シーナの命令により前線へと飛び込んでいったルージュ。
オートスコアラーと共に市街地へと飛び込んだのは良いものの、強化されたパラデウスの兵士の登場に加え、例の如く戦場の各地にイレギュラーらが現れたという一報を受けると彼女は険しい表情を浮かべていた。
強化されたパラデウスは氷結の能力を持つコキュートス・プレリュードでどうにかなる。
問題は、突然現れたイレギュラーにあった。
(…面倒な)
まず第一に思ったのがそれであった。
正直言うとルージュは突然を装いながらも狙った感を否めない感じで現れるイレギュラーという存在に嫌悪感を抱いていた。
普通の手段では倒せない。倒しても倒しても幾らでも湧いてくる存在。
実際に相手をした訳ではないがあの大規模作戦に最初から参加していたギルヴァとブレイクからそのような敵がいたという話を聞いていた。
敵が悪魔の様な存在ならまだ良い。何故なら普通の手段で倒せるのだから。
ともあれまずは目の前に強化されたパラデウス兵の排除が優先。
ルージュは気にすることもなく大鎌を構えジャウカーンを援護する為、突進。
「…思った以上に早く"出番"が回ってきたみたいですね…」
「出番?誰か来るのですか?」
その口ぶりは誰かにへと伝えるような台詞。
まるで"この時を待っていた"と言わんばかりの台詞を共に大暴れしながらも傍で聞いていたジャウカーンが首を傾げながら尋ねる。
彼女の問いに頷きつつ微笑みながらルージュは答えた。
「ええ、出番です。…最もそれを知っているのは私たちぐらいですけどね」
大鎌を振り上げ、自身よりも何倍もの体格を有しつつ強化されたグラディエーターを空へと吹き飛ばし、無防備になった所を目掛けてルージュはツヴァイ・プレリュードを片手で構え引き金を引いた。
自身の身の丈以上にあるそれから吐き出された光線がグラディエーターの偏向障壁を貫き、本体を貫く。
宙で散りゆく様を見届けながら、ルージュはつい数秒前に感じ取ったナニカの方へと視線を向けた。
その先にいたのはルージュの事を非常識と呼んだトゥーマン。
だが彼女から発せられる気配が別の物へと変わっていることにルージュは見抜いていた。
(……敵、ではないようですね。むしろこれは…)
そこでルージュは考えるのを止めた。
トゥーマンから発せられる気配の『主』が敵ではないという証拠が得られた以上、それ以上に考える必要はないと判断した為だ。
(…お互いに非常識なんでしょうね)
今更だと思いながらルージュは戦闘を続行する。
同時に何故か感じられなくなった『彼』の気配に疑問を抱きながら。
『約五十だ。イレギュラーだと思われる存在が確認されている』
キャロルからのイレギュラー登場の報告を受けたシーナは成る程と口にしながら指に顎を当てた。
起きるかもしれないと思いつつも願わくば起きてほしくないと思っていた事が現実になってしまったのだ。
しかしそこで焦った所で意味がない。今は冷静に判断し、やるべきことをやるしか手段がないのだから。
「妙な反応に加え、突然出てきたイレギュラー…。アブノーマルですかね」
『恐らくな。こちらもそのような認識でいる』
「…それと先ほどの、万能者からの通信は既にお聞きに?」
『ああ。…そちらのリヴァイアサンで何とかならないか?』
航空部隊がここに到達するまではそれなりの猶予がある。
重武装かつ高機動を誇るリヴァイアサンなら万能者が言っていた航空部隊を何とかできるだろう。
ただ一つだけ問題が浮上していた。
「そうしたいのは山々なんですが…こちらも準備が整ってなくて」
『準備だと?』
「ええ。…実の所、万能者が通信をくれる前に航空部隊の存在はこちらで探知しておりました」
『なんだと…?』
訝しげな声が届く。
そんな風な声が出てもおかしくないなと思いながらシーナは、とあるものを取り出した。
手に握られるは携帯端末。しかしその外観は普通とは違った。
まるでニーゼル・レーゲンやパンドラの様に淡い光の脈の様なものが携帯端末の背面で流れていたのだ。
誰がどう見ても普通とは言い難いそれをシーナは起動させる。
画面に映し出されたのは、あろうことかこの作戦領域に向かってきている航空部隊の詳細であった。
(まさか本当に基地とこのタリンの間まで拾える情報を全部拾うなんてね…。…それにしても核搭載、か)
「厄介な航空部隊ですこと。万能者が空に飛べるものは迎撃してほしいと言っておりましたが…」
画面と睨み合うシーナにコクピットに座るジンバックが声をかけた。。
彼女の手にもシーナが持つ端末と同じものが握られており、普段浮かべている何を考えているのか分からないといった表情は引っ込み、彼女らしくない険しい表情を浮かべていた。
「…"これ"が積んであるとは一言も言っていない」
「…どうします?万能者に繋ぎますか?」
