─個人の復讐を利用するものだっている
─要は勧善懲悪じゃないということだ
風の音だけが不気味に響くだけであり、校内は静かであった。
暗闇が支配する中、マテバ2006M、またの名をPainekillerを右手に携えナギサはどうしたものかと頭を悩ませながら歩いていた。
下手に部屋の出入りしていたら物音でカデーノ・ババラに気付かれ逃げられる可能性もある。
しかしどこに居るかは分からないのも事実。
G.Sからもっと情報を吐かせるべきだったと後悔しながらも彼女は決心する。
(手当たり次第調べるほかないのか…)
できるだけ音を立てずに調べていく他ない。
渡り廊下の中間地点を過ぎようとした時、彼女はあるものを見つけた。
「…職員室から光?」
偶然にもその場所は窓から二階にある職員室の窓を見る事が出来た。
そしてナギサが言葉にした様に、職員室から薄っすらと光が漏れ出していた。
普通であれば職員室の中から光が漏れている事自体有り得ない話。この時間帯は誰もいないのだ。
だが光が漏れていた。理由は一つ。今この学校の廊下にいるナギサ以外の誰かが居る事を差している。
そしてそれはカデーノが自分の居場所を明かしている様なものであった。
「…」
偶然にも魔女の居場所が知ったナギサはPainekillerを握り直すと二階へ続く階段へと向かう。
一歩、また一歩と確実に階段をあがっていきながら、ナギサは思う。
何故私だったのか、何故アリシアが誘拐されなくてはならないのか…。
何が目的なのか。カデーノに対する疑問が次々と湧き出し、思考に浸る。
「…直接聞かないと駄目か」
いくら考えた所で答えが導き出せる訳ではない。
現状魔女に聞くほかなかった。
頭を切り替え、階段を上り切るとそのまま職員室にへと歩き出す。
「…い。……んはそろえ…」
職員室に近づくにつれ、室内から女の声が漏れ出ていた。
その時点でナギサは察した。職員室にカデーノ・ババラが居る、と。
Painekillerの撃鉄を起こしてから扉を開いたままの職員室の前でナギサは足を止め、そっと中を除きこんだ。。
「ええ…。G.Sは駄目です。グリフィンにやられました。……はい。明日中に次の候補に連絡を取っておきます。……配分のリストを製作中です。これも明日中にはお渡しできます」
すぐそこまで修羅が迫ってきている事も知らずにカデーノは自身のデスクでパソコンと向き合いながら携帯電話で誰かと話していた。
カデーノが電話に夢中になっている隙にナギサは職員室に忍び込んだ。
足音を立てず息を潜ませゆっくりとカデーノの背後から迫る。そして彼女が相手とのやり取りを終え、携帯電話を傍に置いた瞬間、背後から忍び寄ってきたナギサがPainekillerの銃口をその頭にへと当てた。
「…六年ぶりですね。元気でしたか?…カデーノ先生」
「その声は…まさかシーナ?」
「ええ、そうです。…お前に家族を殺され、一人生き残ったシーナ・ナギサよ」
久しぶりの再会を二人は決して喜ぶ事などしない。
奪われた者、奪った者が再会すれば起きる事など一つしかないのだから。
「随分とお行儀が悪くなったのね?途中で転校してたとは言え、世話になったでしょう?」
「恩なんて微塵にも感じてない。…さて、少しお話ししましょうか」
この時、ナギサはカデーノの手が携帯近くに置かれてあった拳銃に触れようとしていたのを見逃さなかった。頭に突き付けていた銃の銃口を素早く手の甲へと向けて発砲。
放たれた弾丸が白く柔らかい手の甲に風穴を空け、カデーノは悲鳴を上げながら椅子から転げおちる。
「くぅッ…!!このガキが…!!」
「そのガキはここまで来るのに大物小物含めて15人くらい殺してきたけど?」
「……たかが復讐の為に?ガキのくせして狂ってるわ」
「褒め言葉として受け止めるわ」
手を撃っただけで逃げられると判断したのだろう。
有無も言わさず、ナギサはカデーノの足を撃ち抜いた。先程同様に悲鳴が響き渡るが追い打ちをかけるようにナギサは撃たれた箇所に履いているブーツを力強く押し当てる。
激痛に顔を歪ませるカデーノに銃を突き付けながら、ナギサは口を開く。
「聞かせてもらいましょうか?私を狙った理由、誘拐したアリシアの居場所…色々とね」
「それを話したら見逃してれるのかしら?」
「見逃す訳ないじゃない」
最初から生かして帰す気などない。
