Devils front line   作:白黒モンブラン

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─最早個人的な復讐では留まらない─


Act202 February 14th Revenge 10

学校を後にした私達だったが、ヴェルデがお腹すいたと言い出した為、私は深夜営業の食堂の駐車場で彼女が運転していた車の中で待機していた。

先程まで暖房はついていたが時間が経てば冷えるというもの。少しばかり冷える車内でヴェルデが買い出しに向かっている間、私は彼女の車の中で頬杖をついたまま外を眺めていた。

屋敷を出た時と比べると吹雪は幾らか落ち着いている様にも見える。だが止む事は知らない。

どうやらまだ私の味方で居てくれている様だ。

ただ茫然と眺めていると車の運転席側のドアが開いた。

 

「お待たせ。温かいコーヒーと出来立てのバーガー、買ってきたよ」

 

そういって運転席に乗り込むヴェルデ。

そしてその手にした紙袋から私が注文した通り、コーヒーとバーガーを渡してきた。

ありがとうとお礼を伝え、受け取る。

淹れたてのコーヒーの香り、出来立てのバーガーの匂いが鼻をくすぐる。

深夜営業の食堂だから大して期待はしていなかったが、どうやらそうではないらしい。

 

「それじゃあいただきます」

 

包み紙を外しバーガーを頬張る。

うん、悪くない。少々味は濃いがこれはこれで良い。コーヒーも良い味をしている。

昼食時に食べた乾いたドーナツとオイルの様なコーヒーと比べるまでもない。こちらに軍配が上がるだろう。

 

「美味しいかい?」

 

「うん。これが最後の晩餐にならない事を祈るばかり」

 

「ふふっ…確かに」

 

これが最後の晩餐になる可能性は無い訳ではない。

個人的にはこれ以上のものを望む。だがそれにありつけるまでの間はそう簡単にいくものではない。

 

「さて…このまま食べながら、さっきの話をしようか」

 

「お願い」

 

「任された。…まぁただ権力や金を使って、追い出すだけでは意味がないと感じたインバランド一家はどうにかしてその追い出すという行いに利益を生み出す事出来ないかと模索した。そしてそれを思い付き、実行した」

 

きっと…。

こんなにも美味しい食事の中で話すような内容でもないんだろうと思う。

だが私も、そして彼女も暗闇に足を突っ込んでしまっている身。

何故かこんな話をしている自分がすんなりと受け入れている自分がいた事に気付いていた。

だからだろう…。彼女の口から告げられた言葉に私は眉一つ動く事なかった。

 

「…金をちらつかせ住んでいる家から誘導。後に誘拐し人身売買か奴隷兵士にする…要はあのスラム街で住んでいた者達は金持ち共のお金稼ぎの為の商品にされたのさ」

 

「…」

 

「おや?意外と落ち着いてるね…。もしかして予想していた?」

 

「人身売買の方はね。…奴隷兵士に関しては初耳だったけど」

 

「成程ね。…まぁ奴隷兵士というのは、分かりやすく言えばゴミみたいな値段で買える兵士みたいものさ。どこの組織だって兵士を失えば補充しなくてはならない。新しく雇うにも高い金がかかる。なら安い値段で買える兵士を買った方が良いだろう?経済的にも…そしてどんな扱い方しても世間から責められる事なんてない。理由は簡単…奴隷だから」

 

ヴェルデの話を聞いていたら分かる事だが、この世の中薄汚い連中で溢れていると思う。

人権も無ければ、命を思いやる心すらない。

ただのお金稼ぎの道具にしか思っていない。

富裕層の頭は第三次世界大戦の核によって吹き飛ばされてしまったのだろう。

 

「そして奴隷だからこそ、どんな形で死のうが知った事ではない。例えそれが中身を抜き取られた後に捨てられても…中身が売買されたとしても、剥製にされたとしてもね…」

 

「中身を売買って……まさか」

 

「察しが良いね。そう…臓器売買さ。インバランド一家は人身売買や奴隷兵士を作るに飽き足らず更なる利益を求めた。その結果、臓器売買に手を出した」

 

「揃い揃って屑ね…。ん?待って、医療の貢献って…」

 

