Devils front line   作:白黒モンブラン

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─残ったのは大きな傷─


Act211 February 14th Revenge 19

私の背後で精神病院が炎に包まれ、まるで地獄を再現しているかのように燃え盛った。

Aliceもあの培養槽に入っていた人たちも皆死んだ。あの場に残るのは煙と灰のみ。

障害は全て消えた。証拠は得た。

あとはあの男を殺すだけ。

だが奴がどこに身を潜めているのか知るはずもない。同時にAliceが残してくれた証拠を収めた記憶媒体をあの人に渡さなくてはならない。

隣に立つヴェルデにあの人の居場所を尋ねようとした時、彼女は誰かと連絡を取っていた。

そして私の視線に気づいたのだろう。ヴェルデは私に携帯電話を差し出してきた。

 

「相手は?」

 

「シャーレイ」

 

運がいいのか、或いはタイミングが良いのか。

どちらにせよ電話の相手がシャーレイなのは丁度良かった。探しに行く手間が省けた。

差し出されたそれを受け取り、耳に当てる。

移動しているのか電話越しから微かに車のエンジンが聞こえていた。

 

『随分とデカい花火ね、シーナ。ここからでも聞こえたよ』

 

「でしょうね。……証拠を得た。マルセルの人生が終わるレベルの」

 

『!…という事は計画の事も知った感じかな?』

 

「ええ。…それでシャーレイ、貴女にお願いしたい事がある」

 

『何かな?新しい武器かな?なんでもご用意させてもらうけど?』

 

分かり切っているくせに、とつい言いそうになる。

だがシャーレイのそういう所は嫌いにはなれない。

 

「計画、マルセルの悪行を示す証拠を収めた記憶媒体を貴女に渡したい」

 

『へぇ…?それじゃこちらは何を用意したらいいかな?』

 

「マルセルの居場所。それだけでいい」

 

結末は近い。

残された武器はごくわずかだが、マルセルを仕留めるだけなら問題ない。

全てを終わらせる。その結末に残るものがなかったとしてもだ。

 

『…君が持つその証拠を世間に公表すれば、マルセルに対する復讐は完了すると思うんだけど?』

 

確かにそうだろう。

よく聞く話、復讐を成し遂げた所で何も残らないという。

だがそんな事は最初から分かり切っている。

あいつを殺した所で両親が、叔父が帰ってくるわけではないのだ。

それでも──

 

「…それで済むほど私の復讐は安くはない」

 

高くついたツケは払って貰わなくてはならない。

 

『…そうか。覚悟は出来ているという訳だね?』

 

「ええ」

 

この手は既に血に染まってしまっている。

洗い流そうとしても、落ちないくらいに酷くこびりついている。

今更やめるという選択は許されない。

 

『…分かった。すぐにそっちに向かおう。少しの間、ヴェルデと一緒に待っていてくれ』

 

「了解」

 

そこで電話が切れる。

持っていた携帯電話をヴェルデに返すと、廃車と化し鎮火した車だったものに背を預ける。

冷たい風が頬を撫で、降り続ける雪が衣服に着陸していく。

何もない時間。只々待つだけの時間。

それが無駄に虚しく、何よりも辛く感じられた。

 

「…君くらいの歳なら、普通に学生をしているんだろうね。多分バレンタインデーを楽しんでいた筈だ」

 

「"普通"に生きていたら、そうかもね…」

 

甘味の代わりが酷く熱い火薬まみれの銃弾。

バレンタインデーを楽しむにしては、最悪な楽しみ方だ。

 

「…ありがとうね、ヴェルデ」

 

「いきなりどうしたのさ…って言いたい所だけど、気付いていたんだね?」

 

「ええ」

 

そう答え、私は彼女の肩を見た。

止血処置は済ませたのだろう。だが肩に巻いた包帯は赤く染まっていた。

そこから見て分かる通り、ヴェルデは負傷していた。

私が院内に入って、戻ってくる間に戦っていた事が分かる。

そして負傷具合からして、ヴェルデは戦えるとは思えない。

だから私は彼女にお礼を伝えたのだ。

ここまで来るのに、私一人の力では無理だった。

ヴェルデに出会い、彼女の助力があったこそここまで来ることができた。

 

「撃たれたのね」

 

「まぁね。ちょっと油断してしまった」

 

「…戦う事は無理そうね」

 

「…多分無理かな」

 

ため息をつくヴェルデ。

手にしていた銃を手放すと彼女は私の隣に立ち、廃車に背を預けた。

 