突き付けられた銃と共に冷ややかな視線を送る目からその意思を感じ取ったカデーノは危機的状況にあるにも関わらず笑みを浮かべた。
「可笑しい?」
「…ええ、可笑しくてたまらないわよ。たかがガキの分際で私達に楯突こうとしているのだから」
(私
G.S達の事かと思うもナギサはそれを否定し、先程カデーノは電話相手に言っていた事を思い出す。
G.Sは駄目だ、グリフィンにやられた、と…。
「そしてそんな奴に─」
「ッ!」
「私は殺される気なんてないのよッ!!!」
その言葉通り、カデーノは一瞬の隙をついて袖に隠していたスリーブガンを発砲。
余りにも一瞬だった為、引き金を引く間もなく、寸での所でナギサは体を反らして弾丸を避けた。
しかしそれが隙となってカデーノから蹴りが貰い、そのまま机に激突。
逃げ出す時間が生まれ、それを決して逃さなかったカデーノは激痛に耐えながらも起き上がり片足を引きずりつつ必死の形相で職員室から逃亡。頭から激突した為、後頭部に痛みを感じながらもナギサは立ち上がりすぐさまカデーノの後を追う。
長い鬼ごっこになる。そう思いながらナギサは駆け出していく。
地面にはカデーノが流した血痕の後が通路の奥へと続いており、片足を引きずっている為逃げる姿が遠くに見えていた。
「鬼ごっこなんて…何年振りか…!」
血の痕を辿りながら冷気が漂う廊下を走り抜け、後を追う。
面倒な事になったと思いながら走るナギサ。角を曲がり、そのまま階段に差し掛かった瞬間、彼女の視界に落下してくるカデーノの姿が映った。
「きゃあああああっ!!」
「ッ!!」
まるで誰かに就き飛ばされた様な態勢。
しかし高さ的には死ぬほどではない。殺す相手をわざわざ受け止める気などなく、一歩下がってカデーノが地面に激突する姿を見届けるとナギサは素早く階段の方に体を向け銃を構えた。
黒い影。しかしそれは人の姿をしており、階段を一歩ずつ降りながら歩み寄ってくる。
カデーノを止めてくれた事に感謝しつつも、それが決して味方とは限らない。
警戒心を最大にまで引き上げながらナギサは歩み寄ってくるそれと距離を保つ為に片足を一歩後ろへと引いた。その時相手からナギサへと話しかけた。
「出来れば銃を下してもらえるかな?君にも用はあるけど敵対するつもりはないから」
「私に?」
自分にも用がある。
その言葉に疑問の声を上げるナギサ。そして暗闇から姿を現したその者を見て困惑した表情をうかべた。
スラリと長く伸ばされた髪、翡翠色の瞳。
紺色のダッフルコートに身を包み、小さな葉っぱのワッペンが施されたマフラーを巻いていた。
それだけならまだ良い。ナギサが困惑した点は別にあった。
(男性?それとも女性…?)
男性とも女性ともとれる声に中性的な顔立ち。
服装も相まってその者が男か女かは全く分からなかったのだ。
反応に困っているナギサに気付いたのか、相手はにっこりと笑みを浮かべると口を開いた。
「僕は女さ。見た目がアレだからね。困らせてごめんね?」
「いいえ。答えが聞けただけで充分。…それで貴女は誰?」
相手が女なのは分かった。
だがそれでもナギサは銃を下ろす事はしなかった。
警戒を解くにはまだ早いと判断した為である。
まだ信用されていないと感じたのだろう。無理もないか、と呟き女はナギサの問いに答える。
「僕はヴェルデ・ルスタリオ。何者かと言われたら…そうだね、私兵みたいなものさ」
「……目的はそこの女を守るため?」
「いいや、違うよ。さっきも言ったじゃないか。敵対するつもりはないって。だから銃を下ろしてくれると嬉しいかな?」
笑みを崩さないヴェルデに対しナギサは逡巡した後に向けていた銃の銃口を彼女から外し、その代わりに地面と激突し身動きが取れずにいるカデーノへと向けた。
「こいつはどうするつもり?」
「そうだね…情報を吐かせた後は始末する気さ。その女と僕は色々あるからね」
「色々?」
「そう。いろいろ、とね…」
笑みを湛えたままだというのに、ナギサはその声が冷たく感じられた。
その間にヴェルデが倒れたままのカデーノへと歩み寄る。
決して笑みを絶やさず、手にしたライフルを突き付けながら。
「はぁっ…はぁっ…だ、誰よ、あんた…!」
「酷いなぁ…本当に覚えてないのかい?僕は覚えているというのに」
「し、知る訳ないじゃないッ!!」
「そっか…。…自分で生んだ子供ことすら覚えていないのか」
ヴェルデの口から出た台詞にナギサは目を見開き、カデーノは固まった。
