諸悪の根源。全ての敵。
母と名乗るすら烏滸がましい畜生に劣る存在『母ヲ名乗ル者』。
我欲の為だけに利用され、姉妹を失いながらも事態の解決しようとしていた唯一の生き残りである少女『ゼーレ』へと行ったソレは全員が押さえ込んでいた怒りを爆発させた。
シャリテが強烈な一撃を叩きこみ、『母ヲ名乗ル者』空間の端へと吹き飛ばした事によりから開戦の火蓋は切られた。
だがその一撃に何ともないと言わんばかりに『母ヲ名乗ル者』は起き上がり、そして相手をまるで見下すかのような言動に対して動き出したのが戦闘前にゼーレに少しでも前を向いてもらおうとして話しかけていたアーキテクトが発動時に自身に大きな負担がかかるシステムを発動させ、見た目が大きく変わったガングニールを纏い、神槍を構えた直後『母ヲ名乗ル者』に見せた一撃に続く様にして、『母ヲ名乗ル者』の行いを決して許さんとばかりにリヴァイルとM4、M16、M1887らにより熾烈な攻撃に加え、試験者 支援型による攻撃により前足をボロボロに破壊されナパーム弾によって全身を焼かれた事により状況は大きく傾いていた。
飛び交う銃弾と光、舞い上がる肉片と鮮血。
それはまるでこの悪魔を討たんとすべく、銃撃を、剣劇を与える者達の怒りを表現しているようだ。
「下らん!下らん!下らん!下らんッ!!!」
最初に見せた姿は見る影も無く、全身がボロボロになった『母ヲ名乗ル者』は叫んだ。
それだけ大きな声を出せるほどにその姿に反して未だ動ける様な状態であった。
その図体だけにあって耐久力だけはギルヴァとブレイクが討伐した『魔界の覇王』に次ぐと言えよう。
「繋がりも何もない、所詮は赤の他人でしかない存在に!ましてや人ですらない奴らの為に戦う貴様らなぞ滑稽でしかないッ!!!」
「滑稽でも何でも結構。お前を倒す事が出来るのなら、ゼーレちゃんの姉妹らの魂が解放されるのであれば喜んで滑稽の称号を貰おうではないか」
レパリーレン・コネクションの第三武装『ランナウェイ』による打撃を喰らわせたリヴァイルは突進するシャリテと交代するように後ろへと飛び退きつつその台詞へと向かって答えつつ、ランナウェイから第二武装『オールイン』へと変形させる。
巨大な十字架の両端に備えられた重火器。自身が持つチップを全て賭けるという意味を有したソレの長辺部分を『母ヲ名乗ル者』へと向けて攻撃を開始するリヴァイル。
大型のレーザーライフルとその下部に備えられたガトリングガンの双方による光と銃弾の弾幕が『母ヲ名乗ル者』へと襲い掛かるも、それに対抗せんと言わんばかりに『母ヲ名乗ル者』の転輪部分から光弾が放たれ、向かってくる弾幕を相殺していく。
だがそこに追い打ちをかけるように後方からの銃撃が熾烈なものへと転じ、最早光弾ではさばききれない程の弾幕が『母ヲ名乗ル者』へと食らいついていく。
「図に乗るなぁぁぁッ!!!」
相殺が無理なのであれば"盾"を用いればいい。
幸いにして"盾"は腐るほどある。
その胸の内でほくそ笑んだ『母ヲ名乗ル者』はすぐさま行動開始。
次の瞬間、先ほどまで激しかった銃撃は突如としてピタリと止んだ。
まるで
「このド腐れ外道が!!!!」
そこに広がった光景にソルシエールは『母ヲ名乗ル者』へと向かって叫んだ。
無理もない。『母ヲ名乗ル者』はあろう事か姉妹らの遺体を自身の身を守る肉盾として利用したのだ。
「ハハッ…アッハッハッハ!!!そら、撃てばいいではないか?私を倒すのだろう?!」
勝ち誇ったように、そして相手はこの肉盾を撃てないという確信があるのか『母ヲ名乗ル者』は内包する魔力を用いて傷ついた体を修復し始める。
「……てよ…」
この場に声が響く。
ほんの僅かな、弱弱しい声だと言うのに全員の耳には驚くほどにはっきりと聞こえた。
誰しもがその声の方へと向いた時、アーキテクトが声の主の名を呼ぶ。
「ゼーレちゃん…」
呼ばれても答える事無く、ゆらりゆらりと歩むゼーレ。
「…めてよ…」
顔は下へと俯いている為、その表情ははっきりと分からない。
だがその頬を伝う涙は彼女の悲しみを露わにしていた。
「もう…やめてよ…」
その言葉は果たして『母ヲ名乗ル者』か、或いはあの悪魔を討たんとすべく戦う全員のどちらへ向けられたものかは分からない。
だが涙交じりに懇願するその小さき声は聞く者の胸を抉るような痛みが存在していた。
誰にも分かる通り、ゼーレの心は今にも壊れてしまいそうなはもう限界に達しつつあった。
「苦しませないで…」
もう会えないと分かっていて、既に死していることも分かっている。
それなのに何故ここまでの仕打ちを受けなくてはならない。
もう見たくないのだ。絶望に染まったその表情で今も尚苦しみ続けるその姿を。
「もうッ!!!これ以上ッ!!!!姉妹達を苦しませないでッ!!!!!!」
幼い少女の悲痛な叫びが木霊する。
胸を手で押さえ、その場で蹲るゼーレ。
胸の中でぐちゃぐちゃにされている様な激痛、頬を伝い、地に落ちる大粒の涙。
「返してよ…!」
静かに過ごしていたあの日々を。
「返してよ…!!」
肉体を得て、触れ合ったあの温かさを。
「返してよ…!!!」
あの笑顔を。
「皆を!!」
自身を呼ぶ優しいあの声を。
「返してよッ!!!」
かけがえのない
決して叶わぬ願い。そして理不尽に対する叫びの双方が入り混じった叫ぶが木霊した時、『母ヲ名乗ル者』は動き出した。
僅かに修復された腕が肉盾として前に展開されていた姉妹らの遺体の一人を掴むと、『母ヲ名乗ル者』はニヤリと笑みを浮かべた。
そして次の瞬間。
「そんなに返してほしいのなら受け取るがいい、ゼーレ!!」
遺体をゼーレへと向かって投げ飛ばした。
「ゼーレ!!」
「ゼーレちゃん!!!」
咄嗟の事に反応が遅れた面々が少女の名を叫ぶ。
だが巨体から投げ出された遺体はもうゼーレのすぐそこまで来ており、今から受け止めようにも、彼女を抱えてその場から離脱させるのも到底間に合わない。
しかしそうだと分かっていがらもゼーレを救おうと駆け出す者達。
(間に合わない…!!)
