─継承される『力』─
リヴァイルの所へに『お土産』と称した武器を送った数日後の事。
久しぶりにと言うべきか、S10地区前線基地はのんびりとした時間を過ごしていた。
ただのんびりというには哨戒任務に赴く人形が居れば、後方支援などに赴く人形も居る訳で、結局の所やるべき事が何時ものへと変わっただけに過ぎないのだ。
そんな通常業務へと戻り始めたS10地区前線基地内部にある、とある工房。
その主たるマギーは専用の収納棚に収められたある物を見つめていた。
それは全身黒い装甲で覆われた鎧。その姿はまるで特撮で出てくるヒーローのようだ。
「貴方がその姿へと変えてから、もうどれほどの時間が経ったでしょうか…」
棚に収められた鎧に語り掛けつつマギーは手を伸ばし、そっと鎧へと触れた。
浮かべた表情は何処か懐かしんでいるようにも見える。
「魔帝によって造られた悪魔…その一番目だった貴方。…最後にその姿を見たのは私に頼み事をしてきた時でしたね」
鎧に触れていた手を下ろし、彼女は着ている制服のポケットから一枚の折りたたまれた紙を取り出す。
それを広げると紙には、魔界の言葉が綴られていた。
当然ながら人間にはそれを読み解くことは出来ない。出来るのはこの紙を手にしているマギーのみ。
「…あの時の"約束"。今この時を以って果たしましょう」
真剣な面持ちで彼女は、有無言わぬ鎧へと誓う。
そして腰に提げている工具ベルトから工具を取り出すのと同時に彼女は机の傍に置いてあった通信端末を使い、とある人物へと連絡するのであった。
一方、精神のみ存在である二人目の『彼女』にエラブルという名前を与えたギルヴァは何時もの様に書斎に腰かけて読書に没頭していた。そんな時、蒼がギルヴァへと話しかける。
―で?あの作戦から数日経った訳であるが、いつになったらアナの嬢ちゃんへの説教に行くつもりだ?
(…説教は無しだ。気が変わったのでな)
―ほう?何で気が変わったのか理由を聞いてもいいか?
(言わなくても分かっていると思うが)
―そう思うなら大間違いだな。ほら、さっさと理由話してくれねぇか?
如何にも何も分かっていない素振りで尋ねてくる蒼にギルヴァが内心ため息にも近いものを付くと、説教に行くのを止めた理由を話し始めた。
(周りに説教に受けているに違いないのでな。なら、わざわざ俺が出向く必要はなかろう)
―ま、そんな所だと思ってた。説明ご苦労さん
(…貴様)
―そう怒るなよ。でもまぁお前がそう決めたなら暫くはエラブルの問題を当たれそうだな?
確かに蒼の言う通りかも知れない。
だがギルヴァは何となくであるが気づきつつあった。
それを後回しにしなくてはならない問題が迫ってきている事に。
(…そうでもないかも知れんぞ)
―そりゃどういう…
蒼が尋ねようとする前に店の裏口のドアが開かれる音が響いた。
それは誰かがやって来たという合図であり、読んでいた本を閉じ机の端に追いやった時には客人…白を基調としたケープコートを揺らめかす少女、ルージュはギルヴァがいる書斎の前に立っていた。
ただ遊びにやって来たとは思えないと分かっていたのかギルヴァの方からルージュへと尋ねた。
「何か用があるみたいだな」
「ええ。マギーさんが私とギルヴァさんをご指名でして。呼びに来た次第です」
「…内容は?」
「聞かされてはおりません。ただ工房に来てほしいとのこと」
内容を明かさず、ただ工房に来てほしいというマギーのやり方は今に始まった話ではない。
どの道、彼女の工房に向かわなくてはならないの事実。
立ち上がろうとするギルヴァにエラブルが喋り出した。
―な、内容を明かさないなんて…なんだか怪しい気が…
エラブルのその反応は無理もないと言えた。
だが彼女がここに来て日が浅い。
それを分かっていたからか、蒼が答える。
―大丈夫さ。この手の事は散々経験してるからな。それにマギーはこの基地の後方幕僚でありながら、俺と同じ人"に味方する悪魔でね。まぁ心配する気持ちは分からんでもねぇけどな
―そ、そうなんですか…
蒼の台詞もあって、若干不安げな声を感じさせつつもエラブルは納得する。
そんな二人がやり取りをしているのを無視し、ギルヴァは椅子から立ち上がりルージュと共に店を後にし、マギーが居るであろう工房へと歩き出した。
二人がマギーの工房にたどり着いた時には、既に二人よりも先に先客が訪れていた。
二人と同じくしてマギーに呼び出されたのか、制服の上からサーヴァントを肩にかけたシーナが部屋の主に代わって出迎える。
「いらっしゃい、二人とも。待ってたよ」
「シーナ指揮官?どうしてここに」
シーナがここに居る事が珍しかったのか、それに対する疑問を投げかけるルージュ。
対するシーナは普段から見せる笑みを浮かべたまま、それに答える。
「私もマギーさんに呼ばれてね」
そう言いつつもシーナは被っていた帽子のひさしを摘み下げると、柔和な笑みから真剣な面持ちへと一転させる。
「最もこの基地の指揮官として、呼ばれたというのが大きいかな」
「?」
首を傾げるルージュ。
そして隣に立っていたギルヴァの視線は収納棚に収められた全身装甲で覆われた鎧へと向けられていた。
それから感じられる気配に、その鎧がただの鎧ではなく魔具であると察した時、蒼が声を上げる。
―こいつはとんでもねぇモンだぞ。よりによって初代様かよ
(知っているみたいだな)
―ああ。あれは魔帝によって生み出された悪魔であり、記念すべきその一号さ。そして純粋な悪魔では無いにも関わらず己の姿を魔具へと変化させる事に成功した存在。同じく造られた悪魔であるフードゥルにとっちゃ大先輩にあたる存在だ。…成る程、R.ガードの初期考案である搭載させる鎧ってのは此奴の事だったのか。傍に置いてあるR.ガード用の追加パーツを置いているとなりゃ…呼ばれた理由も何となく分かってくるな?
