Devils front line   作:白黒モンブラン

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─継承─


Act237 Proof of preparedness Ⅵ

激闘を繰り広げた模擬戦闘は終了し大立ち回りを繰り広げた四人が休憩を終えた後、一同はカフェテリアに。

本来であればお互いに称え合っても良いのだが、例の『アレ』が起きてしまったからにはそういう訳にはいかなかった。

気まずそうにするルージュ、RFB、アナ、レイ、ノア、five-sevenら六人が居て、目を伏せ腕を組むキャロルが居て、今の雰囲気を物ともせず手にした端末を操作し続けるマギーが居て、オートスコアラーの面々とカフェテリアの厨房で黙々と作業するスユーフとが居る中で、例の『アレ』を起こしたであろうと思われる人物、ギルヴァは一人カウンター席に腰かけて、紅茶を嗜んでいた。

 

「のうのうと紅茶を啜るのは構わないが…まずは訳を聞かせてもらおうか、ギルヴァ」

 

どこか重苦しい空気が漂う。

そんな状況を破ったのは、伏せていた目を開き、鋭い視線をギルヴァの背にぶつけるキャロルだった。

 

「何に対してだ」

 

「とぼけるな。アナに起きた『アレ』の事だ」

 

キャロルが言う『アレ』とはデビルトリガーの事であり、ギルヴァもそれに対する説明求められる事は既に予想していた。

最もギルヴァが説明するよりも、アナの元から戻ってきていた蒼が説明した方が良いのだが、ギルヴァとアナを除く面々がそれを知るはずもない。

 

―出た方がいいか?

 

(不要だ、俺が説明する)

 

蒼がそう提案するもギルヴァはそれを断り、カップをソーサーの上にゆっくりと置いた。

実のところ、蒼の存在を知られる訳にはいかないと言う訳ではない。

ただ蒼の事まで説明するのが面倒だと判断しただけの話なのはギルヴァだけにしか知らないだろう。

 

「話しても良いが、一つ答えてもらいたい」

 

「何だ」

 

「アナの体内を流れる人工血液…半分とは言わずとも別物にすり替わっていたのは知っていたか」

 

「…ああ、知っていた」

 

どよめきが生まれる。

アナは模擬戦の際に蒼が知らせているため、大して驚いてはいなかったのだが、意外な事にマギーとルージュも同じように大して驚いてはいなかった。

寧ろやはりと言った様な顔を浮かべたルージュが会話に入る。

 

「やはりでしたか。タリンでの戦い以降、アナさんにお会いした時、彼女から感じられた魔の気配はそういう…。因みに何時から異変は起きていたのです?」

 

「あの作戦が終わった後だ。まさかとは思ったがな」

 

キャロルから返された答えに成る程と呟きルージュは手を顎に当て考える素振りを見せ始めた。

どうしたのだろうかと首を傾げるキャロルだが、問いかけた相手からはすべき説明を成されていないので、ルージュからギルヴァへと視線を向ける。

 

「質問には答えた。今度はそちらが答える番だ」

 

「そうだな」

 

座っていたカウンターチェアから降り立つとギルヴァは近くの壁に背を預け、腕を組みつつキャロルから問われたものに対する答えを説明し始めた。

 

「知っての通り、アナの体内を流れる人工血液の半分は魔と同じものへと変わっている。俺やブレイクと同じとは言えん。だがイグナイトトリガーを得たのであれば、それ以上のモノを得られるのであれば」

 

「あれば?」

 

「託しても構わないと判断した。…それなりにアナを信用をしているのでな」

 

場が静寂に包まれる。

あのギルヴァにそう言わせる程という事実に誰しもが言葉を失ったからだ。

どう答えるべきかと言葉に悩み始めるキャロルを他所にギルヴァは背を向けたままであるが、アナへと伝える。

 

「お前に託す。己の意思で扱える様になってみせろ」

 

「はい。直ぐにとは行きませんが、必ず」

 

「…期待しているぞ」

 

そこからギルヴァは何も語らなかった。

ほんのわずかなやり取り。しかしそのやり取りを聞いていたマギーはフッと笑みを浮かべ思う。

これなら問題ない、と。

 

