―一時の夏の思い出ぐらいあってもいい―
満点の青空が広がる猛暑日。
全てを照らす日差しが降り注ぎ、熱気を交えて緩やかに吹いた風に雲が流れ、海がさざめく。
そんな気候に恵まれた、大海原が置くまで広がって見える大きさ異なる船が停泊する港が一つある。
そこはとある人物が、今の職に就く前から保有していたそこは今やグリフィンの一部の人間だけが知るとされる港と化しており、基本的には海洋調査を行う為の移動手段として機能している。
そんな港に無人島調査という名のバカンスを楽しむべく、今回のバカンスの参加者達に通達していた集合時間よりも一時間早く、シーナ・ナギサ率いるS10地区前線基地所属のメンバー及び便利屋『Devil May Cry』のメンバーが訪れていた。
「私を良く知る人かぁ」
そう呟くのはS10地区前線基地を統べる若き指揮官、シーナ・ナギサ。
バカンスという事もあってグリフィンの制服ではなく麦わら帽子をかぶり、白いワンピースという装いで基地所有の車から降り立つと、空を見上げながら今回のバカンスの為に移動手段を提供してくれる『自身』を良く知る人物の事を考えていた。
「思い当たる方でもいらっしゃるのですか?」
乗って来た車のトランクから手荷物を取り出しながら、MG4がそう問う。
「うーん…居ないと言えば嘘になるけど、船なんて所有してたかなぁって思って。だってグリフィンに就く前は武器商人にやってたわけだし」
その台詞にん?とMG4は疑問の声を上げた。
シーナが言う人物は今でこそグリフィンに就いているが以前までは武器商人だったというのだ。
その人物にMG4も心当たりがあった。
直に会った訳ではないが、かつてシーナが語った復讐劇の中で出てきた女性が一人いた。
「指揮官、もしかしてその人って─」
「私以外いないと思うけどねぇ」
MG4の言葉を遮るようにして、二人の会話に割り込んできた一人の女性。
制服こそはグリフィンの制服であるが、色が赤ではなく白。
白色の制服を身に纏い、透き通った銀髪を揺らしながら二人に歩み寄る人物。
かつては武器商人。しかして今はグリフィン本部所属資材調達部所長の座に身を置く女性。
二月十四日の夜。復讐鬼と化したシーナを裏で支えた元武器商人 シャーレイ・アナスターシャが笑みを浮かべながら二人の傍に歩み寄ってきた。
「久しぶり、シーナ。最後に会ったのは君が基地配属される前日だったかな?」
「多分その辺ぐらいかな。元気そうで何より、シャーレイ」
「私は変わらないさ。寧ろ君が元気そうで何よりかな。君は色々と無茶するからねぇ」
「今も無茶してるよ?」
「そうだろうと思った」
肩を竦めながらも笑みを浮かべるシーナにつられて、シャーレイも笑みを浮かべる。
お互いにひとしきり笑い合うとハグを交わす。
「今回はありがと。忙しいのに船を用意してもらって」
「いいさ。長らく休みを取っていないって聞いたからね。最高の休日を過ごすのに協力するのもやぶさかでじゃないさ」
「そっか。参加者のリストの方に目は通してる?」
ばっちりと答えるシャーレイであるが、その表情にはなぜか苦笑いが浮かんでいた。
その理由はシーナも察している。
「大人数にはなるとは思っていたけど…予想以上だったんだけど?」
「あはは…」
最早笑って返す事しか出来ないシーナに対してシャーレイはやれやれと手を額に当てた。
今回のバカンスの参加者はS10地区前線基地所属のメンバーとギルヴァらを除いたとしても、二桁は上る。
特にダレンが独自の情報網を用いて調べ上げ、タリンでのアイソマー救出作戦を立案したリヴァイル・ウィッカーマンにシーナが連絡を取った際には、それはもう大所帯での参加となったそうだ。
「忙しいのは分かるけどさ、何で自ら休みを取ろうとしないの?もう少し自分を労りなさいって」
「後で参加メンバーに伝えておくよ」
「そうして。…取り敢えず、船は用意しておいたよ。丁度君の後ろに停泊しているのがそうさ」
「というと…ん!?」
後ろへと振り返って、そこに停泊する船を見てシーナは言葉を失った。
大人数になる為、それなりの船が用意されているとは思っていた。
しかしそこに停泊していた船はシーナの予想を平然と上回るものであった。
「誰が豪華客船なんて用意して言ったかなぁ!?」
「サイズとしては普通さ。因みに内装は豪華客船並みに色んなものを用意してるよ。食べても良し!飲んでも良し!遊んでも良し!宿泊施設も完備!何なら寝泊まりしてもオーケー!」
