Devils front line   作:白黒モンブラン

226 / 278
─ラストダンスの開幕─


Act207 February 14th Revenge 15

「良かったのかい?あんな事を言って」

 

廃遊園地から抜け出し、ヴェルデが運転する車の車内で彼女は私にそう尋ねてきた。

大方アリシアとの別れについて訪ねているのだろう。

ならば返す答えは一つだ。

 

「ええ。これで良かったのよ」

 

あの状況、そして彼女達が私を見つめる『目』を見たら、あれが一番正しい行いだと思っている。

後悔はない。いずれこうなるであろうとは覚悟していた。

 

「ヴェルデがこの世界にどれほど居るのかは分からないけど…何となく察しているでしょ?」

 

「…」

 

一度この闇に足を踏み入れた以上、もう元の生活に戻れない。

だから、これで良いのだ。

アリシア・アナスターシャが知るシーナ・ナギサ()はもういないのだから。

 

「そっか…君が決めたことだからね。なら、これ以上は言わないよ」

 

「ええ、ありがとう。それで…次は廃ホテルだったよね?」

 

マルセル・インバランドが個人的な趣味で所持している建物は幾つもあり、私たちが先ほど抜け出してきた寂れた遊園地もその一つだった。

そして今から向かおうとしているのが、廃れたホテルである。

そこで『解体』という行為が行われているらしいが一体何が行われているのだろうか。

解体という言葉を聞くだけだと、何となく察してしまっている辺り私はもはやまともな人間でなくなった証拠と言えるだろう。

 

「そう。ただここから先は覚悟していた方がいい。…目を反らしたくなるのが広がってるから」

 

「…」

 

どうやら私の予想は当たっていたようだ。

胸の内で反応に困った笑いをあげていた時、ふと携帯電話が鳴り響いた。

私のではない。ヴェルデが羽織っているコートの懐から、携帯電話のコール音が鳴り響いている。

彼女は運転しながら、コートの懐から携帯電話を取り出し、耳に当てた。

 

「シャーレイかい?無事だったみたいだね…うん…うん……そう。そこはグリフィンと警察に任せるとして、僕達はどうすればいい?」

 

どうやら電話をかけてきたのはシャーレイのようだ。

ヴェルデの口調がどことなく安心したような様子なので、あの襲撃者を撃退することが出来たのだろう。

それにしても、『そこはグリフィンと警察に任せるして』とはどういう意味だろうか。

聞きたいところであるが、電話の邪魔をする訳にはいかない。

ヴェルデが電話を終えるまでの間、私はそっと視線を外へ向けた。

真っ直ぐと、濁った雪が積もった道路を走り続ける車。過ぎ行く街の姿。降りしきる雪。

どれほど時間が経っただろうか。もう日は跨いでしまっているのだろうか。

最後に太陽を見たのはいつだろう。いつの間に私は夜行性になってしまったのだろうか。

 

「…ふぅ」

 

シートを後ろへと倒し、寝転がる。

今の今まで動きっぱなしだった事もあってか疲れが襲ってきた。

とは言え、この疲れも一時的なものだろう。

外に出て、銃を片手に動き出したら疲れなど分からなくなる。そんなものを気にする余裕などないのだから。

少し仮眠でも取ろうとした時、電話を終えたのかヴェルデが携帯電話をコートの懐へと戻す姿が目に映った。

仮眠を取るのを断念し、シートを起こして私はヴェルデへと話しかける。

 

「シャーレイからなんて?」

 

「予定変更のお知らせ。僕たちが今から向かおうとしている場所はどうやらグリフィンと警察がいるみたいだ」

 

驚いた。

私たちがあの場所を出て、そんなに時間が経っていないというのにグリフィンと警察の動きが早い。

どういう事なのだろうか。

 

「随分と行動が早いね?さっきまで遊園地に居たというのに」

 

「多分部隊を別々に割り当てているんだろう。でなきゃここまで早く動けない」

 

