Devils front line   作:白黒モンブラン

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―伝えるべきこと─


Act243-Extra Memories of a summer Front story Ⅲ

一人で海を見るという事にも流石に飽きたのか、ギルヴァは他のメンバーが居るであろう浜辺へと向かって静かに歩いていた。

波の音と海風に運ばれてくる潮の香り。逞しく育った木々が揺れるその様は、本当にこの島が誰にも手を付けられていない奇跡の島であると再認識させる。

 

「む…」

 

遠くに他のメンバーの姿が見える辺りまで来た時、ギルヴァは足を止めた。

頭から砂浜に突っ込み、下半身だけが出ているという状態で誰かが埋められていた。

よく見れば呼吸出来るように呼吸用のシュノーケルの管を地表から出ており、近くには立て看板が建てられていた。

 

―反省中。昼飯まで引き抜くべからず…?

 

そこに書かれた文を読み上げるエラブル。

そう書いているのであれば、埋められている誰か…S07基地のジンを助ける必要はない。

同時に彼が何かやらかした故にこうであるのであればギルヴァにも助ける理由はない。

薄っすら「助けて…」と聞こえてくるもギルヴァは聞かなかった振りをして、そのままジンの横を通り過ぎていく。

 

―だ、大丈夫なんですか…?

 

あのままでは…と思う所はあったのだろう。

心配げに尋ねてくるエラブルは心優しき少女と言えよう。

 

「ああ。あのままで良い」

 

―だな。俺たちは見なかった事にすりゃいいさ

 

ギルヴァと蒼がそう言われてしまえば、エラブルも納得するしかなかった。

しかし根は心優しき少女。

でも…、とついつい思ってしまったのだろう。その表情は僅かに浮かない感じであった。

それを見た蒼は軽く肩を竦めるとエラブルを諭す。

 

―その優しさは他に取っておきな。それにだ、何でもかんでも優しくしちゃ駄目だ。時には厳しく、時には優しくがイイ女の条件なんだぜ?

 

―そ、そうなんですか?

 

―ああ、そうさ。エラブルもイイ女になりたいなら、時には厳しい所を見せないとな

 

―は、はい!

 

何でそんなに緊張気味なんだ?と苦笑いを浮かべる蒼。

それを指摘され、確かにと首を傾げるエラブル。

そしてそれが何処か可笑しかったのか、二人の笑い声がギルヴァの中で響く。

五月蠅い訳ではないので、ギルヴァは咎める事はせず皆が居るところへと歩き出していく。

そのまま皆が居るところに到達。さてどうしようかと思った時、彼の背に僅かな衝撃が走った。

 

「…ほう」

 

が、決して驚く様子はなく、それどころか笑みを彼は浮かべていた。

この短期間で独自に動く事が出来る程までになったとは思わなかったのだ。

そして彼は後ろから自身の中へと潜り込んできた人物へと話しかける。

 

(こうして話すのは初めてだな)

 

【ええ、そうね。初めまして黒コートの悪魔さん…いいえ、ギルヴァと呼んだ方が良いか。私はあの子のもう一つの人格。前までは名無しだった訳だけど、今はティアと名乗っているわ】

 

ティア。

姿こそは分からないが、あの模擬戦で戦いが始まる前にエラブルが言っていた『もう一人の彼女』と言えば分かるであろう。

どうやらその彼女がアナから抜け出して、ギルヴァの所に飛んできた模様である。

 

(そうか。で、俺に何の用だ)

 

【あなたに用って言うより、蒼の方に用があるわ。前に会った時、去り際に今度会ったら名前教えてくれって言っていたから】

 

(律儀だな)

 

【理由はあれど、無償であの大剣を託された訳だしね。あの人が名乗っておいて、私が名乗らないままと言うのはどうかと思うのよ】

 

(成る程。好きにしていけ)

 

【ん、ありがと。それじゃ失礼するわね】

 

ギルヴァの許可を得て、ティアは蒼の元へ向かう。

気配は近い。迷うことなく真っ直ぐと暗闇を抜けていく。

そして暗闇を抜けた先に広がった光景にティアは目を見開いた。

 

【これはまた…】

 

そこに広がるは空高く上った満月が海面に映る大海原。

幻想的な光景と言えばそうであるが、この景色が何を示しているのかティアには分かっていた。

 

【ギルヴァが保有する魔力量を示した光景ってやつね。湖どころか大海原じゃない】

 

