―船の旅もバカンスを楽しむ一つなんだから─
「どこにいるのでしょうか?」
参加者の全員が集い、船は無人島へと向けて出港。
辺り一帯に広がる海に揺られながら優雅に進む豪華客船に彼女は誰かを探す様に歩いていた。
水色の瞳、まるでエルフを彷彿させるような長い耳に、白に水色のグラデーションが掛かった特徴的な色を持つ長髪を揺ら、白のノースリーブシャツに黒のスカート、腰に飾りベルト、そして頭に着けたハイビスカスの飾りはこのバカンスの為に持ってきた装飾品。
いつもとはほんの少し違う夏の装いを纏い、あの
本来であれば仲のいいソルシエールら、基地の皆と船から見える海を眺めているはずなのだが、一人離れて船内を歩き回っているには理由があった。
「誰か探しているのですか、シャリテ」
「あ、ルージュさん」
そんな彼女に気付いていたのか、いつもの白のケープコートを纏ったルージュが後ろから話しかける。
彼女ならもしかしてと思い、シャリテは自身が探している人物について尋ねた。
「試験者さん達を見ていませんか?船に乗っている事は聞いているのですが」
「彼らがどうかされたのですか?」
「いえ、大した事ではありませんよ。ただ挨拶をしたくて」
「そうですか」
大して気にしてはいないといって様子で答えるルージュ。
だがそんな彼女は内心であるが、不安を覚えていた。
それもその筈で、送られてきた軍事ロボットの様な姿をした彼らは所謂予備戦力として、不測の事態に備える為に来たと言っていたのだ。
どうやら今向かっている無人島とは別の無人島の調査で不死の巨大アナコンダとか蝿男に遭遇し、最早調査どころではなくなる程の事態に陥ったとのこと。
今回の調査という名のバカンスも、もしかすればそれらと遭遇するかもしれないといった懸念材料があった為に彼らは送られてきたらしい。
(絶対とは限りませんが…私も警戒しておくべきですね。それに悪魔関連なら彼らよりも早く私やギルヴァさん、ネロやブレイクさんの方が気づきますし)
「ルージュさん、どうかしましたか?」
少し考え込んでしまっていた為、不安げに見つめてくるシャリテに何でもないと答えるルージュ。
「試験者らなら船の後方にいるのを見ましたよ。彼らなりに船の旅を楽しんでいるかと」
「そうですか!ありがとうございます!」
花が咲いたかのような笑みを浮かべ、ルージュに礼を述べるシャリテ。
そのままルージュの横を通り過ぎようとした時、ふとある事を思いつき再び彼女へと声をかけた。
「ルージュさん、一つお願いしたことがあるのですが」
シャリテから珍しく頼み事をされ、首を傾げるルージュ。
彼女の口から告げられた頼みの内容を知ると、それくらいならと快諾しルージュはコキュートス・プレリュードを展開。
冷気が放たれ、やがてそれは氷となる。そしてルージュの想像したイメージをコキュートス・プレリュードに送り込むと氷は、とある姿へと変えシャリテの手に渡る。
氷で作られた『あるモノ』を三つほど抱え、シャリテはそのまま試作者らが居る船の後方部分へと歩き出していった。
豪華客船、デッキ後部。
その姿は余りにも浮いているとしか言いようがない軍事ロボの姿をした者達『試験者』がいた。
自分たちが余り場違いだという事は自覚しているものの、だからといって船の旅を、ましてやバカンスを楽しんではいけないというルールなどある筈もなく、船の外で辺り一帯に広がる海を眺めていた。
『『『…』』』
だがそこに会話はなく、折角のバカンスだというのに彼らを包み込む空気は若干重々しい。
そこに重々しい空気感に包まれている状況に臆する事もなく、彼らを見つけたシャリテが声をかける。
「こんにちは、試験者さん」
『ム…確カ、ブラウ・ローゼ ノ シャリテ ダッタカ?』
声を掛けられ歩み寄るシャリテに対して対応したのは試験者の支援型。