「今までありがとう、ヴェルデ」

 

「こちらこそ。最も僕の場合は君に謝らなくてはいけないかな」

 

「謝る?どうして?」

 

「僕らは君の復讐を利用しているからね。関係ない事まで君を巻き込んでしまった責任もある。まぁ…それなりの罪悪感を感じているって訳さ」

 

「良いよ、別に。大して気にしていないし」

 

そうなってしまっただけに過ぎない。

誰かが私の復讐を利用したとしても、だ。

ヴェルデと出会い、シャーレイが手助けし、復讐を利用したことによって今がある。

過程を気にしていた所で、結果良いのであれば気にする事でもないのだから。

 

「復讐が終わったらどうするつもりだい?」

 

「分からない。ただ出来なかった事をやっていこうかなって思ってる」

 

「それは?」

 

「お菓子作り。お父さんとお母さんに教えてもらっておきながら一度もしてこなかったから」

 

「そっか…。とても良い事だと思うよ」

 

「ありがとう。…!」

 

車のエンジン音が遠くから聞こえる。

その音は段々と私たちがいるこの場所に近づいてきていた。

すると二台の車が私たちの前に姿を現し、近くで止まった。

内一台の運転席にはシャーレイの姿があった。

 

「やぁやぁ、此度はシャーレイタクシーをご利用いただきありがとうございますってね」

 

「乗り心地が悪そう響きね」

 

「酷くない?!」

 

冗談よ、と答えながら私はシャーレイの乗る車へと歩き出す。

ふとヴェルデの方を見れば、もう一台の車へと乗り込もうとしていた。

これ以上の言葉は要らないだろう。でないと別れが苦しくなる。

彼女に言葉をかけることもなく、私は車へと乗り込む。

そして二台の車は別々の方へと走り出していった。

 

 

揺れる車内。

代わり映えのしない町の景色。

何度も経験した移動時間。一つを除き、全てが同じに感じられる。

 

「はい、これ」

 

Aliceが集めた情報を収めた記録媒体をシャーレイに渡す。

運転しながらもシャーレイは受け取った。

 

「確かに頂いた。じゃあ次は私が奴の所に案内しないといけないね」

 

「お願い」

 

会話が途切れ、沈黙が訪れる。

しかしその沈黙は数秒も持たなかった。

 

「何故マルセル・インバランドは例の計画に加担したの?」

 

何故なら私が全てを知っているであろうシャーレイに尋ねたからだ。

 

「単純な話さ。金稼ぎになるからさ」

 

「本当にそれだけ?」

 

「それだけさ。人形を撲滅するという気なんて奴にはない。それどころかアレは議員で変態である一方で誰も知らないもう一つの顔があるのさ」

 

「それは?」

 

「武器製造会社の社長」

 

それを聞いた時、何かが繋がった気がした。

しかしまだ答えには至らない。

それを察したのかシャーレイは言葉を続けた。

 

「奴が秘密裏の経営している会社は人形用、人間用と両方の武器を製造している。例の連中に武器を提供しているのはその先の事を既に見据えていたんだよ。このまま順調に事が進めばいずれ人形撲滅を掲げる過激派とロボット保護団体過激派との衝突が起きる…その事ね」

 

「けど片方だけに加担していない。両方に武器を提供し利益を得る気なんでしょ?」

 

「正解。あの男にとってはドンパチなんて一番の稼ぎ時みたいなもの。欲しがる連中が居れば居る程、稼ぎになる。まさしく死の商人と言わざるを得ないね」

 

結局は金におぼれた俗物という事なのだろう。

だが疑問はまだ残っている。

マルセル・インバランドが金稼ぎにしか興味のない成金野郎として、グリフィンのS10地区前線基地の部隊が関わってくるのは何故なのか?

 

「じゃあS10地区前線基地が今回の一件に首を突っ込むのは何故?マルセルを捕らえる…という訳じゃないんでしょ?」

 

「その事か。まぁ単純な話さ。その指揮官も例の連中の一人なんだよ。グリフィンに潜入して、内部からの破壊を目論んでいるんだろうね。最もグリフィンがそれを認識していないとは言えないけど」

 

「…教えたの?」

 

「正解。武器商人は辞める訳だけど、無職のままじゃいけないからね。情報を提供する代わりにグリフィンから色々良い待遇を受ける事になった訳さ。あ、それと廃遊園地で捕らわれていた子たちは全員無事警察に保護され、病院で検査受けているらしいから安心してくれ」