「なるほど。…で、廃ホテルが無理なら、私たちが次に向かうのは…」

 

「精神病院だ」

 

そこでは訓練というのが行われているらしい。

大方奴隷兵士にさせる為の訓練だろう。

だが疑問はある。何故精神病院の裏でその『訓練』とやらを行う必要があるのか。

恐らくだが、今から向かおうとしている精神病院は今でも運営されているに違いない。

人目に付く可能性があるにも関わらず、何故そこを選んだのかが分からずにいる。

私がマルセル・インバランドというクソ野郎だったら、まず人目が付くような場所は選びはしない。

寧ろ私でなくても、そう考えるだろう。

だからこそ疑問に思うのだ。何故そこを選んだのかという疑問が。

 

「そしてこれで最後になる。油断しないでね」

 

「ええ。分かってる」

 

車両を一旦停止させた後そのままUターン。

車は元来た道へと走り出し、最後の舞台となる精神病院へと向かった。

 

「…」

 

「…」

 

再び訪れる静寂。

疲れた体を休めるタイミングとしては良いのだろうが、中々その気になれずにいた。

今になって頭の中に浮かび始めた疑問が私を休ませてくれないからだ。

金持ちの生まれであり、議員であるマルセル・インバランド。

その正体は変態な趣味と外道のような事を行っているとんでもない人間という事は間違いない。

証拠として、ヴェルデからの情報、殺したカデーノが言っていた言葉も含め、私が潰したバーにいた子供達やヴェルデと共に襲撃した廃遊園地で見つけた人質達がマルセルとの関わりを示していた。

この目で見た訳ではないが、先ほど向かおうとしていたホテルではいわゆる『医療貢献』の為の行いもマルセルが関与していると見ていいだろう。

ただ腑に落ちない部分が多い。

いや…腑に落ちないというよりかは、もっと別の何かが行われている気がして仕方がないのだ。

故に私は悩む。今から襲撃しようとしている精神病院で、ただ殺しだけを行うべきなのかをどうかを。

それに──

 

「えらく静かだね?精神統一でもしているのかい?」

 

そんな時だった。

しっかりと前を見据えながら、ふとヴェルデが冗談を交えて話しかけてきた。

 

「そう見える?」

 

「いいや。むしろ悩んでいるようにも見える」

 

どうやらヴェルデには私が思っていることがわかるようだ。

ならこの際だ。先ほど胸の内で言おうとしていた事をヴェルデにぶつけるとしよう。

 

「単刀直入に言うね。…貴女の目的はなに?」

 

暖房がついているはずなのに車内が冷え返った気がした。

 

「…質問の意図が分からないな」

 

笑みを湛えたままヴェルデは車を止めない。

 

「貴女が私に協力してくれているのは組織の意向があってこそ。シャーレイの指示があって協力しているだけに過ぎない」

 

「…」

 

「私が聞きたいのは、組織の一人としてではないヴェルデ・ルスタリオとして、協力してくれる理由を知りたいの」

 

ずっと聞きたかった事だ。

初めて学校で出会った時はてっきりカデーノの復讐する為に私に接触してきたのだと思った。

けど、カデーノを私が殺してしまった以上、情報を伝えるだけでわざわざ協力する必要はなかったのではないかと思うのだ。

シャーレイの指示があったとは言え、力を持つ議員を相手にしたいとは思わないだろう。

私のようによっぽど恨みがなければ、協力なんてまずしない。

だから今尋ねたのだ。ヴェルデ・ルスタリオが私に協力してくれる理由を。

 

「…」

 

私はヴェルデをじっと見つめる。

すると観念したのか、ヴェルデは軽くため息をついた後、静かに口を開いた。

 

