もし、その場所が船の船倉部ではなく何処かにある塔の頂上だとしたら、今ギルヴァら四人の前に繰り広げられる戦いはまさに頂上決戦と言うに相応しい光景が広がっていると言えたであろう。
そう思えてしまう程に、魔剣士同士の戦いは熾烈を極めていた。
「はあぁッ!!」
両手に持った二振りの大剣による連撃と共に純白の彫刻のような悪魔は蒼へと迫る。
力強く、そして素早く。
放たれる全ての攻撃が即死へと繋がる死の嵐へと変じていき、対する蒼は襲い掛かる攻撃を受け流し、最低限の動きのみで致命的と成り得る攻撃を躱していく。
「その肉体を無くしても尚、未練がましく生きているとはな!恥というのも知らんと見える!!」
「おいおい、テメェが吐く台詞はそれじゃあねぇだろう、よッ!!」
一瞬の隙をついて攻撃を弾き、地を蹴り蒼は突進。
先ほどとは打って変わり、蒼が攻勢にへと出る。
「寧ろこっちは、ああなっちまったテメェの弟について聞きたいんだがなぁ!!」
「ッ!」
二振りの大剣と魔力で錬成された大剣がぶつかる。
激しいまでの剣戟。火花が散り、剣風が飛び、鍔迫り合いへともつれ込む。
拮抗する力。お互いに一歩も引かず、にらみ合う両者。
「知らねぇとは言わせねぇぞ、バアル。知ってることは洗いざらい吐いてもらうぞ!」
「ッ…ならば!!」
蒼を押し飛ばすバアル。
蒼の態勢が崩れた所を目掛けて両手の大剣を突き立て突進。
「知りたくば俺に勝って見せろ!あの者から剣技を教わったという貴様がな!!」
「んなら、そうさせてもらう…さッ!!」
瞬足から放たれる突きを大剣で受け流した後、一歩後退する蒼。
そこから大剣を突き立てながら突進。一瞬にして間合いを詰め、強烈な突きを放つも防がれる。
が、そうなる事を見越していたのか蒼は手にしている大剣の特性である変形機構を利用する事にした。
剣幅で切っ先は受け止められていたとしてもお構いなし。蒼の意思に反応し、大剣は刀身を自ら勢いよく前進させ、その姿を大槍へと姿を変えると二撃目の突きを放って防御態勢にあったバアルを後ろへと吹き飛ばす。
だがバアルはすぐさま態勢を立て直し一回転。着地した後、すぐさま蒼へと突撃する。
両手の大剣が蒼へと振るわれ、躱され受け流されがらも攻撃をし続けるバアル。
一方的に攻めていくバアルに蒼は只々防戦に徹する。そんな姿にバアルが叫ぶ。
「やはり貴様は所詮この程度でしかない!!肉体の無い雑兵など敵ではない!!」
「…雑魚、ねぇ」
バアルが口にした台詞を繰り返す様に呟く蒼。
肉体が滅んだ今、この仮の姿では出来る事はそう多くない上に本来の姿、肉体すら失っているという点については己の行いによる代償である事は蒼が一番理解している。
だが…だがしかしだ。
己が持つ力がこの程度だと思われるのは流石に黙っている訳にはいかなかった。
バアルの攻撃を防ぎ、その場から離脱し後退する蒼。
逃がさんと言わんばかりにバアルは突進し蒼との距離を詰めようとする。
迫ってくるバアルを見据えると蒼は静かに大剣を構える。
そして大剣の柄を軽く握り直した直後、ソレは起きた。
(本当なら…)
赤黒い稲妻が奔る。
仮初の体から放出されたものではない。
寧ろ魔力で構成されたその体から魔力が放出される事すらありえない。
(最初に見せるのは
再び赤黒い稲妻が奔る。
まるで今起きていることが紛うことなき現実である事を示しているかのように。
(可愛い
嘘偽りのない思い。
故にこのタイミングで見せるのは蒼にとっては不本意なのだ。
何故ならばこの力を使う事を禁じた己との誓いを破る事になるのだから。
そうだと分かっていながらも、仮初の体から放たれる魔力は収まる気配を見せない。
(本気出すか)
三度目となる赤黒い稲妻が奔った。
先ほどよりも激しく迸り、蒼の周りに転がっていた残骸を切り裂き、そして空間が振動する。
何かが起きようとしている。その様子をギルヴァらが静かに見つめる一方で身構えていたバアルは、何かに気付いたのか蒼へと向かって叫んだ。
「ありえん…あり得る筈がない!!何故だ!?何故貴様からこの気配が感じられる!?貴様は…貴様は何者だ!?」
バアルの台詞の意味。
それを知るのは蒼のみ。
「おいおい、さっきテメェが言った台詞をもう忘れたのか」
だが彼は答えない。
「知りたくば俺に勝って見せろ…そう言ったのはお前だぜ?」
否、最初から答えるつもりなどなかった。
「んじゃ──」
腰を落とし、構える蒼。
鋭い双眸がバアルを捉えると蒼は静かに口を開く。
「行くぞ」
開幕の合図が告げると蒼は勢いよく地を蹴った。
刹那、地が爆ぜ瓦礫が吹き飛び、まるで流星の様な速度でバアルへと間合いを詰める蒼。
迎撃として放たれた斬撃を容易く躱すと蒼は大剣の切っ先を前へと向け、勢いよく突きを放った。
迫る突きに対して二振りの大剣で防御態勢へと移行しようするバアル。
だがこの時、バアルの体に異常ともいえる様な感覚が流れた。
(何だ…!?)
