Devils front line   作:白黒モンブラン

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─覚悟証明─


Act232 Proof of preparedness Ⅰ

それはなんてことの無い普通の日の出来事であった。

季節の変わり目なのか、最近は暖かい日が続き404小隊のG11の睡眠回数が普段の三倍増えたこと以外は特に変わりなく、一日がゆっくりと流れていく。

そんな珍しく平穏ともいえる日において戦術人形が訓練の為に利用する訓練用のシュミレーションルームに、彼女はいた。

禍々しい魔力を帯び、弧を描いた大きな刀身。身の丈以上はあるであろうそれ『ヘル=バンガードの大鎌』が軽々と振るわれ、シュミレーターで再現させれた仮想の敵らが瞬く間に切り伏せられていく。

常人では振るう事すら出来ないであろう得物を扱うのはこの基地に身を置いて長い謎多き少女、ルージュだ。

 

「…ふぅ」

 

自身が設定した敵の残存数がゼロに達したブザーが鳴ると、ルージュは軽く息を吐き大鎌を静かに下ろす。

訓練を開始して軽く三十分は戦い続けたにも関わらず、今の彼女には呼吸が乱れている様子すらない。

しかしその表情はどこか納得がいかないといったものであった。

 

「…もう一回立ち回ってみますか」

 

再びシミュレーターを起動し敵を出現させるとルージュは下ろした大鎌を構え直し、敵へと突進。

相手との距離を一瞬にして詰め、大鎌を大きく薙ぎ払い敵を切り伏せると片足を軸にして振り向き後方にいた敵の頭部へ目掛けて突き刺し跳躍。大鎌の刀身を敵の頭に突き刺さったままにして飛び越えつつ、一回転し刀身を引き抜くと、宙に浮かんでいる状態で大鎌を下へと投擲。

大鎌に取り付けられた槍の穂先部分が地面に突き刺さるとルージュは柄に手を伸ばしながら体を捻り、突き刺さったそれを支点にしてポールダンスをするかのように勢いよく回転し周囲の敵を蹴り飛ばし落下。

そのまま大鎌を拾い上げ回転させると蹴り飛ばした周囲の敵に攻撃を浴びせ大鎌の振り下ろしによる止めの一撃を放って、残った最後の一体を仕留める。

 

「…」

 

訪れる僅かな静寂。その後に来るは終了を知らせるブザーの音。

模擬戦だったとしても室内を包んでいた緊張感が解かれ、ルージュは構えを解く。

見事なまでの大立ち回り。大鎌の扱いは流石と言えるだろうが、疑問は残る。

何故今になって大鎌を用いた訓練しているのかという事だ。

その理由はたった一つ。

 

「後は模擬戦が来るのを待つのみ。…さて、今の私であの二人にどれ程立ち回れるか」

 

全ては『覚悟』を知る為の模擬戦に備える為。

ただその一つに尽きていた。

 

「鴉刃、漆、朱、そしてこの大鎌…模擬戦に備える為とは言え、思いのほか勘を取り戻すのが大変でしたね…」

 

大鎌だけに限らず、三振りの刀『鴉刃』『漆』『朱』を用いた訓練もやっている。

それもその筈で直近で行われた大規模作戦では殆どコキュートス・プレリュードに頼っていた。

ルージュ自身もそれは自覚していた為、こうして勘を取り戻す為の訓練している。

 

「あの二人を相手に無様な姿を見せられない。何よりも…」

 

フッとルージュは笑みを零す。

無様な姿を見せない為に訓練している。

確かにそうなのだが、それは理由の一つに過ぎない。

 

「本気でぶつかり合う事が出来る…その事を何よりも嬉しく思う自分がいるとは」

 

何らかの理由がない限り、敵対する事のない者達が相手になるのだ。

そんな彼女らと本気でぶつかり合う事が出来るという事実。

確定事項と化しているそれを嬉しく思えるからこそ、こうして鍛錬している。

それこそがルージュの胸中の大半を占める最大の理由だったりする。

 