「そう。インバランド一家は抜き取った臓器は基本的に裏市場に売っているけど、一部医療関係の所に売っている。…ドナーが必要な患者は沢山いる。しかしこのご時世ドナーは中々に現れないのが現実だ。…そこに目を付けたインバランド家は医療関係にも売り込みにいったという訳さ。そして…マルセル・インバランドがその稼業を継いだ。裏でこっそりとお小遣い稼ぎしているという事だね」

 

最後の一口を口に放り込むと包み紙をくしゃくしゃに握りつぶし、冷めきったコーヒーを飲み干す。

 

「…折角のバーガーとコーヒーの味が台無しになるような話ね」

 

「言えてる」

 

やっている事が余りにも屑過ぎて言葉を出す事が馬鹿らしく思えた。

そいつらの頭に銃声を叩きつけた方が立派とすら思える。

そう思いながら私は気になった事を問う。

 

「それで…剥製ってのは?」

 

「…マルセルはペドフィリアってやつでね。十四歳以下の女の子を剥製にして自宅の地下に飾ってるのさ。君が襲ったバーで見た子供達は…そう、君が助けなかったら…」

 

「…もういい。取り敢えずマルセルがクソ野郎という事が分かった」

 

悪党であり、変態。

私はそんな奴に狙われ、そんな奴に家族を殺されたというのか。

死にかけのガルドの金的を銃弾を叩き潰してから殺したが、どうやらマルセルに限ってはピンピンしている時に金的を銃弾で潰してやろう。

 

「それでどうするの?」

 

「バーは君が潰したからね。残りを叩く」

 

「そう…。なら行こう。今すぐにでも」

 

「そうしたい所だけど…まずは武器を揃えさせてくれないかい?それに皆、始めたがっているんだ」

 

食事を終えたヴェルデが車のエンジンを起動させ、そのまま走り出す。

そして私はその台詞の中にあった言葉を発する。

 

「みんな…?」

 

なんとかファイルでも見ていたのだろうか?

 

 

雪が降る暗い街の中をヴェルデが運転する車が駆け抜ける。

深夜営業の食堂から発ってから十五分ほど過ぎた時に彼女は車をある建物の前で止めた。

そこはホテル。

だが安ホテルではない。それなりにしっかりしたホテルで、人気もある。

ヴェルデの言う皆とやらがここに居るとでも言いたいのだろうか。

 

「さ、降りて。案内するから」

 

考えていた所で埒が明かないのも事実。

言われるがまま車から降りて、私はヴェルデの後に続いた。

エントランスホールからエレベーターに乗り込み、それが上へあがっていく中私はヴェルデの顔をちらりと見た。

思えば彼女の事は全く知らない。私兵だと言っていたので何処かに属していると考えて良い。

そこから予想できる事は、彼女が私に誰かを会わせようとしているという事だ。

皆…という事はその事を差していると考えている。

エレベーターがとある階で停まるとそのまま私は先行くヴェルデの後に追う。

 

「…ん?」

 

長い廊下。

その中腹当たりに来た時、ある客室の前で銃を片手に待機している二人の男の姿が目に映った。

歩み寄ってくる私達に気付くも男達は銃を向ける事も無ければ警戒する様子もなかった。

私達がここに来る事は事前に知っていた…という事だろうか。

ますますヴェルデの正体が気になってくる上に問いたくなるが敢えて抑える。

ヴェルデが護衛がいる客室の扉を開き、中に入っていくと私も中へと足を踏み入れる。そこでは豪華な内装で静かに食事を取っている一人の女性が居た。その傍らに護衛を控えさせて。

そしてその女性を見て、私は既視感を覚えた。

何処かで会っただろうか…?

 

「さて…」

 

私達が入ってきた事に気付くと女性は手にしていたナイフとフォークを静かに起き、ナプキンで口元を拭うと口を開いた。

 

「おかえり、ヴェルデ。彼女がそうかな?」

 

「そうだよ。話は一通り話してある。後は僕たちの事と今後の事ぐらいかな」

 

「そっかそっか。君は少し休んでて。私は─」

 

笑みが私に向けられる。

しかしその目から感じられる何かが私を不快な気分にさせた。

 

「ミス・シーナとお話しさせてもらうよ」

 

まるで何もかも見透かしている。

そんな風に感じられた。

 

「分かった。それじゃあシーナ、後で」

 

「…ええ」

 

部屋から出ていくヴェルデ。

そして相手も傍に控えさせていた護衛を部屋から退出させた。

今、この部屋に居るのは私とあの女性と沈黙のみ。

牽制し合っている様に私も彼女も口を開かない。

 