「さて、ここからの話をさせて頂いても?キャロル指揮官」

 

「あ、ああ。構わない」

 

「では。…まずは、アナさん、RFBさん。先の模擬戦、お疲れさまでした。貴女達二人が見せてくれた覚悟、その覚悟が私からお渡しするモノを扱うに十分に値すると判断致しました。本来であれば直ぐにでもお渡ししたいのですが…問題が一つ」

 

二人の健闘を称えるとマギーは指で頬を掻きつつ、申し訳なさそうな顔を浮かべた。

まだあるのかと思いたくなるのだが、それを表に出さずキャロルが問う。

 

「その問題とは?」

 

「最後の仕上げと調整と言った所です。RFBさんにお渡しするものがそれに該当するんです」

 

「どれ位かかる?」

 

「そうですねぇ…。普通にやれば十年以上はかかるでしょうねぇ」

 

「じゅ…十年だと!?そんなに待てる訳ないだろ!?」

 

それでは先ほどの戦いは何だったのかと思っても不思議ではない。

問い詰めるキャロルに対しマギーは手を上げ、彼女を制する。

 

「そんな事は分かっていますよ。ですので…キャロル指揮官、私にここで暫くの間、滞在する許可と最後の調整を済ませる時間をくれませんか」

 

「…どれくらい必要だ」

 

そう聞かれ、マギーは指を三本立てた。

それを見て最初キャロルは三年と思うも、それはないと判断し別の答えを口にする。

 

「三ヶ月か?」

 

「いいえ」

 

「では…三週間?」

 

「違いますね」

 

三ヶ月でも三週間でもない。

最後に残る答えはただ一つ。そこに行き着いたキャロルの表情は段々と驚きへと変貌していく。

 

「ま、まさか…三日で終わらせるつもりか!?」

 

「はい。三日あれば十分ですので」

 

ギルヴァを除く、その場にいた誰もが言葉を失った。

普通であれば十年以上はかかるであろう代物をたった三日で済ませようというのだから。

最早正気ではない。

だがマギーが決して冗談で言っている訳ではないのもまた事実。

どう言葉にすればいいのか、誰しもが悩む中マギーはゆっくりと立ち上がった。

 

「ご安心を。三日で終わらせると言えど、決して手抜きは致しませんから。魔工職人である私…二代目マキャ・ハヴェリの名に誓って」

 

そこまで言わせる程となれば、本当に彼女は三日で終わらせるつもりだとキャロルは思った。

だがそれでも本当にいいのかと思う気持ちが無い訳ではない。

しかし例の『モノ』を調整できるのは当然ながら自身の目の前に居るマギー・ハリスンもとい二代目マキャ・ハヴェリのみ。

 

「…分かった。三日間だけここでの滞在を許す。必要なものはあるか?」

 

「そうですね…。できれば使用していない部屋を一つ貸して頂けませんか。工具類はこちらが持ってきているので十分いけますから。それと食事は不要ですので、私の分は用意しなくて結構です」

 

「本気で言っているのか?」

 

「まぁ三日間飲まず食わず寝ずなんて私からすれば大した事ではありませんから。お気になさらず」

 

もう何も言うまい。

胸の内でそう呟き、現実から逃避するかのようにお土産として持ってきてくれたクッキーと紅茶を楽しむ事にしたキャロル。

それを見て苦笑いを浮かべるfive-sevenの隣で座っていたRFBが、とある事に気付く。

 

「マギーさんがここで三日間滞在する事になったけど…ルージュとギルヴァさんはどうするの?」

 

「流石にマギーさんを置いて帰る訳にはいきませんし私も三日間ほどお世話になろうかと思います。ですが私はトレーラーの方で寝泊まりしますので部屋の準備は必要ないですよ。一応最低限の物はありますからね。それにこれ以上ご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」

 

「迷惑だなんて、そんな事を思う訳ないじゃん。遠慮しなくても良いんだよ?」

 

「ですが…」

 

お互いに引かない状況が生まれる。

そんな時、静かに話を聞いていたギルヴァがため息を付くと二人の会話に割って入る。

 