誰しもがそう思ってしまった時、黒き影がゼーレの前へと飛び出し向かってくる遺体を優しく抱き留めた。
その黒いドレスが、その手が血で染まろうとも決して気にすることなく。
初代セイレーンは遺体へと優しく微笑みかけた。
「…苦しかったですね。安心して、ゆっくりとお休みなさい」
物言わぬ遺体の頭を優しく撫で、床へと下ろす。
伏せていた目を静かに開き、青い瞳は『母ヲ名乗ル者』へと向けられる。
その視線に何かを感じ取ったのか、『母ヲ名乗ル者』は僅かにだが後退った。
まるで何かを恐れているかのような、そんな素振り。
では一体何を恐れたのか。それは誰しもが疑問に思った直後に起きた。
「貴女に謝罪を、ゼーレ。我が同胞が貴女と貴女の姉妹へと行った仕打ちを」
初代セイレーンの足元からゆらりと湧き上がる妖気。
それが魔力であると気付くには数秒もいらない。
そして放たれる魔力に呼応するように彼女の姿が変わり始める。
「そして──」
右手に身の丈はあるであろう細身の大剣。
そして黒い髪はまるで色素が抜かれた様に白く染まり、黒きドレスは古びた白き装束へと姿を変えた。
胸元は大きく開かれ、腰にはマントと背には羽衣を思わせる様な二つのマントらしきもの。
ただそれは普通のマントとは言い難いものである事は誰の目からしても分かる事でマントの中ほどから先端にかけて黒紫の魔力が放出されており、ゆらりと揺らめていた。
何よりもその魔力はまるで夜空に浮かぶ星を表現するように煌めいていた。
底が見えない暗闇の中で輝き続ける星々がまるで夢の景色のようで、只々ひたすらに美しい。
「貴女を、そして貴女の姉妹を苦しめる存在を──」
それは見る者を深淵へと誘う幻想。罪なき者を誘い、底へと引きずり込み、そして"生"を喰う。
故にその身に具現する姿はかつての所業とも言える姿。
何百年という年月を経てその力は今、哀しみに囚われ、絶望に沈む少女を救う為に解放される。
「身の欠片一つ残すことなく消失させましょう」
静けさに潜む決意に呼応するようにセイレーンが右手に携える大剣の刀身に魔力が纏う。
溢れんばかりの魔力を纏った大剣を素早く横へと振りぬき刺突の構えを取る。
対する『母ヲ名乗ル者』は展開していた遺体を前に展開し攻撃を防ごうとするも突如として姉妹らの遺体が光に包まれて何処かへと消え去っていってしまい、つい驚きの表情を浮かべた。
それが隙となり、セイレーンの接近を許す形となった。
「…!」
瞬間移動も言える接近から放たれるは強烈な刺突。
刀身を纏う魔力が刺突の威力を底上げし、巨体である『母ヲ名乗ル者』を仰け反らせる。
しかしこれはただの
セイレーンが奏でる
「どんな曲調がお好きですか?」
問いかけながら放った薙ぎ払いから斬り上げ。
そして流れるように彼女は大剣を振るいつつ斬撃を繰り出しながら、追撃として魔力を纏った斬撃を連続で放つ。
鮮やかながらも鋭さを宿した無数の斬撃に撃ち落とそうと『母ヲ名乗ル者』の体からまるで人間の腸を彷彿とさせるようなものが飛び出す。
それら全ての先端は槍の様に鋭利であり高い貫通能力を有しており、向かってくる攻撃へと突撃。
しかし触手程度では斬撃を止める事は叶わず、瞬く間に斬り落とされていき、斬撃は半分まで修復した『母ヲ名乗ル者』の体を次々とを切り裂いていき、態勢を崩す。
その瞬間を見逃さなかったセイレーンは地を蹴り、『母ヲ名乗ル者』との間合いを一気に詰め、手にした大剣を横へと薙ぎ払い前足を中ほどから両断。
断たれた部分が宙へと舞い、断面から鮮血が吹きあがる中、セイレーンは何かを感じ取りその場から離脱。すると先ほどまで居た地点の足元から魔力によって錬成された剣山が飛び出し、前足を犠牲にすると同時に『母ヲ名乗ル者』が反撃してきたのだと判断しつつし着地と同時に大剣を担ぐようにして構え、魔力を放出した。
濁流とも言えるほどの膨大な魔力が刀身へと流れ込み、何時しか魔力が刀身を形成していく。
その状態を攻撃の瞬間と判断した『母ヲ名乗ル者』は転輪から生み出した光弾による集中砲火と魔力によって生み出された化け物を複数召喚し、それら全てをセイレーンへと差し向ける。
だが光弾はセイレーンの周囲を守るようにして発せられる魔力の暴風によって防がれ、向かわせた化け物たちもセイレーン以外の面々によって排除されていく。
状態を維持し続けるセイレーンへと向かって辛うじて原型を保っている片腕を振り下ろし叩き潰そうとする『母ヲ名乗ル者』。
勢いよく振り下ろされた腕であったがセイレーンが発する魔力が凄まじいまでに増長し、迫りくる腕をあろう事か対象に触れる前に弾き飛ばされてしまった。
(何だ、この力は…!?)
