グリフィンは彼を捕まえる事が出来るのか!?
では「Act9 operation devil hunt」どうぞ
駆け巡る足音。
何度もそれが響き渡る市街地。こんな時間帯にこれだけの人数を動員してきたグリフィン。
余程目の敵にされているのか、それ以外の理由があるのか。少なくてもそれを自分が知る由はない。
今は本来の「お迎え」が来るまで逃げるまで。こちらから約束した以上は破る事はできない。
最もこの作戦に彼女達が居るかどうか怪しい所ではあるが。
―それはともかくよ。良かったのか?
「何がだ?」
―95式の事だよ
「…」
思い出すは彼女の事。
時は今から数時間前に遡る。
市街地にて一時的な休息を取っていた自分達。
いつものように95式がニャン丸を撫でて、自分はそこにあった家具で寛いでいるという姿は当たり前となっていた。このまま明日に向けて眠ろうと思ったのだが、今日は違った。
段々と近づいてくる駆動音。気になって外へと出てみるとそこにはグリフィンのヘリが数機接近していた。もしやと思った分、的確にこちらの位置を把握出来たものだと思った。後からついてきた95式が言うにはグリフィンには偵察用のドローンがあるらしく、気づかぬ内にこちらの位置が知られていたのではないかと言っていた。まぁ確かにそのような物があっても不思議ではないが、今回は規模が違う。以前追われていた時と比べ倍近くの規模。どうやらグリフィンはこちらを捕える為に大胆な行動に出たという事だった。
「どうするのですか?」
「そうだな…。本来のお迎えではないからな、何時もの様に撒くとしよう。それと95式」
「? 何でしょうか?」
「君はあっちと合流した方がいい」
「…! ギルヴァ、それは…」
元より決めていた事。
それはグリフィンの捕獲部隊が来た際、95式を向こうへ行かせる事。
そもそも彼女はあの時404小隊と共にグリフィン側へと戻るべきだった。だが彼女の願いを叶える為に一緒に行動してきた。それも既に叶い、後は時間の問題と言えた。
正直言えば、これは良いタイミングと言えた。放浪する人形としてではなく、本来の役目を果たす人形として。あるべき姿へと戻る時が来た…そう思っていた。
「…いつかこの時が来ると思っていた。そして今、それが来てしまった。俺からすれば戻るべき時が来たと思っている」
「…ええ。そうですね…」
その表情はどこか複雑そうではあった。
だがこれ以連れていく訳にはいかない。それは彼女もどこか覚悟していた事だ。
「…あっという間でしたね」
「そうだな…。君との旅も決して悪いものではなかった」
「ええ…。貴方と…この子とも、そしてこのバイクともお別れが寂しいです」
「あぁー…。その事なんだが…」
「?」
「ニャン丸とバイクだが一時期だけ君に預ける」
これも予て決めていた事。
追っ手を振り撒く際はニャン丸とバイクは彼女に預けるつもりでいた。ニャン丸も95式にとてもなついていた事もあり、問題ないと判断していた。彼女なら変な事をしないという信頼もあっての考えだ。
その事を伝えると95式は目を見開き驚いた表情を作った。
「でも、ギルヴァはどうするのですか?逃げると言ってもバイクが無ければ…」
「何を勘違いしている。逃げるといってもここから完全に逃げ去る訳ではないぞ?」
「え…?…あ」
自分が言っている事を理解したと同時に彼女は思い出した表情を浮かべる。
そう、このお迎えは彼女達に任せたものであり、今来ている奴らにではない。ならば彼女達が自分を捕まえるまで延々と鬼ごっこを続けるつもりなのだ。
「…彼女達ですか」
「あぁ。約束したからな、破るつもりはない」
「居るかどうか分からないのに?」
「居るさ。何となくだが勘がそう告げている」
「そうですか…」
遠くから捕獲部隊が迫ってくる音がする。
ここに居ては見つかってしまうのも時間の問題だ。
95式も気付いていた様子だ。腕に抱かれているニャン丸が彼女に向けて気に掛ける様に鳴く。
それに対して彼女はニャン丸の頭を優しく撫でる。
「また会えますか?」
「会えるさ。必ず」
「お店を開いた時は今の様に一緒に過ごせますか?」
「どうだろうな…。だがそれを叶えられるよう努力しよう」
「…! はい!」
彼女の瞳から涙がこぼれる。だがその表情はとても満面の笑み。
一時的な別れ。少し悲しいがこればかりは仕方ない。
背を向けて歩き出そうとすると、待って下さいと95式が呼び止めてきた。
「ここで言うのも変ですけど、前々からお店の名前考えてたんです」
「ほう?して名前は?」
「それはですね…」
そして今、グリフィンとの鬼ごっこを始めている訳である。
「仕方ないさ」
―まぁ…そうだな。それに店の名前も考えてもらった以上約束は守らねぇとな?
