Devils front line   作:白黒モンブラン

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─隠された計画─


Act208 February 14th Revenge 16

外での熱烈な歓迎は何だったのか。

冷気が漂う落ち着いた雰囲気を感じさせる院内のエントランスホールには誰一人いなかった。

居るのは銃を片手に突っ立っている自身のみ。

それ以外誰もこの場にはいなかった。

手に持った銃を握り直し、私は歩き出す。

明確な行先がある訳ではない。だがここでずっと突っ立っているよりかはマシだろう。

構造故か一歩、また一歩と歩く度に履いているブーツが地面に当たる音がエントランスホールに反響する中、私は先ほどの事…この精神病院に到達した際に車が爆発した状況に疑問を覚えていた。

 

「歓迎会を開くにしては…」

 

まるでここに来る事を知っていた気がする。

そんな感じがしてならなかった。

遊園地を出てからここに来るまでの間、どれほどの時間を有したかは分からない。

だがマルセルが何らかの行動を起こしたと考えた方が良いだろう。

でなくては、今の様な状況にはならない筈だ。

 

「…ふふっ」

 

笑みがこぼれた。

それもそうだろう。どう考えても今は危機的な状況が迫っている。

だというのに今の私には焦りはなく、只々冷静だった。

何度もこのような状況を経験してきたからか。或いは自身がおかしくなったからか。

どのみち今更焦る必要などない。だから私は冷静にいられた。笑いをこぼす程度には。

 

「さて、と…」

 

何処に敵が潜んでいるのやらか。

明らかにおかしいこの静寂の中で私は手に持ったPainekillerを持ち直す。

そのままエントランスホールを抜けようとした時、正面のエレベーターの扉が開いた。

 

「!」

 

咄嗟に銃をエレベーターへと向ける。

しかしそこから誰かが降りてくる様子なく、それどころかエレベーターは下りを示したまま動く様子すら見せなかった。

それはまるで私がそれに乗るを待っているかのようだ。

普通に考えたら乗らないという考えに至るのが普通であろう。だが私の中で何かが囁いていた。

エレベーターに乗るべきだ、と。

 

「…行ってみよう」

 

その何かに従う様に私はエレベーターへと歩み寄った。

そしてエレベーターは私が乗り込むのを確認した後に下へと下り始めた。

駆動音だけが響く狭いそこで壁に背を預け、体が下に引っ張られるような感覚を覚えながら息を吐く。

そう言えば体が軽い気がするが何でだろうか……あ。

 

「Ots-14をヴェルデの車に置いたままにしてしまった…」

 

どおり軽く感じる訳だ。まだまだ弾が入っていたのに…。

だが今更取りに戻る事などできる筈がない。仕方ないと割り切るほかない。

取り敢えず今持っている銃と弾薬がどれだけあるか確認しておくとしよう。

 

「よいしょっと…」

 

下げていたショルダーバックを下ろし、中身を確認する。

 

「フラッシュバンとグレネードは余り持って来ていなかったからないのは当然として…。散弾とM92Fの予備マガジンは在庫切れ。残っているのはMP5の予備マガジン一つとPainekillerとマテバ6ウニカの予備のローダーがそれぞれ四つ、後はコンテンダーに装填してある一発と44マグナム弾が10発、か…」

 

正直心許ない。

Ots-14を車に置いたままにしてしまったのが痛い。

補充が出来ればいいのだが、精神病院に銃やら弾薬やらが置かれているとは到底思えない。

何とか耐えるほかないだろう。

ジッパーを閉め、ショルダーバックを背負い直したタイミングでエレベーターが止まった音がした。

どこに止まったのだろうかと思い顔を上げ視線を電光表示板へと向ける。

 

「…どういうこと?」

 

電光表示板にはなぜか階層の表情が出ていなかった。

故障だろうか。いや…それは到底考えづらい。

私がエレベーターに乗り込んだ時は電光表示板はしっかりと機能していた。

偶然故障したと装うにしては些か不自然すぎる。

そうこうしている内にエレベーターの扉が開く。

その先に広がったのは薄暗い廊下。その廊下が何処へと繋がっているかはここでは分からない。

 

『どうぞ先へお進みください。危害を加える事はしませんので』

 

先に進むべきかどうか悩んでいる時、誰かの声が響いた。

まるで何処からか自分を見ている様な口ぶりに私はエレベーター内を見回した。

そして上を見上げた時、そこにあったものを口にする。

 