僅かに入り込んでくる風の音が場を支配する。
呼吸する事を忘れる程、ヴェルデから出た台詞は驚愕だった。
「娘だったの?」
「うん。僕はこの魔女の腹から生まれた。とは言ってもこいつはまともに育てるつもりなんてなかった。夜遊びばっかりで、金のある男と付き合ってホテルで毎日盛っていたらしいよ?」
「屑ね。…ん?待って、ルスタリオってお父さんの…?」
「そう。病気持ちにも関わらず僕を愛情込めて育ててくれた。…もうこの世にはいないけどね」
「…きっと天国で幸せに暮らしてると思うよ」
「そうだね。きっとこの女より綺麗で立派な女性と幸せに暮らしている…僕もそう思いたいかな」
さて…と前置きを呟きながらヴェルデはライフルの引き金に指をかける。
前からはヴェルデ、その後ろからはナギサ。
逃げられない。
それを悟ったカデーノは最後の手段に出た。
「か、金ならある!聞きたい事も全部教えてあげる!!だからお願い!命だけは…!」
その様は余りにも哀れと言えるだろう。
散々罪の無い人の命を奪い、罪のない人の人生を滅茶苦茶しておきながらこの女は助かろうとしている。
最早罪の意識すらない。
それを理解した時、ナギサはヴェルデに尋ねた。
「私に用があると言っていたよね?それって私が知りたい事を教えてくれるの?」
「ああ。勿論。そのためにここに来たんだ。君と接触する為…そしてその情報をより正確にするためにね。その女から知ろうとしている事…僕も知っている。幾らでも答えよう」
「そう。なら…」
Painekillerの撃鉄が起こされ、銃口がカデーノの頭に突き付けられる。
魔女に対する裁きが今、訪れる。
「私、家族…そしてヴェルデ、彼女のお父さん…そして全てを奪われた者達からお届けもの。一つ残さず─」」
「ま、待って!おね─」
「受け取りなさい」
全てをかき消す銃声が何度も響き渡り、周囲に反響する。
顔に叩きつけれた六発の銃弾。
目を背けたくなる程、カデーノの顔は無茶苦茶になっていた。
辺りに血液を飛び散り、硝煙が辺りに漂う。
再び訪れる静寂。その中でナギサはPainekillerの弾倉を取り出した。
「冥銭代わりよ。有難く持っていきなさい」
そして死体となったカデーノの顔にへ空になった薬莢を落とすのであった。
殺すべき相手を殺した後、私はヴェルデと共に職員室に訪れていた。
カデーノを始末した後直ぐにヴェルデに何故接触してきたのかと尋ねたのたが、職員室で話すと答えた為にここにいた。
カデーノのデスクで椅子に腰かけパソコンを操作するヴェルデの後ろで棚の上に座りながら、その作業姿を見つめていた。
私兵とは言っていたが、どうも違う気がしてきた。
何やら情報を何処かに送っているようにも見える。
一体彼女は何者なのやらか…。
「聞きたい事に答えようか。何から答えたら良いかな?」
「奴らの目的、そしてアリシアの居場所」
「おや?自分が狙われた理由は知りたくないのかい?」
確かに自身が狙われた理由も知りたいと言えば知りたいが…。
「後から聞く」
先に目的とアリシアの方が優先すべきだ。
私が狙われた理由も目的から何とかなく察する事が出来るかも知れない。
「そっか。…なら奴らの目的から答えようか」
巧みにカタカタとキーボード操作するヴェルデを見つめる。
漸く目的が知れる。
そして倒すべき敵の姿も。
復讐の炎、修羅を宿る事になった元凶が彼女の口から告げられた。
「歪んだ性癖の為、お小遣い稼ぎ…そして医療の貢献だよ」
しかし目的の三つの内、最後の一つに関しては全くもって理解出来なかった。
「…二つは分かるけど、最後は意味が分からない。医療の貢献?どういう事」
「確かに…どう考えても最後に関しては理解出来ないだろうね。だから一つずつ話していこう。まずはこれを見てくれるかい?」
そう言われ私はヴェルデの傍に歩み寄り、画面に除いた。
そこにはあの魔女が作ったと思われるリスト表が映し出されていた。
B、AP、AH、MHと四つの枠が設けられ、それぞれの枠内に名前と年齢が記載されてあった。恐らくだがこれはカデーノが電話相手に言っていた配分リストなのだろう。
しかしこのリストがどういう意味を示すのだろうか。
「これは今までカデーノによって誘拐された子達をどこに送るかのリストさ。このBのリスト…何処か変だと思わないかい?」
「そう言われても…」
名前は感じからして少女。そこは特に変とは思わないが…ん?