迫ってくる一撃。
防御すれば何ら問題にならない
しかしそれが間違っていると言われている様な感覚。
一瞬の迷い。
その間にも刃は迫ってくる。
そして自身の顔と刃との距離感がほぼ寸分まで来た時、バアルは己がすべき行動を選んだ。
バアルは防御態勢を取ると言う今までのやり方ではなく、その感覚が伝えてくるものを信じる事にし彼は無理やり体を反らす事で蒼の攻撃を躱した。
そして次の瞬間、不可視の刺突がバアルの顔の横間近を駆け抜けていき、彼の後方斜め上の壁に直撃、同時に土埃が舞い上がり強烈な破砕音が鳴り響くと、不可視の刺突はあろうことか船の船首側のデッキ…アナ、ネージュ、M16、M1887ら四人が居た場所まで貫通、巨大な一本のトンネルを作り出してしまった。
「な…!?」
「呆けている場合か?」
「!…ちいぃ!!」
突き出された大剣へ目掛けて右手に持った大剣を振り上げて弾き飛ばし、回し蹴りを叩きこむバアル。
後ろへと吹き飛ばされるも蒼は軽々と受け身を取り、大剣を逆手で持ち接近。
振るわれた横薙ぎを身をかがめる事で回避し、攻撃へと移行。
姿勢が低い状態を維持しつつ体を寝かしそのまま回転から斬撃を浴びせると態勢を立て直しながら姿勢を高くして横薙ぎから慣性を利用して後ろ回し蹴りを二回叩き込む。
そのまま流れる様な華麗な剣技を次々と見舞った後、回転からの一撃を浴びせバアルの持つ大剣を破壊。
連続してダメージを負った事により片膝をついてしまうバアル。
迫る刃。大剣が破壊された今、抵抗する間もなければ、その力もない。
だがせめて、せめてもの一撃を。
その思いがバアルを動かせ、彼は最後の力を振り絞って蒼へと飛び掛かった。
「ウオオォォォッ!!!!」
「最後まで諦めねぇってか…ホント、テメェらしいなぁ!!!」
だが伸ばされた手が蒼に届く事はなく。
振り下ろされた大剣の刃がバアルの体に歪みのない真っ直ぐな斬撃を刻んだ。
訪れる静寂。静かに崩れ往くバアル。大剣に付着した血を振り払い、背に収める蒼。
その光景は言わずもがな、蒼が勝利した事を指し示していた。
「くっ…ふふっ……流石だな」
だがバアルは完全にはやられた訳ではなかった。
致命傷を負ったにも関わらず体に鞭打って立ち上がろうとするも、それすらもままならない様子だった。
そんな姿を見かねてか蒼はバアルに歩み寄り彼の体を起こすと近くにあった瓦礫に凭れさせる。
二人の様子を見て戦闘は起きないと確信したのかギルヴァは蒼の傍へと歩み寄り、それにグリフォーネ、M4、アイソマーも続く。
全員が揃ったのを確認した蒼はバアルへと尋ね始める。
「手始めに聞くがあの髑髏の騎士の正体。アレ、お前の弟であるモデウスだろ」
「その通りだ…。まさか魔界からあんなもの…わが師を打ち倒す為に作られた魔剣士もどきと、あの剣を持ち出すとは思わなかったがな」
「何故そんな事をしたのという理由ってのが…魔剣士スパーダの力を求めて、か?」
その問いにバアルは静かに頷く。
対する蒼はやれやれと呆れた様な声を上げる。
「あの戦いから2000年…2000年待ったのだ。魔界にも人界にもつかないまま、スパーダを待ち続けた…」
「けどあいつは現れなかった。おまけにお前以上に剣の実力があったモデウスはスパーダの後継者とも言われたにも関わらず、剣を捨てたんだったな?」
「ああ…。あいつは俺の邪魔にならないように自ら剣を捨て、俺はあいつに新たな生き甲斐と目標を与える為に…スパーダの力を欲した。だがモデウスも剣を捨てたとしても剣士だった事には変わらぬ。故にその性までは捨てられずにいた…。いつしか俺以上にスパーダの力を欲するようになっていた。…そうすれば今度こそあの人からの期待に応えられるからな…」
「んで?魔帝とやらが作った訳の分からない廃棄物と一緒にあの剣まで持ち出したっと。まぁ後は大方想像がつく。廃棄物を取り込んだモデウスは暴走状態に陥ってしまい、それを何とかして止めようと思いお前は行動していたって訳だ」
「…ふっ……相変わらず、想像力は豊かだな…」
「こっちに来てからというものの頭も柔らかくなったんでね。お勉強万歳ってやつさ」
肩を竦める蒼につられて、バアルも僅かに笑みを零す。
雰囲気が少し和やかになった所でグリフォーネが手を挙げた。
髑髏の騎士の正体は分かったがそれ以外が分かっていないからこそ、今聞こうと判断した為である。
「それじゃあ、あの弟さんを倒せばこの騒動も収まる?」
