Devils front line   作:白黒モンブラン

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―バカンスは無人島に着いてからじゃない―

―船に乗った時から始まっているのだ―


Act240-Extra Memories of a summer prologue Ⅱ

シーナが集合場所となる港に集まるバカンスの参加者を出迎える為、船外で待機している中、ギルヴァは一人で船の船首側のデッキにいた。

流石にこの暑さの中では彼も参るのだろう。

愛用であり、宝物と言える青い刺繍が施された黒いコートは脱いだ状態でそこから映る海を眺めていた。

元より海を見てみたいという思いからこのバカンスに参加した訳であるが、だからといって初めて乗船する船でだらける気など更々なく、どうせならこの船から見える海を眺めてみようという思い今に至る。

 

―これが海…

 

―一番見てみたいのは砂浜から広がって見える海ってヤツだが…こいつはこいつで悪くはねぇな

 

そして突如として起きた不幸によりその命を落とし、海を見た事がない肉体無き少女(アイソマー) エラブルと魔族であり、魔界なんぞに綺麗もへったくれもない事からエラブルと同じく海を見た事のない蒼の二人にこの景色を見せる為にこうして立っていた。

 

―肉体がありゃ、この海を肴に酒でも飲みてぇモンだ

 

―お酒ですか?あまり詳しくはないのですが…ギルヴァさんが偶に飲まれるお酒(ウイスキー)は飲んでみたいです

 

―止めておきな。それにだ、そんなの飲んだら一発でダウンだ。お子ちゃまはジュースで我慢しな

 

―むぅ!私はお子ちゃまなんかじゃないですぅ!

 

―ハハッ!俺から言わせればお子ちゃま同然さ。

 

騒がしいと思いながらも決して咎める事無くギルヴァは静かに腕を組む。

 

(海、か…)

 

そこに広がる光景にギルヴァはふと昔を思い出す。

まだ自身に義母と義妹が存命だったあの時の事を。

まだ静かに暮らしていたあの時の事を。

 

(…)

 

ギルヴァが二人と暮らしていた場所は近くに海はなく、それどころか汚染が酷かった為立ち入る事すらできなかった。

だがそれでもだ。一度だけで良いから海を見てみたいと思うのは誰にだってある事であろう。

当然ながら当時のギルヴァも口にはしなかったものの、胸の内でそれを願っていた一人だ。

そしていずれかは二人と共に思っていた。

叶わない願い。そうだと分かっていながらも、それでもと諦める事が出来なかった自身が居た事を長い時を経てギルヴァはそれを思い出していた。

 

「もうバカンスを楽しんでいるのか、父よ」

 

「む」

 

叶わなかった願い。自身だけが叶えてしまった願い事に何らかの感情を抱くギルヴァの後ろからネージュが歩み寄り、声をかける。

ギルヴァと同様にこの暑さには敵わない様で、何時も羽織っている白いコートは脱いでおり、透き通った銀髪をそっと掻き分けながらギルヴァの隣へと並び立った。

並び立った娘の姿を一目見た後、ギルヴァは先ほどの問いに答える。

 

「向こうに着いてから楽しめなど言われていないのでな」

 

「ふふっ、確かにそれはそうだな。どう楽しむかは人それぞれだ。…それはそうと少しだけ時間をくれないか?」

 

「問題か?」

 

「問題と言えば問題だ。だが武器はいらない。それだけは断言できる」

 

では何かとギルヴァがそう思った矢先、それを見透かしていたかのようにネージュは告げた。

 

「先ほどシーナから頼み事をされた。S13基地から来たシャマール指揮官らを船内に案内した後、S07基地から来たサクラ指揮官らを船内に案内する為少し外れるらしい。それもあって今しがたこの港に来たリヴァイルらを船内への案内役をお願いしたい、と」

 

「あいつらか。…早期警戒基地の面子も来たと聞いたが誰が案内をしている?」

 

ネロ(処刑人)だ。暇そうにしていたから頼んだ。…さっきすれ違ったがセーラー服を着た人形、恐らく私と同じ鉄血のハイエンドモデルだと思うが、そいつに右腕のデビルブリンガーについてしつこく質問攻めされていたが…」

 

「なら問題ない」

 

「…良いのか?」

 

「今に始まった事ではないのでな」

 

組んでいた腕を解き、ギルヴァは己の内で盛り上がっている蒼とエラブルへと話しかける。

 

(ここを離れるぞ。構わないな?)

 

―あいよ。話は聞いていたからな。俺は構わねぇが、エラブルはどうだろうな…?

 

(……成る程)

 

考えずともギルヴァは察した。

今から会いに行くのはリヴァイルらであり、そして自身の中にいる肉体無き少女、エラブルに関わりがある人物なのだ。

それを理解していたからこそ、何か思う所はあるのだろうと蒼は言外にそう伝えたのだ。

落ち着かないのであれば、何らかの方法で待機させるべきかと考え始めるギルヴァにエラブルが話しかける。

 

―私は大丈夫です。あの時と比べて、幾分か落ち着きましたから

 

(そうか。…無理はしなくていい)

 

―はい…!