自身の前に立つ人形がS10地区前線基地所属する独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』のシャリテという事は彼も知っているらしい。
「どうですか、楽しんでいらっしゃいますか?」
『アア…ソレナリニナ』
そう答えるもシャリテにはどこかそう思えない何かを感じ取っていた。
そしてそれを分かっていたからこそ、彼女は彼らを探しており、ルージュにとある物を作ってもらい此処まで来たのだ。
「えっと…試験者さん、少しだけ屈んで貰ってもいいですか?」
『何故?』
「それはその……兎に角!屈んでください!」
この暑さに加え、自分たちが余りにも浮いてしまっている事が原因だろうか。
何故かまともな判断が出来なかった試験者支援型はシャリテに言われるがままにゆっくりと屈んだ。
試験者支援型が屈むとシャリテは彼に歩み寄り、手にしていたあるモノを彼の頭の横に来る形で添えた。
軍事ロボみたいな姿をした彼に似合っているかは兎も角、折角のバカンスなので楽しんでほしいという思いがそこに込められているのだろう。
「うん!とても似合っています!」
屈託の無い満面の笑みを浮かべるシャリテ。
その視線に映るは試験者支援型の頭部側面に氷で作られたハイビスカスの飾りが添えられているという光景が映っていた。
『…コレヲ渡シニ態々?』
「はい!折角のバカンスですし。それに私だけでは大した事は出来ませんが楽しんでほしいって思って。あ、そのハイビスカスの飾りは特別性なんですよ。氷で作られていますけど、決して融ける事がないんです!夏の思い出として持って帰って下さいね!」
例えそれが如何なる理由であろうと。
シャリテにとって、試験者の三人もバカンスにやって来た団体の一つに過ぎず。
折角の夏、折角のバカンスだというのに何も施さず、放置しておくなど彼女には出来る筈もなかった。
ひんやりとしているが、そこには確かな優しさが籠った氷のハイビスカスの飾り。
誰かに作ってもらったと言えど、そのハイビスカスの飾りはある意味、彼女の性格を表していると言えよう。
「あ、重装型の二人も屈んで貰えますか?」
『ウ、ウム…』
『ア、アア…』
戸惑いながらも片足をつく重装型の二人。
そんな二人にも頭に氷で出来たハイビスカスの飾りを添えるとシャリテは満足気に頷く。
「うん!皆さん、とても似合っています!」
一人満足するシャリテに試験者らは未だに困惑気味の様子。
しかし状況はシャリテの方に向いてしまっているのか、彼女を主軸として流れ始める。
「折角のバカンスですから、目一杯楽しんで下さいね!」
大輪の花が咲くが如く。
満面の笑みを浮かべた後、シャリテは試験者らに軽く一礼してその場から去っていく。
去り行くその背を見届ける試験者ら。その一方で頭に添えられた氷のハイビスカスの飾りにそっと手を伸ばし、この暑さを凌ぐ様な冷たさをその機械の指先で感じるのであった。
シャリテが試作者らに贈り物をして戻ってきている一方で船内はこれは見事に賑わっていた。
初めて乗る豪華客船、初めてのバカンス、久しぶりに与えられた休暇。
ここまで揃えば気分が盛り上がるのも無理もないと言え、誰しもが船の旅を満喫していた。
ブレイクもその一人と言え、シャーレイが事前に用意してくれていた食材を使ってグローザが作ってくれたストロベリーサンデーに舌鼓を打っていた。
そして珍しいと言うべきか、彼の隣にはシーナが座っており、冷房の効いた空間でノンアルコールカクテルが注がれたグラスを片手に船を楽しむ皆の様子を微笑ましい笑みを浮かべ眺めていた様子だった。
「いいのか?ゲスト達と話をしなくて」
「今じゃなくても沢山話せるから大丈夫。それに今は船の旅を楽しんでほしいからね。そういうブレイクさんは良いの?」
「俺はストロベリーサンデーを食べる事とここに居る美女達の水着姿を想像するのに忙しくてね」