「トレーラーには俺が寝泊まりする。お前はこっちで寝泊まりすればいい」

 

「しかし…」

 

「二度は言わん。そうしろ」

 

ルージュから台詞を遮るように伝えるギルヴァ。

背を預けていた壁から離れ、そのままカフェテリアの出入口へと歩き出す。

その時、彼の背を申し訳なさそうに見つめるルージュを見たのか先ほどまでクッキーと紅茶を楽しんでいたキャロルがカフェテリアから出ていこうとするギルヴァを呼び止める。

 

「客人に気を遣わせる訳にはいかんのでな。お前も基地で寝泊まりするといい」

 

「…話を聞いていなかったみたいだな」

 

「聞いていたとも。だがアナの件にはお前の協力が必要不可欠なのでな。それにだ、こちらからすれば態々トレーラーに居るお前を呼びに行く時間が勿体無いのだが?」

 

「たかだが数分程度だろう」

 

「その"たかだが数分"でもだ。それに、言い方はアレだがお前が遠慮しているのは分かっているからな?」

 

その事を指摘されるとギルヴァは何も言わなかった。

あれで遠慮してるんだ…とその場に誰しもがそう思い始める中、ギルヴァは軽くため息を付くと口を開いた。

 

「…世話になるぞ」

 

ただそれだけを伝えるとギルヴァはカフェテリアから出ていく。

かくして託すための最後の仕事、その三日間が早期警戒基地で幕を開いた。

 

 

初日目。

借りた部屋でマギーは最終調整を黙々とこなし、ルージュがちょっとした手伝いをしている中、ギルヴァとアナは訓練室にいた。

当然ながら目的は、模擬戦で彼女に託した力『デビルトリガー』発動させた際に出来る事の説明。

その為、蒼はギルヴァから飛び出し、アナの方へ移動していた。

 

―さて…始めるか、嬢ちゃん。準備は良いか?

 

「はい。お願いします」

 

―あいよ。そんじゃ行くぜ!

 

蒼の掛け声とともにアナの周囲に蒼い霧が暴風と共に発生。

そして破裂するかのように暴風が訓練室を駆け抜けると、昨日の模擬戦で見せた、その身を人形から悪魔へと変えた彼女、アナが姿を現す。

力を発動させた際の姿も変わりないが、アナ本人は未だに信じられない気持ちでいた。

イグナイトトリガーを上回る力。その力は姿すら大きく変えてしまうほどなのだから無理もないと言える。

 

「気づけば左腕の義手までもその姿を変えているんですね…。これだと仕込んであるガトリングは使えない、か…」

 

―そう言うと思った。そんじゃ、まず一つ目はコレだな。嬢ちゃん、義手を付けている腕に意識を集中させてみな

 

「分かりました」

 

蒼に指示され、アナは左腕に意識を集中させる。

するとアナから放出されている魔力が左腕へと集まり出し、やがて形を成し始めた。

そして数秒も経たぬ内に形が形成され、その手に握られるは魔力で具現化した大型のガトリングガンだった。

 

「これは…」

 

―左腕の義手が使えない代わりにこいつをってな。名も(セカンド)カリギュラ。見ての通り、魔力で具現化したガトリングガンで、このデビルトリガーを発動させている時に限って扱う事が出来る。火力、連射性は言わなくて分かっていると思うが、その分、撃っている際は魔力の消費が早くなる。多用し過ぎるとあっという間に時間切れになるから気を付けねぇとな

 

「はい。…因みにですが、この状態はどれくらい維持出来るのですか?」

 

―ハッキリと断言できる訳ではないが、普通は三分だな。だが嬢ちゃんの状態次第でこれ以上長くなる事もあれば、逆に短くなる可能性がある

 

「はっきりしないですね…」

 

―言ったろ?ハッキリと断言はできないって

 

実際に耳にしている訳ではないが、訓練室の端で立っていたギルヴァは姿を変えたアナを見つめながら、奇しくもアナが持つデビルトリガーがどれだけ持続可能かを見極めていた。

そして三分が限界だろうと蒼と同じ答えに至るも、彼は思った。

 

(…三分でも上等か)

 