「しなくていいよ。その事で追及している暇なんてないからね」
それに今は相手が待っているからねと伝えると笑みを浮かべシーナはキャロルとの通信を繋げる。
「こちらの方の準備は終わりました。最も…もう勝手にやっているかも知れませんが」
『一体何をしようとしているんだ?シーナ指揮官』
困惑気味のキャロルの声にシーナはフッと笑う。
だけどその困惑こそが欲しかった。
だからこそ隠してきた。
このパーティーに密かに参加していた存在が現れた事を大々的に伝えるために。
「何をって…新たなお客さんをもてなす為ですよ」
本来はもっと準備に時間がかかる予定であった。
だけど、久しぶりに暴れられると思ったのかその参加者はシーナの予想を遙かに上回る速さで準備を終えてしまっていた。
実の所、戦闘開始した時点で参加する予定だったのだが、何とかしてシーナがそれを抑えていた。
「…宴会の準備は出来ているよね?」
しかしその必要はなくなった。
役者は全て出揃った訳ではないが、問題ないだろう。
「そうだよね?」
口角が吊り上がり、口にする。
「■■■■■■」
"十の顔を持つ悪魔"の名を。
戦いの音は鎮まる事を知らない。
爆発、銃声、咆哮が市街地全体に響き渡る。
そんな時であった。
悪夢に満ちた籠にカランコロンと軽く硬いものが地面に当たる音が何故か全てに向かって響き渡った。
突然響いたその音に、一部を除いたこの戦場にいる者達が首を傾げた。
まるでその音は誰かが歩いている様な音。
しかし人間一人が歩く音にしてはおかしい。どうすればこの戦場全体に響き渡るのだろうか。
「ハッ!らしい登場じゃねぇか」
ルージュよりも戦場へと先行したブレイクがリベリオンを華麗に振るい、パラデウスの群れを一掃しながらにやりと笑った。
「ようやくか。少しばかり遅くないかい?」
「そう言わないであげましょう。しかし…ふふっ、演出に随分とこだわりを入れているみたいで」
そしてブラウ・ローゼのメンバーであるソルシエールとシャリテもまたにやりと笑った。
彼、彼女達だけではない。ブラウ・ローゼのメンバー全員が、S10地区前線基地所属の者達が、魔界出身の者達が笑っていた。
『なんだこれは…』
『さ、桜の花びら?何でこんなものが…?』
それどころか、戦場全体に何故か桜の花びらが舞った。
当然ながらこのタリンに桜の木があるはずがない。
だと言うのに、どこから現れたのか無数の桜の花びらが戦場を彩り始めた。
「ほっほっ…」
謎の現象が起きたタリンにおいて、その者は咥えた煙管を外し紫煙を吐いた。
桜の模様が施された着物。煙管を右手でささえ、そして左手には和傘。
この戦場に似つかわしくないその恰好。しかしそんな恰好をするのは一人しかいないだろう。
表向きはグリフィン本部直轄諜報部所長。
しかしその正体は電子戦と高度な魔術を得意とし、魔界においてある意味の点で多くの悪魔から恐れられた悪魔。
その名も──
「ワシもひと暴れさせてもらうかの」
ダンタリオンである。
「皆の衆、お初にお目にかかる。ワシの名はダレン・タリオン。まぁ…ダンタリオンと言うかの。悪夢に満ちた籠からあやつらを助け出す為…微力ながら手助けさせてもらうぞ」
自身で製作した対電子術式機構『library』を内蔵した通信機で全ての者達に自身の参戦を伝えるとダンタリオンは通信をヨルムンガンドにいるシーナへと繋げる。
「シーナよ、既にアレ…核は全て取り除いておる。最も奴らは気付いておらんがな」
『了解です。それじゃあ…』
「うむ。リヴァイアサンを向かわせるがよいぞ。あとは…」
通信を切り、ダンタリオンは前を向いた。
その先に居るのは、大鉈を手に兜をかぶった血濡れコートを羽織ったナニカ…ブラッディマン。
ブラッディマンはダンタリオンを見つけると、何かを呟きながらゆっくりと向かってきていた。
「お主がイレギュラーか。成る程…妙な反応というのも頷けるのう」
殺されるかもしれないにも関わらず、ダンタリオンを煙管をふかす。
寧ろ余裕ともいえる表情を浮かべ、そこから一歩も動こうとしない。
ブラッディマンがダレンに迫る。それでも彼女は動かない。
「では肩慣らしに…お主を含め十五人ほど黙ってもらおうかの」
ブラッディマンを見つめながら笑みを浮かべるダンタリオン。
そしてブラッディマンが手にした大鉈を彼女へと振り下ろそうとした瞬間だった。
「!」
ブラッディマンが地面にたたきつけられた。
それどころか上から重しの様なものを置かれたのか起き上がる事すらできない様子だった。
対するダンタリオンは何かをした素振りすら見せていない。
只々煙管をふかしているだけ。
「…死しても再び現れる存在。そのような存在はあの作戦でも姿を見せた。倒しても倒してもキリがない。まるで入れ物だけを捨て、新しい…全く同じ入れ物に入って現れるのじゃからな」
