タリンで起きた大規模作戦。
謎やら爆弾発言やらが飛び交いながらも作戦は終了し、シーナが率いるS10地区前線基地のメンバー及び特殊遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』、便利屋「デビルメイクライ」の面々は基地に帰還。
それから事後処理や持ち帰って来たパラデウスが破棄した武装の搬入作業などに追われ、解析に取り掛かる事が出来たのは作戦参加から数日後の事であった。
「これはこれは…随分な数ですねぇ」
最早格納庫という括りから、武器庫へと化してしまった第一格納庫にてマギーはこの倉庫に収められた大量の武装を見つめながら、そう呟いた。
その言葉通り、この第一格納庫は最早溢れんと言わんばかりに武器や魔具らがこの格納庫に収められている。
火力だけで絞ると下手すれば正規軍ともやり合えるかも知れないであり、それを可能とするモノがこの格納庫にゴロゴロ転がっているとなればそれを想像するもの容易と言えよう。
とは言え、その話はこの格納庫の中を覗いたらそう考えてしまいそうになるだけで、実際にこの基地が正規軍に喧嘩を吹っ掛けようとはしないだろう。そんな事をしている暇などまず無いのだから。
「マギー、優先的に済ます様に頼まれた武装の解析が終わったよ」
「ご苦労様です、ソルシエール」
肩を回し疲れた表情を浮かべながらもソルシエールは解析データが収められた専用端末を大型ディスプレイへと繋ぎ、コンソールパネルを操作。
今回優先的に解析を済ませたいくつかの武装はリヴァイルへと送る為のもの。
それを優先するようにソルシエールへと指示したのはそれが理由であった。
「それじゃまず一つ目から行こうか。初っ端から派手なものだよ」
「ほう?それは楽しみですね」
「あはは…想像していた通りの反応ありがと」
子供の様に目を輝かせるマギーを見て苦笑いを浮かべながらソルシエールは一つ目の武装をディスプレイにへと移す。
映し出されたのは、携行火器としては大型の部類に入る重火器と背部ユニットに増設されたアームを介して装備されたバインダーの様なものが装備された武装。
当然の如く装甲は白色で染められているが所々内部がむき出しとなっており、未完成品であり破棄された装備の一つである事は言葉にせずとも分かる。
「正式名称は不明。光学兵器である事は間違いなく、携行火器のコレと両肩に配置されたバインダー内部に二門の砲がそれに該当する。残されていたデータから読み解くとパラデウスが生み出した兵器『ガンナー』に装備させる予定だったみたいだ。大型故に取り回しが悪いのもあるんだけど…破棄された理由はこいつを最大出力で放った後にやってくるパワーダウンが主な理由らしいね。どうやら偏向障壁すら消失させてしまい、しばらくの間展開できなくさせるほどに燃費が悪い。その分、最大出力で撃った際の威力は山一つ吹っ飛ばす事なんて難なくやってのけられる」
「ふむ…。手を加えるとするのであれば、最大出力で放った直後のパワーダウンですね。後は…」
「バインダー自体を取り外し可能にし、同時にバインダーを可動させ盾の様な役割を持たせるべきと思う。つまりは携行火器としても運用可能とし、シールドとしても使えるようにする。けど装備全体が重量があるから、専用の外骨格を新しく作り上げるべきか、或いは向こうにその問題をぶん投げるかのどちらかかな」
「となれば中々の作業になりますね。最もこれからお披露目になるものを加えると下手すれば一週間は寝れませんね」
むしろ一週間で終わらす気なのかと言いたくなる様な台詞が飛び出し思わずソルシエールは表情を引き攣らせるも、あえて問わず次のものを表示する。
次に出てきたものは大型と言えるが、先ほどの光学兵器とは違いそれは実弾が用いられる装備だった。
「パラデウス製の実弾兵器。開口型の砲身を用いている辺り、見てくれはレールガンを彷彿させるけどその実は全くの別物。こいつは装甲を溶かす事の出来る高温度の熱量系砲弾を撃ち出す事の出来る兵器みたい」
「それが二門同時に放たれる…人形はおろか、重装甲を持つ兵器にとっては厄介な装備ですね。しかし何故破棄に至ったのでしょうか?」
「データを見た限りでは理由は分からなかった。僕の考えだと内部機構の複雑さからと思っている。解析の際に内部機構を見たけど、向いていないとは言い切れないけど少々手間がかかる感じみたいだからね。それでお蔵入りになったんじゃないかな?」
