Devils front line   作:白黒モンブラン

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─最高傑作を貴女に──


Act259 best 45 caliber

夜が明け始め、空がその色どりを少しずつ取り戻し始めた頃。

薄暗がりの自室で置かれた小さなライトだけに照らされた作業台の前にマギー・ハリスンはいた。

 

「…ふぅ」

 

頬に付着したオイルを拭う事もせず、その一言ともに"ソレ"がゆっくりと置かれる。

唯一の照明がウエスに置かれたソレを照らす。

黒に彩られた部品。よく見れば銃のスライドの様にも見える。

そしてその部品にはとある文字が刻まれていた。

 

──FOR TIA──

 

それは、とある人物に向けて刻まれた文字だった。

音楽用語の名を冠した双銃を酷く気に入った彼女へと送る言葉。

その人物が誰なのかなど、この基地にいる面々であれば分かる事であった。

 

「さて…最後の仕上げをして、あの子に配達をお願いしましょうか」

 

軽く背伸びして、マギーは再び作業を開始。

そして夜が明けた頃には、その作業台には一対の大型拳銃を横たわっていた。

 

 

ゼーレがマギーに頼まれ、早期警戒基地に、ある品物を配達する為にS10地区前線基地を出たのは昼辺りを過ぎた頃であった。

配達専用として整備された小型のバンを舗装されていない道を進ませ、運転席に座るゼーレはマギーとシーナは描いてくれた地図を見つめる。

道中の危険を考慮して描かれたルートは普段からS10地区からS09 P地区へと向かうのに良く利用される道。

今回初めての配達となるゼーレからすれば、安心できるルートとも言えた。

 

「えっと、品物のリストはこれで……後は受け取り票はこれと…」

 

他の基地への配達は今回が初めてだ。

だがその表情には緊張はない。

安全速度を維持しつつ、ゼーレはバンを走らせながらS10地区とS09 P地区との境界線を越える。

真っ直ぐと続く道を数十分かけて走り抜けると、彼女の視界にその町は映った。

そここそS09 P地区。

彼らと出会い、悪魔という存在を信じ、幾度もなくその戦いに協力してくれた基地が存在する地区。

初めての邂逅から長い時間が経った今でも、S10地区前線基地と相手の関係は良好なまま。

そしてあの島からS10地区に身を置く事になったゼーレにとって、隣の地区は初となる場所とも言えた。

 

(すごくきれいな街…。確かS09って激戦区って聞いていたけど…)

 

基地に居た際に聞かされた情報を思い出しつつ、周囲を見渡す。

激戦区と言われていながらも、街は整備され、人や車の行き来もある。

 

(この地区の指揮官さんはとてもすごい人なんだね…。ここまでに持っていくのに相当時間がかかったろうに)

 

他の地区に存在する町はここまでの復興を遂げてはいない。

そういった情報も耳にしていたからこそ、ゼーレは改めて配達先である基地の指揮官を感心しつつ、配達先である早期警戒基地へとバンを走らせる。

この時、彼女はこの地に訪れているのは自分だけだと認識していた。それ故にその気配に気付けずにいた。

そしてその気配の主は自身の近く、バンの荷台の上で腰かけていた事に。

 

「懐かしいねぇ…前に来たのは何時だったかね」

 

目に映る景色を懐かしみながら彼はバンが向かう方を見つめる。

 

「いつもならギルヴァやエラブルと一緒なんだが──」

 

揺れる車両の上でゆっくりと立ち上がる人物。

仮初の姿であり、異形の姿でありながらも通り過ぎるバンの上に立つ彼に誰も気付いていない。

 

「今日ばかしはお忍び訪問だ。お邪魔させてもらうぜ?早期警戒基地さん」

 

そんな中で彼──蒼はバンが向かう先、早期警戒基地にへと遠くから挨拶するのであった。

 

 

一台のバンが早期警戒基地にへと入る。

入門許可証を首に下げ、車両を適当な所に停車させるゼーレの目にはあの夏の事件にて手を貸してくれたアーキテクトとアナの姿が映る。

そしてS10地区前線基地からやってきたであろう一台のバンを見て、アナは不思議そうに首を傾げる。

 

「珍しいですね。いつもなら大型トレーラーでやってくる筈なのですが」

 