「…」

 

「…」

 

それが二分位続いた時だった。

相手の女性は観念したかの様に肩を竦め、話しかけてきた。

 

「やれやれ、こうも警戒されてしまうとはね。少しばかりショックだなー」

 

先程までの雰囲気は何処へ行ったのか。

その口調は年相応のものであった。近所に居るお姉さん…そんな感じだ。

 

「まぁ座ってよ。シーナ・ナギサ」

 

「…」

 

「大丈夫だって。私から何かする気なんてないよ。ちょっとお話ししたいだけなんだ」

 

ね?と可愛らしい小首を傾げる彼女。

正直信用出来るかどうかは怪しいが、取り敢えず席に座った方が良さそうだ。

彼女と対面する様に私は席に腰掛ける。

 

「良かった、座ってくれた…!」

 

「…」

 

「おっと、ごめんね、…初めまして、ミス・シーナ。私はシャーレイ・アナスターシャ。よろしく」

 

「こちらこそ。…ん?待って。アナスターシャって」

 

その名前で思い浮かべるのは彼女しかいない。

だが彼女に姉が居たという話は聞いた事なかったが…。

 

「おや、気付いたみたいだね。そう。私は君の友人のアリシア・アナスターシャの姉さ。因みに歳は二十歳さ」

 

「何故年齢を明かしたのかは分からない。でも貴女が彼女の姉なら私とも何処か顔を合わせている筈」

 

「普通ならね。だが私は父と母が離婚する際に父の方に引き取られたのさ。だから君とは会う事はなかったんだ。妹のアリシアも私の事は殆ど覚えてないと思うよ。あの子が赤ん坊だった時に私は母の元を離れたからね」

 

アリシアの姉であるシャーレイ。

そんな人物が私に何の用なんだろうか…。

それ以前彼女はどういう立場の人間なのかが気になる。武装した奴らを引き連れている辺り、裏の人間だという事は分かる。

しかしそれだけしか分からないのも事実だ。

 

「ふふーん、こう思ってるね?彼女の姉である私が一体何者かと」

 

「ええ。ただクイズ形式にして何者か当てろとか言わないでね。そんな時間ないし面倒くさいから」

 

「おっと…そうしようと思ってたんだけどなぁ…。まぁ良いや。なら、早速明かそう」

 

椅子から立ち上がるシャーレイ。

手を胸に当てながら、軽く頭を下げる。

その様はまるで執事が見せる礼儀作法のアレだ。

 

「武器商人、シャーレイ・アナスターシャ。弾薬から話題の兵器まで何でも取り揃えております。お電話一本でどこにでも向かい、そして適正価格でお売りいたしましょう。…まぁ、そういう事さ」

 

「武器商人、ね…。だから部屋の前や貴女の傍に護衛が居た訳?」

 

「正解♪この世界で生きていたら恨みを買うからね。用心に越したことはないでしょ?」

 

ヴェルデが言っていた私兵…。それは武器商人の護衛という事だったのだろう。

しかし色々面倒な事になってきた気がする。

もはや個人的な復讐が組織やら議員やら色んなのがごちゃ混ぜになった戦争へと変わろうとしている。

 

「さて、聞きたい事は幾らかあるとは思う。だから結論から話そう」

 

「…」

 

「君の復讐相手、マルセル・インバランドは以前までは私から武器を良く買い取ってくれた上客だ。だが奴はやってはいけない事をやってしまった。それが私の妹であるアリシアに手を出した事だ」

 

マルセル・インバランドは議員だ。

そして権力もあって金もある。恐らく誰かに…いや、カデーノ辺りに調べさせてシャーレイに妹が居る事は知っていたんだろう。

奴の趣味には入らなかったが、商品としては高く売れると踏んだに違いない。

 

「それに奴は私の所に不当な要求してきた。こっちにはなんの利益を得られない、奴だけが得するという話でね。承諾しなかったらあらゆる手段を用いて私を牢屋に放り込んでやるとも言ってきた」

 

「だけどその話には乗らなかった。何故なら向こうから先に喧嘩を吹っ掛けてきたから」

 

「その通り。だから私の妹に手を出した腹いせに奴のビジネスを塵一つ残す事無く潰す事にしたのさ。武器商人らしくないけどね」

 

「それだけじゃないよね?」

 