ディスプレイに表示されている内部機構の画像を見ただけでマギーもその複雑さを分かっていた。
しかし量産に向いていないかと言われれば、ソルシエールの言う通りそうでもない気がしていた。
「難点としてはまず連射が効かない。おまけに大型となれば取り回しが悪い。重量もあるから一体の人形に持たせても重量過多でフレームが悲鳴上げるだろうね」
「となると先ほどのものと同じく専用の外骨格が必要、と…。どうせですしこの熱量弾以外にも撃ちだせる様な機能を加えた良さそうですね」
「例えば?」
「そうですね…。フォースシールドや偏向障壁に使用されるエネルギーを砲弾に纏わせ射出。偏向障壁を難なく貫く機能ですかね?」
「出来るのそれ…?」
「まぁやろうと思えばやれますが」
当たり前の様に答えるマギーを見てソルシエールは思い出す。
今自分と話している相手は誰かを。
この基地に属しては数々の武器、魔具を製作し、普通では出来ないことを平然とやってのけている。
その姿こそは人であるが、その実は悪魔であり魔界にて伝説の魔工職人として名を馳せた人物である事をソルシエールは思い出す。
故に彼女が口にした案は彼女だからこそ出来るのだ。そこに不可能はない。
「そういうなら任せるさ。僕は手伝いをするだけだからね。それじゃ次に行こうか」
三つ目となる兵器がディスプレイに映し出される。
先ほどの熱量弾を撃ち出す兵器と比べるそれなりに大型であり、長い砲身が目を引く。
「種類に分けるとするのであればこいつはグレネード砲に該当する。性能もごく単純で二つの砲身から榴弾を放つ。まぁこれも例に漏れず、取り回しが悪い。そして再装填に時間がかかる。それにこれだけデカくすればコストがかかり、整備の劣悪性にも繋がる。使い捨てにするにはちょいと勿体ないからねぇ、これ」
「ですが使わないのも勿体ないですよ。…デストロイヤーが持つ榴弾砲ユニットを模したユニットを設計、製造して行きましょうか。この程度ならばそう時間はかかりませんから」
「そ、そうなんだね…。てか毎度毎度思うけど、素材って何処から持ち出してきているのさ?まさかとは思うけど…この格納庫と君の部屋以外にも工房があるのかい?」
それはソルシエールだけが気になった話ではないだろう。
彼女どころか、この基地にいる殆どの面々が気になっていたりする。
だがそれを尋ねようとはしないのは、結局のところマギーだから、という結論に至るのだ。
「一応本命となる工房はこの基地内にありますし、この基地以外にもありますよ?」
「え?基地以外にって…どこさ?」
そう尋ねられた時、マギーは小さく微笑む。
手に持った専用端末を操作し外骨格の設計図を描きながら答える。
「…私の出身地と言えばわかりますか?」
「君の出身地って……まさか!?」
思わず立ち上がりそうになるソルシエールを見て、マギーは人差し指を唇に縦に立て当てた。
それ以上はいけない。
言葉にせずともマギーが言っていることを察したソルシエールはゆっくりと椅子に腰かけ、頷く。
「特に害がある訳はありませんからね。ただちょっとそっちと繋げて素材を持ち出しているだけに過ぎませんし。それにあそこは私しか知らない場所にありますから」
「それを聞いて安心していいのか良くないのか分からなくなってきた…」
「ふふっ…私から言わせれば心配する事は何一つないと言っておきましょうか」
さ、続きをと促すマギーにソルシエールは軽くため息を付きながら分かったと答え、コンソールパネルを操作していく。
これで四つ目となる兵器が画面に映し出されるがこれまでのとは違い、どうやら近接武器の様であった。
その形状は大太刀を彷彿とさせ、収める鞘は一言でいえば大太刀の大きさに反してやたら大型かつ頑丈に作られている。その見た目は鈍器としても利用できそうに見えるほどに分厚かった。
「分かりやすく言えば近接武器。大太刀に鞘という組み合わせはこの基地では知れたものだろうさ。ただ刀身を収めた状態の鞘は鈍器として扱える一方で面白い事に鞘内部に偏向障壁を発生させる装置が組み込まれているという代物。さらに偏向障壁と同等のエネルギーが刀身に纏わせれば、偏向障壁を切り裂く事が出来るという優れものさ」