先も見えぬほどに広がった大海原。

辺りを照らし出すは雲一つない空に高く上った満月の月明かりのみ。

この光景が示す意味を理解しながら、満月が映し出された揺れる海面に降り立つティア。

ゆっくりと顔を上げれば、彼女が探していた人物がそこに立っており、隣にはあの模擬戦が始まる直前にイグナイトトリガーを発動させる為の魔力を渡しに来た少女が居る。

最もティアが探していた彼の姿は、あの時初めて出会った時に見せた仮の姿のままであったが。

 

―こいつは驚いた。態々姿を見せてくれるなんざ、律儀だな?

 

【今度会う事あれば名前を教えてくれって言ったのはアンタじゃない】

 

―確かにそうだったな。…じゃ、改めて聞こうか?もう一人のお嬢ちゃん?

 

【言っても良いけど…その名で呼ぶのもこれで最後になるけど良いのかしら?】

 

―ああ、構わねぇよ。いつまでもその名で呼び気なんてなかったし、そっちが名前を考える気がない様だったら、俺が名付けてやろうかと思ったぐらいさ

 

【あら、そうなの?】

 

その問いに蒼は軽く肩を竦めながら、必要だったらなと答える。

それを見て成る程と口にした後、ティアは蒼を見つめる。

 

【それじゃ改めまして…。私の名はティア。あの子のもう一人の人格と思ってくれれば良いわ】

 

―ティア、ね。良い名前じゃねぇか

 

【どうも致しまして。さて、ここらでさようならと言いたいけど…蒼、一つ聞いていい?】

 

―何だい?付き合っている女が居るかっていう話はナシで頼むぜ?

 

【何でそういう方向に持っていくのかしらね】

 

話が逸れていくのを感じたのか、わざとらしく咳払いをするティア。

そんな事より、と前置きを口にした後、彼女は自身の手にとあるモノを展開する。

数秒も経たぬ内にその手には現れたのは一振りの大剣。

それもあの模擬戦時に蒼がティアに託した大剣が握られていた。

 

【幻影が貴方の記憶を勝手に覗き込んで作り上げたってのは知っている。そしてこれが貴方の得物ではない事もね】

 

その情報に間違いはなかった。

それもその筈で、この情報はあのタリンの戦いで蒼から直接渡されたアナによるものなのだから。

最初こそは大して気に留める様な話ではなかった。

だが好奇心旺盛のティアは、とある疑問を抱く。

 

【じゃあこの大剣の元となったオリジナルの持ち主って誰なのかしら?】

 

オリジナルの持ち主が誰なのかという、そんな疑問を。

彼女からそんな疑問を投げ掛けられる蒼は首を振りながら、やれやれと呟く。

 

―態々そんな事を聞きに来たのか?もうちとバカンスらしい話をしようぜ?

 

【そうしたいのは山々なんだけど…先に疑問は片付けておきたいのよ。こう見えて好奇心旺盛なもので】

 

―やれやれ…面倒な性格だことで…

 

呆れながらも苦笑いを浮かべる蒼。

だが蒼もこの様な疑問が飛んでくることを予想はしていた。

ただそれが当分先になるだろうと思っていただけあって、ティアから聞かれるとは思ってもいなかった。

だが同時にどうしたものかと蒼は思っていた。

確かにティアに託した大剣は再現されたものと言えど、自身が愛用する得物ではない。

そうなるとオリジナルを持ち主の話をしなくてはならないのだが、蒼からすればその話は今の時代においては最早御伽噺レベルに該当するのだ。

 

―だがまぁ聞かれたからにはしょうがねぇな。どれ、ちとばかし話してやろうか

 

どう受け取るかは相手次第。

ならば話しても良いだろうと判断し蒼は語り出した。

 

―話は逸れるがその大剣に関する話になる。……今から二千年以上前にこの人界は悪魔どもがいる魔界の侵略受けた。当然ながら人間が悪魔と対等に戦える力を有している訳ではなく、只々悪魔どもに自分たちが住む世界を侵略される一方だった。だがな?その悪魔の軍勢にいた一人の悪魔が正義の心に目覚めたんだ

 

【それで?】

 