(ランページゴーストのRFBの件だろう。しかし何故俺まで呼ばれたのかが分からんが)
―RFBだけじゃねぇってことだろうさ。まぁ大体想像は付くがな
(…あいつか)
ギルヴァの脳裏に浮かぶは、あの作戦が終了した後に話した"彼女"との会話。
求める力。それは決して堕ちる為に望んでいる訳ではない。
ただ守りたい。その為に彼女は力を望んでいるという事を。
それを静かに察したギルヴァは言った。
欲する『力』が決まった時、持つ技を教えてやると。
本来であれば向こうからの連絡を待つつもりであった彼だったが、向こうへ赴く事になるのであれば丁度いいと判断していた。
「わざわざ来ていただきありがとうございます」
そこに工房の奥から、三人を呼び出したマギーが姿を現す。
頬に付いた煤をタオルで拭いながらも、彼女は早速本題へと入った。
「以前にも似た依頼をさせていただきましたが、今回もその手の類だと判断してくれると幸いです。今回あルージュさんとギルヴァさんに依頼したいのは、以前と同じく装備の配達及びその『覚悟』を見極めてほしいのです」
「配達は分かりますが…覚悟を見極めるというのはどういう事なのでしょうか」
「今回配達していただく品であるR.ガードの追加パーツには魔具が内蔵されているのです。今までのとは違い、悪魔が姿を変え道具になったものがそのまま使用されており、当然ながらその力は絶大です。つまり本人の扱い次第では善にも悪にもなれるのです」
マギーが口にした最後の台詞にルージュは眉を顰めた。
「彼女がその力を悪用すると思っていて?」
「いいえ、全く思っておりません。R.ガードを正しく使ってくれていますから心配はしていませんよ。ですが、やはりそれだけでは物足りない。言葉だけではなく、実際に戦ってその『覚悟』を見極めてほしいのです」
「…実際に戦うって、向こうがそれを許可するとは思えないのですが」
ルージュの台詞も間違っていなかった。
そこに二人の会話を静かに聞いていたシーナが割って入る。
「それに関しては私が交渉する。流石にマギーさんだけに責任を押し付ける訳にはいかないからね」
それに、と彼女は言葉を続ける。
「私も偶然とは言え、この力を得た身。心強いと思う反面、恐ろしいとも思っている。扱い方を間違えてしまえば誰かを不幸にし、何より自分自身を滅ぼしてしまいかねないからね。そんな恐ろしさを分かっていながらも、私はこの力を扱う事を決めた。そう『覚悟』しているから」
その瞳に宿すは確かに『覚悟』だった。
それを見せられてはルージュも言い返せず、軽くため息を付くと口を開いた。
「…分かりました。向こうとの交渉は任せます」
「うん、任された。…それとギルヴァさんを呼んだ理由だけど」
話がギルヴァへと振られる。
当の本人は近くの壁に背を預けつつ腕を組むと口を開く。
「見極めればいいのだろう?RFBではなく…もう一人の方をな」
「そういう事。向こうの都合もあるから日程が決まり次第、連絡するから」
「分かった」
そう答え、ギルヴァは部屋から退出。
店へと戻る道中、彼は内心呟く。
まるで誰かへと言葉を投げかけるように。
(見せてもらおうか)
確かに教えてやるとは言った。
だがタダでとは言っていない。
依頼主からの指示もあるが、ギルヴァ自身そんな指示がなくても、そのつもりであった。
("覚悟"とやらをな)
遅くなって申し訳ありませんでしたあああぁ(土下座)
という訳でお隣の基地にいる、とある二人に新たな力を渡すべく行動起こします。
ではでは次回ノシ