下手をすれば魔界を支配する事も可能とも思えるほどに力を開放した彼女は強かった。
しかし幾ら種族の長と言えど、ここまでの力を有する事はない。
それを分かっていたからこそ『母ヲ名乗ル者』は疑問に思う。
ではこの力は一体何なのか。何を喰らえばこれ程までの力を有る事が出来るのかと疑問に思った時、魔力によって形成された巨大な刀身の切っ先が天井に届いた時、『母ヲ名乗ル者』が思う疑問をまるで知っていたかのようにセイレーンが告げた。
「…"同胞"です。貴女の裏切りによって死にかけたまま人界へと流れ着いてしまった同胞らを私は喰らったのです」
「は…?」
魔力で構成された刀身が天井に届くまでに至った時、セイレーンから出た台詞に『母ヲ名乗ル者』は間抜けな声を上げ、先ほどまで攻撃を繰り出していた面々も驚きの余り、その手を止めてしまった。
同胞を喰らった。それは"身内"を喰らったという事を。
つまり今自分達の敵である『母ヲ名乗ル者』と同じ所業をセイレーンもまた行ったという事になる。
「人界へと流れ着いてしまった同胞らを見つけた時、同胞らは生きていた。死にかけのまま、何十年ものその場で生き続けたのです。長たる私と出会うその時まで…」
─私を喰らってください、我が長よ…─
─この血肉が、この魂が…─
─貴女の生きる道の力となるのであれば本望です…─
脳裏に浮かぶ同胞とのやり取り。
見つけは手厚く弔ってきた全ての同胞らが残した最期の願いを叶え、与えられた力は恐らくこの時の為にあったのだろうと思いつつもセイレーンの頬に涙が伝う。
「これは痛みであり悲しみであり、愛する姉妹を守りたいと思い続ける希望。大切な者と共に歩みたいという願い。そしてこれが非業に飲まれ消えていった者達へと送る鎮魂歌──」
大剣が巨大な魔力の剣へと昇華。
先程とは段違いの暴風がセイレーンを中心に発生し、他の面々はおろか、巨体である『母ヲ名乗ル者』ですらその場で踏ん張るので精一杯とも言えるほどの暴風だった。
柄を握り直しながらセイレーンは敵を見据えた時、セイレーンは告げる。
「
ゼーレの姉妹、自身を残して消えていった同胞、あまつさえは『母ヲ名乗ル者』にすら手向けられた巨大な一撃が振り下ろされ、地面を砕く音と共に光の濁流となって駆け抜けた。
留まる事を知らない攻撃は地を裂きながら『母ヲ名乗ル者』を体ごと飲み込むと眩い星の輝きを有した光の柱となって咲き誇った。
流石にあの一撃をまともに受ければいくらあの悪魔とて生きているはずはないだろうと誰しもが思った。
しかしそれが間違いだったと思ったのはこの後の事であった。
「ぉぉぉぉ…」
光が消え、辺りに広がる土埃から聞こえる不気味な声。
そして薄っすらと浮かび上がった特徴的な影にソルシエールが険しい表情を浮かべる。
「ったく…どこまでしつこいんだ、こいつは」
「あれほどの攻撃を浴びて、まだ生きているとは…」
ソルシエールの台詞に答えながらシリエジオはニーゼル・レーゲンをガトリングガン形態へと変形させ、構える中、土埃の中で蠢く敵を見つめた。
あの特徴的な姿は早々に忘れる事はない。
だが先ほどから鈍く響き渡る生々しい音によって『母ヲ名乗ル者』の姿が変わりつつあるという事は理解しており、そして肌で感じ取った嫌な感覚をシリエジオは知っていた。
(…デビルトリガー…)
かつて人形違法売買組織を壊滅する際に門番として現れた悪魔『タルタシアン』。
致命的な一撃を与えたにも関わらず起き上がり、デビルトリガーを発動させていた。
あの時は姿を変える事無く、その体から禍々しいオーラを放っていただけであったが『母ヲ名乗ル者』の身に起きている事が『デビルトリガー』であるのであれば納得がいく。
しかしだ。あれほど巨大な力を有していた存在がソレを発動させたのであれば、いよいよ厳しくなる。
(…仕方ありませんか)
『母ヲ名乗ル者』との戦闘ではダメージは与えられたものの消耗が激しい。
これ以上の戦闘となると確実に死者が出る。であれば、残された手段は一つ。
自身が此処に残り、全員を逃がす。その事を伝えようとした瞬間だった。
「その覚悟は立派だけど、それは別の機会に取っておくべきよ?メイドさん」
突然として聞こえた声。
シリエジオはその声に驚き、素早く後ろへと振り向く。
その傍でセイレーンは後ろへと振り向く事はなく笑みを浮かべながら呟いた。
「漸くお目覚めになられましたか」
シリエジオが後ろへと振り向いたのに釣られて周りも後ろへと振り向くと、いつの間にそこには一人の女性が立っていた。
和を取り入れた装束。濡羽色の様に艶のあるツーサイドアップを施した長い髪にアメジストの瞳。
誰しもが羨む体つきに加え、所作の一つ一つに色気すらを感じさせる。
そして妖艶な笑みを浮かべるその姿はまさしく絶世の美女と言っても過言ではないと言えよう。
だが敵であるかどうかすら分からない謎の女性である事は変わりなく、初代セイレーン以外の何人かが面々が警戒し始めた時、ある人物が放った言葉が敵味方の判別を付ける切っ掛けとなった。
「…お姉ちゃん?」
"お姉ちゃん"。
そう口にしたのは、ゼーレであった。
そして彼女に姉と言われた女性は笑みを浮かべたままゼーレへと歩み寄ると頭に手を乗せた。
「声は今まで聞いていたけど、こうして顔の見るのは初めてね、ゼーレ。起きるのが遅くなってごめんなさい」
「…本当にお姉ちゃんなの?いつ動いたの…?」
「正真正銘のお姉ちゃんよ。それと動いたのは貴女の泣く声が聞こえた時にこっそりと抜け出してたの」
ゼーレの頭をポンポンを撫でる女性。
「それじゃ私もお手伝いしましょうか。貴女達をいじめる悪い子をうんと懲らしめてあげないと」
ゼーレの頭をポンポンを撫でると女性はゆっくりと立ち上がり土埃の中にいる『母ヲ名乗ル者』を見た。
先ほどまで浮かべていた笑みは何処へ行ったのか『母ヲ名乗ル者』を見るその顔は最早『無』。
感情すら存在していないと錯覚させる程に酷く冷たいものであった。
「グオオオォォォッ!!!!」
獣のような雄叫びを上げ、土埃から姿を現す『母ヲ名乗ル者』。
デビルトリガーの発動によりその姿は大きく変わっており、ブレイクみたいな言い方をすれば「前の方が美人だった」と言っていい位にその姿は醜悪だった。
口は四つに裂け、胴体からは蟹の鋏の様なものを宿した第二の不気味な腕が姿を現し、半壊した転輪は禍々しい色へと変色。体は無数の蛆の様なものが伝いながらも女性らしさは辛うじて有していた。
最早その姿は『母ヲ名乗ル者』よりも『鬼子母神』と名付けた方が良いだろう。
「あんだけ攻撃したと言うのに、元気になり過ぎじゃないっすかね…」
