Devils front line   作:白黒モンブラン

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─変貌─


Act205 February 14th Revenge 13

「全く…ホント面倒くさい!」

 

煌々と燃え上がる炎は建物へと燃え移る。

熱気と黒煙が徐々に立ち上り始める中、OTs-14を連射するナギサの怒号が飛ぶ。

絶えの無い銃撃を仕掛けるも、どういう構造で出来ているのか修道女が持つ盾によって全ての攻撃が阻まれ、火炎放射器から迸る炎によって視界が遮られる。

熱気が襲い、そして修道女の登場に士気を取り戻したのか信者たちが集結し始めた事により防戦を強いられる。

膠着状態が続くこの状況にナギサの顔に焦りが浮かぶ。

このままここで戦っていた所で肺がやられるか、丸焦げにされるかのどちらか。

そんな事は言わずとも分かっている。

どうにかしてここから引きたいものの敵は逃がす事を許してくれない。それどころか共にここで息絶えるつもりでいる気なのか、撤退するどころか益々攻撃の勢いが増していく一方であった。

 

『シーナ!今何処に居るんだい!?こっちの二階から裏口へと繋がる廊下で誰かが焚火やっているのが見えるんだけど!!』

 

「その近くよ!どっかのイカれた修道女さまがバーベキュー大会を開催したみたいでね!!」

 

『修道女!?ああ、くそっ!!ここの親玉だ!!』

 

そんな事言われなくれても理解している。

あれの登場で信者達の士気が上がっているのを今目にしているのだから。

文句の一つでも言ってやろうとした時、ヴェルデからナギサの耳にとんでもない台詞が飛んでくる。

 

『注意を引く!!身を隠して、耳を塞いでて!!ロケットランチャーを使う!』

 

ロケットランチャー。

その単語を聞いた瞬間、ナギサは血相を変えて勢い良く後ろと振り向き叫んだ。

 

「全員耳塞いでッ!!」

 

その声に彼女の後ろにいたアリシアたちは慌てながらも耳を両手で塞ぎ、ナギサも素早く身を隠そうとした瞬間、爆発音と破砕音が廊下全体に響き渡った。爆炎と煙が廊下を駆け抜け、辺り一帯が振動する。

熱気と焦げ臭さが辺りに広がる中、ナギサはゆっくりと身を隠していた壁からOTs-14を構えながら身を出す。

今の一撃でどうなったかは分からずとも敵は着弾地点に近い所に居た事が見て取れる。攻撃が止んだ隙を見逃す訳もなく、ナギサはアリシアたちへと叫ぶ。

 

「行くよ!ついてきて!」

 

その声にハッとした表情を浮かべるアリシアたち。

ナギサが先導する形では彼女達はその場から離脱。しかし一時的に離脱しただけに過ぎず、状況が良くなったかと言えばそうでもない。

行く手を塞ごうとする信者らを一人、また一人と始末しながらナギサはアリシアたちを連れて廊下を駆け抜けるが、焦りの表情は未だ浮かんだままであった。

誰一人とて欠ける事無く返さなくてはならない。だがこのまま鬼ごっこを続けていた所で死ぬだけ。

ヴェルデと会う前までは誰かの命を背負って戦った事がない。今になって感じ始めた責任感がナギサの背中に重しとなって圧し掛かっている状態だった。

 

「ナギサ!」

 

ふと、届いた呼び声にナギサは足を止めその方へと向いた。

居たのは二階から降りてくるヴェルデの姿。敵から奪取したSPAS-12を携えて彼女らの元へと駆け寄って来ていた。

 

「無事でよかった」

 

「そっちも。…それであいつは仕留めれたの?」

 

「ごめん、そっちと合流で頭が一杯で、死体までは確認してない…」

 

「そう」

 

無理もないとナギサは判断する。

元より合流する事が目的であった為、敵が死んでいようが死んでいまいが気にする様子はないだろうと。

さてどうしようかと周囲を見渡し始めたナギサだが、ヘリが近づいてくる音に気付いた。

カルト教団が持ち出してきたのかと険しい表情を浮かべるが、ヴェルデが告げた。

 

「グリフィンさ。警察と一緒に向かってきているらしい。…ほら、サイレンの音もある」

 

「堂々とヒーロー面してご到着、か…」

 

そんな冗談を吐きつつ、状況の把握に努めるナギサ。

グリフィンと警察が向かってきているという情報は既にカルト教団側に流れているのだろうと判断。

でなければこのホテル内の静けさに納得が行かない。

先程まで行く手を塞いでいた信者達が嘘の様に姿を見せなくなったのも、それは新たな勢力であるグリフィン及び警察に対する迎撃態勢を取り始めているのだと。

このまま勝手にやり合ってくれればと思うナギサだが、物事はそう簡単にいかないと知るのは数分後であった。

 