寧ろ三分維持できる方が驚きと言えた。

あのギルヴァですら初めてデビルトリガーを発動させた際は三分維持するどころか、三十秒も維持出来なかったのだから。

 

(だが…三分を維持させるには万全状態での話だ。ましてやタリンの時の様な状態では…最悪『力』に飲まれ、暴走する可能性にない訳ではない)

 

目を伏せ、腕を組みつつ壁に凭れるギルヴァ。

思った事を伝えるべきかと思うも、敢えてそれを伝えようするのを止めた。

何から何まで助言しては成長にならない。強力な力を得るという反面、その危険性もあるという事を本人もまた気付かないといけないのだ。

それにだ。己の意思で扱えるようになってみせろと言ったのだ。であれば後はアナがどうにかする。

 

(…後は蒼の役目か)

 

今後これ以上自身が何か伝える事はないだろうと思いながら、ギルヴァは伏せていた目を開きアナを見つめる。

蒼から何らかのアドバイスを受けているのだろう。行動を起こそうとするアナの姿がそこにある。

そんな時、ギルヴァの中であるが、彼からの視界を通してアナを見つめていたエラブルがギルヴァへと伝える。

 

―大丈夫ですよ。ギルヴァさんが教える事がきっと沢山ありますから

 

(…かもな)

 

―ええ…。きっとありますよ

 

アナや蒼には届かない二人だけのやり取り。

二人は静かに蒼の指導の元、訓練を続けるアナを静かに見守る事にした。

そんな事を知るはずもなく、デビルトリガーを発動させた際に出来る事を蒼から教わっていくアナ。

ふとその時、蒼はアナに対して、とある事を伝えた。

 

―言っておくが、デビルトリガーを発動させるにはイグナイトトリガーで使用する魔力をそっちへと移行させないといけねぇからな?

 

「と、言いますと?」

 

―入れ物が別々ってコトさ。譲り受けた、或いは何らかの形で得た魔力は基本イグナイトトリガーを発動させるための容器へと蓄積される。だがデビルトリガーを発動させる容器はすっからかん、使いたくても魔力が無いから使えない。…そういった場合はどうなる?

 

「移す他ないという訳ですか」

 

―そういう事。因みにやり方は簡単だ。水が入った容器から空の容器へと入れる動作をイメージすればいい。

 

「成る程。出来る様になるまで練習あるのみですね。…まだ二日ありますので、特訓に付き合って頂いても?

 

―寧ろそのつもりさ。俺ら無しでもやれるようになってもらわなきゃなんねぇからな

 

蒼からの了承を得られると、話は本来の話へと戻り始める。

変形する義手の代わりとなる武装『Ⅱカリギュラ』、デビルトリガーの持続可能時間、デビルトリガーとイグナイトトリガーで使用する魔力は共通であり、双方同時に発動は不可能である事を教えられると、蒼はある事を思い出す。

デビルトリガーは自身とギルヴァからアナへと託したものであるが、ギルヴァ本人からアナへと託したモノが一つだけある事を。

 

―嬢ちゃん、これは俺からじゃなく、ギルヴァから嬢ちゃんに託したモノだ。良ければ貰ってやってくれねぇか?

 

蒼の声が何処か神妙だと感じたアナはあえて声に出さず、己の内で言葉を発するように蒼の台詞に答える。

 

(それは一体…?)

 

―なに、変なモンじゃないさ。まぁ見てな

 

(?)

 

問いかけてもはぐらかされてしまい、首を傾げるアナ。

その時、彼女の周囲に魔力で錬成された複数の剣が出現した。

宙を滞空するソレ。それを見た時、アナは思った。

これはギルヴァが射撃武装として使用する『幻影刀』と同じものではないかと。

そしてその疑問は蒼の口から語られる。

 

―ギルヴァが使うのが『幻影刀』なら…あいつが嬢ちゃんに託したこいつの名は『幻影剣』と言った所か。…おまけにイグナイトトリガー、デビルトリガーを発動させてなくても使用できる様にしてるとか、アイツどんだけ器用なんだ?

 

(…ギルヴァさんが私にこれを?)