「けど、ここで諦めるのは性に合ってないんじゃないかな、ハク」
「そりゃそうっすよ、ソルシエールさん。ゼーレちゃんの生い立ちを知っちまえば尚更じゃないっすか?」
「ハハッ!確かにそれもそうだね」
ハクの台詞に笑いながら答えながら、手にした大鎌を回転させ構えるソルシエール。
確かにゼーレという少女の生い立ちを知ってしまえば、敵が突然変異起こそうが引く訳には行かない。
ああいう存在は徹底的にぶちのめさなくてはならないのは此処にいる全員の共通目的とも言える。
二人の会話を端に僅かにながらも諦めかけていた面々の心に火が灯り始め、その姿を見ていた女性は静かに微笑んだ後、指をパチンと鳴らした。
まるで合図と言わんばかりに鳴らされたフィンガースナップに、突如として光が現れこの場にいる面々の傍まで近寄ると、光は人へと姿を変え地へと降り立った。
「この子たちは…?」
「どことなくゼーレちゃんに似てる…まさかこの子達はあの子の?」
M14が疑問の声を上げた後、リヴァイルは冷静に判断しつつゼーレの方を見た。
「皆…!」
肉体は持たない身だとしてもその姿は紛れもなくあの時の姿の姉妹達。
もう会えないと分かっていたゼーレからすれば、姉妹達に会えたのは喜び以外の他なかった。
そして姉妹達にとっても唯一の生き残りである妹が生きていた事は無上の喜びであった。
肉体は失った。だが霊体としても自分達はまだ生きている。
透き通った体で姉妹の一人が手を伸ばしゼーレの頬に触れる。
温かさは残念なことにない。だが姉妹達に触れられているという事実にゼーレの瞳から涙が流れ始める。
だが今は和んでいる場合ではないのも事実。それはゼーレも姉妹達も理解しており、何よりも姉妹らはこうして霊体として姿を現れた意味をゼーレは察していた。
―後は任せて、ゼーレー
「うん…!!」
それを分かっていたからこそ、姉妹の台詞に彼女は頷いた。
二度目となる別れが来るのは分かっている。それがとても辛い事だと分かっていたとしてもだ。
妹から得られた許可に姉妹達は全ての元凶を討つために尽力してくれている者達へと歩み寄る。
ある者は手にしている武器へと手を伸ばし、ある者はまるで祈るような姿勢を取った。
その直後姉妹達は再び光へと包まれ、姿を変えていきやがて姉妹らの魂を宿した武器がそこに顕現する。
「ペサンテとグランディオーソ、そしてニーゼル・レーゲンに宿りましたか…。特にこの二丁は随分と大きくなった模様ですが」
二度目の改造により辛うじてその原型が残っていた二挺の大口径大型拳銃『ペサンテとグランディオーソ』は二人の少女の魂が宿った事により、最早巨銃とも言える姿を得た事にシリエジオは苦笑した。
全長50㎝、口径13mmと常人はおろか、ハイエンドモデルですら持てないであろう巨大な銃へと変質しつつもどうやらシリエジオ専用として生まれ変わったのか、彼女は軽々とガンスピンをして見せていた。
ニーゼル・レーゲンの方はその見た目からは分からないが、シリエジオが言うのであれば何らかの変化があると見ていいだろう。
「向こうはあの二丁と複合火器か。で、こっちはメインの大鎌とワーロック全体、シャリテはベルフェゴールに宿ったか」
「ええ、そうみたいです」
姉妹らの魂が宿った事により、ワーロックの大鎌は実体刃から魔力で形成された刀身へと変質し、同時に刀身がもう一つ追加され二股と化していた。
そしてワーロック自体も変質しており、メインスラスターユニットと後ろ腰のサブスラスターユニットは横へと広がる様にスライド、翼の間から青白い妖気を放出。また腰に追加装備が施されているなど変化が見受けられる。
対するシャリテのベルフェゴールは大きな変化は見受けられない。だが彼女はその変化に気付いていた。
(そろそろ起きる時間ですよ、ベルフェゴール)
目を伏せつつ彼女は己の内で
それと同調するかのようにベルフェゴールから何らかの起動音が響き渡り、両肩の『ローブ&アーモリー』が変形開始。
(獲物はすぐそこにあるんです…)
心臓の鼓動の様な音が微かに響き、伏せられていた目がゆっくりと開かれ、まるで稲妻の様な水色の眼光がその瞳が放出。
(喰らいたければ力を貸しなさいッ!!!)
次の瞬間、まるで悪魔の咆哮を思わせる様な起動音と共にローブ&アーモリーが変形し、巨大な爪を宿した妖気を放つガントレットへと姿を変えた。
そして背部のユニットのテールブレイドが自我を有した様に動き出し、生物を思わせる様な動き刀身の切っ先を『鬼子母神』へと向ける。
これこそベルフェゴールに宿った新たな力であり、新たな形態。
名を言うのであれば『ベルフェゴール・リベイク リミテッド・オーバー形態』。
抑え込んでいた力の解放。そして制限時間すら喰らい尽くした悪魔は主の指示が無ければ、誰にも止める事は出来ない。
「おーおー、こりゃまた本職のお三方が元気になったモンで…。いや、本気になった所か?」
戦闘用デバイス『デュエルアサルトシュラウド』を纏ったM16は肩を竦めながらそう口にした。
外見こそは変わっていないものの手にしている武装は先ほどのとは違う形をしていた。
身長とほとんど同じ長さがあるであろう大型ライフルを右手に携え、左手には二門の大口径砲が先端に備え付けられた巨大な盾を装備。
それがゼーレの姉妹の魂が宿った武器でありM16へと託された武器だという事は分かり切った事であった。
「そんな訳ないでしょ、M16。あの三人は戦いが始まった時から本気だったわよ」
呆れた様にM16にへと話しかけながら『F90Vタイプ』を纏うM1887の右手にはM16が携える大型ライフルの全長を軽く超えるであろう重火器を手にしていた。
巨大なコンデンサに移動補助機能らしきものを備えたソレはライフルにしては余りにも大きいと言っても過言ではない。
「そういやそうだったな、M1887。さて…姉妹ちゃんらからの贈り物、しっかり使わねぇとな!」
「ええ、そうね。M4、そっちは行けるわね?」
M1887の声にM4ははい!と答えながら、変質した特殊兵装を見た。
つい先程はランチャーとして運用していた訳だが、どういう訳かランチャー以外の装備を内蔵してしまった複合武器搭載型武装ケースと生まれ変わっていた。
本来であれば一つ一つ変形させて、何が内蔵されているかと確認をしなくてはならないのだが何故か確認しなくても何が内蔵しているのか、どういう風に扱うのかをM4は理解していた。
原理は分からない。だが戦いの支障にならない為に前もって情報をゼーレの姉妹達が伝えてくれているのだと思うとM4の胸の内はほんの僅かにだが暖かくなっていた。
(ありがとう。…貴女達がくれた力、決して無駄にしないから!)