「もう随分前の話さ。シャーレイの所に転がり込む前、僕は奴隷兵士として生きていた時期があった。銃なんて握った事なんてない。だけど生きる為には嫌でも銃の撃ち方を、人の殺し方を覚え、ただ死に物狂いで生きようと必死になっていたんだ。戦場に出てしまえば心休まる事なんてなかったけど…ほんの僅かに僕にとって心を休ませてくれる存在がいた」

 

「それは?」

 

私がそう尋ねた時、ヴェルデはコートの懐から何かを取り出し、それを差し出してきた。

何だろうかと思いながら受け取り見つめる。

彼女から渡されたそれは色褪せた一枚の写真。

写真にはヴェルデだと思わしき人物と一緒に映る年若い少女達が映っている。

この少女達がヴェルデが言っていた心を休ませてくれる存在なのだろうか。

 

「そこに映っているのは僕と同じようにゴミみたいな値段で買われた奴隷兵士達でね。お互いに支えながら、生きてきた。僕にとっては彼女達の存在は心を休ませてくれていた。幸いというべきか、僕達を買った所は他と比べたらまだマシと言える所だったからね」

 

「…だから笑っているね。無理やり笑っている写真でも撮らせているのかと思った」

 

「そう思ってもおかしくないかな。買い手が最悪だと場所も最悪さ。来て初日で死んだ奴隷兵士もいたって話は聞いたことがある」

 

そして新しい誰かが買われて犠牲になるという訳か。

非常に不快で耳を塞ぎたくなる話だ。

彼女の目を見つめ、続きを促す。

 

「…ある時だった。僕達が属している組織の社長が、僕とそこに映る彼女達を連れて、ある場所へと向かった。荷台に放り込まれていたからどういった場所かはよく覚えてないけど、豪邸だったのは覚えている。応接室に通された僕ら。そして社長は何処かへ消え、その代わりに奴が現れた」

 

「マルセルね?」

 

「ああ。奴は僕らを見た後こう言った。今日から私が君たちの新しい雇い主だと、ね」

 

「新しい雇い主、ねぇ…」

 

オウム返しのように呟く。

ヴェルデと彼女達が属していた組織の社長とどのようなやり取りがあったかは知らない。

だが一つ言えるとするのであれば、その先で待っているのは地獄だという事だけだ。

 

「何もかもが一変した。新しい服を、新しい銃を、新しい部屋を与えれ、任務も比較的楽な方だった。だから僕たちは忘れていた。奴隷兵士を買う大人の本質を、その腹の内…どす黒いそれの存在を」

 

ヴェルデの表情が険しくなる。

本人が気づいているかどうかは分からないが、ハンドルを握る手に力が入っていっていた。

 

「突然だった。任務から帰ってきた時、何故か彼女達が居なくなっていた。雇い主であるマルセルに彼女達の事を尋ねると、応援の為に遠方に向かったと言っていた。しばらくすれば帰ってくるだろうと言っていたから当時の僕はそれを信じて疑わなかった」

 

「だけど彼女達は帰ってこなかった。それに気づいたのはいつ?」

 

「一週間が経った時だ。ロッカーの片づけをしている時にたまたま別のロッカーが開いているのを見つけた。閉めようとした矢先、中から一丁の銃が転げ落ちてきたんだ。それは彼女達の内一人が愛用している銃で戦場に行く時は必ずと言っていいほど携帯していた。応援の為に遠方に向かうとは言え、態々愛用している銃を置いていくのはおかしい。何かが変だと思った僕はマルセルに彼女達の行方を探った」

 

「それで?」

 

「…意外とあっさりと彼女達の行方は分かった。彼女達は豪邸の地下……ゴミを投棄する所にいた。ゴミの中で埋もれていて、全員が死んでいた。一人は目をくりぬかれ、一人は喉、中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の子もいた。どういう訳が全員が身体のどこかが無くなった状態だった」

 

言葉が出なかった。

そしてそれをやったか、或いはそれを指示した奴が誰なのか。

その犯人を私は知っている。

間違いなくマルセルの仕業だ。

しかし、一体何のためにそんな惨い事をやったのかが気になる所だが。

 

