Devils front line   作:白黒モンブラン

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─『それ』を犠牲にする─

─全ては己の内に秘めたそれを成し遂げるために─


Act206 February 14th Revenge 14

急速に発達した低気圧によって発生した吹雪は街全体を覆う。

極寒の地と化した街の姿をホテルの部屋の窓を通して眺める中年の男がいた。

 

「こうも吹雪が続くとはな。これでは移動するにも苦労する」

 

高級スーツに身を包んだ男は猛威を振るい続ける吹雪に対し辟易とした態度を見せながらグラスに注がれたワインを一口含んだ。

ワインの味を舌鼓を打った時、スラックスのポケットに収めてある携帯電話が鳴り響いた。

その音に気づいた男はワイングラスをそばに置き、ポケットから携帯電話を取り出すと画面に映し出されていた名を見て男はすぐさま携帯電話を耳に当てた。

 

「始末できたか?」

 

『…』

 

男がそう問うも電話の相手は返答してこない。

不審に思った男は再度尋ねる。

 

「おい、聞こえているのか?始末できたのか?」

 

『…』

 

それでも電話の相手は返答してこない。

苛立ちを覚えながらも何とか平静を保ちつつ男は、もう一度訪ねようとする。

少しだけ怒気を交えた声で問いかけようとした時。

 

『ざんねーんでしたー!生きてまーす!』

 

「!?」

 

突然響いた女性のおどけた声に男は驚く。

有り得ないと言わんばかりに目を見開き、つい携帯電話を耳元から離してしまう。

 

『あっれー?おっかしいなぁ。中々の出来だと思ったんだけど反応無し?まさかびっくりしすぎてぶっ倒れてないよね?おーい!変態ロリコン野郎ー?聞こえてるー?』

 

電話越しから飛んでくる煽りやら罵倒。

流石に黙っていられるはずもなく男は急いで携帯電話を耳に当て叫んだ。

 

「な、何故生きている!?シャーレイ・アナスターシャ!!!」

 

『そりゃ生きてるわよ。あの程度の雑魚でこっちの面子を倒せると思うアンタがおかしいでしょ。こちとらヤバいのを散々相手にしてきたのよ?ガタイが良くて軽機関銃撃つだけしか能がない奴の対処なんざ赤子の手をひねるのと当然よ』

 

「武器商人風情が…!」

 

『その武器商人風情にやられているそっちはどうなのよ?マルセル・インバランドさん?』

 

そう言われ男…マルセル・インバランドは表情を険しくさせる。

 

『ま、今はそんな事はどうでもいいの。…変態ロリコン野郎のマルセルさん、一つお聞きしましょうか?』

 

「なに…?」

 

突然尋ねてきたシャーレイのセリフにマルセルは眉を顰める。

一体この武器商人風情は何を企んでいるのだと。

どういうつもりだと問おうとした時、シャーレイの口から、とある言葉が出てくる。

 

『軍、実験、材料、人体実験……そして"融合"。これらの言葉に聞き覚えはあるよねぇ?』

 

「…!」

 

それの言葉はマルセルと一部の者しか知らないこと。

故にマルセルの手は少しだけ震えていた。

どこでその言葉を知ったのか。頭の中でその疑問が尽きないままであった。

 

『…傭兵を差し向けてきたのは以前の話を蹴った報復。だけどそれらについてこっちは知るはずもないと思ってるんだけど。……けどね、喧嘩売られたら、そいつを徹底的に潰すまでやるのがうちのやり方。ありとあらゆる手段で探ってたら、あら不思議。趣味とビジネス以外の事にも手を出していたとはね?』

 

「き、さまぁ…!!」

 

『おーこわいこわい』

 

シャーレイは一つ間を置く。

そして彼女は口を開く。

 

『何が目的なんか知らないけどやっている事が外道のそれと同じ…いいえ、外道と言うのも烏滸がましいわね。アンタは"人"なんかじゃない。人という種族すら名乗ってはいけない生き物よ』

 

しかして次に開かれたその声音は一人の人間として正しい怒気が交えていた。

 

「今更正義面か!!貴様も同じだろうが!相手が誰だろうとなんだろうと武器を売りさばき、破壊をばら撒く。誰かの命なんぞ貴様にとっては只のゴミ屑と同義!家族を捨て、自ら暗闇に足を踏み入れた女が言う事か!」