 

だから名前だけしか知らない筈の私を手助けしてくれたのだろう。

とは言えそれに憤りを覚える事はない。

彼女の助けがなかったら、今に到達する事はなかったかも知れないからだ。

それと最後に教えてくれた情報はこの復讐劇の中でとても喜ばしい情報と言えた。

アリシアやユキノ、あの場に居た人質らが無事だったのは素直に喜ぶべきだろう。

 

「…さて、もう少しで奴がいる会社にたどり着く」

 

そう告げたシャーレイの視線の先を追う様に顔をそちらへと向ける。

先にあったのはこの町で一番高いとされる高層ビル。高層マンションかと今まで思っていたがマルセルが運営している会社だったとは思いもしなかった。

 

「奴は自分専用の部屋、二十五階の奴専用の部屋にいる筈だ。ただ今頃は逃げ出す準備に躍起になっているだろうね。護衛もいないし。逃走用のヘリは用意しているみたいだけど肝心のパイロットもいないから自分で操縦するつもりなんだろう」

 

車が停車する。

ドアを開き、車から降りそのままマルセルが潜んでいるビルへと歩き出そうとした時、シャーレイが呼び止めてきた。

足を止め、後ろへと振り返り、彼女を見る。

先程まで余裕そうな笑みを浮かべていたというのに、今は心配げな表情を浮かべていた。

 

「…死んだら駄目だよ。君が死んだら私も悲しいし、何より妹のアリシアが悲しむ」

 

元であるが、武器商人の彼女がそんな事を言うのははっきり言って珍しかった。

いや…むしろ彼女は私が死のうとしているのを見抜いているのかも知れない。

彼女は元武器商人なのだ。

言葉での密かなる殴り合いで相手が何を考えているのかを見抜く程度の実力はあると言っていい。

しかし、死んだら駄目、か…。

どう返すべきか悩むが…今、言えることはこれだけだろう。

 

「善処するよ」

 

死ぬかも知れないし死なないかも知れない。

どっちつかずを現す魔法の言葉を口にし、私は高層ビルへと歩き出すのであった。

 

 

マルセルが潜んでいるであろうビルのエントランスホール。

そこでは奴を守る護衛もいなければ、助ける者もいない。

町のベールに包まれながらも虚勢だけを張り続ける城の内部が私の視界に広がる。

ガラスとスチールに包まれたエントランスホールは、時代の最先端を認識させ、同時に材質故か滑らかさを感じさせる。だがそこに魂はない。

只々冷たい。手に握ったPainekillerの冷たさが骨の髄にまで食い込んでくる冷たさと同じように。

 

「…さて」

 

既に機能が停止しているのか。

私は何も気にすることなくセキュリティゲートを潜り抜ける。

鳴るはずであろうセキュリティは反応することもなく、逆に私が復讐を成すことに賛成しているかのように先へと進ませた。

そしてエレベーターに乗り込み、マルセルがいる25番のボタンを押した。

音を立て上り始めるエレベーター。それが天国への導きになるのか、或いは地獄への切符となるか。

少なくても私と奴には天国は有り得ない。手に握った銃と同じく、その手に握るは地獄への片道切符だ。

 

「…」

 

決着の時は近い。

最後の武器となったPainekillerに弾丸を装填しシリンダーを元の位置へと戻す。

全てはこの時の為。

多くの者達から命を奪ってきた似非議員のマルセル・インバランドは今日死ぬ。

悪事によって稼いできた金で棺桶を買うのだから。

エレベーターが25階に到達した事を知らせる。

ゆっくりと開く扉。

私はその先…マルセル専用のオフィスへと足を進めた。

カジュアルな雰囲気を感じさせるオフィスだがあの男には合っていない。

奴に合うのは牢屋か地獄の釜だけだ。

 

「えぇぃ…何故私がこんな目にぃッ…!!」

 

奥から怒気を交えながらも焦るような声が響く。

テレビで聞く声からして、今の声は民衆が見れば想像できるものではないだろう。

だが間違いない。この声はマルセル・インバランド本人だ。

 

「どいつもこいつもまるで使えん…!くそっ!くそっ!くそっ!」

 

全て上手くいくと思っていた故か、奴は冷静ではなかった。

それはそれでありがたい話だ。

人は熱くなるほど間違いを犯しやすいものなのだ。

さて…最悪な初対面と行くとしよう。

 

「随分と─」

 

撃鉄を起こす。

かちりと音が鳴り、シリンダーが回る。

 

