Devils front line   作:白黒モンブラン

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遅れて申し訳ありません。
色々事情が立て込んでた為、遅くなってしまいました。

また誤字報告してくださる方がいらっしゃったので、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます。

因みに今回も戦闘はありません。どうかご容赦を。



Act7 献花

スクラップ置き場から逃走して、暫く経った。

奥まで続く舗装されていない道にてエンジンを響かせながらバイクを走らせる。晴天の下で当たる風に心地良さを感じながら遠くに見える誰かが住んでいるとは思えない街の姿を眺める。今となってはゴーストタウンと化しているが昔は道行く人達がすれ違い、信号で車の渋滞が出来ているのが当たり前。当時生きていた人達は思いもしなかっただろう。世界がこんな有り様になるなど…一体誰が予想出来ただろうか。

もし出来るとするのであればそれは神様位だろう。最もその神様はどうしようもなく最低だが。

こうなると分かっておきながら救済する事もせず、只見ている事だけに徹した。これが人間に与える試練などぬかして言い訳しているに違いない。

 

―神ってのはろくでもない奴が多いのさ。寧ろまともな奴が少ない

 

じゃあ人間は何に縋ればいいのだろうな?

 

―さぁな…。最悪悪魔に縋るしかないんじゃないのか?

 

それはそれでどうなんだ…。

 

どちらにせよ。

人間は神や悪魔に縋る事は出来ない。最早決まりきった事なのだろう。

結局は選択して、己の意思で歩むしかない。縋るのは己自身なのかもしれない。悲しい話だがそれしか手段はないのだ…。

 

「こんなに晴れた日なら…あの子は外で遊んでいるのでしょうね…」

 

「ん?」

 

後ろのシートに座って自分の腰に腕を回している95式が静かに呟いた。

あの子と言う事は…

 

「妹は…外で遊ぶのが好きだったのか?」

 

「ええ…。非番の時は必ず外に。雨が降っていたら外で遊べない事に不機嫌そうな顔をするんです」

 

「それ程とはな。…とても元気な妹だったようだな」

 

「はい…」

 

彼女の腕に力が入った事に気付く。そして背に彼女の体がのしかかった。

運転している為、95式がどんな表情をしているかは分からないが…。

亡くした妹さんの事を思い出して静かに涙を流しているのかも知れない。もしそうならバイクのエンジン音によって彼女の涙声はかき消され自分の耳に届く事はないだろう。

 

陽が落ち満天の星空が見える頃。

一夜を過ごす為、道中見つけた小さな廃屋にバイクを止めて95式とニャン丸と共に家の一室で寛いでいた。

自分が持っていた簡易ランプの灯りが薄っすらと室内を照らす。元からあったソファーに腰掛け、膝の上でのんびりしているニャン丸を撫でる。ふさふさとした毛並みとニャン丸自身の体温が手に伝わる。するとニャン丸が膝の上から飛び降りて部屋の隅で椅子に腰掛ける95式へと歩み寄っていく。彼女の足元まで近付くとニャン丸は小さな前足を履いている靴の上にポンと置いた。それに気づいたのか95式は優しい笑みを浮かべニャン丸へと話しかけた。

 

「どうしたの?」

 

「にゃー」

 

「もしかして心配してくれてるのかしら…。えぇ、ありがとう」

 

身を屈めて腕を伸ばしてニャン丸の頭を撫でようとする95式。するとニャン丸はその場から跳躍。彼女の太股の上へと飛び移ると体を丸めて気持ちよさそうに眠りについてしまった。

どうしたら良いのか分からないと戸惑いを見せる95式だったが、暫くすれば眠りにつくニャン丸を撫でながら笑みを浮かべていた。

動物というのは人の気持ちというのが分かるのだろうな。表には出さないにしていた彼女が悲しんでいる事にニャン丸は気付いていたのかもしれない。だからああやって寄り添いに行ったのだろう。現に彼女の笑みに無理している感は見受けられない。癒し、慰め…動物にはそう言った力があるのだろう。

 

「この子は気持ちが分かるのでしょうか」

 

「どうだろうな。だが君にへと寄り添ったのも…もしかしたら分かっていたのかも知れないな」

 

「ですね」

 

そこでニャン丸についてある事を思い出す。

鉄の墓場での戦闘で割かし濃密な殺気を放った訳だが…ニャン丸は逃げ出す事をしていない。

95式がバイクを取りに行った際、ニャン丸はどうしていたのか。

その事について彼女へと尋ねる。

 

「そう言えば…」

 

「?」

 

「バイクを取り行った際、ニャン丸の様子はどうだった?」

 

「どうと言われましても……シートの上で眠ったままでしたよ?」

 

「何だと…?」

 

となるとニャン丸は俺と416がバイクから離れた後、95式が来るまでずっと寝ていたというのか。

あれだけの戦闘があって、あれだけの殺気があったというのにずっと眠ったままだったと?