 

「っ…ぐっ…」

 

体中全体が激しい痛みに襲われる中、私は目を覚ます。

そこに映るのはまるで体の一部が消し飛び息絶えた信者達と黒煙と炎が支配する地獄だった。

こんな惨状でよくもまぁ生きていたなと思う。

だがそれでいい。まだ死ねない。私はあの悪魔…否、私が求めていた神に殺されなくてはならない。

長い間待ち続けた。それが漸く叶う。

だから死ねない。今はまだ…。

 

「…っ…」

 

全身を襲う痛みに耐えながら傍に落ちていた拳銃を手に取り、起き上がる。

彼女らが何処へ消えたのかは分からない。

だが裏口からの脱出が不可能と分かった今、恐らく正面入口へと向かった筈だろう。

それに何処から銃声とヘリ、そしてサイレンの音が聞こえる。

警察か、或いはグリフィンが来たのだろう。

私を信じてきた者達には悪いが、私は私の目的の為に動かせてもらう。

そうでもしなければ私は死ねなくなる。いつかしか願った希望がもうすぐそこまで来ているのだ。

 

「さぁ…向かいましょう」

 

待っていてくれ、悪魔(我が神)よ。

その研ぎ澄ました()で私の()解放してくれたまえ(奪ってくれたまえ)

 

 

「!」

 

既に始まったカルト教団とグリフィン及び警察との戦闘音がヴェルデ達が居る場所にまで届く中、何かを感じ取った様にナギサは素早く体をある方向へと振り向かせた。

そこに立っていた人物を見て一瞬驚くもナギサは鋭い目つきで相手を睨んだ。

ヴェルデがその死体を確認していない点で生きている可能性がない訳ではない。故にこうして痛々しい姿になってまでこの場に現れたのは、ある意味では尊敬に値する。

だがナギサ自身いつまでも構う気などない。あの時に既に息絶えてくれていたら無駄弾も時間も消費せずに済むのだから。

 

「…」

 

沈黙を保ちながらナギサは腰のホルスターからPainekillerを引き抜く。

臨戦態勢を取ろうとした時、修道女は彼女を見て何故か微笑んだ。

片腕は曲がっては行けない方向に曲がっているというのに、何故笑っていられるのか。

気味の悪さを感じ取るナギサに対し修道女は口を開く。

 

「…ああ、私はこの時をずっと待っていた。あの時からずっと」

 

痛みそのものを感じてはいないのか、修道女の口調の乱れはなく実に流暢であった。

そして彼女は笑みを崩す事もなく、相対するナギサを見つめた。

 

「六年の間…私は待ち続けました。貴女が私を殺しに来るこの日を」

 

この女は何を言っているんだ。

ナギサはそんな思いを胸に抱くと同時に疑問を覚えた。

まるで自身がここに来る運命だと言わんばかりのその台詞に。

 

「…どういう事?」

 

自身と彼女は初対面の筈なのだ。普通であれば聞き流していたであろう。

だがどうしても聞かなくてはならないという思いが強くあったナギサは気付けば尋ねていた。

 

「貴女と私…全くの初対面の筈」

 

「ええ…貴女からすればそうでしょうね」

 

ますます謎が深まる一方。

訝し気な表情を浮かべるナギサを見て、修道女は明かす。

 

「…六年前。とある夫婦が営むカフェで起きた夫婦惨殺事件…」

 

「!…それが貴女と何の関わりが?」

 

「…覚えておりませんか?貴女は気絶する寸前に何かが燃える様な臭いがしたのを」

 

「!」

 

その指摘にナギサはあの時の事を思い出す。

二人の遺体を見つけ、そして気を失う直前に臭いがした。

では何故その事を修道女が知っているのか。

だがその答えは意外な形で明かされる事となった。

 

「…貴女なの?シーナちゃんの家を燃やしたのって…」

 

その声はナギサの後ろからであった。

思わず振り向くと、ヴェルデの隣で修道女を見つめるアリシアが立っていた。

遠くから響く銃声、爆発音の中で一瞬だけ静寂が訪れる。

そしてその静寂は脆くすぐさま消え去っていった。修道女がその問いに答える事によって。

 

「ええ。私が彼女の家に火を付けました」

 

