Devils front line   作:白黒モンブラン

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──最後の仕事──


Act257-Extra Memories of a summer epilogue

あの一時の夏からどれ程の時間が流れたであろうか。

あの夏の浜辺で過ごした平和な時間は長かった様で実に一瞬でもあった。

それでも昨日の事の様に思い出せるのはそれほどまで楽しく、忘れる事の出来ない一日だったからであろう。

だが忘れてはいけないのが、そんな楽しい一時にも関わらず裏では壮絶な戦いがあったという事。

欲の為に、同胞を、力を持たぬ少女達を喰らった外道。

その外道に大事な姉妹を目の前で奪われ、生き残ってしまった一人の少女が求めた涙の助け。

ただ超える為。故に求めたのは師であり、伝説となった魔剣士の力。

その為なら、己の肉体も、己の兄を、そして誇りすらも捨てた弟子。

元凶たる外道は討たれ、弟子たる魔剣士は激闘の末、狭間の底へと身を投げ出し行方知れず。

繋がりがあった訳ではない。偶然にも同時にこの二つの事件が起きてしまった。

そしてそれら全ては調査へと向かった者達の手によって解決された。

───だが、まだやり残している事があった。それが終わるまでは事件は解決したとは言えないのだ。

 

 

大海原をゆったりとした速度で進んでいく一隻の船。

その大きさからして豪華客船であり、その船が向かう先は数か月前に向かったあの無人島。

そしてその無人島へと向かう豪華客船の船首側のデッキに彼女の姿があった。

赤を基調とした制服。その上から羽織るは装飾が施された黒のロングコート。銀色の懐中時計を首に下げ、腰のホルスターには【Painekiller』と名付けられたマテバ2006Mを差し込み、艶のある黒髪が潮風に揺れる中、彼女のその瞳は───シーナ・ナギサの瞳はずっと奥にある無人島へと向けられていた。

 

「シーナ」

 

名前を呼ばれ、後ろへ振り返るシーナ。

そこにいたのは、あの夏の日にS10地区前線基地に配属となった人形であり、基地に配属する前の彼女を知る戦術人形 X95が立っていた。

 

「少し暖かいとはいえ、まだまだ冷える時期。そろそろ船内にへと戻りませんか?」

 

「ありがとう、X95さん。…うん、そうさせてもらおうかな」

 

X95の提案に頷き、彼女と共に船内へと戻るシーナ。

煌びやかな内装。あの時見たものと変わりないが、メンバーだけは違っていた。

 

「あ、やっと戻って来た。真面目なのは良いけど、もう少し気を抜いたらどうかしら」

 

デッキから船内へと戻って来たシーナに気付き、声をかけたのはダミー個体でありながら自我を有した特殊な人形、本体と区別する為に『AK-12D』と名付けられた人形である。

服装はいつものだが、ソファーに寝転がりだらける姿は何とも言えないものを感じさせていた。

 

「今の貴女にそんな事言われても説得力を感じないんだけど?AK-12D」

 

「程々に休めって事を伝える為にこうしてるの。言葉で伝わらないなら体で表現ってね」

 

「要は自分だけがだらけているのは忍びないから共犯者が欲しいって訳ね」

 

「そうとも言う」

 

全くと呟きながらため息をつくシーナの隣で微笑むX95。

遊びに来ている訳ではないのはここに居る全員が分かっているのだが、生真面目過ぎるのもいかがなものかと言うもの。

ほんの少し小休止を挟むべきと判断したシーナはAK-12Dの隣に座り、机の上に散乱した書類を見た。

隣に座ったX95もその視線に釣られて、机へと目を向ける。

 

「あの戦いからたった数週間もしない内に送られてきた報告書。あのバカンスに参加し、あの裏での戦いに赴いた人数が人数なだけあって、それなりの量になってしまいましたね」

 

「仕方ないよ、頼んだのは私だし。それにあの場に居なかったからね、知る必要があった」

 

机の上に散乱した無数の報告書。

それらは全て裏での戦いに参加した者達にシーナが頼み込んで送って貰ったものである。

出会った敵の詳細、船内の状態、元凶の思惑、伝説の魔剣士の弟子、そしてゼーレン・レットゥングとの出会い…そこで起きた事を細かく記されており、シーナが裏での出来事を把握するには十分すぎる程であった。

 

「そしてこのプチ旅行を企画したの?…あの子の為に」

 

いつの間にか起き上がり、後ろへと回って来たのか、シーナの背にもたれ掛かりながらAK-12Dはそう問いながら、ある方向を見た。

そこにはいるのは真っ白なワンピースに真っ白な帽子を被った少女、ゼーレン・レットゥングと自らを『ペルフェクティオ』と名乗り、ゼーレに姉と呼ばれている彼女の姿があった。