「配達する品によって分けているんじゃない?ちょっとした物を配達するのに大型車両はいらないでしょ」

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

今回の配達品は、大掛かりな物ではないという事は事前に知らされている。

小型のバンでやって来たのはそういった背景があるのだろうと二人は判断する。

そして小型バンへと歩み寄った時、運転席から降り立った彼女にアーキテクトが驚きの声を上げた。

 

「ゼ、ゼーレちゃん!?」

 

纏う衣服は違えど、特徴的な髪と瞳の色は見間違える筈がない。

そこに立っていた人物は確かにあの幽霊船で出会った少女本人であった。

だが今回の配達ではゼーレが来るという知らせはされていない。

驚きの声を上げたアーキテクトとは対照的にアナは声は上げずともその目は見開いていた。

 

「お久しぶりです。え、えっと…配達に来ました」

 

恥ずかしそうな様子を見せつつ一礼しながら配達にやって来た事を伝えるゼーレ。

そんな姿にアーキテクトは感極まったのか駆け出し、ゼーレを思い切り抱きしめた。

突然の事に驚きながらも、次第にその表情は笑みへと変わり彼女はあの島以降、S10地区での事をアーキテクトにへと伝える。

姉妹を奪った母モドキと戦う前に、言ってくれたあの言葉を胸に抱きながら。

 

─君は幸せになれるよ─

 

彼女は難しい事は言えないといった。

だがその言葉はゼーレン・レットゥングにとって難しい言葉だった。

幸せになれるか、どうか。そんな先の事すら見通せない程の暗闇が目の前を支配していたのだから。

だけど、今は違う。

 

「ありがとう。あの時、勇気づけてくれて」

 

「!」

 

「大変な事は沢山あるけど…それでも──」

 

一人ぼっちじゃなく、そして今こうして生きているという事実。

大変な事もあって、時には笑い合って今という一日を過ごす。

それをなんて言うのか。

 

「とても幸せです」

 

幸福と言わずとして何て言うのだろうか。

 

「そっか…そっか、そっか。うん、私も嬉しいよ。幸せそうで本当に良かった」

 

「はい」

 

微笑ましい二人を少し離れた位置で見ていたアナ。

その様子にティアが声を上げる。

 

【これはサプライズね。元気そうで何よりってやつじゃない?】

 

【そうですね。あの島での騒動以降、S10地区前線基地に身を置いているという話は聞いていましたが】

 

【私は行ったことないけど、あのシーナが居る基地なら大丈夫でしょ。…にしても今回はただお礼を言いに来ただけなのかしらね?】

 

【そうとは限らないでしょう。配達と言っていた以上、恐らく私かノア、それともRFB…或いは意外な線をついてレイに対してと考えられます。レイは兎も角、私達三人はこれまでに幾度もなく施しを受けてきたので】

 

【…確かにね。貰いっぱなしってのもアレな気もするけど。でもまぁ、多分…死んでほしくないから色々してくれているんじゃないかしら。ギルヴァしかり蒼しかり、シーナしかり…ホント、あの基地に居る奴らはお人好しが過ぎるというか】

 

精神世界の中で苦笑しつつ肩を竦めるティア。

それに釣られてアナもつい苦笑いを浮かべる。

ギルヴァを筆頭に素直じゃないのが多い。今更な事かも知れないが、それを思うとついつい笑みが零れてしまうのはご愛嬌というやつだろう。

 

【さ、今日は誰宛てなのか聞いてみましょ。出来れば私宛で、品は愛する相棒達(モデラート&ラルゴ)だと嬉しいのだけど】

 

【まだ言っているんですか…。いい加減諦めて、私の銃で我慢してください】

 

【お断りよ。私はあの子達が良いの!】

 

【はぁ…】

 

あの夏の一件以来、ティアはモデラート&ラルゴを気に入っていた。

それはもうぞっこんレベルと言っていいぐらいにだ。

基地に戻り、試しにとアジダート&フォルツァンドを使うも満足のいく刺激が得られず、代わりの銃を探すもあのモデラート&ラルゴが余りにもティアに馴染み過ぎたのか、他の銃でも満足が行かないという結末を迎えている。

