アルゴノーツ・カライナを途中下車し数十分が経った時。
ネロはギルヴァと共にこのS09地区に戻ってきており、密かに行動しているテロリストらを制圧する為に効率を重視し一旦ギルヴァとは別々で行動していた。
「ここらには居ないみたいだな」
路地裏から表通りへと姿を現すネロ。
肩を軽く回しながら周囲を見渡す。避難誘導のおかげか、人通りは全くなく静けさが漂っていた。
「あらかた見て終わったが…」
見て回り始めた時と比べてテロリストとの遭遇回数が減ってきている。
その事には彼女も気付いており、どうしたものかと頭を悩ませた時、視界の端にある場所が映った。
それへと顔を向けるとネロはふーんと声を漏らした。
「道路橋、ね…」
かつてこの世界に訪れた時、悪魔騒ぎの現場となった道路橋。
今そこにグリフィンの部隊が展開されているかどうかは定かではなくテロリストらが潜んでいるかと言われれば、潜んでいない確率が高いだろう。
「取り敢えず行ってみるか」
しかし見てしまったからには気になるもの。ましてやこの状況下では尚更。
取り敢えずと称してネロは道路橋へ向かって歩き出すのであった。
その頃、ギルヴァは裏通りを歩いていた。
この世界に渡ってきた者達、グリフィンなどといった組織の活躍もあってギルヴァはテロリストらを遭遇する事はなかった。
ただ避難誘導の影響もあって、ギルヴァ以外の人の姿はなく、また遠くから銃声だけが響いていた。
―誰一人も居ねぇな
「ああ」
真っすぐと続く通りを歩んでいく中、ふと蒼が呟きギルヴァは肯定の声を上げる。
―しっかし分からんな。あのテロリストらは何が目的で列車砲なんぞ奪ったんだ?
「…」
その問いはギルヴァは答えなかった。
自分が引き起こした訳ではないのだ。当然ながらテロリストらの考えが読める訳でもない。
「そんなものを考えるだけで時間の無駄だ」
考えた所で時間の浪費に過ぎない。
蒼にそう伝えるとギルヴァはふと足を止め、軽く周りを見回した後前方を見つめた。
「…む」
─おっと?ここは…
偶然と言うべきか。ギルヴァは自身が気付かない内に喫茶 鉄血がある裏通りに来ていた事に気付いた。
蒼もそれに気付いた様子である。
―どうする?一足早く休憩するか?
「後で良い。まだ終わってなどいないからな」
―そう言うと思った。…それと道路橋の方で何か起きてるみてぇだな。ネロの気配もある
「そうか」
蒼の情報に頷くと気配を消しつつギルヴァは歩き出した。
青い刺繍が施された黒いコートを揺らしながら静かに彼は喫茶 鉄血の前を通っていく。
ふとちらりと店内を見れば、何らかの作業しているフォートレスの後ろ姿があったのだが彼は足を止める事はしなかった。
誰にも気付かれぬ事もなく、店の前を通り過ぎていくとギルヴァは裏通りから表通りへと繋がる路地裏へと入っていきそのまま姿を消した。
だがその直後、慌てて店から飛び出してきたフォートレスが姿を見せる。
まるで誰かが探している様に周囲を見渡すも、彼女の探している人物はどこにもおらず残念そうな表情を浮かべる。
「…この感じ、やっぱり…」
そう呟きながらフォートレスはそっと群青色の桜の形をしたヘアアクセサリーに手を添える。
すると何かに呼応する様に桜のヘアアクセサリーは、どういう訳か薄っすらと桜の花びらを模った幻影を舞い上がらせるのであった。
一方でネロは道路橋に到達していた。ただそこに広がった光景に彼女は思った。
ここまで来た甲斐はあったみたいだな、と。
ネロの目に映るはまるでパレードをしているかの様にゆっくりと迫ってくる大量の武装したテロリストらと複数の戦車や装甲車の姿。
警戒されていない所を狙ったのか分からずとも、敵がこの道路橋を超え街へ入ろうとしているのは言葉にせずとも分かる。
当然無視していい筈もなく、ネロはホルスターに納めてある特殊リボルバー『アニマ』を引き抜くとわざと戦車へと目掛けて発砲した。
拳銃の弾丸では当然ながら戦車の装甲を貫く事は出来ない。そんな事はネロも分かっている。
にも関わらず発砲したのは銃声で敵の足を止める為であった。
「おい、ここはパレード禁止だぜ?やるんなら他所でやんな」
ここから先へは通すまいとネロはアニマをホルスターに収め、クイーンを肩に担ぎながら、テロリストらを前にして立ちふさがった。
突然現れた彼女にテロリストらは身構えるが、彼女一人だけだと気付くとその表情にも余裕が生まれていた。
この数をたった一人で相手に出来る筈もない。どうせ成す術もなく逃げていくに違いない。