ゼーレにとって大きく広がる海は初めてなのか年相応の反応を見せ、その隣でゼーレへと優しく微笑むペルフェクティオ。その後ろで和やかな雰囲気に当てられ、つい微笑んでしまうMG4と『AK-12D』と同じく本体と区別する為にAN-94Dと名付けられた人形の姿があった。

とても微笑ましい光景に癒されながらシーナはAK-12Dの問いに頷きつつ理由を告げた。

 

「…大事な家族、大事な人を失う痛みと辛さ、一人残される苦しさは知っているから。あの子の境遇を知っておきながら、そのまま放置とか出来る筈がない」

 

その過去を知っている為か、X95とAK-12Dの表情は僅かに曇る。

ゼーレと同じように理不尽によって家族を失ったシーナ。

だがゼーレとシーナ…その違いがあるとするのであれば一つ。

シーナ・ナギサという少女は、自ら銃を手に取り、復讐者と化した。

悪魔という存在に奪われた訳ではない。同じ人間に奪われ、そんな人間を殺して、また殺して、更に殺して…そして大量の屍を築き上げて復讐を成した時に残ったのは報われることの無い悲しみだけであった。

そこだけが違いが生まれていると言えよう。

 

「…せめてあの子の姉妹が安らかに眠れるように弔ってあげないとね」

 

「…ええ、そうね」

 

その手を血で染めてしまったから。故に両親が眠る墓の前に立つ権利すら失ったシーナ・ナギサ。

例えこの先、それが出来ないとなったとしても…同じ悲しみを背負う者が居るのであれば自ら手を差し伸べ、弔い時を与える事が出来る。

戦えない者の為ならば自らの手を更に血で染めようが、更に修羅になろうが構わない。

それが復讐者と化し多くの命を奪って来たシーナ・ナギサの償いであり、今の彼女に出来る事なのだから。

すると話題を切り替えようとしたのか思い出したかのようにAK-12Dがある事を尋ねた。

 

「そう言えばペルフェクティオの正体…参加メンバーに伝えなくて良かったのかしら?」

 

「それは私も思いました。ゼーレちゃんの姉というだけでは通すのは少々厳しいかと思います」

 

AK-12Dの問いにX95も思う所があったのか、シーナへと言及する。

ペルフェクティオ…またの名をペルフェクティオ・ドゥオ・ムンドゥス。

魔帝ムンドゥスによって造られ、第二のムンドゥスとして生み出された生体兵器であり、同じく生体兵器であり、高すぎる破壊衝動から魔界すらも滅ぼしかねないと封印された存在、今ではシーナの最強の従魔として君臨するナイトメア以上に危険と言われたのが彼女…ペルフェクティオである。

人界侵攻時に彼女を人界へと忍び込ませ、魔界側と人界に潜入したペルフェクティオ側で人界を侵略する予定だったらしい。

一度は目覚めたものの魔剣士スパーダに封印されたという過去を持つ。

ここまで分かるとするのであれば、ペルフェクティオはあの魔帝と同じくらいの存在であり、人界を治めようなら平然とやってのけてしまう程の力を有している事である。

一歩間違えれば、世界を滅ぼしかねない存在だが『母ヲ名乗ル者』の戦いでは協力してくれている。だが参加メンバーにはゼーレの姉という事だけしか伝えていない。

それでは情報が少なすぎて余計な疑念を抱かれるのではないかと問う二人に対するシーナもそうだねと頷くがペルフェクティオの正体を明かせないのは理由があった。

 

「…彼女の存在は今は伏せておく必要がある。参加メンバーの中の一部は伝説の魔剣士の話を知っている。その話の中には魔帝の話もあった」

 

「確か…ムンドゥスでしたか?魔剣士スパーダによって封印された魔帝の名は」

 

「うん。彼女がムンドゥスによって造られた存在とは言え、その正体をあの戦いの直後で公にすれば変に警戒される可能性もあった」

 

「しかし…」

 

「…分かっているよ、X95さん。この一件が落ち着いたら時期を見てあの時の参加メンバーには伝えるつもり。それにあのメンバーなら信じてくれると思うから」

 

なんせ、と言った所でシーナの視線ははしゃぐゼーレを抱き上げ、共に海を見つめるペルフェクティオへと向けられる。

 

「ゼーレちゃんにあんな風に笑いかけている彼女なら皆、信じてくれる筈だから」

 

「ああ…」

 

ゼーレへと微笑むペルフェクティオ。

浮かべた表情は決して作り笑いではなく、心からの笑み。

それを見てX95は納得したような声を上げると──

 

「そうですね。…きっと信じてくれますわ」

 

ペルフェクティオと同じように優しい笑みを浮かべるのであった。

 

 

自動操縦で無人島へと到着した豪華客船。

二度目となる無人島へと降り立つと、指揮官たるシーナと今回の為について来たMG4とX95、AK-12D、AN-94Dは素早く周囲の警戒に当たった。

その様子にペルフェクティオが苦笑しながらシーナへと話しかける。

 