自身の体と同化したレベルまでに馴染むあの二丁を忘れられる筈もなく、ティアはふと思い出してはそんな事を呟き、またかと言わんばかりにアナがため息を付くのが今や日常茶飯事と化していた。

そして今日も同じようなやり取りを繰り返しつつ、アナはゼーレへと歩み寄り声をかける。

 

「お久しぶりです、ゼーレ。元気そうで何より」

 

「こんにちは、アナさん。はい、変わりなく元気です」

 

「それは良かった。それで今回の配達の品は誰宛てなのでしょうか」

 

「えっと…」

 

腰に提げたバックから配達先伝票を取り出し、宛先を確認するゼーレ。

その視線が伝票からアナへと向けられるとゼーレは今回の宛先人の名を口にした。

 

「ティアさんですね」

 

「ティアにですか?」【え、マジ?】

 

自身でもなければ、ノアでもRFBでもレイでもない。

もう一人の自身たるティアへの配達。

流石のティアも驚きを覚えるも、もしかしてと思ったのか段々と興奮が隠しきれなくなっていた。

 

【今すぐに品物を聞きなさい!!!ほら、早く!早く!】

 

【うるさいですよ。少しは落ち着いてください】

 

【こんなやり取りをしているだけでも時間の無駄!ほら、早く!私の可愛いあの子達が待ってる!】

 

マジでこいつ、本当にもう一人の私かと思いたくなる程の変わりようにアナは頭を抱える。

人形だと言うのに頭痛に似た痛みを覚えながらもゼーレへ品物の内容を問う。

出来ればそうであってほしくないと思いながら。

 

「ち、因みにですが…品物はどういったもので?」

 

「銃ですね。それもティアさん用に仕立て直したものですけど…」

 

【Fooooo!!!Yeahhhh!!!!】

 

宛先が自分で、その品が自分用に仕立て直した銃となれば、もう考える必要はない。

テンションのパラメーターが振り切れてしまい、叫び出すティナ。

更に頭痛の様な痛みが酷くなった様な感覚に襲われるアナを見て首を傾げるゼーレ。

そんな彼女に、何でもないと伝えつつ場所を移動をすべきと考えたのだろうか、移動を提案する。

 

「取り敢えず中へどうぞ。品物はその時に見せてください…」

 

「な、なんかやつれてない…?アナっち」

 

「気のせいですよ、アーキテクト。ええ、気のせいですとも…」

 

少々やつれている様な気もしなくもない彼女の案内の下、ゼーレはバンの荷台から下ろした品物を手に基地の内部へと入っていく。

 

【ん…?】

 

先ほどまでのハイテンションはどこへと消えたのか。

ふわりと感じた気配にティアは訝しげな声を上げた。

 

【…この気配、何処かで…】

 

何処かで感じた事のある気配。だがその気配は余りにも薄すぎて特定には至らない。

だけど知っている。はて、誰の気配だったか。

首を傾げるティアだが、結局のところ分からないままであり、思い出すのを止めた。

 

「おーおー…気配を極端に消しているとはいえ、ティア辺りは気づくかぁ」

 

一向が中へと入っていく様子を基地を囲む外壁の上で遠くから見ていた蒼。

そして気配を消しているにも関わらずティアが自身を感じ取りつつあった事に関心しつつ、蒼はその場から飛び降りる。

 

「さぁてと…こっちも移動するか」

 

仮初かつ異形の体が消える。

完全に姿を消した蒼は別の方向から早期警戒基地にへと入っていくのであった。

 

 

 

早期警戒基地内部、射撃訓練所。

その中にアナとゼーレの姿があった。

因みについ先ほどまでいたアーキテクトは単に迎えに来てくれただけであり、仕事があるのかゼーレに別れを告げるとそのまま立ち去っている為、その場にいない。

 

「さぁさぁ、品物を見せてちょうだい!」

 

一秒でも早く再会したいのか、肉体の主導権を強引に奪い、表に出てきたティアが興奮冷めやらぬ状態でゼーレへと詰め寄る。

流石の彼女にゼーレも少々恐怖を覚えてしまい、それを内側で見ていたアナが窘める。

 

【いい加減落ち着きなさい!!怖がらせてどうするんですか!】

 

「おっと……おほん」

 

