ナギサが暗闇に足を踏み入れる時がすぐそこまで迫ろうとしていた。




次回からはナギサちゃん多分ドンパチします。

またナギサの過去編では…友情出演も募集してます。
…ネタに困ってるし、何かないかなぁと感じてる方は感想なりメッセージなり一言どうぞ。
その際に詳細など説明いたしますので。

では次回ノシ
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