そう言った慢心がこの後に地獄を見る事になるのだが、テロリストらの全員がそれに気付く筈もなく立ち塞がったネロを見ながら嘲笑う。
しかしそんな嘲笑に意を介す様子もなく、ネロは軽く肩を竦めクイーンの刀身を地面に宛がった。
「悪いな、ギルヴァ…」
獰猛な笑みを浮かべると彼女はクイーンのグリップを捻る。
バイクのエンジン音に似た音が低く唸る。まるでそれはテロリストらを威嚇している様だ。
「俺が頂くぜ!」
そして今この場に居ないギルヴァに向けてそう告げるとネロは駆け出した。
「たかが一人だ!!撃ちまくれ!」
分厚い弾幕を最小限の動きだけで華麗に回避しステップを踏みながら掻い潜るネロ。
一瞬の隙を見て地面を勢い良く蹴り突進。テロリストらの目の前まで接近するとクイーンを構える。
「おせぇよ!」
刀身を大きく振りながら持ち手付近のレバーを引き体を大きく回転。
回転と推進剤噴射機構によって速度を上げられた横薙ぎの一撃は大の大人たちを軽々と吹き飛ばす。
舞い上がる炎。吹き飛ぶテロリストら。
それがたった一人の人形がやったと思うにはあまりにも信じ難い光景だろう。
だが現実というのは無慈悲なもので。そこで起きている事象は夢ではないとテロリストらに告げていた。
「それじゃあ行くぜ!!」
敵群の一部を吹き飛ばし、そのままネロは敵群中枢へと突撃。
ハイエンドモデルとしての力、悪魔の右腕から得られた力。それを総動員させ立ち塞がるテロリストたちを蹴散らし、装甲車を容易く破壊。
そのまま戦車に攻撃を仕掛けようとした時、突如として戦車が真っ二つに両断された。
訪れる沈黙。
目を見開いたまま啞然とするテロリストたち。
誰の仕業か分かっている為、軽くため息をつくネロ。
「「「「えええええええ!!!???」」」」
すぐに理解出来ずとも、数秒かけてその戦車が真っ二つに両断された事実を理解し、その現実を認めた瞬間、テロリストらの驚く声が道路橋に木霊する。
一方ネロはそんな事を普通にやってのける人物を知っている為、驚く様子もなくクイーンを肩に担ぎ後ろへ振り向くとやっぱりと言った表情を浮かべた。
「遅すぎねぇか?パーティーはもう始まってるんだぜ?」
攻撃の動作を終え、姿勢を直すギルヴァに対しそう問いかけるネロ。
その台詞にギルヴァはほう?と声を上げる。
そして無銘の刀身をテロリストらへと向けて突き付けながらネロへと問う。
「では、あれらがもてなす客として相応しいと?」
「まぁ言われてみれば…」
その指摘を受け、ネロは苦笑いを浮かべながらギルヴァの隣に並び立つ。
「確かにそうかもな」
ネロの返答を合図にギルヴァは勢い良く無銘を振り下ろし、ネロ共にテロリストらへと向かって歩き出す。
たかが一人増えただけ。だがテロリストらは気付いてしまった。
あの二人を相手するには戦車やら武装した奴らをかき集めただけでは勝てない。
最早その強さは人智を超えている、と。
そんな状況でテロリストらを纏めるリーダーが体を震わせながらも指示を飛ばした。
「よ、よし!お前ら行け!!その内に俺は逃げるから頼んだぞ!!」
「「「「逃がすかボケェ!!」」」」
逃げ出そうとするリーダーを仲間たちが取り押さえ、逃亡を阻止。
そうこうしている内にギルヴァとネロは地面を蹴り、突進。
指揮系統が機能しているテロリスト集団へと攻撃を開始。身体に当てるつもりはない。
攻撃手段だけを奪う。ギルヴァもネロもその考えでいた。
「よっと!」
右腕のおかけもあって身体能力が飛躍的の向上したネロは地面を蹴り跳躍。
人間一人の身長を普通に超える高さまで飛び上がると、魔力の扱い方を覚えたのか空中で魔力で形成された足場を作り、それを蹴って飛び上がる技『エアハイク』で宙へと舞い上がりながらクイーンのグリップを捻り、推進剤噴射機構を三段階まで解放。
そのまま空中で体を翻すと同時にクイーンの刀身を突き立て。レバーを引く。
勢い良く噴き出す推進剤を推進力に斜め下にいるテロリストらへと向かって突進。
『ペイライン』と名付けた技。
推進剤噴射機構の力もあって一瞬とも言えるその速度にテロリストらが反応できる筈もなく、飛んできた一撃に吹き飛ばされていく。
「途中下車した分の仕事はしなくちゃならねぇからな。お縄につくか、痛い目みるか…どっちが良いか選びなぁッ!!」
「降参する前に攻撃されたら降参もで…ぐはぁッ!!」
テロリストが何か言っていたが、攻撃で吹き飛んできた仲間の一人がぶつかってきて、その台詞がネロに届くこともなく。