罪の意識などない。

ただ機械の様に問われた事を答える修道女。

そしてその答えが明かされた刹那、銃声と共に修道女の頬を一発の弾丸が掠った。

掠ったという事実を示すか様に頬に血が伝うも修道女は全く気にする様子もなく、ただじっと自身に銃弾を放ってきた人物…ナギサを見つめた。

 

「…」

 

手にしたPainekillerの銃口から硝煙が昇る。

次は頭だ。

修道女を睨むナギサの目はそう告げていた。

 

「…私は求めていたのです。死のうにも死ぬ事に恐れを抱き、死ねない私を殺してくれるそんな存在を」

 

一触即発の中であるにも関わらず、修道女は突如として語り出した。

その余裕がどこにあるのか分からないが、何か罠があるではないかとナギサは敢えてPainekillerの引き金を引こうとはしなかった。ただ銃口を突き付けたまま、相手を睨み付けて。

 

「…形だけの儀式、形だけの装い。何かもが形だけで、何かもが全くの意味を成さない。導き手という名の装置、それに従う傀儡。…神などいない。そんな事すら分かっていたというのに、私は何一つ変わる事が許されなかった。死ぬ事すら、それを願う事すら」

 

しかし、と修道女は前置きを呟いてから言葉を続ける。

 

「あの日が私に希望を抱かせた。燃え盛るあの場所で、何時しか私を殺してくれる存在と出会えた」

 

「…それが私と?」

 

「はい。貴女です。…そして今、貴女はここに現れた」

 

修道女は嗤う。

髪を無造作に掻き揚げ、見開いた目でナギサを見つめながら手にした拳銃を突き付ける。

 

「さぁ…我が魂を奪いたまえ、神よ」

 

戦いの幕が開かれる。

誰しもがそう思い、ヴェルデはアリシアたちを安全な場所まで非難させようとした時、彼女は感じた事の無い何かを感じ取り、勢い良くその方向へと振り向いた。

そこに居るのは修道女と相対するナギサなのだが、その様子が明らかに違う事をヴェルデは感じ取っていた。

 

「…神様?私を殺してくれる存在?」

 

伏せた顔と共に紡がれる言葉。

しかしその言葉に抑揚はない。それどころか辺り一帯が凍てつかせたのではないかと思える程に冷たく感じさせる。

下ろしていた顔がゆっくりとあげられる。その瞳が宿すは虚無、虚構、そして絶対零度。

 

「…そんなものに興味などない」

 

言葉に変化が現れる。

まるで何かに徹しきろうと、何かへと変わろうとしている様にも思える。

そして修道女には見えていた。

得体の知れない何かが、ナギサの背後でその姿を現すのを。

 

「…お前を殺し、あいつを殺す」

 

それは完全な修羅への変貌。

ここに現すはシーナ・ナギサではない。

そこに居るは復讐心を全てを捧げた一人の悪魔(少女)

 

「だから…」

 

右手に持ったPainekiller、そして左手にマテバ6ウニカ。

二丁の銃の撃鉄が起こされた瞬間、ヴェルデにとってもアリシアらにとっても修道女にとっても、有り得ない事が起きた。

一番に気付けたのは修道女であった。

自身の体が伝えてくる激痛。腹部をめり込む様に突き出された肘。

 

「死ね」

 

そして暗い瞳と冷たい殺気で一瞬にして修道女との距離を詰めてきたナギサの姿があった。

 

「がっ……ぐ、ぐうぅ…!!」

 

痛みに悶える声が漏れる。

しかしナギサは止まらない。相手が前のめりになったのを見逃す事もなく、左手に持ったマテバ6ウニカで修道女の両脚を撃ち抜くと素早く自身の片足を軸にターンし、修道女の背後へと回り込んだ。

両脚を撃ち抜かれ、膝を地面と接触する前に修道女は反撃を試みるもそれすらも予期していたかの様に修道女の背中に衝撃が走った同時に突き飛ばされる。

その隙にナギサはPainekillerを素早く回転させてから、再び修道女の頭へと向ける。

お前の死に様など見る気などないと言わんばかりに顔を伏せながら、引き金を引いた。

銃声と共にはじき出された弾丸が修道女の頭を穿つ。頭に開かれた風穴から吹き出す鮮血。

地面を赤く染め上げながら修道女は糸の切れた操り人形の様に地面へと崩れていく。

 

「…さようなら」

 

その様をナギサはただただ冷たく見つめる。骨の髄にまで食い込んだ銃の感触と死の感触を味わいながら。




はい…ナギサちゃんがNAGISAちゃんへと変貌いたしました。

さてそろそろ過去のナギサ編も締めへと入るつもりですが…まぁゆっくりと付き合っていただけると幸いでございます。

では次回ノシ

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