「いいや、モデウスを討った所じゃこの騒動は収まらんだろうさ。何せモデウスもバアルもこの怪異と化した船に巻き込まれた方だからなぁ」
「え?」
ここで出てくる新たな言葉。
怪異と化した船。
どういう事なのか首を傾げるグリフォーネの傍でギルヴァが口を開いた。
「浜辺で見たあの船はただの入り口か」
「正解。ただの幽霊船と見せかけて、興味本位で入って来た奴を何らかの音か気配でこの怪異の船へ誘い込む。それがお前が言っていた悪魔とは異なる気配の正体ってやつで、ついでに言うなら俺たちが居るこの船が漂っている海は言うなればあの世とこの世に出来た世界に存在する海だ」
何故そこまで分かるのか。
肉体の持たない蒼があの世とこの世の狭間に行った事があるというのがあるのだが、他のもう一つあった。
それがかつてタリンでの戦闘でイグナイトトリガーを発動させる分だけの魔力を届ける為にアナへと潜り込み共闘した際に、ヘカトンケイルの腕を斬った時に起きた、加速だけであの次元の狭間に飛び込んでしまったあの時の事が大きい。
アナが飛び込んでしまったあの時、実は蒼はほんの僅かにだが存在そのものが消えかけそうになっていた。
後にどうにか復帰し、アナに心配をかけまいと己を維持できるように修復しながら彼女を支え続けていた訳であるのだが、どうやらあの時、あの世とこの世の世界に来てしまったらしく、そこで瘴気で覆われた海を漂い続ける船を目撃しており彼はその気配を覚え、その正体も見抜いていたのだ。
「そういやこの手のやり口は魔界にもやっている奴がいたな。確か…」
「セイレーンだろう…。やり口も似ている。だがこれはセイレーン単体によるものではない…」
「ハッ。流石は2000年の間、アイツを待ち続けたヤツだ。…確かにこれはセイレーン単体で出来るもんじゃない。寧ろこの船は…」
「既に死した…セイレーンの残留思念が形を成したものだろうな……」
「となりゃ、原初のセイレーン様も動き出している頃合いか。身内の事となりゃアイツも黙ってはいられんだろうしな」
魔界出身者である二人の会話が盛り上がる一方でM4、グリフォーネ、アイソマーは困惑したままであった。
話についていこうにしても、訳が違い過ぎてついていけない。
だと言うのに話は何度も別の物へと切り替わるのだから余計についていけない状態だった。
「さて……そろそろお別れか?」
「ああ…もう肉体を維持できん様だ」
その台詞に全員がバアルを見る。
よく見れば爪先から頭へと向かって体が塵とへと化し始めていた。
その状態が示すことなど一つしかない事をこの場にいる全員が理解していた。
「…最後に聞こうか、片割れの魔剣士」
「何だ?」
「……貴様はわが師であるスパーダ本人か?」
「…」
その問いを口にしながらもバアルとて確信がある訳ではなかった。
だがあの時、蒼が放った赤黒い稲妻から感じられた気配がそう思わせるだけの理由に至った。
だからこそ聞きたかった。もし彼が本人であるなら、己が知らない事を聞けるかも知れないのだから。
「…想像にお任せするさ。自分が見出した答えで納得しな」
「それも…そうだな……」
体の半分が塵と化していく。
バアルは静かに笑みを浮かべると最後に自身が成せなかった事を蒼に託すことにした。
「弟を…たの、む……」
それだけを伝えると彼の目が閉じられる。
力尽きた体は静かに横へと倒れ、そして塵へと化してバアルは消え去っていった。
残されるは四人。つい先ほどまで彼が居た筈の瓦礫には誰もいなかった。
という訳では、はい…。
まず謝罪を。
ホント遅くなり申し訳ございません!!!
いや、もう10月でっせ…どんだけ時間かかってんのよ…。
自分、マジでコラボ主催するのはやめたほうがいいかも思いつつある訳でございますが、今回のコラボはキチンと終わらせるよう頑張りますよ!!
さて話は変わって…。
今回でこの船の正体、髑髏の騎士の正体が明らかになりました。
次回はシーナからの増援として来たセイレーン、ソルシエール、シャリテらを当てた話を書こうと思います。
多分この三人と激突する敵が裏編のラスボスとなり、皆様をラスボスがいる舞台へと誘導する描写を描くつもりです。
そして髑髏の騎士…モデウスに関しては裏ボスという扱いとします。
ギルヴァ、ネージュ…そして蒼が裏ボスの相手しますが、こちらに関しては強制ではなく、参加したい方だけという形をとらせてもらいます。
事前に裏ボス編に参加したいと言ってくれるとありがたいので…何卒宜しくお願い致します。
では次回ノシ