―その者はあろうことか、同じ同族であり味方でもある筈の悪魔の軍勢に()()()()()()()()()()()()()を手に立ち向かったんだ。無謀とも言えるその行い。だがその悪魔は戦った。そして激闘の末、彼は戦いに勝利し魔界を封じた。…その戦いの後、そいつがどうなったかは知らねぇ。しかも人間界じゃその悪魔の伝説を知るのはそうはいねぇ。まぁ頑張って調べたらその名は出てくるだろうが…特別にティアが知りたいというオリジナルの持ち主の名を教えてやるよ

 

【その悪魔の名は…?】

 

僅かにだが、ティアの声は震えていた。

無理もない。

オリジナルを持つ者が、あろうことか人間の為に悪魔全員を相手に回し、それどころか魔界を封印したとされる伝説的な存在なのだから。

その者が持つ大剣を本物では無いとは言え、自身が振るう事になればそれなりに思う所はあるだろう。

 

―■■■■。魔界において最強の魔剣士と言われる存在。そして悪魔でありながら正義の心に目覚め、人間の為に悪魔の軍勢に立ち向かった伝説の魔剣士(Legendary dark Knight)

 

蒼の口から告げられたその名を耳にしたのはティアと、蒼とティアの二人の会話を静かに聞いていたエラブルのみ。

誰しもが口を開かない一方で蒼はニヤリと笑った。

 

―ティアに託した大剣はさしずめ……■■■■・レプリカントって言った所か?

 

無音に包まれたその世界で、蒼は何時もの調子でティアへと告げる。

 

―まぁ好きなように名付けな。それはもう嬢ちゃんのモノなんだからな?

 

飄々とした態度ともに口にした台詞の裏には、これ以上語る気など無いという意味が含められていた。

直感であるが、それを察したティアはそれ以上の事は問わなかった。

蒼とエラブルの二人と適当に会話した後、ティアはアナの元へと戻っていく。

その最中でティアはもう一つ疑問を覚えた。

 

【何であいつの記憶の中にこの大剣が存在しているのかしら。オリジナルの持ち主の事は知っているし…】

 

彼が口にした伝説の魔剣士の存在。

ただ知っているだけにしては妙だとティアは思わずいられなかった。

 

【…伝説の魔剣士と蒼。一体どういった関係なのかしらね】

 

もう一度戻って聞きに行くべきかと考えるも、結局のところ彼女は聞きに行こうとはしなかった。

それよりも蒼が自身に託したとされる大剣の事について、アナへと報告しようと思うのであった。

 

 

ティアがギルヴァの元から去っていた後、昼時の時間となりシーナ、X95、スプリングフィールド、シリエジオにオートスコアラーのスユーフといった料理を得意とする面々が筆頭に真夏のバーベキューが始まった。

この時の為に用意した食材をふんだんに使い、皆の為に焼いていく。

焼きたての肉を頬張る者もいれば、野菜と肉の比率を均等にしてバランスよく食べる者。

折角バーベキューだ!飲まないと損だな!と豪語し、何処から持ち出してきたのか酒を煽る飲兵衛も居るなどバーベキューはとても騒がしい様子を見せていた。

そしてギルヴァはというと、皆からほんの僅かに離れた位置でビーチパラソルが建てられたテーブルに座り一人食事していた。

一応シリエジオに装って貰い、彼が持つ紙製の器には肉や野菜などが盛られている。

 

「…」

 

しっかりと焼かれた肉を口へと含みながらギルヴァは静かに今を過ごしていく。

そんな時、誰かが彼の元へと歩み寄ってきた。

 

「隣、座ってもいいですか?」

 

視線をそちらへと向けると、立っていたのはリヴァイルらと共にこのバカンスに参加したフラームであった。

先ほどまでリヴァイルの所に居た筈の彼女。何らかの理由で集団から抜け出してギルヴァの元へやってきたらしい。

理由は分からないが座っても良いかと問われた以上無視する訳にはいかないので、彼女に顔を向けずにギルヴァは答えた。

 

「ああ」

 

たったそれだけしか言わず、彼は食事を再開。

だがそれだけを了承と受け取ったフラームは彼と対面するような形で席についた。

 

―…

 

フラームからでは分からないが、ギルヴァの中にいるエラブルは何処か緊張した面持ちだった。

それもその筈で、自分は彼女と同じアイソマー。そしてお互いに耐性を持った存在。

エラブルに限っては突如として起きた体の異変が影響で肉体が崩壊。苦しみながら誰にも助けを乞う事すら出来ず、命を散らしている。最も肉体を持たない精神体になってしまったのはある意味奇跡かも知れない。

