─銃声による感嘆符となって─
二月十四日。昼の十二時。
墓参りを済ませた後、この日が来るまで滞在。
そして今日十四回目の誕生日を迎えた私は辺りが暗闇に覆われるまでの間、小さな古びたカフェで少しの間一服していた。白昼堂々と銃撃戦をする気などないからだ。
それに奴らは夜行性。巣穴から呑気に出てくる事は早々ないだろう。
だから焦る事はない。今はオイルの様なコーヒーを飲み、乾いたドーナツを頬張るだけ。
そうすれば今の私を動かそうとする燃料へとすり替わっていく。
味に関しては何とも言えないが私以外の客が居るあたり、個人差はあるらしい。
「…」
外を見れば吹雪が吹いており、氷雨が降りしきっていた。
歩道を歩いている人達も風と雪のせいで歩きづらそうだ。
今日は寒波の影響で町全体がこの有り様。
ニュースキャスターが言うには今日一日どころか二日間位は続くという。
目に見えて分かる味方は銃だけだと思っていたが、吹雪もその仲間入りをしてくれる。
どうやら長い付き合いになるに違いない。途中で裏切られるかも知れないが。
「…戻るかな」
最後の一口を口に放り込むと席から立ち上がる。
支払いを済ませ店を出るとそのままホテルの部屋へと戻る。
ベットの上にアンジュルさんから貰った大量の銃と弾薬、ショルダーホルスター、ガンベルト、マガジンポーチなどがバックの中から覗かせており、机には彼が言っていた協力者から得た情報を纏めたメモ用紙が散らばっている。
まず分かったのは両親を殺害し、そして家を放火した犯人は金だけで雇われたギャングのメンバーらしい。G.S、サウロウ・ハウンセン、ガルド・メイカーら三人が関与していたという。
G.S…その名は本名ではないそうだ。ギャング内で言うあだ名みたいなものなのだとか。
彼はこの町から離れた地区で活動するギャング組織のボスでサウロウとガルドは副リーダー的な存在だ。
サウロウは人を殺す事に楽しみを覚えるイカレ野郎で巨漢のガルドはそれが死に掛けだろうが生きていようがお構いなし、女性をボロ雑巾になるまでヤり続けるので有名らしい。
そしてG.Sがまとめ上げるギャング組織は強盗、強姦、殺人、違法薬物の売買などに手を出しており警察も手を焼く程面倒な組織だ。
最近では人身売買にも手を出したらしく、地区内にバーを装い裏で取引できるようにしてある店があるそうだ。
ボスの元に一直線に迎えたならそれが一番なのだが、そうもいかないのが現実だろう。
それに両親の殺した連中の組織を放置する気などない。
「…」
全てが明らかになった訳ではないが、協力者が何か分かれば逐次連絡を入れてくれるので問題ない。
雇い主に辿り着く足掛かりとして…まずはこのバーから始めるとしよう。
十七時を過ぎると段々と辺りは暗闇に包まれ始める。
外は人間だろうが人形だろうが凍り付かせる程の寒さだ。誰もが何かに追われているかの様に家路を急いでいた。
ホテルを出た私はMP5とイサカM37を収めたショルダーバックを背負い、それ以外の装備を身に付けたままJ.Bが率いるギャング組織が拠点としている地区へと向かう為に地下鉄を使った。
薄暗い揺れる車内で駅を二つ程超えた時、寒さの影響か、あるいは神経が過敏になっているのか、私は銃を顔面に突き付けられた感覚が覚えた。
それもその筈でやつらが拠点としている地区は駅にも影響を及ぼしているらしく、よほどの狂人でなければその駅に降りようとはしない。
何故ならば身ぐるみを剥がされるか、命を取られるかというどちらかの選択肢を迫られるからだ。
それを踏まえるとは私は狂人に該当するだろう。気分は全くもって最悪だったが。
電車が目的地である駅に到達し車内から降りると周囲を見渡した。
無人の構内、薄汚れた自販機。それだけが広がっており、私以外の人の姿はなかった。
「…?」
聞けば電車に降りた時点でギャング共が出迎えしてくれるらしいが、今日の駅はそうでもないらしい。
特別な用事があるのか、それ以外の理由があるのかは分からないが無駄弾を使わずに済んだのは良かったと思うべきなのか、おかしいと思うべきなのか。
どちらにせよ引き返す気などない。地上へと繋がる階段を昇り、地上を目指す。
一つ、一つ階段を昇る度に履いているブーツの底が当たる音が響き渡り、地上に近づくにつれて寒さが伝わってくる。
「っ…」
階段を上がりきり、地上へと出ると冷たい風と共に雪が私を出迎えてくれた。
黒く濁った雪の上を歩き、例のバーがある所へと歩いて行く。
調べてもらった情報によると、買い手が例え歳が十代半ばであろうと商品を売るらしい。
ただし中に入るには店の門番にとあるものを見せなくては無い。それを見せると中に入れさせてくれる。
横断歩道を渡り商店街の前を通り抜け、通りを三本程過ぎると目的地がある大通りが到達する。
暗く寒いこの大通りは飢えた化け物たちで溢れかえっている。