「監視カメラね…」

 

『はい。この監視カメラを通して貴女を見ています。気分を悪くされたのであれば申し訳ありません』

 

「気にしなくていい。それにしてもこっちの声が聞こえるなんてね…この階層の至る所にマイクでもあるの?」

 

『いいえ。このエレベーター及びこの階層にスピーカーは備え付けておりますが、マイクは備え付けておりません。単に貴女が口にしている事を読み取っているだけです』

 

「…読唇術ってやつ?」

 

『良くご存じで。ええ、その解釈で問題ありません。…では、先にお進みください。こちらが誘導致しますので』

 

謎の声に促され、私はそっとエレベーターから降りる。

 

「…」

 

そこは精神病院の地下とは思えない程、雰囲気が異なっていた。

まるで異界。そう表すのが適切と言える。

一体何のためにこの存在しない地下階層を作ったのか。全く見当が付かない。

ゆっくりと足を進め、何処からか聞こえてくる機械が動く音を耳にしながら奥へと続く廊下を進んでいく。

しかしあの謎の声は私をどうしたいのだろうか。敵対する様子はないようにも見えるが信用出来ない。

謎の声に対する不信感を抱きながら長い廊下を通り過ぎ、別の部屋へと足を踏み入れる。

 

「!?」

 

そしてそこに広がった光景に私は思わず言葉を失った。

無駄に広い部屋を埋め尽くすかの様に列を成して並んだ培養槽。

なんのために使うか良く分からない謎の液体の中で人間が入っていた。

それも一つ二つどころではない。この部屋にある全ての培養槽に人間が入っている。

 

「小さい子供から大人まで……ん?」

 

数ある内の一つの培養槽の前で足を止める。

中に入っているのは二十代くらいの女性。ただその眠る姿は異様だった。

 

「なにこれ…目が開いたままになってる?」

 

となるとこの女性は死んでいるというのだろうか。

ではこの全ての培養槽で眠っている人たちは既に…?

 

『いいえ。ここで眠る人たちは全員生きております。貴女が前にしているそのお方は義眼を付けているです』

 

「義眼…」

 

だとしてもこの状態は普通ではない。

これではまるで実験体だ。

 

『聞きたい事は山ほどあるでしょう。ですが今はその質問に答える事は出来ません』

 

「その理由は?」

 

『理由?簡単な事です。まだ貴女は私と顔を合わせていない。それだけの事です。…さぁ、こちらへ』

 

そこで謎の声は途切れ、奥の方へ扉が開いた。

ここに居た所で答えが得られる訳ではない。

開いた扉へ私は歩みを進める。

色々と分からない事が多すぎる。

謎の声、この精神病院の存在しない地下、無数に並んだ培養槽の中で眠る人達…。

事態がどんどん別の方向へと進み始めている気がする。

見えない何かが始まろうとしている。そんな感覚を覚えながら私は謎の声が開けてくれた扉へと入る。

そこは先ほどの培養槽が並んだ部屋とは打って変わり、部屋全体が白く彩られていた。

そしてその部屋の奥には巨大な機材が鎮座しており、それと繋がれているようにも見えるいかにも座り心地が悪そうな椅子に両目を包帯で隠した一人の女の子が座っていた。

白と水色を交えた色をした髪はとても美しく見える。…彼女があの謎の声の主なのだろうか。

 

「貴女が…あの声の主?」

 

そう尋ねると彼女は頷き微笑んだ。

 

「初めまして、シーナ・ナギサ。私の事はAliceとでも呼んでください」

 

「Alice…それって本当に貴女の名前?」

 

「いいえ、この名前は仮名みたいものです。ですが私は私の本当の名前を忘れてしまっていまして。ですからAliceと名乗っています」

 

本当の名前を忘れてしまっている?

本当かどうかは分からない。

だがそれの真偽を確かめるよりも先ほど見たあの光景の事を問わなくてはならない。

 

「貴女が問おうしている事は分ります。ですがその前に私の話を聞いて頂けないでしょうか」

 

「話?散々焦らしておきながらまた先延ばしにするつもり?」

 

「ええ。先にその話をした方が後から話す内容も分かりやすいかと」

 

急いで知りたい所ではあるけど…。

仕方ない。今はAliceの話を聞く方が良さそうだ。

沈黙を了承と判断したのかAliceはありがとうございますと告げてから言葉を続けた。

 