図太いというか、お気楽というか…。

 

「本当にお前は猫か?ニャン丸…」

 

悪魔をも恐れぬ猫、か…。

 

「?」

 

首を傾げ不思議そうな表情を浮かべる95式。

ニャン丸の事で謎が深まる中そんな事はお構いなしと言わんばかりに当の本人は気持ちよさそうに寝ているのだった。

 

 

 

今日も青々とした空が広がり、雲一つ見えない。95式が属していた基地へと向かう為、彼女が生きている事を大事な人達に伝える為、バイクを飛ばす。ずっと奥まで続く道の上を行きながらどこか人が住んでいそうな街を探す。だが行く先々で見かけるは廃墟ばかり。到底人が住んでいるとは思えず、同時に花屋があるとも思えない。寧ろこのご時世、花屋を営業していたとしてもあまり儲からないかも知れない。いくら大切に育てたとしても雨や汚染の影響で早々に枯れてしまうかも知れない。

だがこのご時世だからこそ、そういった店もあってもいい気がする。動物が人の心を癒す様に、花にも心を癒してくれる力を持っていると勝手ながら思っている。

自分が花屋を探している事を察していたのか95式が声を掛けてくる。

 

「ギルヴァさん。無理して花を探さなくていいんですよ?」

 

「しかしそれでは…」

 

「その気持ちだけでもありがたいです。私が生きている事を伝えるだけでも十分ですから…」

 

そう言う彼女だが、どこか自分の中では納得がいかなかった。

だがそう言うのであればそれに従うべきなのだろう。だがやはり手持ち無沙汰なのはな…。

どうにか出来ないものか…。

 

―花がいるなら…作ったらどうだ?

 

何を言っているんだ。いくらそれでは時間がかかり過ぎる。

 

―誰も一から育てろとは言っていない。作るんだよ。

 

育てる訳ではなく、作る…?……まさか出来るのか、そんな事。

 

―出来ない訳じゃないさ。俺も何度か実践した事があるんでな。

 

なら花の問題はどうにかなりそうか。

しかし花を「作る」とするのであればどの様な花にするべきか…。

 

―そうだな…俺が見た花の中で一番美しいやつなら知っている

 

ほう?それはどんな花なんだ?

 

―それはな…………だ。

 

……成程な。その花なら名前なら聞いた事がある。

 

そう…「あの人」が一度見てみたいと言っていた花だから。

それをまさか自分で、か…。何とも言えん気分だな。

だが…それで喜んでくれるなら…。

脳裏に浮かぶは何時も優しくしてくれた「あの人」の姿。あの両腕で抱きしめてくれた温かさは忘れられない。

それ程までに「あの人」は「妹」と同じ位かけがえのない存在だった。

故に失った痛みは大きかった。思えばあの時も…416が助けを言ってきたあの時も、台詞や表情は違えど重ねてしまった。苦しい筈なのに無理して笑いかけてくる「あの人」に…。

…俺がこうまでして人形を助けようとしているのは…彼女が居てくれた影響が大きいのだろうな…。

それしか理由が見当たらない。

 

 

夜空に満月が昇る頃。

長い運転から解放され、漸く95式が所属していた元基地に到着した。

ここが襲撃されたまま状態で放置されていたのだろう。瓦礫や冷たい風が寂しさを感じさせる。

そして瓦礫にこびりついた誰かの血痕がここであった事を物語っていた。

 

「あの時のままです…。何一つ変わっていない」

 

瓦礫の山と化してしまった基地を前に、自分の隣に立つ95式がそう呟いた。

月明かりが彼女を照らし、その瞳から薄っすらと涙がこぼれている。守れなかった事に対する悔しさと失くしてしまった悲しみ…。その双方が混じっている。

彼女は一本歩むと血痕がこびりついた瓦礫の前で屈み、手を添えた。自分も、肩の上で捕まっているニャン丸も後ろの方で見守る。

 

「97式、指揮官、皆……95式、只今戻りました」

 

そこに大事な人達が居るかの様に彼女は語りかける。

 

「見ての通り私は生きています…。後ろに居るギルヴァさんによって救出され、そしてここまで私を連れてきて下さいました」

 

彼女の頬を伝い始める涙。

それでも彼女は無理して笑みを作ろうとしていた。

 

「帰る家も無茶苦茶になってしまい…私だけが生き残ってしまいました。ここに来たのも無事を伝える為。そしてお願いがあってここまで来ました…」

 

流れる涙は止まらない。

 