「ああもう…」
何故かテンションが上がり気味のシャーレイに対しシーナは額に手を当て天を仰いだ。
用意してもらったからにはこれ以上の事は言いたくない。
この港にやってくるであろう参加メンバーにはこれしかなかったと伝えようと心の内で決めたシーナは、話を元へと戻していく。
「無人島までの航海時間は?」
「ざっと三時間ぐらい。操舵に関しては備え付けの自動航行システムが全てを行うから、そっちは船の旅を楽しむといいよ」
「ん、了解。…ホントありがとね、シャーレイ」
「いいよいいよ。友人の君の為ならこれくらい容易い。しっかりと休んでくるといい」
「うん」
「それじゃ私はここらで失礼するよ。仕事をほっぽり出してここに来てるからね」
仕事を放って来たのかぁ…と内心呟くシーナ。
胸の内に呟いた言葉がシャーレイに届くはずもなく、彼女は背を向けて歩き出しその場から去っていった。
去り行く彼女を見届けた後、シーナは既に荷物を下ろし待機している全員へと伝える。
「参加メンバーが来るまでに手荷物は船に載せるように。武器関連は目立たない所に置く様にして。それと何もないと思うけど手が空いた者から港周囲の警戒」
「では私たちもお手伝いしましょうか、シーナ」
「え?」
不意に後ろから声を掛けられて、声の方向へと振り向くシーナ。
そしてそこに立っていた人形を見てシーナは言葉を失った。
「大きくなりましたね。それにあの時と比べて、一段と綺麗になったようで。ふふっ、何だが自分の事の様に嬉しく思いますね」
プラチナブロンドの髪に金色の瞳が特徴の人形。
頭に着けたカチューシャには白い花の装飾が施されており、纏う衣服はまるでMGの戦術人形『ネゲヴ』やHGの戦術人形『ジェリコ』が着る衣服と似たモノを纏っていた。
前々からS10地区前線基地に異動願いを出していた人形であり、異動リストに記載されていた人形の中で唯一その情報が伏せられていた戦術人形。その名も──
「X…9、5さん…?」
「はい。X95、本日付けでS10地区前線基地に配属となりました。これからよろしくお願いしますね、指揮官様」
シーナのかつてを知る一人であり、いつまでも寄り添い続けた白き花。
X95が優しく包み込むような、心の奥底から安心させてくれるような笑みを浮かべて敬礼する。
「本当に…あの時の…?」
「ええ。あの時、あなたと一緒にいたX95です。「X95さん!」わっ」
X95が感じたのは他ならぬシーナの胸の鼓動であった。
壊れぬ様に抱きしめてくる彼女の背にX95はそっと腕を回した。
「私…私は…!」
「あの時の事を謝る必要はありませんよ、シーナ。こうして会う事が出来たのですから。それだけで十分です。ですから私に涙ではなく、笑顔を見せてください」
「笑顔…ですか?」
「はい。貴女の笑顔が私は一番大好きなんです」
X95の手がシーナの頬に添えられる。
瞳から流れる一筋の涙が指で拭われると同時にシーナは笑みを浮かべた。
X95が一番大好きという笑顔が出来ているかどうかは分からない。
今で出来る笑顔を浮かべるシーナにX95はうんと頷き、一言。
「良く出来ました」
いつの間にか出来上がった状況に誰しもが困惑する。
周囲からの視線に気づいたのか、X95から離れ赤面しながらシーナは咳払いを一つ。
「今の気にしないで?」
「「「「無理」」」」
「え~…」
二人の間で何があったのかはX95の助言もあっていつか話す事となり、シーナはS10地区前線基地に所属する事となった人形らとあいさつを交わしていた。
「やった~、S10地区前線基地の指揮官さんは良い人っぽい!あ、私はルイス、よろしくね!」
「よろしく。着任して早々バカンスな訳だけど、楽しんでいって」
「うん!」
まず初めに挨拶を交わしたのはMGの戦術人形『ルイス』。
元は別の基地に所属していた彼女であるが、外見や人となりで判断しがで中身が悪でも外見が良ければ善人だと判断する性格らしい。それ故か色々問題を引き起こしてしまったらしく、基地の指揮官の判断もあって強制的に異動させられた。
S10地区前線基地へ異動となったのは、シーナ指揮官なら何とかしてくれるという勝手な期待によるものだがシーナがそれを知るはずもない。
「そしてルイスの隣に立っているのが…」