私の口からシャーレイに向かってそんな疑問の声が飛び出していた。

もしそれだけならば私など要らない筈だ。護衛が居てヴェルデも居る。

経験なんて無いに等しい私とわざわざ会う必要などない。

しかし彼女は私と会った。その理由は確実にあると感じたからだ。

 

「…君の叔父に借りがあってね」

 

「叔父さんに…!?」

 

「ああ。昔の話だが助っ人として良く手を貸してくれてね。…そんな彼が亡くなったと聞いた時は大変驚いた。そしてその姪である君が復讐を成そうとしていると聞いた時、君を助ける事でその借りを返そうと思ったのさ」

 

「だから私をここに…?」

 

「そうだよ」

 

そうだったのか…叔父さんが関わっていたのか。

私は導いてくれたのかどうかは分からないが、彼女の手を借りる必要がありそうだ。

どの道、この復讐はそう簡単に終わらない。

たかだがギャング組織を潰しただけでは意味がない。

全てを潰す。マルセル・インバランドに関わる全てを潰す。

その過程で敵が何人死のうが知った事ではない。

一人死のうが、十人死のうが大して変わりはしないのだから。

 

「だから手を貸してくれるかい?言わなくても分かってるけどこちらも君を助けよう。出し惜しみする事無くね」

 

「…ええ。手を貸すよ」

 

差し出された手を握り返そうとした時、部屋の扉が勢い良く開いた。

突然の事に私もシャーレイも驚いていたが、部屋に飛び込んできたのが武装したヴェルデと廊下から聞こえてきた銃声だった。

 

「ヴェルデ、状況を!」

 

突然の事にも関わらずシャーレイは落ち着いていた。

流石というべきだ。武器商人であるのだから、こういう事は慣れているみたいだ。

 

「敵が一人。武装はLMG。マルセルに雇われた殺し屋だね。エレベーター付近で大佐かベトナム戦争帰還兵みたいに撃ちまくってる」

 

「オーケーオーケー。んじゃ15秒稼ぐ。その隙にシーナと一緒にホテルを出て施設を潰して。こっちが終わったら私達も追いかけるから」

 

ヴェルデと視線を交わしお互いに頷く。

シャーレイが拳銃を片手に耳に付けていた通信機で廊下で戦っている者達へと叫ぶ。

 

「15秒だ!15秒稼げ!プリンセスを逃がす!」

 

「準備は良い?ナギサ」

 

そう尋ねるヴェルデに対し私はPainekillerを右手に、左手にM92Fを構えながら静かに頷く。

それを見て、よしと呟くヴェルデ。そして彼女と私は部屋から銃弾と銃声が入り混じる廊下へと飛び出した。

そしてシャーレイが銃撃戦に交わる姿を目撃した時、私は叫んだ。

 

「シャーレイ!死なないで!」

 

「君も死んじゃ駄目だよ、シーナ!また後で!!」

 

それを最後に私とヴェルデは銃撃戦が起きている階を脱出するのであった。

 

 

ホテルからの脱出は難しいものでなくすんなりと脱出する事が出来た。

未だに雪が降っている道路をヴェルデが運転する車が駆け抜ける。

ラジオを付ける事無くエンジン音だけ響く車内で運転をしていたヴェルデが口を開いた。

 

「今から行くのは遊園地。最も廃園と化してるけど…。まぁそこは選定が行われている場所だ」

 

「その選定って、兵士か商品になるかの選定と思っていい?」

 

「うん。敵の数は未知数。ただ…」

 

「ただ?」

 

「そこを守っているのは、過激派のカルト教団。そしてそこには君の友人であり、シャーレイの妹であるアリシアが囚われている」

 

どうやらチンピラ共からイカレた集団を相手にしなくてはならないらしい。

復讐を宿した刑事から今度はカルトに立ち向かう保安官。

この雪降る二月十四日は私に様々な役を与えてくれているみたいだ。

最も私は英雄になるつもりなど全く無いのだが。

ヴェルデが運転する車はどんどん遊園地がある場所へと向かって行く。

寂れ古びた遊園地に待つのは幽霊化、或いは信者か。

そのどちらもが私の敵になろうと牙を静かに研いでいた。




たかだかチンピラ共の仕業と思えば、色々なもんが絡んでいるという事態。

さて次回はドンパチと急展開(未定)かな?

では次回ノシ
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