その思いに呼応したのか特殊兵装が僅かに輝きを放つ。
まるで「うん!」と幼き少女が満面の笑みを浮かべながら答えているかのように。
『此方 ハ 大弓 カ』
試験者 支援型は手にした大弓を見つめる。
現代の技術では決して生み出す事は出来ないであろう技術で作り上げられた大弓。
『魔喰らいの一手』と名付けられたその大弓は扱いは難しく、矢を射るだけでも相当な力を有する一方で撃ちだされる矢は魔を喰らい貫くとも言われるほどの火力を誇る。
『感謝スル、ゼーレ ノ 姉妹達』
もう元には戻れない。
そうだと言うのに力を託してくれた姉妹達に感謝を伝える試験者 支援型の傍らでアーキテクトは驚きを隠せずにいた。
黒いガングニールを纏い槍を手にしていた訳であるが、姉妹達の魂を宿った事が影響したのか槍は双刃へと変形し、背には魔力で生み出された翼を放出するユニットを装着。
そして空いていた左手には手にしている槍と同じものとは大きさも、その姿も何もかも違う大槍が握られていた。
「アハハ…こりゃ大盤振る舞いってやつだね」
ここまで変質するとは思っていなかったのだろう。
苦笑いを浮かべながらもアーキテクトは先を見つめる。
その姿は大きく変わっているが何故か負ける気がしなかった。
寧ろ自分に力を貸してくれている彼女達の存在が背を押してくれていると感じていた。
「私にも力を貸してくれるとは。ゼーレの姉妹達には感謝してもしきれんな」
「うっわ…ビトレイアルⅠ、更に重装備になってねぇか?」
「そう言うそちらはどうなんだ?」
火器を内蔵したバインダーが二基追加され、空いた手には同じ形をした携行用重火器を装備。
四基のバインダー、二丁の携行用重火器というその姿は、ただでさえ高い火力を誇っているビトレイアルⅠに更に火力が増強させた状態であった。
最早地球に穴を開けるのだって難なくやってのけてしまいそうな雰囲気を醸し出しているのは気のせいだと思いたくなる一方でリバイバーのは違っていた。
両手には大型のハンドガン、そしてスリングベルトに吊るされたホルスターに通された二つの細長い鉄で出来た筒の様なそれは何処となく砲身を彷彿とさせる。
一見してよく分からないというイメージを抱くがM4と同様にリバイバーもその扱い方を理解していた。
(
成る程と頷きつつリバイバーは弾倉をハンドガンへと差し込む。
「こういう手合いだと大概、ロクな目に合わないんだが今回はそうじゃないと来たか。出番はまだまだあるみたいだしな」
―おかげでこのクソ悪魔をぶちのめせるのなら有り難い―
胸の内でそう呟きながら浮かべる笑みは彼らしからぬと言えよう。
それを傍で見ていたリヴァイルは、こんな笑みを浮かべる奴だったかと思いながら『鬼子母神』を見つめる。
「酷い面だ。化粧でもしてやれば多少はマシになるか?」
「いらねぇだろ。ま、化粧した所で余計に酷くなると思うけどな」
「違いない」
お互いに手にした武器をコツンと当て合う二人。
その姿は只々涙を流す少女たちの為に戦う歴戦の戦士の姿。
故に今の二人には油断も隙も存在しない。
「私たちは大した変化ないけど…」
「その分、自分達向けとして扱えるように全ての弾丸に魔力?ってのが帯びてる。これならあの化け物を倒す事が出来そうだね」
「ええ。…やれるね、パラ?」
「当然。ここでやらなきゃ誰がアレを倒すの?」
「確かにね。さて…最後の一仕事しましょうか」
「そんな冗談を言う性格だった?M14」
とは言え、確かにこの騒動を終わらせる為の最後の一仕事である事は変わりない。
そう思いつつAUGパラは魔力が帯びた弾丸を装填した弾倉を己を同じ名を冠した銃へと差し込んだ。
覚悟はとうに出来ている上に死ぬつもりなど毛頭ない。
今自身が出来る最大の一手を繰り返すのみと己を鼓舞し、敵を鋭い眼差しで見つめる。
「おぉ!こりゃ良い!」
そこに現れたモノにアヤトルズのリーダーであるジンは興奮しながら声を上げた。
あの悪魔には自分たちが持つ武器では大した効果がない。
それを分かっていたからこそ、姉妹らの魂が具現したソレはジンの能力を発揮するのに最適と言える代物だった。
「見た目はアレだが運転に支障はねぇ。武装はこれだけだがこの際、遠慮はいらねぇだろ!」
そう。ジンの前に現れたのはなんと武装車両だった。
姿こそは現代の車両と言うよりも如何にも魔の素材が使用されているが運転はいつも扱う装甲車と変わらない。搭載された装備は大型弾倉を備えた重機関銃だけであるが問題ないと言えた。
「トビー!そっちは行けるな…って、なんだぁそりゃ!?」
「ギャパパパ!おう、何時でも行けるぞ!」
自身の目に映ったソレに驚きの声を上げるジンに対しトビーは特徴的な声を上げながら答える。
対戦車ライフルの銃身下部にパイルバンカーを装着されていると言う個人が携行するには笑いすら出てこないものを引っ提げながら。
外見こそはシモノフPTRS1941を思わせるも本銃は50口径ではなく65口径。
つまりラハティL-39と同等の口径を有していた。だがその一方で弾数は極端に少なく、たった三発しか装填出来ない。
そして銃身下部に装着されたパイルバンカーは炸薬式であり一回使用できないが、とある特徴を有していた。それが一度作動させたら二回杭が射出されるという機能である。
一回の攻撃ではパイルバンカーに内包された魔力を用いて杭を飛ばし、対象に致命的な傷を負わせた後に杭は一度後退。そして二回で本命の炸薬で杭を発射し、対象を確実に仕留める。
人間相手に使えば見たくないものが完成してしまうが悪魔を仕留める為であれば十分と言える代物である。
「武装車両にパイルバンカー付き対戦車ライフル…それでこっちはというと」
二人の元に現れた装備を見つつ、ハクは後ろ腰へと回した箱を見た。
まるで大量の矢を収めた矢筒を思わせる様なソレ。だがそれが矢筒ではない事はハクが一番理解している。
「剣の形をした設置型の爆弾という訳っスね…。となると相手の足元に近づかなきゃダメ、か」
しかしあの巨体の足元に近づくのは正直に言って自殺行為に等しい。
加え自身は前に出ての戦闘よりも後方支援に適している。それを理解しているからこそハクの中では何とも言えないナニカが渦巻いた。
だが彼は一つだけ忘れている。相手に気づかれる事もなく接近出来る能力と高速移動能力を有した兵装を纏う人物が居る事を。
そしてその人物はハクの持つソレの特徴を一発で見抜き、歩み寄って来ていた。
「なら僕と組もうか、ハク」
「ソルシエールさん?って、ちょっと!?」
相手の返答を待つことなくソルシエールはハクを片腕で抱え、持ち上げる。
元より鉄血のハイエンドモデルである為、男性一人持ち上げるなど容易い。
