Devils front line   作:白黒モンブラン

276 / 278
─一時の合間に─


Act258 in the interim

月日の流れと言うのは意外な程に早いものである。

ついさっきまで騒動ありきのバカンスを楽しんでいたと言うのに、気づけば年を超え何度目かになる暖かい時期が到来していると言う程に早い。

気づけばこの時期なのだ。時間の流れは抗いようの無い無慈悲なものであると思うほかない。

そんなあっという間に時間の流れていくこの世の中で、S10地区前線基地は普段通りに稼働していた。

あの夏の戦い以降、目立った戦いもなく行われるのは通常任務と哨戒任務、そして物資調達の為の遠征任務ぐらいのみ。

加えてここ最近は悪魔の出現もめっきりと減ってしまい、その影響で暇を持て余してしまう事も。

とは言え完全に活動を停止する訳にも行かないので、何かするしかない。

世界はパラデウスやら悪魔やらなどで未だ脅威に晒されている中、ここだけは束の間の平和を楽しんでいる状況にあり、ブラウ・ローゼ隊の一人であり悪魔狩人であるネロは、職員と人形で行き交う廊下を歩いていた。

普段であれば部屋で愛用の改造リボルバー『アニマ』のメンテナンスなりお気に入りの音楽などを聴いたりなどして一日を過ごしているのだが、今日に限っては違った。

 

「ったく…暇でしょうがねぇ」

 

暇を持て余していた。

それも結構暇を持て余していた。

 

(やるべき事はやっちまったし、部屋にいた所でヘルメス辺りが突っかかってくるに違いない。シーナの所に行ってもあいつはあいつで書類仕事で大変だろうから邪魔したくねぇしな…)

 

「はぁー…こりゃ一日過ごすのが苦労しそうだ…」

 

深いため息をつき、この一日をどう過ごそうかと考え込むネロ。

通行人の邪魔にならないように廊下の端に寄り、近場に置いてあったベンチに腰かけた時だった。

 

「ん?」

 

人やら人形やらが行き交う廊下の中、一人の少女が歩いているのをネロは目撃した。

小さなバックを背負い、一枚の紙を手に何処かへと向かっている様子にも見えるが、どことなく迷っているようにも見える。

 

「…しゃあねぇ」

 

その姿を見ておきながら放置など出来る筈もない。

加えて暇つぶしになるのであれば、丁度いいタイミングとも言える。

座っていたベンチから立ち上がり、ネロはその少女の元へと歩き出す。

人と人の合間を縫いながら進んでいき、デビルブリンガーが露わになっている右腕を少女の頭にポンと置いた。

 

「よっ、お出かけか?」

 

「あ、ネロさん」

 

声を掛けられ、振り返る少女。

彼女の名前はゼーレン・レットゥング。周りからゼーレと言う名で親しまれている。

白く透き通るような髪と赤い瞳が特徴の少女で、あの幽霊船の騒ぎに赴いたメンバーが出会った少女である。

元々は肉体無き霊体の様な存在で現世と幽世の間に存在する『狭間』という世界で姉妹らと静かに過ごしていた。後に『お母様』と呼ばれる悪魔によって肉体を有し、騒動を収束させる為にギルヴァ達を呼び寄せ、騒動を収束を依頼した経緯を持つ。

騒動が収束後は帰るべき場所を無くした彼女をシーナが保護。

現在ではS10地区前線基地に身を置いており、シーナの手伝いや後方幕僚のマギーの手伝いをしつつ過ごしている。

 

「えっと…私に何か用?」

 

「いや、大した用じゃないさ。たださっきから迷っている様に見えたんでな、どうしたのかと思ってな」

 

「あ、その…マギーさんがいる工房に行こうと思ってて教えてもらったんだけど、分からなくて」

 

ゼーレから差し出された地図を手に取り、眺めるネロ。

工房へと向かう道こそは丁寧に描かせている。この地図と周りをよく見れば迷うことなく辿り着くだろうが、身長の低いゼーレからすれば見える景色は違ってくると言える。

 

「成る程な。ま、ここまで来たら工房まではあと半分の距離だな。まぁ、この人の行き来がこう多いと…」

 

そりゃ迷うよな、と締めくくりネロは地図をゼーレへと返す。

 

