Devils front line   作:白黒モンブラン

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Do you remember the final word?(決め台詞は覚えているか?)


Act255-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅹ

そこに残る静けさを言葉にするのであれば、正しく全ての戦いに決着がついた直後に生まれた静けさと言うのが正しいだろう。

全てを切り裂く様な一太刀によって黒雲は切り裂かれ、その間から差し込む陽の光が戦いの幕を下ろした者達を温かく包み込む。

そして敗者の彼…モデウスはあれだけの攻撃を受けながらも辛うじて息をしており、抵抗する様子すら見せる事無くその空を只々眺めていた。

そこにこの最後の戦いの序盤にて、その突破口を開いたと言っても過言ではない活躍をし、一時戦場から撤退したグリフォーネが姿を現し、ネージュの隣に立った。

 

「終わりましたか…?」

 

「恐らくな」

 

そう言いつつもネージュが両手に持つ連装ガトリングガン『ジェラシー』をサイドコンテナのマウントラッチへと収納し、顔の右半分を覆っていたピエロの仮面を外している辺り、既にこの戦いは終わりを迎えているのを指し示していた。

もう警戒する必要がないと感じたかのか安堵した息を吐き、纏っていた装備を解除するグリフォーネ。

モデウスが有する武器の大半を破壊してすぐ離脱した彼女。

この戦いの決着がつくまでの間、果たしてこの戦いは彼女の目にどの様に映り、その胸にどの様な感情を抱いたであろうか。

最も何かを思うその表情が秘める意味と胸の内に宿る想いを知るのは本人だけの話だろうが、彼女はどうしても言いたい事が一つあった。それが──

 

「…雲をぶった切る程の一太刀とか…斬撃の範囲どうなってんだ…?」

 

「見事な一撃だったな。対する私は彼女の様な活躍は出来なかったが」

 

「そんな重量物を装備しておきながら踊るみたいにアクロバットを決めて弾やらミサイルをバラまくとか普通出来ないと思うんですけど…戦場の道化師か何かですか?ネージュさんは」

 

最後のアナが放った絶技へと対する感想であった。

最も次元を切り裂く男(ギルヴァ)が居る為、グリフォーネの驚きがそう大して大袈裟なものではなかったのは、ある意味偶然と言えよう。

そこに大した活躍が出来なかったと口にするネージュの台詞に思わず引き攣った笑みを浮かべるグリフォーネを見つめながら首を傾げるネージュを他所に元の姿へと戻ったギルヴァとアナ、構えを解く蛮族戦士とアイソマー、そして未だに漆黒の悪魔の状態を維持し続ける蒼は空を見上げたまま微動だにしないモデウスを見つめていた。

このまま静かに消失していくのだろうと思われた時、モデウスの体が僅かに動く。

 

「やはり勝てませんか…」

 

ふらつきながら起き上がるモデウス。

寄り添うようにして地に突き刺さった大剣の柄へと手を伸ばし引き抜くとギルヴァ達を見つめる。

その様子を見て、まだ戦い続けるつもりだと瞬時に見抜いたギルヴァが無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切ろうとすると、蒼が彼の前に出てそれを阻止した。

 

「…悪い、任せてもらえないか」

 

「…」

 

どうしたものかと逡巡するギルヴァであったが、何も告げずに鍔に押し当てていた親指をゆっくりと離し、見向きせずに彼が任せてくれたのを感じ取った蒼は一言礼を告げると魔剣スパーダを肩に担ぎ、モデウスへと対峙する。

その時、遠くから何かが崩れる様な音と地鳴りが響き渡ると最後の戦いの舞台となった塔が大きく揺れた。

突然の事に何事だと困惑した表情を浮かべる者達が居る中、この揺れの正体をモデウスが明かした。

 

「どうやら…元凶が討たれたようですね。じきにこの世界は崩れ去り、やがて人界の扉を閉ざすでしょう」

 

そうなる前に…と前置きを口にし、モデウスは大剣の切っ先を蒼へと向ける。

 

「最後に…一手、お付き合い頂いても…?」

 

その言葉に、一体どれほどの意味が秘められていたであろうか。

分かるのはモデウスと対峙する蒼のみ。

伏せていた目を開き、軽く息を吐く蒼。その何処かに悲しさを交えながら。

 

「全力で向かってこい、モデウス」

 

「はい…ありがとうございます」

 