 

「何か用か」

 

お互いに沈黙に包まれて数分が経過しただろうか。

先に食事を済ませたギルヴァはこの沈黙を破る為に食事途中だったフラームにここに来た目的を尋ねた。

 

「えっと、その…」

 

どう説明したものかと言葉に困るフラーム。

それを見かねてギルヴァは一旦目的の件は後回しにすることにして、別の話題を切り出した。

 

「姿は違えど、あまり変わりないようだな」

 

チラリとフラームを見るギルヴァ。

その姿は蒼を介して知った姿とは違うが、今自身の隣に座る彼女は間違いなくあの通信でやり取りしたアイソマー。M4の姿をしているのは、ダミーを肉体の器として使用している為でありリヴァイルからその事はギルヴァも聞かされている。

 

「はい。姿は変わってしまいましたがこのように。…あの時は本当にありがとうございます」

 

「俺に言っても意味はなかろう。お前を生き返らせたのは万能者なのだからな。礼なら奴に言っておけ」

 

「ふふっ、素直に礼を受け取らないのは本当なんですね。シーナ指揮官やシリエジオさんから聞いて正解でした」

 

フラームはそう言うがギルヴァのあれこれを吹き込んだのはシーナとシリエジオ以外にも居る。

何度も共闘した経験があり、それなりにギルヴァの人となりを知るアナ。

鉄血との派手な戦闘になったあの大規模作戦で僅かながらであるが共に戦ったリバイバー。

その他にも彼を知っていそうな人物にフラームは声をかけて尋ね回ったのは彼女だけが知る秘密である。

 

「それとは別にギルヴァさんにお礼を言いたくて」

 

「…タリンでの一件か。大した事はしていないが」

 

「そんな事はありません。助けられた姉妹達の中にはあなた達に助けられたっていう妹達もいました」

 

目を伏せて妹達から聞かされた話を思い出すフラーム。

 

「赤いコートを羽織り大剣と二丁の銃を操る男性(ブレイク)、まるで凍てついた天使の羽を背に生やし大きな鎌で戦う少女(ルージュ)、右腕が異形の腕で機械の剣と銃で立ち向かう鉄血の人形(ネロ)、大きな銃を両手に携えて、瞬間移動しながらも自分たちに被害が及ばぬように戦ってくれた右目を眼帯で覆った鉄血の人形(ヘルメス)喋る鳥(グリフォン)と体の形を変えて戦う黒豹(シャドウ)、そして泥の様なモノで出来た巨人(ナイトメア)を使役し懸命に戦ってくれたシーナ指揮官……トゥーマーンさんの事になるとついついそっちに行きがちな妹達ですが、皆さんの事もしっかりと覚えています。何時しかお礼を伝えたいとも言っていました」

 

その表情は穏やかなものだった。

姉という立ち位置にいるフラームがあのタリンから抜け出した妹達から聞かされた話をどう思ったかは分からない。

だがその表情を見る限りは、言葉にせずとも分かる事であろう。

 

「…暇さえあれば勝手に遊びに来いと伝えておけ。余裕があれば相手になってやるともな」

 

「はい。伝えておきます」

 

バーベキューの喧騒、さざめく海の音が雰囲気を和やかなものへと変える。

緊張も解かれた頃であろうと判断したギルヴァは再びフラームが自身に接触してきた理由を尋ねる事にした。

 

「話が逸れた。…もう一度聞こう。俺に何の用だ」

 

「その…ある事を確かめたくて」

 

「ある事だと?」

 

「はい。私の間違いじゃなかったら良いんですが…何故かギルヴァさんから姉妹に似た気配が感じられるんです。最初は気のせいかと思っていたんですが…」

 

「それでも気になって仕方ないから、話しかけてきたと?」

 

「そうです」

 

「ふむ…」

 

向こうから話しかけてきたらとエラブルをフラームに会わせると考えていたギルヴァであるが、よりよってこのバカンスでなるとは思っていなかった。

しかし向こうは自身から感じられた気配…エラブルの気配を感じ取っている以上は知らぬ振りを決め込む訳にはいかない上にエラブルとの約束がある。

仕方ないと判断したギルヴァはフラームに少し待てと伝えると己の内にいるエラブルに話しかける。

 

(エラブル、行けるか?)