「流石に大袈裟過ぎないかしら?そこまでしなくても悪魔の気配なら私が探知できるけど」

 

「念には念を入れよってやつだよ。それに悪魔以外の敵が潜んでいないとは言い切れないからね」

 

「成る程。確かにそれもそうね」

 

ここでは無いが別の無人島では不死の巨大アナコンダとか蝿男と遭遇し、調査どころではなくなった事例がある。

まさかとは思われるも決して無いとは言い切れる訳ではない。故に彼女達は警戒に当たるのは当然の事であり、ペルフェクティオも納得したように頷いていた。

 

「クリア。周囲に敵影無し。…問題ありません、指揮官」

 

「了解、MG4。そのまま周囲の警戒を継続。葬式が終わるまで警戒を緩めないで」

 

「了解」

 

指示を受けMG4らが周囲の警戒へと務める中、シーナはペルフェクティオの隣に立っていたゼーレへと向けられる。

彼女が大事そうに抱えている小さな箱。その中には一度武器へとその姿を変え、そして役目を終えたかのようにネックレスへと姿を変えたゼーレの姉妹達が眠っていた。

とは言え全員ではない。シリエジオが持つペサンテとグランディオーソ、ニーゼル・レーゲン、ソルシエールが装備するワーロック、シャリテのベルフェゴールに憑依した一部の姉妹達は離れる事をしなかった。

何故離れないのか、当初こそは誰しもが困惑したがゼーレだけは姉妹達が残った理由を分かったらしい。

彼女曰く、ゼーレを守りたいとの事らしく、その為に離れないとのこと。

その事が告げられると全員が納得し、今後の扱いについて当の本人らに任せる形が取られた。

 

「周りは私たちに任せて。…悔いの無いようにね、ゼーレちゃん」

 

「う、うん!」

 

緊張しながらも頷き、ペルフェクティオと共に海辺へと歩み寄るゼーレ。

さざめく海を前にして、ゼーレは腕に抱えていた箱をギュッと抱きしめる。

これが最後になるという事実、いつまでも愛していると言う思い、送り出す側としての責務、もう会う事が出来ない寂しさ。

胸の内に宿る全ての感情を込めるように、ゼーレは箱を強く抱きしめる。

それが一分か、或いは十分か、もしくはそれ以上か。短い様で長く感じられた別れの一時。

手が震えるゼーレの肩にペルフェクティオの手が乗る。

 

「…送り出してあげましょうか」

 

「…うん」

 

今にも泣き出したい感情を抑え、ゼーレは抱えていた箱を海の上へとそっと置いた。

箱は流れる海によって箱はあっという間に沖へと流され、やがて重力に従ってほんの僅かにだが静かに底へと沈んでいく。

段々と小さくなっていく箱の姿に堪えきれなくなったのか、その瞳から涙を流しながらゼーレが叫んだ。

 

「皆…!皆…ありがとう…!!私…私は元気でやっていくからッ!!!だから───」

 

果たしてその声が届いているのか。それは誰にも分かる訳がなく、何より分からなくても伝える言葉があった。

悔いの無いようにする。シーナから言われた言葉を思い出しながら、喉の奥に突っかかった言葉を口にした。

 

「天国でもどうか…どうか見守っていて!!」

 

言葉が届いたかどうかは分からない。

だがゼーレが別れの言葉を言い切るのを待つ様に浮かび続けた箱は、彼女が全てを言い切ると安心したように静かに海の底へと沈んでいった。

安らかに眠ってもらう為に。その為だけに訪れた小さな旅行。

そして最後にやり残していたゼーレの姉妹達の葬式は無事終え、今回の事件は本当の意味で終焉を迎えるのであった。




はい!これにてコラボバカンス終了でございます!!
参加してくださったアーヴァレスト様、NTK様、焔薙様、試作強化型アサルト様、ガンアーク二式様…本当にありがとうございました。
そしてこちらの投稿速度が遅いせいでここまで時間がかかってしまった事を謝罪を。
仕事で忙しいのに大規模コラボなんてやるもんじゃないですね…。でもたまにしたくなるんですよね…。

まぁそれは兎も角として、本当にありがとうございました。

今後はどのような展開にするかは未定であり、状況によって最近投稿した新作の方をやるかもしれません。


あ、それとですが…ルージュ、シーナ・ナギサに続いて、ソルシエール(私服ver)、シャリテ(私服ver)、シーナ・ナギサ(2月14日の復讐者)をAIイラストで描いてみました。イメージとして思っていただけたら幸いでございます。


【挿絵表示】
ソルシエール(私服ver)


【挿絵表示】
シャリテ(私服ver)


【挿絵表示】
シーナ・ナギサ(2月14日の復讐者)

では皆様、次回ノシ

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