「そうだな…ッ!!」
建物の屋上から飛び出し、廃ビルへと転がり込む。
「居たッ!」
しかしこっちに飛び込んでくる事は予想済みだったのか階段から別働隊が上がってきた。前と比べて動きが早い…流石に学習はしてきたか!
つかさず外へと飛び降りるが降りた矢先、またしても別働隊が迫ってきていた。
「止まりなさいッ!!今日こそはお縄についてもらうわよ!」
「この任務を見事に完遂しなくてならない。何故ならば…」
「「「「指揮官を一日独占できる権利が成功報酬なのだからッ!!!」」」」
―欲塗れじゃねぇか!?
「だがそれの影響もあってか動きが早い…!随分と厳しい鬼ごっことなりそうだ!」」
地を蹴って駆け出す。前後左右からの追っ手。
このままでは挟まれるのがオチだろうが、簡単にやられるつもりはない。撃ってこないのはあくまで捕獲を優先しているからであろう。もし今から敵対する様な行動をとれば何が起きるか言わなくても分かる。向こうも撃ってこないのも、こちらとの敵対を避けているからであろう。
「しかし…まぁこれだけの人数をこっちに動員してきたものだな…」
―これ以上暴れられたら、あっちにとっては都合が悪いんじゃないのか?
「大方そうだろうな」
路地を抜けて大通りに飛び出ると先回りしていた部隊がこちらの行く先を遮っている。
そこで幻影刀を一つだけ展開し、待ち伏せ部隊の後方に立つ廃ビルの壁に目掛けて投射。突き刺さったのを確認すると同時に近場の壁を伝い駆け出す。そしてそこへ目掛けて壁を蹴って跳躍。突き刺さった地点へと瞬間移動。待ち伏せしていた部隊も追っ手も目を見開き、足を止めていた。以前追われていた時はこれを使う事はなかったので、いい機会となった。
と言っても使ったのは単純な移動技。幻影刀が突き刺さった場所に向かって瞬間移動並みの速さで移動するというもの。最も最近は使う事はなかったが。
「足が止まった…。今の内に…!」
降り立ったビルから別のビルへと飛び移り、その場から離れる。
さて…こちらのお迎えが来るか、あるいはグリフィンに捕まるか…。この鬼ごっこ、思った以上に大変だな…。
一体どれ程の時間が経っただろうか。
逃げる先々で捕獲部隊と鉢合わせ、かなりの数の建物を飛び越えたり、走り回った気がする。
向こうも向こうで成功報酬が欲しいのか血眼になってこちらを探していた。先程鉢合わせした部隊なんか、只ならぬ雰囲気を感じ取った程だ。しかしここまで長引くとはな…作戦時間というのもある筈だが、そういうのは今回の作戦では存在していないのか?
だがそれをこちらが知る由はない。この感じだとお迎えが来る様子はないだろう。さて…どうしたものか。
休んでいた場所から離れようとした瞬間、後ろからやってきた何かに気付き足を止めた。
その何かはまるで自分がここに居ると言わんばかりにブーツの底が当たる音を響かせながら階段を上ってくる。
この気配は……そうか、来たのか。
―この気配は……成程な
蒼もその気配に気付いたそうだ。
雲によって隠れていた月。風によってそれは流れ、月明かりが全てを照らす。
そしてその光は階段を上がってくる客人を出迎えるかの様に照らした。サイドテールに左目の傷。あの時、共に他戦った戦術人形、UMP45の姿がそこにあった。
彼女はこちらを一目見ると一回だけウインクしてきた。そして階段を全てを登り切るとこちらへと歩み寄ってくる。笑みは崩さずゆっくりと。
そして自分の前で立ち止まった。
「久しぶり。元気してたかしら?」
「あぁ。君こそ元気していたか?」
「ぼちぼちといった所。各地を行ったり来たりしてたけどね」
各地を行ったり来たり、か…。
彼女も…いや、彼女達も大変な毎日を送っていた訳か。ならばお迎えを頼むべきではなかったのかも知れない。
その事を頼みなんてしなければ今頃彼女達は休めていたかも知れないからだ。
そんな事を思っていると彼女の手によって顔を挟まれ、強引に引き寄せられる。その距離はほんの少しで互いの唇が接触しそうな位近い。金色の瞳がじっとこちらを見つめてくる。
「迷惑だなんて思ってないわ。寧ろ約束を覚えてくれているだけでも嬉しい」
「何故分かった?」
「何故だと思う?」
「質問を質問で返すな…」
「ふふっ」
わざとらしく小首をかしげて笑みを浮かべる45。