 

―はい。蒼さんにやり方を教わりました。後はギルヴァさんのタイミング次第です

 

(分かった。…始めるぞ)

 

―はい!

 

意識を集中し魔力を回す。

作り上げるは人の姿。あの時の姿になってしまうが、今ばかりは仕方ない。

蒼から得た情報の元に形を構築していく。そこに何かが飛び込んできた感覚が伝わる。

それはエラブルがその仮の器に飛び込んだ合図であり、何時でも外へ出れるという合図でもあった。

 

「…!」

 

現れるは群青色の魔力で作り出された分身。

しかしてその姿はデビルトリガーを発動させたギルヴァの姿ではなく、寧ろフラームからすれば余りにも見覚えがあり過ぎると言っても良い姿をしていた。

それを見て目を丸くするフラーム。

無理もない。彼女からすれば、かつての己の姿がそこにあるのだ。

だがギルヴァが冗談でこの様な事をする訳がない。

何かしらの理由があると思った時、かつての己の姿をしたソレはフラームを見ると静かに口を開く。

 

「は、初めまして。私はエラブルって言います」

 

「え…」

 

分身とも言えるソレから発せられた声は自身と同じ声だという事にフラームは言葉を失う。

ギルヴァが作り上げたコレは一体何なのか。そして何故自身と同じ声をしているのか。

立て続けに起きた出来事に混乱し始めるフラームを見て、エラブルは告げた。

 

「そして私は誰にも知られる事無く死んだアイソマー。崩壊液に対する耐性を持ちながらも死んだ身なんです」

 

「ま、待って。それはどういう意味ですか!?貴女は一体…!?」

 

信じられないと言わんばかりに酷く狼狽するフラーム。

困惑しつつも問いかけてくる彼女にエラブルは何処か悲しそうな表情を浮かべながら伝える。

 

「その言葉通りなんです、フラーム…。崩壊液に対する耐性を持ったのは貴女だけじゃなく、もう一人いたんです」

 

「そ、そのもう一人があなた…?」

 

その問いに沈黙を貫くエラブル。

そしてその態度が示す答えの意味にフラームは言葉が出せすにいた。

 

「ごめんなさい。折角のバカンスだというのに辛い事を知らせてしまって」

 

「…」

 

「…本当なら私に何があったのか、どうしてこうなったかを伝えたかったのですがこれ以上迷惑をかける訳にはいきませんから私は一旦失礼します」

 

フラームに軽く一礼し、ギルヴァを見るエラブル。

もう良いのか?という彼の視線に対し彼女は頷き、ギルヴァは分身を解こうとする。

が、その直前にエラブルはフラームへと伝える。

 

「どっちが姉なのかは分かりませんが…もし私の方が先に成長してしまったのであれば──」

 

どっちがそうなのかなんてものは分かるはずがない。

だがもし自身が先に耐性を身につけてしまう事になってしまったのであれば、謝らないといけない。

その思いを胸に、彼女は伝える。

 

「先に逝ってしまってごめんなさい」

 

大事な妹達を残して先に逝ってしまったという事実に対する謝罪を。

それだけを伝えてエラブルはギルヴァの元へと戻っていってしまう。

残されるはギルヴァと予期しなかった事実に言葉が出ないフラームの二人だけ。

 

「今すぐにとは言わん。もしエラブルの事を気にするのであれば、何時でも俺に声をかけろ。…エラブルもお前の事を気にかけていたのでな」

 

「…はい」

 

「それとこの事をリヴァイルに伝えても構わん。奴に何を言われようが殴られようが、それなりの覚悟をしている」

 

元よりそのつもりだったがな、という台詞を最後に残しギルヴァは立ち上がる。

そのまま集団の元へと向かうとギルヴァは食事を取っていたリヴァイルへと伝える。

 

「少し調子が悪いとフラームが言っていた。直ぐに見てやれ」

 

「え?あ、おい!ギルヴァ!?」

 

彼の制止に耳を貸さず、ギルヴァはその場から去っていく。

去り行く彼の背を見つめるリヴァイルはただただ首を傾げるだけであったが、先ほど言っていた事が事実なのであれば良くないと判断し、手早く食事を済ませてフラームの所へと向かっていった。

 

 

 

―おいおい、良いのかよ。

 

「何がだ」

 

―本来なら楽しい談笑になってた筈だったんだぜ?それに終わった事について色々やらかすのもアレだと思うんだが?