「この先…何があるのか私には分かりません…。正直不安で一杯です…。でも…それでも私は生きなくてはならないと思っています。この命がある限り」

 

でも彼女は…

 

「だから…どうかそちらでも私を見守っていて下さい…」

 

歩みを止めようとはしなかった。

 

 

後ろから見守っていた自分は彼女の隣にへと並び立つ。

そして瓦礫の前に手を添えると目を伏せて集中する。

 

「ギルヴァさん…?」

 

記憶の棚から今から造り出す物の形を引っ張り出し、構成していく。

大きく、そして美しく。何よりも95式の大事な人達が安心できる様に。

全てを包み込み寄り添ってくれる様な満開の花を咲かせてみるとしようか。

 

「これは…」

 

伏せていた目を開く。

そこにあったのは群青色に輝く満開の花を咲かせる桜の木だった。

 

―まさかいきなり上手く行くとはな。大したもんだ。

 

育てるではなく、魔力を用いて造り出すか。よくもまぁこんな事が思い付くものだな?

 

―幻影刀を錬成する技術を応用したものさ。それにこういうのも悪くないだろ?

 

まぁな…。

 

今や滅んだとされる日本の国花。美しさを兼ね備えたこの花ならきっと喜んでくれるだろうか…。

先に逝ってしまった者達へと送る献花。どうか安心できる様に…そう願っている。

ここにあるのは群青色だが、本物は鮮やかな桃色の花が特徴らしい。最も自分も本で知った程度なのでここに咲く桜が正しいとは言えないが…。

 

「せめて…安心を与えるならこれも悪くないだろう…」

 

「えぇ…。きっと皆喜んでいます。今では見る事ですら難しいとされる日本の桜…。ここにあるのが本物ではないとしても…ここまで大きいものでしたらゆっくり眠れるでしょうから…」

 

「そうだな…」

 

月明かりに照らされる桜。

それを眺めていた95式はふと口にする。

 

「97式、指揮官様をお願いね。あとわがまま言っちゃ駄目よ?指揮官様も妹の事宜しくお願いしますね…。皆も妹の事、指揮官様の事お願いね…。…じゃあ私は行くね」

 

最後の別れを告げ、踵を翻す95式。桜に背を向けて歩き出していく。

自分もそれを続く様に歩き出した時、ふと気配を感じ後ろへと振り向く。

桜の木の下。そこには誰も居なかった筈なのに今は何人もの人が立っていた。それぞれが銃を手にしており、先頭にはグリフィンの制服を纏う男性と髪を二つに分け、95式と同じようにブランケットを纏う少女が。

 

「まさか…」

 

―いくら魔力とは言えどそこまでの力はない…、となるとこれは…。

 

お互いに驚いているとブランケットを纏う少女が口を開いた。

 

「お姉ちゃんの事、お願いね」

 

「!」

 

ニッコリと微笑んで、彼女は隣に並び立つ男性の方を向いた。

男性も頷き、こちらに言ってきた。

 

「95式の事…大事な家族の事を宜しく頼む」

 

それを最後に彼、彼女らは静かに消えて行った。

恐らくあれは…ここに所属していた…。

…最後に姿を現したのも彼女の事を思って…。

誰も居ない桜の方へと向けて静かに告げる。

 

「あぁ。任された」

 

その言葉が届いたかは分からない。

だがその場を後にしようとした時、良かった、と聞こえた様な気がした。

 

 

とある地区にてある事件が起きる。

かつてそこは前線基地があったとされる場所であり、襲撃を受け、今や瓦礫の山を化している。

そんな場所に誰かが行ったのか分からないが、そこに群青色に輝く桜が確認されるようになった。グリフィンは調査隊を派遣し調査。研究の為サンプルを得ようとしたが、まるで雲を掴もうとしているかの様に手が桜をすり抜けていったと言う。未だに正体不明な桜であるが人体に害がない事が分かり、後にその桜は誰かがここで亡くなった者達を送った献花であると判断。今ではその桜の元へ供養する者がたまに現れるのだという。

 

 

 

 

別れを告げ、基地を後にした自分達は廃屋で休んでいた。

そんな時、95式が尋ねてきた。

 

「これからどうされるんですか?」

 

「そうだな…。完全に決まった訳ではないが…店を開こうと思ってな」

 

「お店…ですか?それはどのようなお店で?」

 

「あぁ、それはな…」

 

前々から考えていた事だった。

そしてそれがどのような店かを明かす。

 

「便利屋だ」




因みに店の名前は決まってない模様。

次回は戦闘を入れようかなと思いつつも未定。
恐らく遅れると思いますのでご容赦を。

では次回お会いしましょうノシノシ

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