「ふふっ、ブレイクさんらしい」
彼のこういった事は今に始まった事ではない。
軽く笑うとシーナはグラスのノンアルコールカクテルを一口含む。
港を出港して、かれこれ二時間半は経過している。バカンスの場所となる無人島もそろそろ見えてきてもおかしくない所まで来ているとシーナは思っていた。
そしてその予想が間違っていないと言わんばかりに、悪魔の右腕『デビルブリンガー』を露わままにした状態のネロがシーナの元へ歩み寄って来た。
「ブリッジにいるソルシエールから連絡だ。無事着いたみたいだぜ。後は停泊準備だけだとよ」
「ん、了解。そのまま自動航行システムに任せて、ブリッジから戻ってくるように伝えて」
「あいよ。…なんもねぇと思いたいが一応不測の事態に対応できるよう、武装だけはしておくぜ?」
「分かった。私の
シーナからの頼みにネロはどうしたものかと迷った。
自身がこのバカンスが大して楽しめなくても構わない。何かあった時にすぐさま対応する気で居た為である。
だがシーナにはせめてこのバカンスを楽しんでほしいという思いがネロにはあった。
それ故か周囲の警戒に彼女を巻き込む事はしたくない。
だがどう説得すべきかと悩んだ時、二人の話を聞いていたブレイクは割り込む。
「折角のバカンス、折角の休暇。偶には仕事から離れたって誰も文句言わねぇと思うけどな」
「でも…」
「なに、周囲の警戒ぐらいなら俺もやってやるさ。食後の運動と浜辺で美女達と遊ぶための準備運動をしておきたいからな」
「それ、どっちが本音?」
「さあ?どっちだろうな」
肩を竦め、空になったパフェグラスにスプーンを放り込むと立ち上がるブレイク。
体をほぐす様に背伸びした後、傍に置いてあったリベリオンを収めたギターケースに手を伸ばす。
一応周囲の警戒に努める気はあるのだろうと判断し、歩き出していくブレイクの背を見つめながら無人島に就くまで寛ごうとした矢先だった。
「…何かが来ます」
「!」
シーナの影に潜んでいた筈の『セイレーン』が突如として姿を現し何らかの危機を告げ、その警告に耳にした瞬間彼女の体に緊張が走り表情が固く張り詰めた瞬間。
船の船首側のデッキが何かが降り立ち、僅かな破砕音と土埃が周囲に広がった。
「「「「!」」」」
余りにも突然の事に驚きを隠せない者達。
舞い上がる土埃の中で浮かび上がる影。人の姿をしているが、誰なのか分からない。
戦えぬ者達を自身の後ろへと退避させ、戦える者達が突如として落ちてきたソレに対して警戒を務める。
そんな緊迫した状況で海風が吹くと土埃が払われ、落ちてきたソレの正体が露わとなった。
「ヒサシイ ナ ツワモノ タチ ヨ ・・・・・ デハ シアオウ カ」
浮かべた表情は笑みなのだろうが、一般的な感性で言えば恐怖を覚えさえ、大剣の様に見えるソレは彼にとっては爪。
頂へ至る為、まだ見ぬ強者らと死合う為に生きていると言っても過言ではない存在。
かつてS10地区前線基地から発令した特殊作戦に参加した事の強者…『蛮族戦士』が構えを取った状態でそこに立っていた。
突如として現れた蛮族戦士。海の音だけに支配されたこの場に、微かにだがカチリと、まるで銃の撃鉄が起こされる音が響いた。それも蛮族戦士の傍でその音が響いていた。
「ム・・・・」
当然誰よりも早く気付いた蛮族戦士。その音の発生源…左へと視線を向ける。
「悪いな。こっちはバカンスで来てんだ。やんちゃしたいなら海にでもダイブしてお魚さんとデートしてきな」
赤いコートを纏い、片手をポケットに突っこんだまま、愛用する二丁の大型拳銃の内の一丁『アレグロ』の銃口を突きつけながら笑みを湛えるブレイクの姿。
そして右へと向けば─
「ドンパチなら他所でやんな。こっちは休暇でね」
同じく愛用する改造リボルバー『アニマ』を左手で構え、その銃口を突きつけるネロの姿。