「ご機嫌斜めの様ですね?マルセル・インバランドさん?」

 

容赦はしない。取引もしない。

この先に起きる事は『死』であり、そしてその先に残るものを私は知っている。

『痛み』と『苦しみ』だ。

 

「き、さまぁ…!」

 

マルセルは私を見るとまるで化け物みたいな表情で睨んできた。

善人を気取った民衆向けの顔はそこにはなかった。

 

「お前みたいなガキがいなければッ!あの時死んでいればこんな事にならなかったのだッ!!!」

 

そこには只々悪人としての今から死ぬ哀れの男の姿しかしなかった。

 

「お前さえ生まれなければあの二人も死ぬ事はなかったろうに!!」

 

確かにそうかも知れない。

私が生まれなければ両親が死ぬ事はなかったであろう。

だが私は生まれた。そして失った。

この男によって全てを奪われた。

今度はこいつから全てを奪う。奴の人生そのものを奪う。

 

「辞世の句はそれでいい?誰も見向きしないだろうけど」

 

引き金に指をかける。

狙うは奴の頭。この一発で全てが終わる。

 

「ガキが舐めるなぁッ!!!!!」

 

「ッ!!!」

 

抜かった。

どこに隠し持っていたのか、マルセルが撃った銃の弾丸が頬をかすった。

焼ける様な痛みが襲い掛かる。態勢が崩れ、尻餅をつく。

その隙にマルセルは色んなものを詰め込んだアタッシュケースを片手に駆け出していった。

行き先は恐らくヘリポート。ヘリに乗って何処かで身を隠すのだろう。

だが逃がさない。決着をつける。

 

「逃がない…!」

 

私の中にある亡霊達が囁く。

復讐を遂げろと。全てを奪えと。恨みを晴らせと。

歯を食いしばり痛みに耐えながら立ち上がる。

そしてヘリポートへと向かったマルセルを追いかける。

階段を駆け上がり、バルコニーへと飛び出る。

雪が降り、冷たい風が吹いていた。

それは痛みとなって私の体に襲い掛かる。しかしそれも数秒も経てば痛みすら感じなくなる。

Painekiller(鎮痛剤)と名付けたこの銃のおかげか、或いは私がおかしくなっているのか。

最早それを考える頭すらない。ただひたすらに、重くなった足を強引に動かしマルセルを追いかけていた。

切り裂く様な冷気の中、ヘリポート近くにへとたどり着いた時、自分に気付いたのかヘリの操縦席に乗り込んだマルセルが銃撃を仕掛けてきた。

咄嗟に身を隠し、銃撃を避けるも向こうは私をここに釘付けにするつもりなのか。反撃のチャンスを与えない。

そうこうしている内に奴が乗るヘリは飛び立とうとしていた。

 

「!」

 

銃弾の雨が降り注いでいるにも関わらず、身を隠していた場所から飛び出す。

手にしたPainekillerを構えマルセルが座る操縦席へ向かって狙いを定め引き金を引いた。

Painekillerから放たれる弾丸と操縦席から放たれる弾丸が交差する。

頬をかすり、手の甲をかすり、太股をかすり、私が放った弾丸は機体に当たっていく。

 

「ッ…」

 

痛い。途轍もなく痛い。

血が流れる。力が抜ける。視界が眩む。

狙いがぶれる。寒さで手がかじかむ。

身体が言う事を聞かない。音が遠くなっていく。

 

 

 

「全ては…」

 

 

 

何の為に『普通』を捨てた?

 

 

 

「この時の、為に……!」

 

 

 

何の為に『悪』へと堕ちた?

 

 

 

「だから…」

 

 

 

何の為に『殺し』を覚えた?

 

 

 

「絶対に…!」

 

 

 

何の為に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓で眠る両親と『決別』した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復讐する為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁあああああああ!!!!!」

 

僅かに残った力を振り絞り、素早くPainekillerのシリンダーを取り出し、ロッドを叩き排莢。

最後の一つとなったローダーを使い、再装填。

シリンダーを元の位置へと戻した時、一発の弾丸が肩に直撃する。

 

「ッ!!」

 

態勢が崩れ、激痛が走る。

コートに防弾加工されているとはいえ、ものすごく痛い。

痛みで意識を持っていかれそうになる。

それでも…!!

 

「ま、だああぁぁッ!!!!」

 

強引に態勢を直し、Painekillerを片手で構える。

残り六発。だけどそれでいい。

それだけあれば…!