礼を告げ、黒き大剣を振るい構えるモデウス

肩に担いだ魔剣スパーダを静かに下ろし、モデウスを見据える蒼。

次第に酷くなりつつある揺れの中、動かない二人。

そんな二人を誰も止めようとはしない。否、止める事が出来ずにいた。

脱出とか焦りとかそんなのは知ったことではない。己の命すら後回しにするほどまでの覚悟を決めているこの二人を止めるなど出来る訳がなかった。

 

―蒼さん…

 

ギルヴァの中でその様子を見つめていたエルブルが心配そうに蒼の名を口にする。

彼女の声はギルヴァにも届いているのだが、彼は決して答えず静かにその様子を見守っていた。

やがて時が訪れる。

空は硝子の様に亀裂が入り、皆が立つ舞台は地割れが走る。世界が全て崩れ始めた時…

 

「「ッ!!」」

 

二人が同時に動いた。

そこに阻むもの無し。全身全霊を込めた一太刀を放つその瞬間まで駆け出した足は、前へと踏み出すその足は止まらない。

雄叫びを上げ駆け出す。目に映る全てが何もかもが緩やかに見える中、モデウスは笑う。

 

(ああ…超えたいと願った壁はこんなにも高く、遠いものであったか)

 

超えたい壁があった。だが向かってくる壁は今の自分では到底超えられないものであった。

かつての自分であれば一目見て気付けるものを気付けなかった自身へと向かって笑う。

誇りを捨て、力のみを求めた今、その壁を超える事は叶わない。

だが、そうだとしても挑まずにいられないのはやはり剣士としての性であろうか。或いは僅かに残ったスパーダの弟子としての誇りが、その壁を超えろと囁くからそうさせているのか。

その答えが見出せずとも、駆け出した足は決して止まる事を知らない。

何より──

 

(だとしても…!)

 

最後の最後の一瞬が決まるその時まで止まらない事を自身が一番理解しているのだから。

 

(ああ、そうだな…。お前はホントにアイツ(スパーダ)に近いと言っていい奴だよ)

 

これが最後。故に名残惜しさがある。

本人では無いにしても、蒼には分かっていた。

立ち向かってくるモデウスのその姿は紛れもなく伝説の魔剣士の跡を継ぐに相応しい魔剣士である事を。

 

(…ほんの僅かに恨むぜ、スパーダ)

 

その誇り高き魂を、その姿を失わずにいてほしかった。

最早叶わぬ願いだと分かっていながらも願わずにはいらない。

それが残り香として、片割れとして生み出された者の役目なのだから。

 

「うおおおおおッ!!!!」

 

「はあああああッ!!!!」

 

二人の魔剣士の気迫が籠った咆哮が轟き、雨で濡れた地面へと一歩踏み出す度に水飛沫が上がる。

迫る。さらに迫る。

両者が前へと進む度に終わりを締めくくるその一瞬をやってくる。

どちらが最後に残るか、それは誰にも分からない。

ただ、崩壊しつつあるこの世界に映るその光景は言葉に表しがたい情景を映し出していた。

互いの距離が縮まる。駆け出す度に上がる水飛沫の音が大きく響き渡る。

 

「うおおおおおッ!!」

 

そして──

 

「はあああああッ!!」

 

──両者の剣が抜き放たれる。

 

交差する刃。ほぼ同時に放たれた全身全霊の一撃。

相打ち。そう思う者もいた。

だが振り抜かれた剣の切っ先から伝う様に弧を描いて舞う血飛沫が、この一合での勝者を誰であるかを明らかなものにしていた。

 

「…」

 

「…」

 

地鳴りすら聞こえなくなるほどの静寂。時が止まったかのように動かない両者。

 

「ぐっ…」

 

だがその静寂を破るようにしてモデウスの体が前へと崩れた。

脇腹から流れ出る大量の血。それでも尚、彼は愛用の大剣を手放す事はなく、片手で傷を抑えながらゆっくりと蒼の方へと振り返った。

そこに映るは背を向け、静かに魔剣スパーダを背に収める漆黒の悪魔。

かつて見た──師の姿に、そしてもう一度見たかった師の背中に、それは余りにも似過ぎていた。

 

「…私の負けですね」

 

その声は何処か嬉しげであり、そして何処か寂し気であった。

今にも倒れそうになる体を何とか支えながら、モデウスは一歩一歩と後方へと下がっていく。

その先にあるのは谷底。それも底が見えない程に辺り一面を覆う暗闇が広がっている。

 