しかしこの咄嗟の状況に動けたのは二人だけではない。
「動かないでください」
彼の後ろからは禍々しい色を宿した大鎌の刃を彼の首に触れるか触れないかのギリギリを維持した状態で蛮族戦士を冷たく睨むルージュが居て──
「前にも言った筈だ。貴様とやり合った所でこちらが得られるものなど無いとな」
そして蛮族戦士の正面には無銘の刃の切っ先を突きつけるギルヴァがいた。
この四人だけが突如として起きた状況に素早く反応し、行動を起こしていた。
しかしこれで状況が良くなったかと聞かればそうではないだろう。
このまま戦闘に発展してしまうのではないかと思われた矢先。
「「「何してるんだこの死合バカ!!」」」
何処から現れたのか、アイソマーらしき集団が蛮族戦士に拳骨を叩きこんだ事によって一触即発の雰囲気から困惑の雰囲気へと変わったのは言うまででもないだろう。
「成る程、そういった事情が」
騒動の後、無事無人島に降り立ったバカンス参加者達。
そして蛮族戦士に拳骨を叩きこんだアイソマーの一人から事情が聞き、納得げにシーナは頷いていた。
どうやら蛮族戦士についてきて、彼女達もまたこの無人島にて休暇を楽しんでいたらしい。
だが蛮族戦士が近寄ってくる豪華客船を見て飛んで行ってしまい、あまつさえは死合を仕掛けた為、折角ののバカンス、折角の休暇が台無しになるのを恐れて、即座に止めに入ったのだと。
「ほんっとに!!!ごめんなさい!!!あの死合バカが余計な事をして、あまつさえはそちらの休暇を無茶苦茶にしかねない事をしてしまって…!」
「アハハ…最初はビックリしたけど、もう大丈夫だよ。だから貴女も頭を上げて?」
「ですが…」
「折角のバカンスなんでしょ?なら気が滅入るような話はここまでしておこ?蛮族戦士の行動に関しては私は知らなかった事にするし、上層部に伝える気もない。この話はここだけの話って事にしておくから」
話が余計な方向へと持っていきたくないのはお互いにと言える。
それを分かっていたからこそシーナは頭を下げるアイソマーにそう伝えたのだ。
だがそのまま、これで終わりという訳には行かないのがシーナである。
「あ、でも一つだけ良いかな?出来れば蛮族戦士に伝えてほしいんだけど」
「な、何でしょうか?」
雰囲気が変わる。
二十歳にも満たない少女から放たれるその圧は最早普通ではない。
まるで死神に得物となる鎌を首に掛けられているのではと錯覚してしまうほどの『死』を再現した圧が一人の少女から放たれているのだ。
逆を言えば、それほどまでの蛮族戦士の行動は容認できるものではないと言えよう。
「彼女に謝らせておいて自分はなんの謝罪もないなんて……イイ度胸ダネ?って伝えておいて」
「イ、イエス・マム!」
まるで軍人の様に綺麗な敬礼をしてから、急ぎ足で去っていくアイソマー。
流石にやり過ぎたかと反省するシーナだが、これくらい言っておかないと思い反省するのを止める。
そして後ろへと振り向くと無人島へと降り立ち、今からでも海に飛び込みかねない彼女らを見て、にっこりと微笑むと口を開いた。
「それじゃ楽しもっか。…夏だ!海だ!──バカンスだってね!」
「「「「Yeah!!!!」」」」
ノリが良い面子が叫んだのが合図となったのか、無人島でのバカンスが幕を開いた。
という訳で…
Memories of a summer表の一話を投稿しました。
今回は船の旅、そして無人島に到着しバカンスの開幕を宣言した話を描かせていただきました!
裏編に関しては暫しお待ちを。
今回の話は色々ぶち込んでますが…許してくだせぇ…。
と、兎も角、夏のバカンス楽しんでいきましょうぜ!
ではでは次回ノシ
※参加者の中でこちらのキャラで容姿、性格など分からぬことがあればメッセージをくださいませ。返信は遅くなりますが必ず返事しますので!