「おや…となればこれをベースに先ほどの熱量弾を撃ち出す兵器に組み込むことが出来そうですね」
「だろうね。問題はどうやってとなるけど…まぁそこは君に任せるさ。で、これが破棄された理由は単純明快。遠距離攻撃が主体なのにわざわざ接近戦する必要はないから」
「でしょうね。一目見た辺りから予想はしていましたが」
そう答えながらもマギーは画面に映る大太刀を見つめる。
指を顎に当て考える素振りを見せるマギーにソルシエールはどうしたのだろうかと首を傾げる。
考え出して数分が経つと構えが解かれ、マギーはソルシエールにへと告げる。
「この武器はこちらで置いておきましょう。近接武器より遠距離武器を向こうに渡した方が良さそうですし」
「良いのかい?」
「苦情が飛んで来たら対応しますよ。…とりあえずこの大太刀を除きこの三つの武器を優先的に修理、改造を行います。ソルシエール、これらはいつもの様に工房に。手早くかつ丁寧に仕上げますよ」
「了解っと」
椅子から立ち上がり、腰に提げた工具ベルトから工具を取り出し歩き出すソルシエール。
工房へと歩き出すマギーの隣に並ぶとソルシエールは笑みを浮かべた。
口角を吊り上げ、工具をガンスピンの如く回転させながらソルシエールは嗤いながら呟いた。
「さーて、腕がなるねぇ…」
伝説の魔工職人と技士は笑いながら感謝した
面白いものを残してくれたパラデウスへと。
伝説の魔工職人と技士による魔改造が行われ始めた一方で基地にいくつかある内の一つの地形変動型訓練ルームに指揮官であるシーナとダレンは居た。
基地が稼働した当初から経年劣化により使用が不可となったこの地形変動型訓練ルーム。
長い時を経て、一人の魔術師によって生まれ変わろうとしていた。
「では始めようか」
部屋の中央で真剣な面持ちでダレンがそう口にするとシーナは静かに頷く。
今からダレンはちょっとした風景を作ろうとしていた。
しかし何故それをしようとしているのかはここに居るダレンとシーナだけにしか知らない。
「…全ては幻想。しかしてここは逝けぬ者の拠り所となり」
地面に手を当て、目を伏せると同時にダレンは静かに呟く。
同時に彼女の手を中心に光り輝く紋章の様なものが一つ、また一つとその大きさを変えていく。
「麗しき景色の下。此処に数多年の安らぎを」
紋章が地面全体に広がり、ダレンが言葉を言い終えた瞬間、部屋全体が光に包まれた。
部屋全体に広がった光。しかしそれは一瞬の出来事。
腕を上げ光を遮ったシーナは閉じていた目を開き、静かに腕を下ろすと同時に目を見開いた。
耳には聞こえるは川のせせらぎ。緩やかな風が肌を撫で、上を見上げれば青空が広がる。
周囲には幾つもの灯籠が規則正しく整列しており、鳥居を抜ければ部屋の中央に聳え立つしめ縄の装飾が施された桜の大木が来るものを迎える。
この世界において、それは今では決して見る事の出来ない光景。
決して本物ではないにしろ、それは来るもの全てに、眠る者すべてに安らぎを与える。
これがシーナがダレンに頼んだもの。
例の作戦と作戦以前に命を落としたアイソマーらの弔う墓であった。
「死んだアイソマーらの墓じゃ。せめて眠りの時だけは美しい景色の下が良かろうて」
「…うん」
桜の大木を見つめるシーナ。
すると彼女はそっと手を合わせ、静かに目を閉じる。
それに見習ってダレンも同く手を合わせると静かに目を閉じた。
込められるは祈り。そして安らかな眠りを。
誰にも阻害されることなく、只々この景色の下で眠ってほしい。
けれど言葉にしない。今この時だけは想いだけでいいのだから。
「…行こう」
「…うむ。これ以上は眠りを妨げる事になる」
桜の大木に背を向け二人はその場から静かに退出。
そのままエレベーターを用いて執務室へと戻る最中、シーナがそう言えばと口にし隣で立っていたダレンはん?と声を上げ首を傾げた。
「確かギルヴァさんは今日…S09P地区に行く予定だったよね?」
「だったらしいの」
「だった?という事は今日は行っていないの?」
「どうやら用事あるみたいらしい。その事から説教はまた後日になったみたいじゃ」
果たして説教を後回しにしてまでしなければならない用事とは何か。
当の本人ではないので、シーナはどうしたんだろうと首を傾げるのみだった。
そしてその本人であるギルヴァは店の屋上に居た。
近くの物置小屋に背を預け、腕を組みながら静かに沈黙を貫いていた。