 

「…分かっている」

 

蒼が言っていることも分からないでもないし、ギルヴァとて思う所がない訳ではない。

だがもう一人いたという事実は伝えなくてはならない。それに関しては前々から決めていた事だったのだ。

それが既に時間が過ぎ去った後に伝える事になったとしてもだ。

 

―エラブル、大丈夫か?

 

―はい…。けど私、酷い事をしてしまったかも知れませんね

 

―どう受け取るかは向こう次第だと思うぜ?ただ事実だけは伝えられた。それだけで今はいいだろうさ

 

―そうですね…

 

落ち込んだ様子をその声から感じさせるエラブル。

気の利いたことでも言ってやるべきかとギルヴァが考え始めた時、突如として彼の背後から何かが襲った。

 

「ッ!」

 

背後の気配に咄嗟に反応し、回避と同時に後ろへと振り向くギルヴァ。

しかしそこに敵の姿はなく、鬱蒼と生い茂った木々だけが広がっていた。

 

「蒼」

 

―ああ、俺も感じた。明確な場所は分かんねぇが、恐らく島の裏側からだ。それにこの気配…悪魔の気配もあるが、なんだこれ?今まで感じた事のねぇ気配が混じってやがる。それに今の所、この気配は俺らにしか分かんねぇ。アナの嬢ちゃんやティアは恐らく気付いていねぇ筈だ

 

「よりによってこのタイミングでとはな」

 

―だが放置していたら向こうが何をしてくるか分んねぇ。シーナに話して、行動した方が良いぜ

 

「分かっている」

 

このバカンスで突如として現れた何故の気配。

正体は分からずとも、害になるのであれば騒がれる前に対処する必要がある。

今来た道を戻り、ギルヴァはシーナの元と向かう。

彼がシーナの元に到着した時は、彼女はS13基地から来たマテバ・グリフォーネと楽しく談笑していた。

どうやらマテバ2006Mを愛用するシーナからすれば、一度話してみたかった相手だったそうだ。

そこにギルヴァが来た為、談笑は一旦中断しシーナから声をかけた。

 

「ギルヴァさん、どうしたの?」

 

「島の裏側から気配を感じ取った。恐らく"奴ら(悪魔)"だ」

 

"奴ら"という言葉に首を傾げるグリフォーネに対し、シーナの表情は神妙な面持ちへと切り替わる。

麦わら帽子のひさしを摘みつつ、ギルヴァから情報を引き出す。

 

「数は?」

 

「分からん。だがそれなり大きいと見ていい」

 

「となると大型かな…。誰か付ける?」

 

「シリエジオとネージュは連れていく。それ以外はそちらで判断しろ。それとこの件は余り広めるな。このバカンスを無茶苦茶にするつもりはない」

 

「分かった。ギルヴァさんはシリエジオとネージュを連れて先行して。だけど先に飛び込まず、こっちからの援軍と合流してから行動にして」

 

「分かった」

 

シーナからの許可が下りるとギルヴァはその場を去り、妻のシリエジオと娘であるネージュに事情を伝えた後に行動開始。

水着から何時もの服装へと着替えた二人は愛用の装備を船から持ち出し、今回はコートを羽織らないのかギルヴァは無銘を携え、腰のホルスターにレーゾンデートルを差し込むとシリエジオとネージュの二人と共に島の裏側へと向かった。

そして島の裏側に到着した三人を迎えたのは―

 

「これはまた何というか…」

 

「…時代の産物か。或いは誰かの仕業か」

 

座礁した一隻の大きな船だった。

ただ、その船は一目見て分かるほどにボロボロであった。




遅れて本当に申し訳ない(これで何度目だろうか)
もう夏終わったのに、ここじゃ夏という……うん、仕方ないね!

色々絡みに向かってますが、前々から言っていた様に皆さんは好きなように描いていってください。

そして最後辺りに前回予告した裏編への展開を描きました。

裏編への突入方法は、「武装して島の奥へと消えていくギルヴァ、シリエジオ、ネージュを見た」或いは「シーナの様子が可笑しい事に気付き声をかけた」など何らかの理由を付けた後、ギルヴァら三人が居る島の裏側へと来て下さい

という訳で次回はMemories of a summer(略してM.O.S)の裏編…

Act244-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea(絶海の幽霊船)へと突入します。
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