「Thunderだよ。ほらほら、挨拶しよ」
ルイスに促され、シーナの前に立つのは赤い瞳に銀髪。
そして携えた銃は少女とも言っていい外見を有する人形が持つには余りあるものと言っても過言ではない。
「Thunderです。宜しくお願い致します」
「こちらこそ。にしても凄い銃だね」
シーナの目線がThunderが持つ銃へと向けられる。
一見すればライフルの様に見えなくないそれは、拳銃だと誰が思うであろうか。
「良く言われます。普通じゃないとか可笑しいとかそういう事はよく」
「そう?私は全然普通だと思うよ」
「…何とも思わないのですか?」
「思わない。というか、うちにはもう普通じゃないのがゴロゴロ転がってるからね。銃身が二つあるリボルバーとか29mmっていう砲弾みたいなのを撃つライフルとか、それはもうたくさん」
「…普通じゃないですね」
「でしょ?」
にっこりと微笑みながら、シーナはそっとThunderの頭に手を置いた。
「私は気にしないよ。貴女は貴女のままで良いからさ」
「…はい。ありがとうございます、指揮官」
表情は硬い様にも見えて、少し笑っているようにも見える表情を浮かべるThunder。
雰囲気が少しだけ柔らかくなったのを感じるとシーナは優しく微笑んだ。
和やかな雰囲気に二人を見ていたルイスもにっこりと笑みを浮かべる中、シーナはThunderの隣に立つ人形に視線を向けた。
彼女の視線が、その人形へと向けられたの気付くとThunderが紹介する。
「ショットガンの戦術人形でLTLX7000です。LTLX、挨拶を」
「ああ」
纏う雰囲気はどちらかと言うと冷たく感じさせるだろう。
だがその実は非常に甘えん坊という性格の人形であるのだが、今のシーナはそれを知らない。
「LTLX7000だ、宜しく頼む。貴官が信頼に値する人物だと良いが」
「なら信頼に値する人物になれる様に努力しないとね。それと甘えたくなったらいつでも言ってくれていいからね?」
「ッ!?」
だが侮るなかれ。
かつて誰にも告げずに姿を変えたソルシエールに気付いた事もあるのだ。
甘えん坊である事を誰にも知られることなくとも平然と気づいたシーナ。
その事を指摘されたLTLXは驚くが、それでも関係ないと言わんばかりにシーナは彼女に歩み寄り、頭に手を置いて優しく撫でた。
「今はこれしか出来ないから許してね」
「あ、いや…これはこれでその……嬉しい」
「そっか」
LTLXの頭を撫でる手が離れる。
離れる手を名残惜しそうに見つめるLTLXにシーナの後ろからFALは声を掛けた。
「そろそろ参加メンバー来る頃よ。指揮官、出迎えはどうするのかしら?」
「私が行くよ。他の皆には先に船内に移動し待機するように伝えて。異動してきたこの子たちと一緒にね」
「了解よ。それじゃ先に船内で待機してるわ」
「うん」
FALがX95を含む異動してきた人形を連れてシャーレイが用意した船へと移動していく。
それを見届けるとシーナはこれからやってくるであろうバカンスの参加者を迎え入れる為、その場で待機。
「さてさて…どんなバカンスになるかなぁ」
空を見上げながら、どんな夏の思い出になるのかと思うシーナ。
参加メンバーが来るまでもう少しある。
夏空が広がる中、
という訳で!
operation 『Memories of a summer』始動でございます!
今回はそのプロローグ編として描かせて頂きました!
集合地点となる港にはシーナ(麦わら帽子に白いワンピースを着ている)が出迎えてくれますので、参加メンバーは彼女を通して港へと通ってくださいませ。
(※バカンスの誘いには全てシーナはお声がけしています)
今回のoperation「Memories of a summer」の参加者と作品名をここに表記しておきます。
アーヴァレスト様作【チート指揮官の前線活動】
NTK様作【人形達を守るモノ】
焔薙様作【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】
ガンアーク弐式様作【MALE DOLLS外伝集】
試作強化型アサルト様作【危険指定存在徘徊中】
…もうアレですな、豪華過ぎませんかねぇ?
それは兎も角。参加する皆様、一時の夏の思い出作りを一緒に盛り上げて行こうでありませんか!
拙い文章しか描けない私でございますが何卒宜しくお願い致します!