 

―らしいな。死なれちゃ困るってのもあるんだろうが……人形と言えど女性である事は変わりなし。要はこれを使って生き抜き、女性としての幸せを得て、末永く幸せに長く生きろって言いたいんだろうよ。やれやれ、ホント不愛想なヤツだな

 

(それがあの人なりの優しさなんでしょう。ですが蒼の言う通り、本当に素直じゃないですね…)

 

―それがアイツでもあるんだけどな。…兎も角だ、この幻影剣は威力は低い上に、ギルヴァの幻影刀みたく、マシンガンの様に連続して投擲は出来ない。あくまでも護身用ってところだが…嬢ちゃんの頑張り次第で性能は変わってくるかもな

 

(そうですか。…ではギルヴァさんや貴方を驚かす為に特訓に励まないといけませんね)

 

―よく言うぜ。ま、やってみな。嬢ちゃんなら出来る筈さ

 

いつかその成長した姿を見せる時を約束する二人。

そしてアナは軽く微笑みつつも決してその笑みをギルヴァに見せる事無く蒼の指示の元、特訓に励むのであった。

二日目はルージュがキャロル、five-sevenやオートスコアラーの面々と仲良くしていた以外、特に無く一日が過ぎ去り、三日目はギルヴァは夜空に月に浮かんだ基地の屋上にて、どうやらアナと関係のある、霊体にも関わらず何故か現れたとある人物と出会った以外は特に変わった事はなく、三日間が過ぎていった。

 

 

模擬戦でも使用した訓練室でRFBはいた。そしてRFBの前には三日間飲まず食わず寝ずで作業していたにも関わらず、変わった様子を見せないマギーがそこに立っており、RFBが手にする装備、追加パーツを取り付けたR.ガードの最後の調整を済ませていた。

 

「…これで良し、と」

 

調整を済ませ、ボルトを締める。

工具を工具箱へと放り込み、ゆっくりと立ち上がる。

 

「では始めましょうか。…手順は覚えてますね?」

 

「うん!」

 

与えられた『力』。

それを発動させる為の手順を事前にマギーから教えてもらったRFBは自信満々げに頷いた。

そしてルージュとマギーから少し離れるとRFBはR.ガードの持ち手を握りつつ、軽く息を吐くと同時に静かに目を伏せた。

意識を集中させ、本来であれば積まれる予定だった魔帝によって初めて生み出された悪魔、そして自我を有し自ら魔具へと変貌させることの出来る力を持った存在『パーガトリー』にへと己の内で問いかける。

『パーガトリー』が人界に訪れる前の二代目マキャ・ハヴェリに託した願いを思い出しながら。

 

―我が魂、我が鎧は勇気ある者に―

 

その事をマギー本人から伝えられた時、RFBは改めて思った。

これを託す意味。

それは正しく覚悟があって、何よりも勇気のある彼女だからこそ扱えると判断されたこそ、託してくれたのだと。

 

(私の覚悟、私の勇気を此処を指し示す…!これが貴方を扱うに等しいのであれば──!)

 

あの戦いを以って、覚悟は証明した。

これを託された意味を理解し、そして覚悟と勇気をこれでもか見せつけ、彼女は乞う。

 

(私に力を貸して!パーガトリー(煉獄)!!!)

 

─良かろう─

 

誰かの声が響く。

 

(ッ!)

 

ほんの僅かに驚くながらも彼女は意識を反らさない。

 

─汝の覚悟、勇気、我を扱うに値する。…汝の名を聞こう─

 

(RFB)

 

─ほう?我を扱うは魔でもなく、人でもなければ…人形とは。くくっ、よもやこの様な日が訪れるとはなぁ…─

 

(あ、えっと?)

 

笑い出したパーガトリーに困惑しながらも声をかけるRFB。

その声にパーガトリーはすまぬすまぬと詫びながら、言葉を続ける。

 

―しかしこれほどの覚悟、勇気を有した者が居るとはな。1000年は生きた我でも見た事がない。誇るが良いぞ、RFBとやら。いや…我が主と呼んだ方が良いか―

 

(!…うん、ありがとう)

 

―うむ。では始めようか、と言いたいが…一つ伝言を頼めるか、我が主よ―

 

(何かな?)