クスリで頭がイカれたのか裸足で道路のど真ん中で踊り狂う男が居れば、路地裏の手前で男達が目をぎらつかせながら周囲を威嚇し、ガタイの良い男が露出の多い服を着た娼婦と共に店の中へと消えていく。
ここだけが世界が違うのではないかと思わせる。そしてこんな危険極まりない異世界に足を踏み入れる私はこの世界の住人達からすれば余所者であり、丁度良い餌だ。
「ここか…」
暫くして、例のバーに到達した。
情報通り、店へと繋がる入り口には屈強な門番が立っている。
とはいえ問題ない。
私はその男の前に立つとコートの懐から端の部分が破り捨てられた紙幣を取り出し、それを見せた。
「……まじか」
男から目からして私が成人ではない事は気付いているのだろう。
その声が物語る様に少しばかり驚いている様子だ。
しかし何故驚くのかが分からない。…男は新入りとでも言うのだろうか。
「お客なのだから通してくれてもいいよね?」
「…あ、ああ、行きな。バーテンに見せた後、合言葉を忘れるんじゃねぇぞ?」
「分かってる」
門番が道を開け、店の方へと歩き出す。
掃除もされていない階段を降りていくとバーの入り口ドアを見つける。灯りが灯っている事から営業はしているのは明白。
ドアノブを握り、開く。
備え付けられたドアベルが来客を知らせ店内に入る
裏というだけであって、小汚い。
中にいた客は酔っているのかこちらには見向きもしない。とはいえ銃をテーブルに置いてある以上ギャングの一員という事は間違いない。何故ならこの店にいる客は全員客を装ったギャング共なのだから。
店内に入るとバーテンだけがこちらを見ている。
臆する事無くカウンターに腰掛けると、私は先程男に見せた端の部分だけが破り捨てられた紙幣をそっと差し出した。
それを差し出す意味はバーテンも気付いているのだろう。彼は私に尋ねてきた。
「…何が欲しい?」
「左端の一番下の棚。右から三番目のボトル」
これが合言葉。商品を求める者が売り手へと伝える言葉。
その言葉を知ってさえいれば、純真無垢な子供が買い手だろうと商品を見せる。
金さえ落としてくれるなら大歓迎。こいつらはそういう奴らなのだから。
「…来な」
バーテンが傍に立っていた男に店番を任せ、裏へと引っ込んでいく。
自分もカウンターから降り立ち、バーテンの後に続く。
薄暗く、掃除もされていない空間が私を向かい入れ、先行くバーテンの後を追う、するとバーテンはレバーらしき装置が取り付けられた何の変哲の壁の前で足を止めた。
「驚くなよ?」
そう一言だけ伝えるとバーテンは私の背を向けてレバーに手を掛けると、壁が横へとスライドした。
成程…隠し通路という事か。そしてそこに商品が並べられている。
駆動音が響き渡り、バーテンが背を向けている隙に私は腰のホルスターに収めてあるマテバへと手を伸ばし、引き抜く。
「ほら、好きなのを……ッ!!!?」
男がこちらへと振り向いた時には、私は既にマテバ…またの名をPainekillerを突き付けていた。
撃鉄を起こし、狙いを定める。そして─
引き金を引いた。
乾いた音と共に放たれた銃弾が男の眉間に穴をあけた。
そこから噴き出す鮮血。地面へと崩れていくバーテン。
この時を持って…私は犯罪者となった。
その銃声が全ての始まりを告げる感嘆符となって鳴り響く。
銃声を聞きつけたギャングの一人が拳銃を片手に裏方に現した瞬間、ナギサはもはや自分でも驚く位の速さで男の方へと振り向き、銃を構えた。
「…!」
.40S&W弾を装填したマテバから三発の銃弾が放たれ男の体に喰らい付き、死に追いやる。
地面に崩れるもナギサは氷の様な冷たい表情でそれを見つめ、何ら感情を抱かず歩き出し、コートの懐から手榴弾を取り出すと表へと出る出入口近くの壁に身を寄せ手榴弾のピンを抜いた。
「くそったれが!!良い気分になってたのによぉ!!」
「ぐちゃぐちゃうるせぇぞ!!良いから見てこい!!」
表から聞こえるギャング共の焦る様な声にナギサは無慈悲にも安全ピンを引き抜いた手榴弾を表へと投げ入れた。その隙にマテバの弾倉に銃弾を込める。
投げ入れられたそれにギャング共が反応する間もなく、手榴弾を炸裂。
爆発音が響き渡り、粉塵が舞う。店内全体を巻き込み、爆発に巻き込まれた男達が四肢の一部が吹き飛ばされるとナギサは飛び込む。
抵抗する余裕もなく、それどころか痛みに悶えるギャングを見つけるとナギサは命乞いする暇も与える間もなく苦しむ男の頭に銃弾を叩きこむ、そのまま次の標的を見つけそのまま迷う事無く弾丸を叩きこむ。
まるで流れ作業の様に一人、また一人と瀕死のギャング共を殺していく。やがてその場で生きている人間が居ない事を察しナギサは裏方で殺した男の元へと向かおうとしたその時だった。
「う、動くんじゃねぇ!」
後ろから自身を呼び止める声によって彼女は足を止め、声の主の方へと振り向いた。
店の出入口で体を震わせ手に持った銃でナギサに睨みつけるのは、門番を務めていたあの男だった。
ドンパチとは言えないけど許せよ…。
では次回ノシ