 

マルセルが吠える。

まるで開き直った台詞にシャーレイはため息をつく。

 

『確かに私…いいえ、私たちが言うのは違うわね。でも…』

 

「なんだ!!?言ってみるがいい!」

 

この時。

もしマルセル・インバランドがシャーレイの顔を見ることが出来たのであれば彼は思うだろう。

 

『お前に家族を奪われた──』

 

その台詞はどういう意味かと。

そして…

 

『──"あの娘"ならどうかしらね?』

 

その笑みはどういう意味かと。

 

 

破れた天窓から雪が舞い降りる。

地面を広がる血潮。瞳孔が開いたまま微動だにしない修道女を優しく降り注ぐ。

 

「…」

 

いまだに響く銃声。

いまだに漂う硝煙。

いまだに漂う冷気。

そんな色んなものが混ざり合う廃ホテルのロビーで彼女…シーナ・ナギサは修道女の死体を見下ろしていた。骨の髄にまで食い込んだ銃の冷たさを感じながら。

 

「…シーナ」

 

彼女のそばに立ち、肩にそっと手を置くヴェルデ。

 

「そろそろ離れないと不味い。それに彼女達を向こうに渡してあげないと」

 

「ええ、わかってる」

 

不気味なほどに素直に従うナギサ。

死体から視線を外し、後ろへと振り返ると集団で固まったまま動けずにいるアリシアたちへと歩み寄る。

 

「…!」

 

その時、ナギサは気づいてしまった。

アリシアやユキノ、このカルト集団に捕まっていた人質たちが見つめるその目に。

そこに含まれている感情の正体に気づいてしまった。

 

(…)

 

分かっていた。いずれそんな目で見られることになると。

しかしそれは思いの外、彼女の心に突き刺さっていた。

下唇を噛みそうになるも何とか耐え、ナギサは足を進める。そしてアリシアの前に立つと、ホルスターに納めてあったM92Fを引き抜き、安全装置を外してからそれを彼女へと差し出した。

突然銃を差し出されたことに困惑するアリシア。対するナギサは優しく笑みを浮かべて、話しかける。

 

「良い?これを絶対に手放さないで。もし見知らぬ人が来たら迷うことなく構えて」

 

「ナ、ナギサちゃん?」

 

更に困惑しだすアリシア。

彼女の様子に構うこともなくナギサを言葉を続ける。

 

「もし相手がグリフィンか警察…本当に信頼できる人だと判断したらその人たちに助けを求めて。その人たちに助けてもらえば、きっと元の生活に戻れるはずだから」

 

「さ、さっきから何を言ってるの…?ナギサちゃんも一緒に…」

 

「悪いけどそれは出来ない。私にはやるべき事があるから」

 

そう言い切った所で、奥から音が響いた。

まるで誰がやってくるような足音。

それを感じ取ったナギサはだから…と前置きを口にしてからアリシアを優しく抱きしめた。

 

「さようなら。そしてありがとう、アリシアちゃん」

 

「…!」

 

「私はもう戻れない。全てを終わらせる為にはこうするしかないから」

 

ナギサがアリシアを抱きしめる力が少しだけ強くなる。

同時に彼女の頬に一滴の水滴が伝い始める。

 

「今までありがとう。私の友達でいてくれて。だからどうか──」

 

 

 

 

 

「元気でね、アリシアちゃん」

 

 

 

 

アリシアを抱きしめていた腕が離れる。

そしてナギサはアリシアの傍を離れていく。

紡がれたセリフの意味。それが何を意味していたのかを理解したアリシアは手を伸ばす。

しかし寸でのところでその手は届かず、ナギサはヴェルデとともに何処かへと消え去っていった。

頬に伝う涙を拭いながらナギサは前を見る。

 

「終わらせるから。私が…全て」

 

もう元に戻る事は出来ない。その手を血に染めてしまったのだから。

友人との別れを済ませたナギサは頬に伝った涙を拭い、走り出す。

十年前に始まった悪魔を終わらせるために。




という訳でシーナ編再開です。
どうかお付き合いの程よろしくお願いいたします。

では次回
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