「こんな体たらくではスパーダの弟子と名乗るのも烏滸がましい…。また一から出直しです…」

 

また一歩、更に一歩と崖を近寄っていくモデウス。

そして崖の淵にまで近づいた時、その体がふらついた。その一瞬の突くように蒼は駆け出す。

自らの身を奈落へと投じようとするモデウス。それを阻止すべく彼の体を掴もうとした瞬間、蒼の喉元にモデウスの大剣が突きつけられた。

 

「行ってください…。人界でも魔界でもないこの場所に取り残されたくはないでしょう…?」

 

「お前…」

 

「…騒動の一端を担った身なのです。であれば、ここで死を受け入れるのもまた必要な事なのでしょう」

 

モデウスの体が後ろへと倒れる。

咄嗟に手を伸ばす蒼。

 

「願わくば───」

 

だがその手が伸ばされたタイミングはほんの僅かに遅かった。

故に──

 

「再びその刃を交える時があらん事を」

 

彼の手が届く事は無かった。

そしてスパーダの弟子、魔剣士モデウスは愛剣と共に暗い谷底へと消えていった。

 

「…」

 

伸ばした手。その手の平を見つめつつ、静かに握りしめる蒼。

そしてその手を静かに下ろした後、消えていったモデウスに背を向ける形で彼はその場から離れる。

 

「…行こう。ここが崩れるのも時間の問題だ」

 

その声は何処か弱弱しく、いつもの様な雰囲気ではない。

だがその事を心配するよりも急いでこの世界から脱出しなくてはならない。

全身が頷き、脱出へと走り出す。それに続こうとする蒼であったが、ふと足を止めて後ろへと振り返る。

 

「……じゃあな、モデウス」

 

───また会おう

 

崩れ往く世界。

地鳴りが響き渡るその中で、彼がモデウスへと向けた最後の言葉は静かに反響するのであった。

 

 

元凶が討たれた事により、崩壊し始めた幽霊船。

突然の事に誰しもが驚く中、状況をいち早く察したゼーレが崩壊し始めているという事を告げたのが功を奏したのか、シリエジオらはギルヴァ達よりも早く行動しており後続の彼らが素早く脱出できる安全ルートを確保していた。

『母ヲ名乗ル者』との戦いに参加していたメンバーの大半は既に幽霊船の外へと脱出しており、シリエジオ、アーキテクトの二人はモデウスとの戦いへと赴いたギルヴァ達と合流出来るまで幽霊船の貨物室…唯一外へと繋がる出口の前で留まっていた。

 

「あれは…!」

 

奥から走ってくる一団。その先頭にいるのがギルヴァだと気づいたシリエジオが叫ぶ。

 

「急いで下さい!!時間がありません!!」

 

「皆、急いで!!」

 

シリエジオの隣でアーキテクトも叫ぶ。

だが船の崩壊速度は崩壊し始めた時よりも早くなっており、一歩でも足を止めてしまえば幽霊船と運命を共にすることになってしまうだろう。

飛来する鉄骨が出口へと駆け出すギルヴァらを阻もうとするも、縫うように彼らは降り注ぐ鉄骨と瓦礫の雨を駆け抜けていく。

グリフォーネが一番に外へと飛び出し、それに続くように蛮族戦士とアイソマー、蒼が外へと飛び出すとシリエジオとアーキテクトも外へと飛び出す。

残るはギルヴァとアナの二人。このまま行けば全員無事脱出できるだろう。

そう思った矢先、予想だにしていない事が起きた。

 

「ゼェェ…レェェ…」

 

それは余りにもおどろおどろしい声だった。

例えその姿を見ていないとしても、それが誰の声であるかなど言わずとも分かった。

 

【おいおい、冗談でしょ…!?流石に往生際が悪すぎんでしょうが!!!】

 

このおどろおどろしい声の主が誰であるかと察したティアが叫んだ時、崩壊を続ける幽霊船の奥から何かが突き破って現れた。

 

「ゼェェェェェレェェェェェ!!!!!」

 

その姿はあの時戦った姿と比べると最早原型すら残っていない。

無数の手と触手を生やし、無数の蛆がその体を這う。肥大化したその姿は余りにも醜悪で、そして只の肉塊でしかなかった。

だとしても、その肉塊が誰であるかを見抜いたギルヴァの中にいたエラブルが狼狽えながらも叫んだ。

 

―も、もしかしてゼーレちゃんが言っていたお母様…!?