「さて、最後にもう一度─」

 

そう言いかけた所で誰が訓練ルームに入ってきた。

誰だろうかと思ったルージュが出入口へと振り向くと、そこには彼女と同じくこの訓練ルームで鍛錬を積んでいた愛用の黒いコートを羽織ったギルヴァがいた。

もし二人以外の誰かがここに居れば彼も訓練をするのだろうと思うだろう。

だがルージュだけは彼がここに来た理由を察していた。

 

「…時が来ましたか?」

 

「そうだ」

 

ギルヴァから何かに対する確認が取れるとルージュは軽く息を吐いた。

本気で渡り合う事が出来る嬉しさ。確かにそれはある。

しかし今はそんな感情を胸の内に収めなくてはならない。

何故ならばその為に模擬戦を行う訳ではないのだから。

託される力。それを扱うに値するかの『覚悟』を問わなくてはならないのだから。

私情を隅へと追いやり、本来の目的を再確認したルージュはギルヴァの目を見据えながら口を開く。

 

「行きましょうか。…『覚悟』を問いに」

 

「ああ」

 

ルージュの台詞にギルヴァは静かに頷くと、彼女と共に訓練ルームを後にするのであった。

 

 

訓練ルームを後にし一通り準備し終えると、二人はシーナの元へと訪れていた。

ギルヴァもルージュも向こうから模擬戦に関しての連絡が来ている事を知っている。

シーナをそれを踏まえた前提として話を進めていく。

 

「再度確認するけど、模擬戦の目的はランページゴーストのアナさんとRFB、両名に『覚悟』を問う為にある。恐らく激しい戦いになるとは思うけど、やりすぎない事。殺し合いをする訳じゃないからね」

 

「重々承知しています。今回はマギーさんも行くのでしたね?」

 

「うん。キャロル指揮官にもそう伝えてあるから。因みにマギーさんは先に外に出て、トレーラーに荷物の運搬作業してるから、話が終えたら合流して」

 

「分かりました」

 

目的の再度確認を済ませるとシーナはよし、と頷くと視線をルージュから扉近くで控えるギルヴァへと向けた。

 

「アナさんの事、お願いね。彼女に託す『力』は訳が…」

 

「言われずとも分かっている」

 

シーナの台詞に遮る様にギルヴァは静かに口を開いた。

組んでいた腕を下ろし、伏せていた目を開くと彼はシーナの目を見つめた。

 

「元はと言えば俺が行ったことだ。中途半端で終わらせるつもりなどない」

 

だからこそ、『力』を自力で扱えるに至るまで付き合う。

ギルヴァなりの責任の取り方なのだろう。

言葉の裏に隠された思いを密かに感じ取ったシーナはそれ以上の事は言わなかった。

 

「あ、それとこれを持って行って。時間がなかったから沢山は作れなかったけど」

 

そう言ってシーナがルージュへと渡したのはチョコチップマフィアが幾つか入った小さな箱。

 

「彼女達に渡してあげて。疲れた後は甘いものが一番だから」

 

「了解です。…では行ってきます」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

シーナに見送られながら二人は部屋を後にし、外に居るマギーの元へと向かう。

そのまま運搬用のトレーラーへと乗り込み、S09 P地区へと向かう始めた道中、ギルヴァは蒼へと話しかける。

 

(蒼)

 

―言わなくてもいいさ。何をしてほしいのかは分かってる

 

(なら良い。…頼むぞ)

 

―ああ。んじゃ行こうか?『覚悟』ってやつを見させてもらおうじゃねぇか

 

一体ギルヴァは蒼に何を頼んだのか?

それは本人でなければ分からぬ事であろう。

かくして『覚悟』を問う為の模擬戦が始まりを告げようとしていた。




ご久しぶりでございます。
色々あって投稿がえらく遅くなりまして申し訳ございません。

さてはて、次回からはお隣の基地へ向かい『覚悟』を問う為の模擬戦へ参ります。

では次回ノシ
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