「先ほどのアレを見たのであれば疑問に思ったはず。何故人間がまるで実験動物みたいに培養槽に入れられているのか、と」

 

「ええ。どう考えても普通じゃない。もっと言えばこの施設も普通じゃない。そして貴女も」

 

「でしょうね。ですが私とてこうなる事を知っていた訳ではありません。そしてあの培養槽に入れられている者達もこうなるとは思っていない。…全ては人間の価値を人形から取り戻そうとして行動した一部の者達による仕業なのですから」

 

「人間の価値を取り戻す…?」

 

ニュースなどで過激派組織がデモ活動を行っているのは知っている。

しかしここまでの事を出来るかと言われたら正直、反応に困るが…。

 

「はい。第三次世界大戦にて人類は大きくその数を減らした。世に人形という存在が放たれると、彼女達は失われた人類の労働力として務めてきた。人形の登場もあって人類は僅かながらも数を増やしつつあった。けど彼女達は優秀過ぎた…。代えが効く存在、低賃金で雇ったとしても問題のない存在…どの組織において人形達は重宝された。対して今までその組織で働いてきた人間達は退職へと追いやられた」

 

何処かのニュースで聞いた話だ。

その時は幼かったから理解できなかったが、内容は覚えている。

人形の普及により数多くの人間が今まで勤めてきた会社をリストラさせられた、と。

何の理由もなく只々会社を出ていくように言われ、満足のいく退職金すら払わなかったらしい。

そんな理不尽な事があれば誰だって怒りを覚える。

数多く企業にデモ集団が詰め寄り、騒ぎになっていた。

そう言えば企業以外にもデモ集団が詰め寄っていたと聞いたが……ん?待てよ…

 

「たしかそれって警察や消防以外にも…」

 

「はい。警察、消防以外でも軍でもそのような事が起きました。大きな暴動こそは起きたものの何時しか事件は人々の頭の中から忘れ去られていった。一部はその運命を受け入れ、一部は理不尽に抗う事が出来ず泣き寝入り。しかし…軍に所属していた者達は忘れる事などなかった。そして何時しか誓ったのです。自分達の手で人形から人間の価値を取り戻してみせる、と」

 

「…」

 

理解が出来なかった。

人間の価値とやらを取り戻す為に人間を訳の分からない培養槽に放り込み、まるで実験体みたいな扱いをしている。

この行いを経てどうやって人間の価値を取り戻すというのか。

そんな思いを込めた視線をAliceにぶつける。しかし彼女の表情は変わる事なく、言葉を続けた。

 

「あの培養槽に居る者達は身寄りのない者や或いは重い病気を患った事が原因で家族から見放された者達ばかり…そんな者達を使ってあの者達は、あろう事か有機物を埋め込んだ。一人は目、一人は喉…体の何処かにある装置を埋め込んだのです」

 

「…その装置って?」

 

「所謂ウイルスをばら撒くものです。民間用の人形に限定したもので、その効果は分かりやすく言えば人形を暴走させ人間を襲うものと言えば分かりやすいでしょう」

 

「何故そんな事を──」

 

そう言いかけて、私は理解した。いや、何故か理解してしまった。

人間の価値を取り戻そうとしている者達が人形に人間を襲わせる…その理由が。

 

「襲ったという事実が必要いるのか…。一か所で起きた所で意味がない。けど同時に数ヶ所で起きたとなれば…」

 

「はい。そうして人形に対する不安や不信感を利用する。後の事を考えているかは分かりませんが…」

 

色々と不鮮明ではある。

だが止めなくてはならないのは事実。

しかしどうやって止めるか。その方法を探らなくてはならないが、一つだけ気になる事がある。

 

「その物騒な計画にマルセル・インバランドは関わっているの?」

 

「はい。あの者もこの計画に関わっています。この精神病院の運営資金糖など計画に携わる事に関しての資金提供を行っております。最も何故あの者がこの計画に関わろうとしているのかはわかりません」

 

そこでAliceは言葉を止めて、顔を私の方へと向けてきた。

 

「…そして私は貴女にお願いしたい。この計画…ペインキラー計画の全容を公の場に公開してほしいのです」

 

奇しくも、というべきだろう。

人としての価値を取り戻そうとして、人としての道を外した者たちが企てた計画は私の手が握っている銃の渾名を同じ名前をしていた。




ご久しぶりです…。
まぁ…色々忙しかったので更新が遅れました。

内容もグダグダですが、何卒宜しくお願い致します。。

では次回ノシ
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