 

そう。その肉塊の正体はシリエジオらによって討たれた筈の母ヲ名乗ル者であった。

何故復活したのかは分からない。否、それを理解している暇があるのであれば【アレ】を討つか、脱出するかの二つに絞られる。

しかしこのまま脱出したとしても、あの肉塊は外へと飛び出しゼーレを狙うだろう。

肉塊に成り果てながらも追ってくる姿にはそんな執念を感じられるのだから。

 

「…!」

 

ほんの僅かな時間で自身が取るべき行動を定めたアナ、

太股に配置したホルスターからモデラートとラルゴを引き抜き、狙いを肉塊へと化した母ヲ名乗ル者へと定めた。

 

「ティア、魔力を回してください!!ありったけをアレにぶつけます!!」

 

【無茶言わないで!!さっきの戦いでガス欠状態なのよ!!魔力を込めたとしてもせいぜい一発が限界よ!】

 

「くっ…!」

 

魔力を込めたとしても一発しか込める事が出来ない。

しかし場は不安定な上に崩壊している状況にある。状況が最悪な事に苦悶の表情を浮かべるアナ。

その時船体が大きく揺れ、飛来した瓦礫によって左手に持っていたラルゴがアナの手元から離れ、吹き飛んでしまった。

 

「しまった…!」

 

回収している暇はない。

そう思われた時吹き飛ばされたラルゴを難なくキャッチし、銃口を母ヲ名乗ル者へと向ける者がいた。

大して焦る事はなく、只々冷静な姿に、冷静さを取り戻したアナは彼…ギルヴァに続いてモデラートを同じ標的へと向けた。

そこに焦りはなく、狙いにもブレは無い。今すぐにも撃つべきだというのにアナはギルヴァへと問う。

 

「ノアからS11地区の事は聞いています。確か…"決め台詞"があるんですよね?」

 

「余計なことを…」

 

そう言いつつもギルヴァの口角は僅かながらに上がっていた。

 

「ゼェェェェェレェェェェェ!!」

 

肉塊が迫ってくる。

その姿に誰しもがすぐさまに逃げ出しくなるだろう。

だが二人は逃げない。この決め台詞と共にこの一発を叩きつけるまでは。

 

「!」

 

ギルヴァが動く。その直後にアナが動く。

互いに寄り、背中を合わせる。そしてその目で再度狙いを肉塊を定めながらアナがギルヴァよりも先にモデラートを構えた直後、ラルゴがモデラートの上に重なる。

狙い一つ。敵は一つ。そして(ギルヴァ)と弟子(アナ)が告げるは───

 

「Jack Pot!」

 

───決め台詞(JackPot)、ただ一つ。

 

決め台詞と共に響き渡る銃声、放たれる銃弾。

向かう先は一つ。それを阻むものなど存在しない。

たかが肉塊に止める術も存在しない。

魔力を込めた弾丸が駆け抜け、全ての元凶にへと食らいついた。

拳銃から放たれた弾丸。その巨体には幾分か物足りないと思われるだろう。

だが侮るなかれ。その弾丸は全ての戦いに幕を引く弾丸なのだ。

故にその威力は──

 

「!?!?!?」

 

悪魔も泣き出す程の威力を持つ。

着弾により吹き飛ばされる肉塊。何が起きたのか分からないまま、体が崩壊を起こし始める。

 

「AAAAAAAAAA!!!!!」

 

許さないと言わんばかりの断末魔が響き渡る。

だが体の崩壊は止まらない。

 

「AAAA…AAA…A…」

 

そして叫ぶ力すらなくなったのか、体はそのまま崩壊し母ヲ名乗ル者はこの世から消え去っていった。

元凶の消失。その最期を見届けたギルヴァとアナが脱出した直後、幽霊船は完全に崩壊。

こうして、裏の出来事…Ghost ship in the seaは幕を閉じたのであった。




これにて脱出完全でございます。

本来であれば後日談もいれたかったのですが、予想以上に長くなってしまったので一旦ここらで区切ります。

後日談にて長きにわたる(参加者様に苦行を与えてしまった)コラボも終わりを迎えます。
申し訳ありませんが、あと少しだけお付き合い頂けると幸いです。

以前のルージュに続き、S10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサ(私服ver)をAIイラストで出力してみました。気になる方は見てみてください


【挿絵表示】


では次回ノシ
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