 

―…二代目マキャ・ハヴェリに礼を。我が願いを叶えてくれた事に最大の感謝を─

 

パーガトリーの声の感じからして、それは何処か寂し気であった。

しかしその意味が何を示すのかなどRFBに分かるはずもなく、彼女は軽く頷いた。

 

(うん、わかった。ちゃんと伝えるよ)

 

―頼むぞ。…汝が行く道に、我が魂、我が鎧の加護があらんこと!―

 

それを最後にパーガトリーの声は聞こえなくなるとR.ガードに取り付けられた追加パーツから微かに火の粉が浮かび上がり始めた。

やがて火の粉は炎へと姿を変え始めていった時、RFBは伏せていた目を開きR.ガードを振り上げる。

 

「はああああぁぁっ!!!」

 

気迫が籠った雄叫びと共にR.ガードの長辺部分が地面に叩きつけられる。

次の瞬間、彼女の周囲を包み込むような火柱が立ち上り、R.ガードの追加パーツが分離し自ら意思で変形開始。鎧へと姿を変えながら、RFBの体へと装着されていき、たった数秒も経たぬ内に火柱は消え、火の粉が舞う中で黒い鎧を身に着けたRFBが姿を現す。

 

「これがパーガトリー…」

 

自身に装着された鎧を見つめるRFB。

黒一色の鎧、腰にはマントを装備し、肘と膝から炎が浮かび上がり、後頭部からは炎が燃え盛る様に放出されていた。

これこそが魔帝によって初めて生み出された悪魔であり、自我を有し、その姿を魔具へと変える事の可能とした悪魔の姿。

炎を宿した拳を地面に叩きつければ、全てを炎の海へと変える力を有し、黒く染まった鎧はありとあらゆる攻撃を受け止める優れた防御力を誇る。

パーガトリー…和訳すれば『煉獄』を意味する鎧をまとうRFBがそこに立っていた。

 

「無事発動出来たそうですね」

 

「うん。それと彼から貴女に伝言があるんだけど」

 

「聞きましょう」

 

「二代目マキャ・ハヴェリに礼を。我が願いを叶えてくれた事に最大の感謝を、だって」

 

パーガトリーからの伝言を耳にした時、マギーの表情は一瞬だけ沈んだ。

その伝言の意味を彼女は察したのだ。

 

(逝ってしまわれたのですね…)

 

そうなる事は既に分かっていた。

悪魔がパーガトリーが扱うのであれば兎も角、人形がそれを扱うとなれば調整は必須。

そのままの状態で発動させてしまえば、必ずと言っていい程、事故が発生する。

それを防ぐため、パーガトリーの調整を三日間かけて行っていたマギーであるが、必ずやってくるであろう別れを最初から分かっていた。

パーガトリーが悪魔以外の誰かに託される場合、規格を使用者に合わせる為に自我を消失させる対価として規格を合わせるというパーガトリー本人が自ら決めた約束があった。

つまりこれをRFBに託すことになれば、パーガトリーの自我が確実に消失するという結果になる。

 

(ゆっくり休んで下さい、パーガトリー)

 

居なくなると言う事は分かっていた。

心に芽生えた寂しさを覚えながら、マギーは静かに安らかな眠りを祈りながらパーガトリーを装着したRFBにへと説明を始める。

 

「基本は近接戦闘を主軸にした戦いになりますね。瞬発力、破壊力などずば抜けた力を持つパーガトリーは炎を操る能力を有しており、イメージ次第で拳に炎を纏わせて攻撃したり、地面に叩き付ければ大きな火柱を発生させることも出来ます」

 

「ふむふむ。この状態はどれほど維持出来るの?」

 

「十分が限界です。十分が過ぎるとパーガトリーは自動的に解除され、元の姿へと戻ります。当然ながら再チャージしなくてはならないのですが…エネルギーを貯めるのは少々コツが必要でして」

 

「それは?」

 

「全ての攻撃をジャストタイミングで受け止める必要があるのです。普通に防いだとしても、パーガトリーを発動させる為のエネルギーには変換されません」

 