「あ、変な所触らないでね?」
「触りませんよ!?」
こんな状況だと言うのに、何故こうふざけていられるのか。
そう思いつつも緊張が僅かにほぐれる感覚を覚えるハク。
ソルシエールを見て、まさかわざとではないか思うも確証があるわけではない。
ましてやそれを聞いて答えてくれるような人ではないと思ったのだろう。敢えて彼は問わずにいた。
「良い顔になったね。それじゃ飛ぶよ」
「頼みます。無いとは思いますけど…落とさないでくださいよ?」
「安心して、そんな下手は打たないさ。…移動は僕に任せて、君は手当たり次第に剣を投げて。最適な場所とか気にしなくていい。数は少ないより多い方が良いからね」
「了解…!」
相手の了解は得た。
それと同時にソルシエールはワーロック・シャルフリヒターが有する機能を起動させた。
特殊な粒子が二人の周囲に散布されていき、瞬く間にハクを抱えたソルシエールは景色と同化するようにその場から消えるとシリエジオは生まれ変わったペサンテとグランディオーソを構えつつ成る程と頷く。
「ホント、やってくれますね」
─ですが、こういうノリも悪くありません─
二丁の巨銃を素早く回転させた後、腰を低くし飛び出す態勢を取るシリエジオ。
ここまで来てしまったら、もう楽しむ他ない。
悪魔が主催するパーティーはいつだって湿っぽくならないのがお約束なのだから。
「本当に…楽しすぎて狂ってしまいそうですね!!」
それを合図にシリエジオは駆け出し、それを追従するようにベルフェゴールのリミッターを解除したシャリテが突進。
だがその二人を追い越す様に先へと突撃したものがいた。
それがジンが運転する武装車両だった。銃座にはパイルバンカー付き対戦車ライフルを背負ったトビー、そして振り落とされないように荷台に捕まるM14とパラの姿があった。
「トビー!撃ちまくれ!M14とパラは出番が来るまで何とか踏ん張ってくれ!」
「分かった!!」
固定された重機関銃のコッキングハンドルと引き、咆哮する悪魔へと銃撃を開始するトビー。
すると『鬼子母神』の口から極太の光線が吐き出されると地を抉りながらゆっくりと薙ぎ払い始め、同時に体から触手が飛び出し突っ込んでくる武装車両へと差し向けた。
どれか一つにでも当たれば即死は当たり前。だが心配する必要なんてない。
この程度の攻撃など大した問題にはならないのだから。
「なめんじゃねぇ!!」
叫びながらジンはアクセルペダルを踏みぬき、車両が加速させた。
そして迫りくる触手の嵐を巧みなドライビングテクニックで躱していきつつ、猛スピードで突撃していく。
今の攻撃では無理だと判断した『鬼子母神』が更なる攻撃を繰り出そうとした瞬間、まるで隕石の様な勢いで『鬼子母神』の前に着地した者が一人。
舞い上がる土埃。揺らめく影。携えた巨大な二丁の銃は奏でる為の楽器。
二つの銃口が敵を捉え、それに気付いた『鬼子母神』は僅かながらに反応に遅れた刹那。
ペサンテとグランディオーソと名付けられ、少女らの魂を宿し生まれ変わった
次々と放たれる弾丸。次々と響き渡る銃声。次々と舞い上がる薬莢。
硝煙の中から13mmという大口径の弾丸が無数に飛び出し巨大な悪魔へと食らいつき、その動きを封じる。
一瞬の様で長かった演奏は終わりを告げ、土埃の中にいた影がその場から飛び退き『鬼子母神』の頭が前へと崩れた時、悪魔の耳にタイヤがこすれる様な音が響き渡った。
「!?」
奔る衝撃と霧散する土埃。
そこに広がったのはジンの巧みな運転技術によって荷台によるフルスイングを悪魔の横っ面に叩きつけた武装車両の姿と荷台で出番を控えていたM14とパラ、そしてパイルバンカー付き対戦車ライフルを構えたトビーが醜悪な顔へとその銃口を突きつけている光景。
「全弾…持っていきなさい!!」
それを合図に開幕するは悪魔へと手向ける集中砲火。
舞い上がる血しぶき。例え衣服に血が付着しようがお構いなし。
今はそこに装填されている全ての弾丸を叩きこむ為だけに、その指は引き金を引き続ける。
携える銃は楽器、銃声は曲調、飛び出す薬莢が地に落ちる音は演奏に色を足す。
しかしそれは一瞬の出来事。あっという間に演奏は終わりを告げる。
だがまだ終わりではない。最後の彩る演奏があと二つ済んではいないのだから。
「こいつも持っていけぇ!!」
銃声、そして巨体をも仰け反らせる強烈な一撃。
対戦車ライフルの銃身下部に備え付けられたパイルバンカーが炸裂し『鬼子母神』の体を穿った。
大量の血飛沫が舞う中で武装車両はその場から離脱した時、『鬼子母神』が咆哮。
不気味な腕を振り上げた時、『鬼子母神』は気づく。
もう一人は何処へ行ったのか、と。そしてそれは耳元で響いた。
「気づくのが遅いんですよ」
「…ッ!!?」
すれ違いざまに響いた男の声。しかしその姿は何処にもない。
何処にいると言わんばかりに『鬼子母神』が周りを見た時、足元に地に突き刺さった大量の剣の様なものに気付く。
それら全てが爆弾であると気づいた時には時既に遅し。
『鬼子母神』がその場から飛び退こうとした直後、銃声が鳴った。
65口径の弾丸が向かう先は『鬼子母神』…ではなく足元に突き刺さった剣。
それが直撃した時、剣は爆ぜ、連鎖するように大量の剣が爆ぜ巨体が爆発へと包まれた。
しかしこれで倒れる程、アレは弱くはない。それを分かっていたからこそ、まるで突然現れた様にハクが武装車両の荷台へと降り立ち、悪魔の魂を刈り取りに向かう死神へと伝えた。
「後は頼みますよ」
「分かってるさ」
二股の大鎌を手に飛翔する死神。爆炎の中から、叫びながら飛び出す『鬼子母神』。
全身に負った傷がその恐ろしさを増長させるも彼女は平然としていた。
自我を失い、ただ暴れ狂うだけの存在に覚える恐怖などありもしないのだから。
愚直なまでに真っ直ぐと突撃するソルシエール。両者の距離が手が届くほどの距離まで近づいた瞬間、彼女はワーロックのスラスターを前面へと向け急制動をかけた。
強烈な負荷に歯を噛み締めながら、ウイングを閉じ防御形態へと移行した後一気に上へと飛び上がった。
それに釣られて『鬼子母神』はソルシエールを捕えようとした時、視界の端に眩い光が発生しているのを認識した。
『脚部固定、姿勢安定制御限界域二到達」
宿りし魂が形を成した豪弓。
決してこの世のモノとは言えぬ形をしたソレを人が矢を射るに重く、弦を引くことすら敵わない。
だがそれも叶った。一人の少女が流した涙に、その涙を流させる存在に静かに怒りを露わにした彼が手にしているのだから。
『アンカー射出、固定確認。対魔兵装出力安定、超長距離狙撃モード移行』
その怒りを表現するように矢は激しく迸る雷の如く、その魔力を発する。