「…怒りや疑問を覚える前に僕は恐怖を覚えた。体を震え、急いで逃げ出さなくてはならないという思いが心を支配した。そして気付いたら僕はそこから逃げ出すように走り出していた。ただそう簡単に豪邸から脱出とは行かなかった」

 

「護衛でもいたの?」

 

「護衛というか…マルセルの下には十二人のメイドが仕えている。年齢はバラバラだけど、全員が戦闘のプロ。特殊部隊以上の戦闘力を持っている。そんな奴らに僕が彼女達の遺体を見つけたのを感づかれてね。そっから豪邸では銃声がひっきりなしに響いた。肩を撃たれたりしたけど、死に物狂いでそこから逃げ出して、その後に僕はシャーレイに拾われた」

 

修道女のお次はメイド。

それが武器を片手にご主人様の為に戦うメイドさんと来た。

もしこの戦いが終わった後、近くでコスプレイベントはあるようであれば見に行かないようにしよう。

ふと思い出してしまい撃ちかねない。

それは兎も角として、ヴェルデがこの戦いに手を貸してくれている理由が分かった気がした。

 

「…だから手を貸してくれているのね?マルセルに復讐する為に」

 

「ああ」

 

彼女も私と同じように『復讐者』なのだ。

私は家族を奪われ、ヴェルデは大事な仲間を奪われた。

だから復讐を成さなくてはならないのだ。全てを奪った元凶に。

 

「これで満足してくれたかな?」

 

「ええ。十分過ぎる程に」

 

理由としては十分過ぎる。

ならばこれ以上疑いを持つのは良くない。

それなら良かったと笑みを浮かべたヴェルデは車の速度を上げる。

その隣で私は戦闘の準備を進める。

 

「…」

 

トラブルの解決方法は私が一から編み出した方法ではない。

こういった時は昔から存在する方法を真似する事が一番手っ取り早い。

目には目を。歯には歯を。

これが復讐の基本。

今も昔もそれはよく多用される方法だ。

雪に染まった街を車が駆け抜けていき、そして私たちが目指した場所へと到着した。

人里離れ、どことなく不気味な雰囲気を放つ精神病院。

日中では落ち着きあり、のんびりとした雰囲気が患者にとっては良いのだろうがその裏ではありとあらゆる不法行為が行われているとは知るはずもないだろう。

車が病院の前で止まり、私とヴェルデは車から降りる。

お互いに戦闘の準備は出来ている。二人して顔を見合わせてから頷く。

そして歩き出した矢先の事だった。

 

「!」

 

「!?」

 

突如として先ほどまで乗っていた車が爆発した。

いや、突如にしては狙った感が否めない。

今の今まで乗っていた車が今になって爆発したとなれば、どういう状況かなど言わずとも分かる。

私たちを歓迎してくれる存在がいるという事だ。

 

「歓迎会にしては物騒だね。…大方マルセルが手を回していたんだろう」

 

炎に包まれた車から離れ、近くの壁に身を寄せていたヴェルデがそう呟いた。

応戦するべきかと悩みつつペインキラーを引き抜いた時、ヴェルデが私に伝えてきた。

 

「外は僕が引き受ける。…内部の方を任せていいかい?」

 

外でこうなのだ。

どう考えても内部にも敵はいるであろう。

このまま此処にいた所で挟み撃ちに遭う可能性は低くはない。

であれば二手に分かれるが得策と言える。

それを分かっていた私は頷き、身を隠していた壁から飛び出し内部へと侵入する。

復讐から始まった大虐殺劇の終わりが薄っすらと見えつつあった。




色々謎がありつつもナギサ編も終わりへと向かいます。

変態趣味、そしてビジネス以外にも何かがしようとしているマルセル。

復讐する為に行動するナギサとヴェルデ。

さてはて…隠された謎、結末はどうなる事やらか。

では次回
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。