あざとらしさが前面に出ている……にしても…。
―何と言うか…読めないな…?あえてそうしてるのかね
…どうだろうな。だが読めないという点に関しては同感だ
蒼が言っていた様にどうも彼女の事が読めないと思っている。
あの時は俺の事を知りたくて仕方ないと言っていたが…それにはどういって意図があったのか。
そこら辺は聞いておくべきなのだろうが…それに他の捕獲部隊がここに来てしまえばそれも叶わなくなるが…。
「ねぇ、少しお話しない?」
「仲間を待たせているのでは?」
「待たせてはいるけど、多少程度なら問題ないわ。それに対象を捕まえたら私から連絡をいれる流れになってるのよ」
手が離れ、彼女は近くにあった椅子に腰掛け。自分は彼女との距離を少し空ける様に壁に凭れる。
風が吹く。空を見れば、雲はどこか遠くに行ってしまい月だけが今の空を支配していた。
どこからか聞こえる戦術人形達の駆けていく音。それが市街地に良く響いて聞こえる。
「外が気になる?」
「気にならないと言えば嘘にはなるな」
最も捕まった身ではあるが、それは彼女が連絡しない限りこの状態だろう。
「そう。でも安心して。話といっても五分程度だから」
「そうか…。で?何を聞きたい?」
その問いに45は指を顎に当てて考える仕草を作る。
そして何か聞きたい話題が見つかったのか数秒後に問いかけてきた。
「どうして貴方は私達人形の為に力を振るってくれたのかしら?」
「…それが間違いだとも言いげだな」
「そうではないわ。単純に気になって」
「成程な…」
俺はそうではないが、他の人間は人形を道具扱いしている節がある。
そういった連中は放浪している時に何度も見てきた上、人権保護団体のメンバーにこちらに加入しないかと言われた時もあった。その時はきっぱり断ったのだが、何かに触れたのか勝手に逆上され襲ってきたので適当にぶちのめした後、ゴミ捨て場に放り込んでおいた。
正直何故そこまで彼女達が目の敵にされなければならないのか分からない。彼女達が居なければ今頃人類はその数を大きく減っていた筈なのに。
「…小さい頃…妹と俺を育ててくれた人がいた…。最初こそは普通の人間だと思っていたが、彼女は戦術人形から民用人形へと鞍替えした人形。…でも彼女が居なかったら今の俺は存在していない。そして力を振るうのも俺を大事に育ててくれた人形…いや、あの人が…「母さん」がいたから。…恩義をずっと感じているから力を振う…それだけだ」
そう…「あの人」は俺や「妹」からすれば姉の様であり…何よりも母であった。
あの笑顔は誰にも負けない位美しかった。
「その人形が居たから…人形に恩義を感じているから…だからその力を振うのね?」
「あぁ。あの時も…黙って見ている事なんて出来なかったからな…」
すると45が椅子から立ち上がり、自分の目の前に立った。
どうしたのだろうかと思っていると突然彼女が抱き着いてきた。突然の事に驚いていると金色の双眸がこちらを見つめてくる。
「ありがとう…」
「…礼を言われる程じゃない」
「ううん…言わせて。助けてくれてありがとう…」
「…どうも致しまして。…しかし何を考えているのか分からない辺り、まるで猫みたいだな?」
思った事を言ってみると、笑顔で彼女は言った。
「にゃん♪」
「…っ」
…とても可愛らしいと思ったのは心の中で思っておくとしよう。
その後、404小隊のメンバーと合流し、自分は拘束された。
そのままヘリに押し込まれてグリフィン本部へと送られる事になった。その間、UMP9に「今日から家族」だとか言われたりG11に膝枕するという事にもなったが…まぁ本来の目的が成せたの良しとしよう。
市街地にて。
代理人はビルの屋上にて飛び去っていくヘリを眺めていた。そのヘリにはギルヴァが乗っており、その事は彼女も知っている。
「一足遅かったですか…」
彼女は既に鉄くずと化した「猟兵」を投げ捨てると背を向けて歩き出す。
「暫くは八つ当たりでもしましょうか」
そんな事を言いながら彼女はその場を後にした。
無事作戦成功。
因みに作戦は成功したので各指揮官は彼女達に独占されてください。
さてグリフィン側に着くのだから…誰かうちの悪魔さんに会ってみないかい?
え?会いたくない?…そっか(´・ω・`)
次回お会いしましょうノシ