これでもかと言わんばかりに弦を引き絞った豪弓が決して壊れる事無く、その姿は平然としていた。
『此レ ハ 魂ガ宿リシ豪弓。魔ヲ喰ライ、魔ヲ穿ツ一手。故二──』
魔力の巨大な矢へと変じたソレはより一層激しく魔力を放出。
まるで試験者に対してまだかと言っているかのように。
時は来た。今打てる最大の一手。少女らの魂を、嘘偽りない怒りを込めた時、試験者の瞳が光る。
『悪夢スラ モ 喰ライ穿ツ…!』
轟音と共に迸る閃光。
狙いに一寸狂い無し。魔喰らいの一手から放たれた魔の矢は悪魔を穿たんと真っ直ぐと突撃していく。
直撃コース。緻密に計算され尽くされ、最適なタイミングで放たれた矢を回避するにはもう遅い。
戦いに幕を引く一撃になると思われた時、『鬼子母神』は予想外の行動へと出た。
「aaaaaa!!!!」
女性の悲鳴にも似た咆哮が上がる。
その時半壊した転輪が動き出し、あろう事か『鬼子母神』の前を現れると攻撃を防ぐ盾として展開。
放たれた魔力の矢を真っ向から受け止めていた。
だが矢は貫かんと言わんばかりに勢いそのままに押し込もうとし、そんな矢を近づけさせまいと盾は『鬼子母神』の目の前で耐え続ける。
拮抗する力。火花と閃光が咲き誇り、周囲へとまき散らしていく。
その間に『鬼子母神』は矢の直撃を避ける為に傷ついた体を引きずりながら横へと逸れようとしていた。
「試験者!二射目を!」
『無理ダ!最大チャージ ニ 時間ガ掛カル!!』
リヴァイルが二射目を放つように試験者へと叫ぶも彼からチャージに時間がかかるという返答が返ってくる。
このままでは直撃を避けられてしまう。盾へと突進し続ける矢がいつまでも持つかも分からない。
突進する矢を後押しする一撃が必要であった。
「トビー!ライフルの弾は!!?」
「もう無い!さっきので撃ち尽くした!!」
「くっ…!」
大口径のライフルを持っていたトビーへと問うも先ほどの銃撃で撃ち尽くしたと返ってきて、AUGパラが苦悶の表情を浮かべた時、その隣にいた人物は動いていた。
己と同じ名を冠したライフルと構え、静かに息を吐いてRFの戦術人形『M14』は狙いを定める。
矢はその身を小刻みに揺らしながら盾へと突進し続けており、正確に真っ直ぐとブレなく後ろから当てるにはかなりの技量が必要になる。
まるで針に糸を通すような繊細さと集中力を要する場面。ライフルを構え狙いを定める今のM14に焦りはなく、意識を集中している影響か戦闘の音は全く耳に入らず、目にしている光景は流れる時間を遅くしたように緩やかになっていた。
「…!」
激しい戦闘音に紛れて響いた銃声。
銃口から放たれた魔力を帯びた弾丸は矢へと迷うことなく突き進んでいく。
今も尚、小刻みに揺れる矢が真っ直ぐになったほんの僅かな瞬間を見計らったかの様にM14が放った弾丸が矢の後ろから直撃。
押し込まれるようにして矢は勢いよく前進し、盾を貫くと退避行動中の『鬼子母神』の半身を貫いた。
「aaaaaaa!?!?」
抉るようにして体の半身を抉られた『鬼子母神』の悲鳴が木霊する。
とは言え完全に仕留めた訳ではない。今度こそ仕留めなくては意味がない。
それが分かっていたからこそ、重火器を構えた三人は既に発射態勢を整えていた。
「見せてやるさ…!」
両手に携えた武器。
片や大型のライフル、片や二門の大口径砲を備えたシールド。
初めて使う武器なれどM16に戸惑いはない。
何故ならこれは敵を討つ為だけに存在しているのだから。
「あの子達の──」
異なる兵装。扱いを知らぬ兵装。
巨大なコンデンサと移動補助機能を備えた長大な重火器が放つ一撃は桁違いである事を彼女は知っている。
故に心配は不要。M1887の今すべき事は眼前の敵を倒すだけにある。
「力をな…!」
渡されたあの時から備えていた力は強大であった。
三基の重火器による一斉射撃は大きな溝を作り上げる程の一撃を放つ点でも満足が行くと言うのに、姉妹らの魂が宿った事により、最早溝を作り上げるだけには飽き足らない程に至った。
三重奏から六重奏へ。
背信の名を宿し、少女らの魂が宿った兵装『ビトレイアルⅠ セクステット』を纏うリヴァイルは『鬼子母神』を見据えた。
唸るようにして集まり出す光。早く撃てと促す様に揺れる砲身。
それを何とか押さえつけながら、引き金に指をかけた三人は叫ぶ。
「「「落ちろぉぉぉぉぉッ!!!!」」」
砲身から吐き出される光。
それらすべては一つの束となって交わり、巨大な光へと変貌し突進。
地を抉り、突き進む姿は正しく光の濁流。
盾を失い、半身を貫かれた今の『鬼子母神』には到底回避など出来る訳がない。
だと言うのに諦めが悪いのか『鬼子母神』は残った腕の手を前へとかざし魔力による盾を展開。
しかし微々たる量で展開された盾ではそれを受け止めるどころか防ぎ切る事すら敵わない。巨体を包み込む程の濁流が『鬼子母神』を襲い、光の中へと飲み込んだ。
試験者が射た矢によって多大なダメージを与え、M16、M1887、リヴァイルら三人による一斉射撃によって今度こそあの悪魔を仕留めたと誰しもが思った。
「…」
その中でシリエジオとソルシエール、シャリテだけはその表情を険しくしていた。
確かに手ごたえはあった。あれほどの攻撃を浴びて生きていられる筈がない。
だが分かるのだ。悪魔という非常識な存在が如何に往生際の悪い存在であるかを。
高い知能に高い戦闘力を持つ上位種の足掻きがそう単純に終わらないという事を。
それを知っているからこそ、光の濁流から這い出るようにして現れた全身が焼け爛れた『鬼子母神』に対して何ら驚きすらなかった。
「aa…aaa…!aaaaaaaaa!!!!!!」
悲鳴に似た叫び。その中には怒りが交えており睨んでくる赤い瞳を常人が見れば実に恐ろしく感じる。
だがしかしそれがどうしたと言わんばかりに数発の銃弾が『鬼子母神』の顔面に叩きつけられた。
蓄積されたダメージによりたかが数発程度の銃弾で『鬼子母神』は仰け反りながら態勢を崩しよろけながらも攻撃を仕掛けてきた存在へとその瞳を向ける。
そこにいたのは黒と銀の巨大な拳銃を手にした一人の男。スリングベルトと繋がったホルスターには鉄で出来た二本の細長い筒を差し込んでいる。
「往生際の悪い奴だな。大人しく地獄に落ちるつもりはないのか?」
それが誰であるのかと言うまででもない。攻撃を仕掛けたのはリバイバーである。
睨んでくる『鬼子母神』に対して彼は呆れた様に話しかける。
「aaaa!!!」
「叫ぶのは一丁前ってか?文句ならあの世で言いやがれ!!」
右手に持った黒の拳銃をホルスター上部に収められた砲身へと差し込むリバイバー。
そして勢いよく砲身ごとホルスターから引き抜くと、現れたのは大型の重機関銃。