そんなギルヴァに対し蒼が話しかける。
―全くあの万能者もやってくれるぜ。こっちであのお嬢ちゃんをどうやって安全な方法でリヴァイルの元に返すべきか必死こいて考えてたのによ。俺が考えていた時間を返してほしいぜ
「言うな。奴がお前と同じ状態となって侵入してきた時、俺とて何も感じなかった訳じゃない」
―だろうな。まぁ…あの嬢ちゃんを蘇らせたのはあの万能者だ。なら、そこから起きる事はあいつにぶん投げる。それぐらいの覚悟はしてるだろうさ
「ああ。…あとはお前の傍にいる"そいつ"か」
―ああ。こればかりは驚きを隠せねぇ。まさかお前の中に偶然にも飛び込んでしまったお嬢ちゃんが"一人"だけじゃねぇとはな…
伏せていた目を開き、ギルヴァは背を預けていた物置小屋から離れると何が起きていたのかを思い出す。
万能者によって『彼女』が蘇らせた。そればかりはギルヴァも蒼も察知していたのだが、更なる問題がギルヴァと蒼だけに降り注ぎ、リヴァイルや万能者の知らぬ所で発生していた。
ギルヴァはあの成長したアイソマーは一人だけだと認知していた。現に目にした蒼もその様に思っていた。
故にあの時感じた違和感とやらもあのアイソマーによるものだとギルヴァは考えていた。
だが違っていた。彼の中に潜り込んでしまったのは一人ではなかったのだ。
「…あの作戦起きる前に死んだアイソマー、か」
―それも成長したアイソマーというオマケ付きだがな
実は二人いたのだ。
一人はあの時蒼が出会った『彼女』であれば、もう一人は誰もがその存在を知り得なかった『彼女』だった。
「…そいつはなんて言っていた?」
―言うには体自体は成長していたらしい。ただある日突然体に異変が起きて気づけば肉体が滅び始め、成す術もなく命を落としてしまったみたいだ。ただ気付かない内に霊体みたいな存在になってしまったらしい。自分以外に成長した存在がいる事も知らず、むしろあの作戦で自分以外にも居た事に驚いていた。ギルヴァの中に身を潜ませたのは俺を見たからだとか
「それで今に至るか。…リヴァイルにどう伝えるべきか」
―実は二人目が居ましたでいいんじゃね?元々あいつはアイソマーらを救おうとしていたんだからな
「だと良いが。…今、そいつと話せるか?」
―大丈夫だ。寧ろお前と話したがってる
「そうか。代わってくれ」
―あいよ
彼女が出てくるまでの少しの間、ギルヴァはこれからどうしたものかと思案した。
一人目に関してはどうにかなったとは言え、二人目をどうやってリヴァイルの元へ戻すべきなのか。
そこで思い出すは一人目の彼女を蘇らせたあの人物を頼る事だった。
だがギルヴァのその考えを頭から追いやった。
(奴を頼る気にはなれん。ダレンからの忠告もある)
ギルヴァ自身があまり頼りたくないのもあるが、実の所、ダレンの忠告が頼りたくない理由の半数以上を占めていた。
こればかりはS10地区前線基地全員に対してダレンが告げたものであり、それを知るのは当然S10地区前線基地のメンバーのみ。
それもあって、ギルヴァは他の線を考えるも良い案は浮かばない一方であった。
(…そう簡単には浮かばないものか)
どちらにせよこの件に関してはギルヴァ一人でどうにかなる様なものではないのは明白。
マギーやダレンを頼ってみるべきだと判断した時に『彼女』が話しかける。
─えっと…その…
「…少しは落ち着いたか?」
―あ、はい。蒼さんが色々楽しい話してくれたおかげで
「そうか。…いずれリヴァイルの元に返す。不便かも知れんがその時までそこで大人しくしていてくれ」
―…はい。あ、でも話しかけてもいいですよね…?
「構わん。暇になったら話しかけたらいい。大した話は出来んがな」
―いえ…お話してくれるだけでも嬉しいので
「…そうか」
そこで会話が途切れる。
ギルヴァも彼女も何を話すべきなのかと思案するも良い話題が出てこない。
そんな時、彼女は尋ねた。ギルヴァにとっては二回目となるその問いを。
―名前…聞いていいですか?
「ギルヴァだ。…暫くの間、宜しく頼む」
―…はい!
別れはいつかやってくる。
その時はまだ分からずともギルヴァは密かに決意する。
彼女は必ず彼の元へ返す、と。
という訳で色々ぶちこんでおりますが…許してぇ。
また今回の話で今年最後の投稿となります!
では皆さん、よいお年を。
そして来年もよろしくお願いします。
では次回!