「その感じだと気付いたみたいだね」
「ええ。このBのリストにいる子達、殆どが十歳から八歳の子供しかいない」
「正解。B、AP、AH、MHは場所を差し、それぞれ目的が存在している。Bはバーで性癖を満たす為、APは遊園地で選定、AHは廃ホテルで解体、MHは精神病院で訓練となっている。そこで起きている内容に関しては後から話すとして…こんな事をやっている奴の事を先に話そう」
羽織っているコートから携帯端末を操作した後にヴェルデは私にある人物が映った画像を見せてきた。
そこに映っていた人物に私は驚きを覚えた。
何故ならテレビでよく見る人物だったからだ。
「マルセル・インバランド…金持ち出身でありながら自らの実力で議員になった人じゃない。確か貧困問題に対して精力的に活動してた筈…」
「そう。まさしく時の人。テレビで見ない方が珍しいくらいだね」
「そんな人が実は極悪人という訳ね…」
「まぁね。全てはそいつからというか…インバランド一家が発端かな」
「どういう意味?」
マルセル個人による悪行ではなく、一家総出での悪行というのだろうか。
「元々インバランド家は不動産会社を幾つも持つ家でね。それは金に困る事はなかったし、家を守る為に私設武装組織を創立し、街全体を影で支配下に置いていた。まぁ金と権力と力を有していた訳さ。そんな一家はある問題に頭を悩まされていたんだ」
「それは?」
「大規模に広がったスラム街。当てもなく彷徨う子供達…決して望んだ訳でもないにも関わらずそういう状況に置かれた者達が町の景観を汚していると感じ、どうにか追い払う手段を模索していたのさ」
確かに私が住んでいた地区は大きなスラム街が存在していた。
第三次世界大戦後、行く手を失った者達が寄り添い出来上がった街であり、そこには多くの人が暮らしている。
現に両親が営んでいたカフェにもスラム街出身の母親が子供の為の養育費を稼ぐためアルバイトとして雇われていた事があった。
何度か顔を合わせた事もあったし、幸いにして決して悪さをするような人ではなかった。
必死に頑張ろうとしている姿に両親も微力ながらも何かしてあげられる事はないかと話し合っている姿は何度も見てきた。
明日を生きる為、必死にお金を稼ごうとしていた者達が沢山いた。とはいえ全員が全員善良とは言い切れないのも事実。だが…
「追い払うって…結構物騒な考えをしてたのね?」
「ああ。金の持ち過ぎで狂わされた一家だからか、人格までも狂ってるんだろうね。平和的な解決なんて微塵にも思っていなかったのさ」
「…それで平和的解決じゃない解決方法を思い付き決行したと」
「そういう事。だけどそのままでは意味がない。何か利益のある方法を─」
「!」
それは突然であった。
ヴェルデの台詞を遮るかのように遠くからサイレンの音が聞こえた。
警察がやってきている。
サイレンの音でそれを理解するのは実に容易である。
お互いにサイレンが聞こえた方向に視線を向けつつも、私はヴェルデに話しかける。
「一旦ここを離れた方が良さそうね」
「みたいだね。なら急いで離れようか。続きは後で話そう」
椅子から立ち上がるヴェルデ。
私も棚の上から降り立ち、即座に行動を起こす。
響き渡るサイレンがまるでイカレた聖歌隊の様に迫るまで少しばかりか時間はある。
捕まるつもりなどない。
私はヴェルデと共に侵入の際の利用した扉へと向かい、そのまま外へと脱出。
彼女が乗ってきたであろう車の助手席に座り込むと、ヴェルデの運転の下、車両は学校を後にした。
すれ違う警察車両を見届けながらも、私は思う。
この復讐はそう簡単に終わりを告げる事はなさそうだと。
どうやらこの復讐はそう簡単に終わるものではないらしいです。
さてこの復讐劇…一体どれほどの血が流れるのやらか…。
一応ヴェルデについて紹介を
:ヴェルデ・ルスタリオ
男か女か、どちらなのだろうかと困惑させる外見を持つ者。
性別は女性であるのだが、言動、外観もあってどっちかと思う者も少なくない。
ある理由でナギサに接触し、情報を与えている。
また彼女はカデーノ・ババラと父親の間に生まれた子。
自身を捨て、父親を捨てたカデーノに憎悪を抱き、復讐しようと思っていた。。
では次回ノシ