巨大なドラム型弾倉にバイポットの役目も担う大型の
ずしんと音を立てながら展開された重機関銃。引き金を指をかけ、今度こそ仕留める為に『鬼子母神』へと射撃を開始するリバイバー。同時に彼は直ぐに傍にいた人物へと叫ぶ。
「こっちが撃っている間、ギリギリまで近づけ!M4!物騒なモンを大量に仕込んだ棺桶であいつをぶちのめせ!」
「了解!」
『鬼子母神』に反撃の時間を与えない為に集中砲火を浴びせるリバイバー。
飛んでいく弾丸の嵐の中をストライクEを纏ったM4が突撃。
拳銃の弾を数発貰っただけでもよろけていた『鬼子母神』。
それが重機関銃から放たれる大口径弾の嵐となれば成す術もなく痙攣した様にその体を跳ね上げていく。
そこにM4が『鬼子母神』の近くまで接近。スラスターを切り、地面を滑りつつ回転しながら彼女は変質した武装ケースを変形させる。
ケースの後端部分が姿を変えていき、そして現れたのは合計八つの発射口らしきものが並んだ武器だった。
一見すればそれが何なのかは分からないが、M4は知っていた。
実はこの形態はミサイルを垂直発射し、対象の真上から攻撃するという代物なのだ。本来であれば距離をとって扱う物なのだが、あろう事かM4は回転同時にその発射口部分で『鬼子母神』の顔面を殴り、そのまま零距離でミサイルを全弾発射。
至近距離で発生する爆発と爆炎、爆風。だがM4の攻撃はこの程度では留まらない。
「こいつも持っていきなさい!」
武装ケースが彼女の意思に呼応して変形。次に姿を現したのはガトリングガンであった。
ガトリングガンへと変形したケースを抱えるようにして構え、そのまま二度目の零距離射撃を展開。
そして流れるようにケースを変形させ、今度は大型のバズーカを展開し、同時にジャンプし『鬼子母神』の顔面へと飛び掛かると砲身を密着させ、三度目となる零距離射撃を行った。
着弾と同時に爆発が発生し、それによって宙へと吹き飛ばれながらもM4はケースを変形。本来の姿であるランチャーを出現させると空中で発射。
巨大な光の弾が『鬼子母神』へと吸い込まれるようにして突撃し着弾。
M4がリバイバーの背後に華麗に着地した瞬間、大きな爆発が発生し小規模のキノコ雲が浮かび上がる。
「aaaaaa!!!!!」
「「ッ!?」」
煙の中から聞こえた『鬼子母神』の咆哮。
あれだけの攻撃を受けておきながらもまだ起き上がる悪魔にリバイバーとM4は驚愕の表情を浮かべる。
桁外れの耐久力。しつこいにも程があると言っても過言ではない。だが心配は要らない。
長きにわたり続いた悪夢をこの四人が終わらせようとしているのだから。
「「はあああッ!!!」」
巨体の上から降ってくる黒き影。
片や大鎌を構え、片や形異なる大槍を構えていた。
後ろへと仰け反る巨体。これで倒れるかと思った矢先、息を吹き返したかのように比較的損傷を負っていない第二の腕をソルシエールへと飛ばした。
咄嗟の事に反応が遅れるソルシエール。アーキテクトが救助に入るにもほんの僅かに遅い。
その時、それを許さんと言わんばかりにシャリテが空中から降り、体を回転させ落下と同時に巨大な戦槌を『鬼子母神』の頭へと振り下ろした。
重たい一撃を叩きつけられ地面へと沈む『鬼子母神』。それを好機と見たソルシエールが大鎌を『鬼子母神』の首へと向かって振るい、続く様にアーキテクトも大槍をその首へと振るう。
「後は─」
巨体であるが故にその頭は重たい。
下手すると大鎌の刀身が中ほどで止まってしまうのかと思いたくなる。
それでもソルシエールは自身が持つ力を総動員させ、振り上げようとする。
「頼んだよ…!」
それはアーキテクトも同じでこれでもかと力を総動員させ、槍を振り上げようとする。
しかしそれでも巨体の頭は中に上がらない。だけど二人は諦めない。
そこに二人へと加わる様にシャリテが間に降り立ち、全身を使って戦槌を下から上へと振り上げた。
強烈な一撃。そして二人が叫ぶ。
「「シリエジオ!!!!」」
全力の一撃をお見舞いし、この戦いを締めくくる人物へと全てを託す二人。
後ろへと再び仰け反る巨体。三人がその場から飛び退いたと同時にソレは大きな口を開いた『鬼子母神』へと落下してきていた。
霧雨の名を宿したソレが本来備えていた武装。右腕と同化させる事で使用可能とする一撃必殺の武器。
既にその状態へと移行させていた彼女はその大きな口へと目掛けてその砲身を突き刺した。
口内に突き刺さったレールガンの砲身。痛みに悶えながらシリエジオを振り落とそうとする『鬼子母神』。
だが彼女は決して離れない。この一撃を決めるまでは絶対に振り落とされる訳には行かないのだ。
「これで終幕です!覚悟なさい!」
砲身が三又へと変形し、こじ開けられる『鬼子母神』の口。
光が収束し、紫電が飛び交う。同調した影響によりシリエジオの右目から水色の光が放たれる。
左手でレールガンを支え、今から引き金を引こうとした時、後方からソルシエールが問いかける。
「決め台詞は?」
その問いにシリエジオは口角を吊り上げ、笑みを浮かべる。
決め台詞?そんなのはたった一つしかない。
あの戦いで愛する
戦いを締めくくる最高の台詞。そう、その台詞は───
「
放たれた決め台詞と共に砲弾が『鬼子母神』の口の中へと放たれた。
一度放たれたソレを止める術はなく『鬼子母神』の体が膨れあがった瞬間、
その威力を物語るような大規模な爆発。周囲にぶちまけられる鮮血。
しかしそこに残る物など一つもない。それは『鬼子母神』は身の欠片一つ残す事もなく、ましてや辞世の句すら残す事もなく消失した事を意味しており、そしてそれは戦いに勝利した事を示していた。
勝利した事に歓喜の声が上がる者や余りの嬉しさに抱きしめ合う者達が居る中、セイレーンは静かに目を伏せつつ思考する。
元凶に対して行われた熾烈な攻撃の数々。その光景を目にして、楽曲の様であったと彼女は思う。
そう思った時、セイレーンはバイオリンを軽く奏でた。
「最終楽章…」
そして口にするのであった。
「
この戦いを締めくくる楽曲の名を。
本当に遅くなって申し訳ありません!!!!
そしてお待たせしましたあああぁぁぁッ!!
描きたい描写が沢山あった為、全てぶち込んでたらまさか文字数が二万にも上る程の長さになってしまいました…。
という訳で『母ヲ名乗ル者』戦、これにして終幕でございます。
次回はモデウス戦ですが…来年になるかもなので何卒ご了承くださいませ。
また今回の戦いにて登場した『お姉ちゃん』と姉妹らの魂を宿した武器に関してはこのコラボが終了後の後日談の後書きに記載します。
そして姉妹らの魂を宿した武器の今後の取り扱いについてはどうするか決めかねていますが…それもまた追々
では次回ノシ