ダンタリオンとてあの時の作戦を知らない訳ではない。
得意とする情報収集を用いり、あの時何が起きたのかを調べ、ギルヴァ、ブレイク、ルージュからどのような敵が出てきたのかを聞き出した。
「…故にワシはこう伝えよう。お主は殺さん、とな」
伏せていた目が開かれる。
そしてブラッディマンへと向けられるその視線は冷え切っていた。
「悪いが外だけを捨てて出ていこうとは思わんことじゃ。この見えぬ牢屋はそういったものを逃がさぬし地中にも伸ばした代物…お主らの為だけに作り上げた特注品じゃからの」
答えることもなく、それどころか起き上がる事も出来ないブラッディマンに背を向けて歩き出すダンタリオン。
紫煙を吐きつつ、彼女は静かに告げた。
「死など生ぬるい。そのまま何もできずに生きていくが良い。それがお主らに与える地獄。…最も全てが終わった頃には勝手に帰るがよい。誰も止めはせんよ」
そう言い残して、ダンタリオンは静かにその場から姿を消すと得意とする魔術でヨルムンガンドの荷台に降り立つ。
突然降りてきたことに驚くWA2000に軽く詫びを入れると、ヨルムンガンド内へと入り込む。
「今戻ったぞえ、シーナ」
「お帰り、ダレンさん。まだまだやるべきことは沢山あるよ」
「やるべき事があるのは良い事じゃな。…ジンバック、基地の方で起動させてあるlibraryを遠隔操作で全ての通信網にリンク。同時にナデシコと繋げるぞ。これから起きる事全て拾い、現れるイレギュラーどもの出現を事前に見つけ、対処する。よいな?」
神妙な表情を浮かべるダンタリオンの指示にジンバックは頷き、行動を開始する。
全ての通信網及び、勝手にであるが対電子術式機構『library』をナデシコとつなげ、情報の精度を底上げ。
突然起きた事にキャロルから説明を求められ、それの対処に当たるシーナを視界の端に収めつつ次の行動へと移ろうとした時であった。
「む?」
ふとダンタリオンが顔を上げた。
指示にされ行動するジンバックと説明の対処にあたるシーナはそれに気づかなかったが、彼女の耳には確かに聞こえていた。
(…バイオリンの音じゃと?)
訝しげ表情を浮かべるダンタリオン。
ヨルムンガンドの外へと出て周囲を見渡した時、全体が見渡す事の出来る高層ビルの屋上に誰かが立っているのを見つけた。
目を凝らしその誰かを見つめた数秒後、ダンタリオンは目を見開いた。
黒と基調とし、水色の差し色が入ったドレスを纏った女性。
一風変わったバイオリンを構え、その者は儚げにに曲を奏でていた。
「お主は…」
その者の名をダンタリオンが告げようとした時、再び不思議な現象が起こり始める。
『敵の動きが鈍くないか…?』
『それどころか障壁まで消えかかってるだと?それになんだこの音……バイオリン?』
『体が軽く感じる…。どういう事だ?』
次々と上がってくる報告。しかしどれも全てが悪いことではなかった。
むしろバイオリンの音が聞こえ始めたあたりから、その様な報告が上がっていく。
彼女は手にしたバイオリンで曲を奏で続ける。
奏でる曲で苦痛に苦しむ少女らの痛みを和らげ、彼女らを助けようとする者達に力を与え、その道を妨げる敵の力を奪っていく。
「私の名はセイレーン。…悪夢に満ちた籠から彼女らを救おうとする勇気あるもの達よ。どうかこの音に耳を傾けて下さい。私が皆さまを支えましょう」
桜の花びらが戦場を彩った事に続く様に、バイオリンによる美しき旋律がこの戦場を新たに彩り始めた。
という訳で今回の作戦にてうちから参加させる『???』枠二人が参戦いたします。
まず一人目がダンタリオン。イレギュラー対策として参戦。
そしてもう一人が今回初でありオリジナルキャラであるセイレーンです。
ダンタリオンは基本的に対電子術式機構『library』を用いての情報収集と魔術を用いて援護します。
なので彼女の魔術を用いて、敵航空部隊が持つ『核』を全て排除し、及びブラッディマン15体程、身動きが取れないようしました。
また対電子術式機構『library』を全ての通信網及びナデシコ(こちらが勝手に
)とリンク、情報収集及び共有させております。
そしてセイレーンは前線には姿を出さずに、高層ビルの屋上でバイオリンを奏で曲による支援を行います。
現在彼女が引く曲の効果は以下となります。
・敵の動きが鈍化、及び偏向障壁の耐久力が半減。
・味方の身体能力が少し向上。
・苦痛に苦しむアイソマーらの痛みを和らげる。
色々やってますけど…敵もめちゃんこ強いしこの先もいっぱいやべぇのが出てくるんだろう?
これぐらいやっても大丈夫だよね?(言われたら修正いたします…)
そういえばギルヴァが居ねぇなぁ?さて…彼はどこに行ったのやらか。
では次回ノシ