言っている事と行動が矛盾している気もしなくはないが、ネロは途中下車した分の仕事を完遂する為に敵集団へ突撃、派手に暴れ回っていく事にした。
その一方でギルヴァはじっと身構えるテロリストらを睨んでいた。ネロの様に暴れる様子もなく、ただじっとそこで立ち尽くしていた。
この男は戦意喪失した相手を攻撃しない奴だと判断したのだろう。テロリストらは自分達は痛い目を見ずに済むと安堵の息を漏らすのだが、先程逃げ出そうとしたリーダーが銃を構え、発砲と同時に叫んだ。
「今だ!やっちまえ!!」
「「「「この戯けがあああぁぁぁ!!!」」」」
さっさと降参してお縄に付けば終わりだったというのに、リーダーによってその計画は台無しに。
そしてギルヴァは敵はやるつもりだと判断すると、自身の背にある物を展開させ、柄を掴み取り出した。
それは『幻影』を渡した彼女…アナが愛用する刀『アメノハバキリ』を魔力で錬成したものであった。
かつてあの大規模作戦時にも使用したそれ。
若干細部と大きさが異なっているのだが、誰がどう見てもそれだと言うかも知れない。
だがギルヴァはその魔力の刀に『アメノハバキリ』とは名付けず、『ツムガリノタチ』と名付けていた。
右手に握ったツムガリノタチを、そして腰に携えた無銘を左手で器用に抜刀するとギルヴァは腰を低くして構える。
そしてテロリストらへと一言告げた。
「行くぞ…!」
ツムガリノタチを突き出すと同時に体を高速回転。
刃の嵐を化したギルヴァがテロリストらへと向かって突進。
次々とテロリストらを吹き飛ばし、次々と装甲車や戦車を破壊していく。
最早それを止める術などテロリストらにある筈もない。暴れ回る二人に残されたテロリストらは、もうどうにでもなれと戦う事を放棄し遠い目で空を見つめるのであった。
道路橋に戦いの後の静けさが漂う。
破壊された戦車、破壊された装甲車、気絶したテロリストら、降参しその場に座り込むテロリストら。
一体ここで何が起きたんだとつい口にしたくなる程の惨状が出来上がっていた。
ネロは破壊された戦車の上に乗っかり退屈そうな表情を浮かべながら時間を過ごし、ギルヴァは近くの鉄柵の上に腰掛け、コートの懐から取り出した本を片手に読書に没頭していた。
そんな時、道路橋での戦闘を聞きつけたのかグリフィンの部隊が到着。そこに広がった光景に誰しもが言葉を失った。
「…もう終わっていたみたいね」
かつてこの道路橋で起きた悪魔騒ぎを経験したFALがその光景を見つめながら呟いた。
その呟きに同じくして悪魔騒ぎを経験した事のあるMG5が答える。
「らしいな。…しかし一体誰が」
「簡単よ。そこで読書に没頭してたり、真っ二つに別れた戦車の片割れの上でのんびりしている奴がいるじゃない」
「あー…」
空いた手で頬を掻くMG5。
あの二人がこの状況を作ったのであればと納得する。
降参したテロリストらをグリフィンの者達が対処に当たり始める中、彼女達が来た事に気付いたネロがその方向へと振り向き、見つめる。
「こりゃ俺らの仕事は終わりみてぇだな」
アルゴノーツの方がどうなっているかは分からない。
だがあれだけの戦力があれば何とかなるだろうと思い、ネロは敢えて気にしない事にした。
そこにFALが話しかける。
「久しぶりね。変な義手を扱う処刑人」
「そっちもな、FAL。それと名前が変わってね。次と呼ぶときはネロって呼んでくれ」
「了解よ。…しかしこっちに来てたとはね。例の鏡で来たのかしら?」
「正解。…まぁ俺は居合わせただけなんだけどな」
あの場に自身が居なくても、ギルヴァは一人でこの世界に渡っていたであろう。
その事は簡単に予想する事が出来たネロは軽く肩を竦めながらデビルブレイカーと専用のアタッチメントを外す。デビルブリンガーが姿を見せるも、袖を捲くってはいない為何ら問題はなかった。
「まぁ事が収まるまでは協力するさ。こっちから首を突っ込んだからな」
「そうしてもらえると有り難いわね。まぁのんびりしてて」
「あいよ」
去っていくFALを見送るとネロは静かに空を見上げる。
(…後は喫茶店に行くだけか)
そう思いながら流れゆく雲を見つめる。
訪れた静かなひと時をネロは堪能し始めるのであった。
はい…。アルゴノーツ・カライナを途中下車したギルヴァとネロの二人ですが、かつて悪魔騒ぎが起きた道路橋で暴れさせてもらいました。
後は主催者様にあわせるつもりでございます
では次回