 

本人がそういうのであれば問題ない。

踵を返し、ネージュに行くぞと伝えるとギルヴァはその場から去っていた。

 

 

ネージュと共にリヴァイルらが居る場所へと向かうギルヴァ。

船と岸壁を繋ぐタラップを降りていく際、ネロの後に続くオートスコアラーとアナ、アーキテクトらとすれ違うも言葉を交わす事もなく、二人は船から降り立つ。

そして周囲を軽く見回した後、男女の集団を見つけ歩み寄った時、やってくる二人に気付いたのかリバイバーが挨拶する。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

「ああ。お前も変わりないようだな」

 

「まぁな。いつも通りってやつさ。それと…隣に立っているのは誰だ?」

 

リバイバーの視線がギルヴァの隣に立つネージュへと向けられる。

タリンでの作戦では飛行部隊迎撃の為に共闘したリバイバーとネージュであるが、あの時はネージュが大型機動兵器『リヴァイアサン』に搭乗していた事と専用装備『ラヴィーネ』を装着していた事もあって、互いに顔を知らないままであった。

そういった背景があるが為、リバイバーがギルヴァの隣に立つネージュを知らないのも無理がないと言えた。

 

「ネージュだ。タリンでは貴方と共闘出来て嬉しく思う」

 

「てことは、あのリヴァイアサンってのに乗ってたやつか?」

 

「そうだ。こうして顔を合わすのは今回が初めてだな」

 

「だな。しっかしあんた…鉄血のハイエンドモデルか?反応はあるが、データにはないんだが…」

 

「…色々事情がある身なんだ。深掘りはしないでくれると嬉しい」

 

今回はバカンスを楽しむ為にある。

その事は二人とも理解している為か、会話はそこでストップする。

しかしそこから話題変える為にギルヴァがリバイバーの隣に立つリヴァイルへと尋ねる。

 

「聞いてはいたが大所帯だな」

 

「折角のバカンスだからな。それに奇跡とも言える形で残っている自然を今を生きる者達に見せてあげた方がいいと思っていたのでね」

 

「成る程。実にお前らしい」

 

「そういう君こそ自然と楽しもうと思って参加しているのだろう?」

 

「それもあるが…」

 

腕を組み、そっと目を伏せるギルヴァ。

何か触れてはいけない事を触れてしまったかと思い、話題を変えようとするリヴァイルであったがそれを行う前にギルヴァが口を開いた。

 

「汚染などされていない自然の海を見たかった。幼き頃からの夢の一つだったのでな」

 

「…」

 

あのギルヴァからの口から告げられた夢の一つ。

その台詞にリヴァイルの顔が僅かに曇る。

 

「お前を責めている訳ではない。やれることを成せばいい。俺からはこの程度の事しか言えん」

 

それに、と彼は前置きを口にし台詞を続ける。

 

「今は休暇を楽しめ。互いに気が滅入る話をしに来た訳ではあるまい」

 

「それもそうだな。案内を頼めるか?」

 

「ああ。ついてこい」

 

踵を返し、ギルヴァはネージュと互いに頷くと船を向かって歩き出す。

その時、何かを思い出したのかふとギルヴァは足を止めチラリと後ろを見た。

彼の視線の先。そこに居たのはタリンでの作戦で助けた二人のアイソマーと姿こそは違えど、白き花が辺り一面に広がるあの場所で通信でやり取りし、一時的とは言えど精神体のみとなってしまいギルヴァの中に潜り込んでしまったものの、『万能者』によって蘇ったフラーム。

二人のアイソマーに関しては恐らく自身の事は覚えているだろうと思うギルヴァであるが、フラームに関しては自身の姿を見せた訳ではないので覚えていない。良くて声ぐらいは覚えているだろうと判断している。

しかしそう判断していながらも、ギルヴァは二人のアイソマーとフラームへと伝えた。

 

「…元気そうで何よりだ」

 

「…えっ?」

 

不愛想な顔であり、冷静な性格をしているギルヴァから出た言葉。

その言葉にフラームは驚いたような声を上げるも、ギルヴァは聞いていない振りをしてリヴァイルらを連れて船へと歩き出すのであった。




段々と参加者の皆様コラボバカンス回を上げていっているみたいなのと、長らく更新出来ていない為、急遽ですがプロローグⅡを投稿させていただきました。

次回は楽しい楽しい船旅の話になるか、移動描写はすっ飛ばして無人島でのバカンスを楽しんでいる話のどちらかになるかと。

ともあれ皆さん、気長にお待ちくださいませ…!
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