飛んでくる攻撃をジャストタイミングで受け止める必要がある。

それはパーガトリーを発動させる為に必要な事であり、決して容易なことではない事は考えずともRFBは理解していた。

 

「おおう…なら、特訓にしないとなぁ」

 

「そうですね。特訓して、使いこなしてください。それは、その力はもう貴女のモノですから」

 

「うん!使いこなしてみせるよ。マギーさんから託されたこの力…決して無駄にしないから」

 

パーガトリーを纏っているため、その表情を伺う事は出来ない。

だが恐らくであるが、その表情は揺るぎない覚悟、勇気を宿いているに違いない。

正しくヒーローの様な、そんな表情と言えるだろう。

 

 

かくして覚悟を証明する模擬戦、継承される力の為の三日間は終わりをつげ、別れの時が訪れる。

基地から街へと繋がる出入口付近で停車しているトレーラーにて、戻る準備済ませた三人をキャロル、ノア、アナ、RFB、レイが見送りに来ていた。

 

「今回は色々世話になったな」

 

「いえ、寧ろこちらが大変ご迷惑をおかけいたしました。突然の宿泊を許可して下さった御恩は忘れません」

 

「気にするな、マギー」

 

軽く会話を弾ませた時、キャロルの表情が神妙な表情へと切り替わる。

 

「あなた方から託された力…これからの為に使わせてもらう」

 

「はい。あなたたちの戦いの為に役立ててください」

 

そう告げるとマギーは軽く一礼しトレーラーを乗り込んでいく。

それに続く様にルージュは四人へと挨拶する。

 

「またお会いしましょう、皆さん。…RFB、また手合わせしましょう」

 

「次も負けないから」

 

「ふふっ、それはこちらの台詞ですよ。…では、お元気で」

 

後ろへと振り返り、ルージュはそのままトレーラーへと乗り込んでいく。

最後はギルヴァだけとなるのだが、ふと何かを思い出したのか彼はコートの懐からあるモノを取り出した。

 

「ノア」

 

「ん?」

 

「娘のネージュからお前にだ」

 

そう言ってノアへと投げ渡したのは小さな記憶媒体の様であった。

渡されたそれを不思議そうに見つめるノアに向かって、その記憶媒体に収められているモノについてギルヴァが説明する。

 

「あいつが言うには、パトローネを使う際に実際にやる動きを収めたものらしい。アレを使う時のあいつは随分とアクロバティックな動きをしながら撃ち合うのを得意としているんでな」

 

それ以外の事は知らん、と告げるとギルヴァはそのまま背を向けトレーラーへと乗り込んでいこうとするが、そんな彼をアナが呼び止めた。

 

「何故ここまで気にかけてくれるのですか?」

 

それはアナが初めてギルヴァから幻影を託されてから疑問に思っていたことであった。

アナにそう問われ、一旦は足を止めるギルヴァであったが彼は決して振り向かず、歩き出しながら静かに口を開いた。

 

「ただの気まぐれだ」

 

本当に気まぐれなのか、或いは本心を隠すための建前なのか。

その心を読み取る事はアナには出来ない。

しかしその答えに対して疑問をぶつける事無く、トレーラーへと消えていく彼の背を只々見つめる。

そうこうしている内にトレーラーのエンジン音が響き渡り、車両はそのまま基地の外へと走り出した。

ルージュが運転し、三日間不眠不休で調整作業をしていたマギーは簡易ソファーに寝転がる中、助手席に座るギルヴァは目を伏せて休んでいた。

そんな中、蒼は基地で過ごした三日間を振り返りながら、彼はあの模擬戦で出会った『もう一人のアナ』との会話を思い出していた。

 

 

赤い霧が周囲に漂う空間。しかして禍々しさを感じさせないその空間に、彼女はいて、蒼はいた。

 

―これは驚きね。まさかここに来るなんて

 

―この身になってからはこういうのが得意になってね。…初めましてだな、名は…言わずとも分かるか

 

―蒼でしょ?あの子を色々気にかけてくれているみたいね?