「丁度、暇をしていた所だ。俺でよければマギーの工房まで案内するぜ?」

 

「良いの?」

 

「良いさ。さっきも言った様に、暇を持て余していた所だったしな」

 

笑みを浮かべ右腕を差し出すネロ。

悪魔の腕を化したソレを前に、意外な事に驚きはしなかったゼーレ。

ゆっくりと伸ばされた小さな手が悪魔の手を握る。

微かにデビルブリンガーが輝くとネロはゼーレを連れてマギーの工房へと歩き出した。

 

 

「マギー、居るかー?」

 

「こんにちは」

 

ネロがゼーレを連れて、マギーの工房へと入る。

自室兼個人的な工房である此処は彼女が手掛けた作品を扱う者達による出入りが比較的多い場所であり、訪れた時には必ずと言っていい程、マギーが何かしらの作業をしている事が多い。

二人が訪れた時も、マギーは作業台に腰かけ何かしらの作業をしている様であった。

 

「おや…。いらっしゃい、二人共。今日はどういった入り用で?」

 

「俺の方はなんもねぇけどな。こっちはお前に用があるみてぇだが」

 

「ほう?」

 

二人が入ってきた機に作業の手を止め、振り返りながら問いかけてきたマギーにネロが答えつつ、視線をゼーレへと向ける。

マギーの視線がゼーレへと向けられると、彼女は提げていたバックから一枚の紙を取り出しマギーへと差し出した。

差し出された一枚の紙を受け取り、内容へと一目向けるとマギーは成る程、と納得した声をあげた。

 

「例の件の報告でしたか。わざわざありがとうございます」

 

「だ、大丈夫です。けどまさかと思いました」

 

「でしょうね。…それで気配は今でも感じられますか?」

 

「はい。…遠いけどこの気配は"姉妹"達のものです。多分だけど…魂は離れてしまったけど、その思いだけが残っているんじゃないかって思います」

 

「ふむ…」

 

考え込む素振りをマギーが見せたタイミングで話の内容がよく分かっていないネロがゼーレへと問う。

 

「面倒ごとか?」

 

「面倒じゃないけど…その、姉妹達の気配を感じる様になってて」

 

「姉妹って言えば…確か、あの戦いで武器に変じたものの戦いが終わるとネックレスにへと変わったんだったな?」

 

報告で聞かされただけだがネロはゼーレの姉妹達の事は知っていた。

元凶を倒す為に姉妹達が自らを武器へと変じた事。

そして戦いが終わるとネックレスの姿へと変じ、その最期をゼーレに看取られた事を。

この目で見届けた筈の姉妹達の気配が感じられるようになった。

もしかすればあの『お母様』の様な存在が眠りについた筈の姉妹達を無理やり蘇らせたのではないか。

その事もあってゼーレは指揮官たるシーナや後方幕僚でありながら悪魔でもあるマギーに相談していた。

 

「うん。最初こそは気付かなかったけど、ふと感じるようになって。もしかして良からぬ事が起き始めようとしているんじゃないかって思って…」

 

「それで私と指揮官が相談を受けていたんです。騒動が起きる前に収める事が出来るに越した事はないのですが…状況が読めない事もあって一時的に様子見をお願いしていた形です」

 

マギーからの説明もあってネロは成る程と頷きつつ、ゼーレへと問う。

 

「で?結果的に俺らが出るほどのモンか?」

 

消火活動(悪魔狩り)にへと出向く必要があるか、どうかを。

その問いにゼーレへと首を横に振って、必要ない事を伝えながらその理由を告げた。

 

「多分…形を、自分達が生きていた事を残したかったんだと……虹の向こうに渡ってしまう前の、最後の我が儘を叶えたかったと思う。この暫くの間、感じられた気配はそんな想いだったから」

 

「…そっか。なら良いさ。マギーもそれで良いよな?」

 

世界はどれだけ時間が経ったとしてもこの有様で、ゼーレの姉妹達の過去は壮絶そのもの。

であれば、多少の我が儘を叶えた所で誰がそれを咎められようか。

 

「ええ、そうですね。何もないなら我々が出向く必要はないでしょう」

 

笑みを浮かべながら尋ねるネロに釣られて笑みを見せるマギー。

非業な運命を辿ったのだ。それくらいの我が儘など誰も咎めはしない。

マギーの胸の内はそんな想いに包まれていた。

 