 

「六発あれば…十分、だからッ!!!!!」

 

 

 

引き金を引く─

 

銃口から弾丸が吐き出され、マルセルが手に持っていた銃を弾き飛ばす。

 

引き金を引く──

 

二発目の弾丸が男の肩に直撃する。

 

引き金を引く───

 

三発の弾丸が胴体に直撃する。

 

引き金を引く────

 

四発目の弾丸が再び胴体に直撃する。

 

引き金を引く─────

 

五発の弾丸が胸に直撃する。

 

そして──────

 

最後の引き金を引いた。

 

放たれた弾丸は真っ直ぐと。

ただ真っ直ぐと。まるで吸い込まれるかのように雪の中を駆け抜け…

血塗れの男、マルセル・インバランドの頭を穿った。

操縦席で人形のように男は崩れ落ち、ヘリは操縦者を失い回転しながら落下し始める。

男を収めた棺桶(ヘリ)はヘリポートへと激突し、爆ぜる。

外へと飛び出すように備え付けられたヘリポートは崩れ始め、炎に包まれたヘリと共に地表へと消えていった。

 

「…」

 

激痛が走る体を引きずり、ヘリポートの端まで近づき下へと視線を向ける。

そこに残っていたのは、炎で燃え盛るナニカと黒煙のみ。

 

「…」

 

一気に力が抜ける。

手すりに凭れ掛かるかのように崩れ、私は空を見上げた。

いつの間にか雪は止み、雲が晴れていた。

そこから見える夜空を見つめる。

 

「お父さん、お母さん…」

 

今は亡き二人を呼ぶ。

当然返答はない。

 

「私、やったよ…」

 

心の中で何かがこみあげてくる。

同時に頬に何かが伝う。

 

「私、やったんだよ…」

 

それはとても痛くて…

 

「あぁ…」

 

とても辛くて…

 

「ああ…あぁぁ…」

 

とても苦しくて…

 

「わあああああああッ!!!!!!!」

 

とても虚しかった。

 

 

 

彼女の敵は全員息絶えた。

最後の銃声は全て締めくくり彼女は鎮痛剤(Painekiller)と名付けられた銃の引き金から指を離す。

これで彼女の復讐劇は幕を閉じる。

その代償に心に大きな傷跡を残して。

 

 

 

 

「それで全てが終わった。小難しい事はシャーレイらに任せて、私は一年ほど行方をくらまし、その後に訳合ってグリフィンに入る事になったという訳。…これが私が犯した罪。二月十四日の復讐者の物語はこれで終わったの」

 

それを最後に室内は沈黙に包まれた。

誰しもが目の前にいた一人の少女の過去に言葉を失っていたからだ。

誰一人とて口を開かない状況で、シーナはゆっくりと立ち上がった。

 

「これを聞いて、私を恐れて異動願いを出すのであればそれでもいい。私は反対しないから」

 

フッと微笑み、シーナはその場から去っていく。

彼女が去る姿をその場にいた全員が見届けると、腕を組みを背中を壁に預けながら話を聞いていたギルヴァは外へ歩き出した。

 

「ギルヴァ、どちらへ?」

 

隣に立っていたシリエジオが尋ねるとギルヴァは足を止めることなく、外へ向かいながら答える。

 

「店に戻る」

 

「店に戻るって……まさか」

 

「何を思っているかは知らんが勘違いするな」

 

その言葉は普通の声量にも関わらず、大きく響く。

そして彼は足を止めると、口を開いた。

 

「奴が過去に何をしていようが、俺は気にせん。それだけだ」

 

そう言い残してギルヴァは部屋から出ていく。

それに続くかのようにブレイク、ルージュが出ていき、ブラウ・ローゼの面々も退出していく。

つまりそれはここを離れる気などないという答えの表れであり、S10地区前線基地に属する人形らも部屋から退出していく。

そして最後には誰一人部屋に残る事もなく、シーナ・ナギサの復讐劇の話は幕を閉じる。

結局の所、S10地区前線基地から離れる者は誰一人とておらず、それどころかネロが若干憔悴気味のシーナに対して元気づけるつもりが告白まがいな事を口にし、基地内で軽い騒動になるのだがそれはまたの機会に話すとしよう。




これにてFebruary 14th Revenge 編は終了でございます。
復讐成し遂げたシーナのその後、また救われた者達や彼女に協力した者達のその後やその他もろもろを書こうかと思っていますが、それは追々。

次回は…ちょっくらドンパチに参加します。ではノシノシ
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