 

―まぁな。さて…このまま楽しく会話したいんだが、そんな時間はねぇか

 

軽くため息を付きながら蒼は、とあるものを取り出す。

それは一振りの大剣。槍にもなり大鎌にもなる魔力で錬成された大剣が握られていた。

突然それを出した蒼に対し、もう一人のアナは怪訝そうに見つめる。

しかしそんな視線を気にもせず、蒼は手にした大剣を地面に突き刺すと何故かそのまま背を向けて歩き出した。

 

―俺から、蒼…いや、■■■■からアンタにそれを託す。…あの嬢ちゃんを支える仕事、任せるぜ

 

―…

 

―今度会う時は、名前を教えてくれ。それじゃあな

 

言いたい事だけを伝えると蒼はその場から消え去っていく。

その場に残されたもう一人のアナと、地に突き刺さった大剣。

暫くそれを見つめた後、彼女は大剣へと歩み寄り柄に手をかけた。

 

―ええ。その仕事、任されたわ

 

既にいない蒼へと言葉を投げかけ、彼女は大剣を引き抜く。

もう一人の自身を支える為に、そしてもう一人の自身と共に戦う為に。

託された大剣と共に、赤い霧を纏いながら自身の役目が訪れるのを待つ。

後にアナがデビルトリガーを発動させ、その支える役目が訪れたのは言うまでもないだろう。




はい。これにて模擬戦『覚悟証明』は終了致しました。
今回コラボさせていただいた焔薙様、本当にありがとうございました!

ではここから、託した力の軽い説明をさせていただきます。


:デビルトリガー(アナver)
ギルヴァと蒼がアナに託した悪魔の銃爪。
発動させた際の姿は、人と悪魔が二つが合わさった姿となる。
持続可能時間は三分だが、その力はイグナイトトリガーを上回る。
(姿のイメージとしては『仁王2』の妖怪化『迅』の時の姿とDMC3、DMC4SEのバージルの魔人化した際の姿をイイ感じに合体させた感じ)

:Ⅱカリギュラ
デビルトリガーを発動させた際、義手を付けている左腕のガトリングが使えなくなるという問題を解消する為に蒼が作り上げた射撃武装。
魔力で錬成された重火器であり、威力、連射性は非常に高い。
しかし魔力の消費率が倍増する為、使うのは程々が一番。
(イメージとして、ガンダムヘビーアームズ(EW)が持つビームガトリング。それを魔力で錬成したものと思ってください)

:幻影剣
ギルヴァがアナへと託した技術。魔力で錬成された剣を投射する技術であり、イグナイトトリガーやデビルトリガーを発動させてなくても使用できるように細やかな調整が施されている。
蒼曰くあくまで護身用だが、アナの頑張り次第で性能が変わるとのこと

:魔力で錬成された大剣
タリンでの作戦時、蒼がアナへと記念にと称し渡した大剣。
基本形態の大剣から、槍、大鎌へと変形を可能とする。タリンの作戦以降、何処かへと消えていたそれは幻影の中に格納されていたらしい。
後に蒼から『もう一人のアナ』へと託された。

:R.ガード(追加パーツ装備状態)
追加パーツを装着したR.ガード。
追加パーツを装着した事により、重量は増えたが防御面積は広がった。
(追加パーツを装着時のR.ガードの姿は、FGO マシュ(オルテナウス装着時)に持っている大盾とイメージして頂けると幸いです)

:パーガトリー
RFBに託された力。魔界の鎧であり、炎を操る能力と優れた防御力を有する。
またパーガトリーは煉獄を意味する。
(イメージとしてはFGO アシュヴァッターマンの第二再臨時の姿に、そこに付け加えて膝と肘から炎が放出しているものと思ってください)

:とあるデータが収められた記憶媒体
ギルヴァの娘であるネージュからギルヴァを介してノアへと渡された記憶媒体。
どうやらパトローネを運用する際にネージュが実際にやっているアクロバティックな動きを収めたものらしい。
(分かりやすく言えば、ガンダムエクバシリーズに出てくるガンダムヘビーアームズ改(EW)がやっているあの回転を交えての射撃の数々を収めたもの。あんなに回転して大丈夫なのかね…)


長々お待たせする形となってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
ですがとても楽しかったです。焔薙様、本当にありがとうございました!

では次回ノシ
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