「話は切り替わるがよ…マギー、その作業台に置いた銃を何でバラしてんだ?定期メンテナンスだって前にやったばかりじゃねぇか」

 

自分達が出向くほどのものではないと分かると同時にネロはこの部屋に訪れてから気になっていた事をマギーにへ尋ねる。

彼女の視線の先にある作業台。その上にはあの幽霊船の騒ぎで、とある人物に貸し出された二丁の大型拳銃『モデラート&ラルゴ』が分解された状態で置かれていた。

ベレッタM96FSをベースに改良された銃であり、返却されるにあたっては借りていた『とある人物』が盛大に駄々をこねると言う事態に発展している。

逆を言えばそれ程までに気に入っていたという事なるのだが。

それはさておき、定期メンテナンスを直近で行ったにも関わらず分解されている二丁の銃について問われたマギーはその事ですかと口にしつつ、作業台に置いてあった一枚の設計図を手に取りネロの前に広げた。

隣に立つゼーレにも見えるようにしているのだが、銃の設計図とまでしか分かっておらず細かい部分に関して首を傾げている様子であった。

 

「こりゃ新しい銃の設計図か。…随分と手を加えるみてぇだが、無茶し過ぎじゃねぇか?ブレイクの持つアレグロとフォルテと良い勝負出来るぜ?」

 

そう言い切れるほどに、マギーが設計する銃はかなり無茶な改造が施されていた。

これまでは一つの銃をベースに改良し仕上げてきたのだが、今回マギーが行おうとしているのは、二つの銃を合体させつつ機能面の改造を施すというもの。

当然ながらこの銃を製作するにあたっては全てのパーツを一から見直す必要がある。

気が遠くなる様な作業を行う必要がある。それなしではこの銃は到底完成しないだろう。

 

「おまけにベースにすんのは…モデラートとラルゴかよ。向こうの()()()が知ったら飛んでくるに違いないぞ」

 

「分かってますよ。ですが、こればかりは止めるつもりはありません」

 

「その理由を聞いても良いか?」

 

「構いませんよ。と言っても、大したものではありませんが」

 

広げていた設計図を傍にあった机の上に置き、愛用の椅子に腰かけるマギー。

浮かべる表情は普段と変わりないが、その目は職人の目をしていた。

 

「悪魔としての私ではなく、魔工職人の私でもなく、マギー・ハリスン(この世界で生きる一人の職人として)が作る最高傑作を作りたくなったんです」

 

「…!」

 

最高傑作を作る。

何が彼女をそうさせたのかは分からない。

だが、最高傑作を作ると言うのであれば止める理由はない。

何故なら──

 

「職人の性と言うのでしょうかね。貴女と同じように、私の最高傑作を託したくなった。それ以外の理由は必要ですか?」

 

「…ハッ」

 

職人が語る理由などそれぐらいしかないのだから。

 

「良いじゃねぇか。好きな様にやっちまえよ、マギー。最高傑作を送り届けて、驚かせてやろうぜ」

 

「言われなくてもそのつもりです」

 

盛り上がる二人。

そんな姿を見て、恐る恐るゼーレが手を上げた。

 

「あ、あの…私が配達してもですか…?」

 

何か楽しそうな事が起きようとしている。

自身では分からずとも楽しみたいという思いは密かに存在していたのだろう。

おずおずとその事を伝えてきたゼーレにマギーは笑みを浮かべる。

 

「ええ、構いませんよ。その時はお願い致しますね」

 

「!…はい!」

 

配達係は決まった。

であれば行う事はただ一つ。

 

「さてと…最高のforty-five(45口径)を手掛けようではありませんか」

 

最高傑作を作り上げる。

今、すべき事はそれだけなのだから。




こちらではお久しぶりです。

本内容で分かる通り、あの夏の騒ぎにて返却された(渋々であるが)モデラート&ラルゴを最高傑作へと作り上げる為、マギーが行動します。
因みに配達係はあの夏の騒ぎにて登場した少女、ゼーレン・レットゥング(ゼーレちゃん)が担当。

次回は…多分、ゼーレちゃんによる配達になるかも?(向こうさんの反応次第による)
確実とは限らないので、何卒良しなに。

ではではノシノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。