自覚があったのか、アナに言われて軽く咳払いするティナ。

 

「あー、ごめんね。ちょっと怖がらせてしまったかしら」

 

「だ、大丈夫です。ちょっぴり怖かったけど…」

 

「あはは…ごめんごめん。さて、気を取り直して…品物を見せて貰えるかしら」

 

「あ、はい」

 

ティア用に仕立て直した銃を収めた専用のガンケースを作業台の上に置くとロックを解除し開くゼーレ。

そしてケースを反転させ、そこに収められた品物をティアへと見せた。

 

「ん?」

 

収められたソレにティアは眉を顰める。

彼女はてっきり銃が既に完成した状態で収められていると思っていた。

だが彼女の目の前にあるのは、完成していない…分解された状態で収められた二丁の銃だった。

どういう事だという視線をゼーレへと向けると、彼女は静かに告げた。

 

「最後はティアさんの手で仕上げてください。そうする事でこの子達は貴女の物となる」

 

「!…オーケー、分かった。きっちりと受け取り伝票にサインしてやらないとね」

 

ケースの中に収められたパーツを手に取るティア。

一つ、また一つと組み上げていく度に彼女は生まれ変わった双子の銃の魅力を感じ始める。

生まれ変わる前の双子も中々の物であったが、生まれ変わった姿はそれ以上の物を有していた。

何処がどうだとは言葉にはしない。組み上げていく度に銃の自身が語り掛けてくるのだ。

二つの銃を組み合わせるという大幅な改修。

全てパーツを見直し、丁寧過ぎると言っていい程の改修が施され、使用する材質までも見直し。

ミリ単位どころマイクロ単位レベルの超繊細な調整が施されたグリップは、一度握れば馴染むどころか同化しているのではないかというレベルまで仕上がっているも、右手用として製作された銃のグリップはウッド調、左手用として製作された銃は形は同じと言えど象牙調に仕上げていた。

カートリッジは一から製作された専用のもので、一挙動での抜き取りを可能にしつつ使用する弾丸の特性上、弾数も重視。

銃身はやや厚みがあり、先端に取り付けたマズルブレーキは二段式を採用し発射時のガスの飛び出しを更に細分化する事によって射撃時の狙いを安定させる役目を担っていた。

何より銃の耐久力を超えてしまう程の連射を行うであろうティアが使用する事を前提に大幅な大型化及び堅牢化を施し、無茶な連射では壊れない耐久性を実現していた。

やがて双子の銃【モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルート】全貌が明らかになった時、ティアは銃のスライド部分に刻まれた文字を発見する。

 

──For Tia──

 

自分宛てに送られた言葉。

そしてその下にもう一文、文字が刻まれていた。

 

──By Maggie's workshop──

 

【どうやら最高傑作を託してくれたみたいですね】

 

「ホント…最高ね。ついつい愛したくなっちゃうわ」

 

【それは本人にどうぞ】

 

「この場にいない人に言ってどうするのよ。でもそうねぇ──」

 

生まれ変わった双子の銃をゆっくりと机の上に置くティア。

そして傍に立っていたゼーレを見つめると何を思ったのか、思い切り彼女を抱きしめた。

 

「ふえっ!?」

 

「大好き!!!愛してるわ!!!」

 

「ふ、ふえええっ!!!????」

 

最早何が何なのか分らず困惑するゼーレ。

それでもお構いなしに抱きしめながら軽々と踊り出すティア。

彼女の喜びがほとぼり冷めるまで時間がかかったのは言うまででもない。

やがてその興奮が収まった時、ある事に気付いたのかティアはゼーレに尋ねる。

 

「ちなみにだけど…口径はいくつかしら。生まれ変わる前は40口径だった筈だけど」

 

「確か…45口径って聞いています」

 

それを聞いたティアは双子の銃を軽々と回転させて収められていた専用のホルスターにへと一気に差し込みむと笑みを湛えゼーレへと一言。

 

「パーフェクトよ、ゼーレ」

 

「えっと…感謝の極み?」

 

【何ですか、そのやり取り】

 

何処か知ったのか分からないやり取りにアナは静かにツッコミを入れるのであった。




更新が遅れて大変申し訳ない。

はい、という訳で生まれ変わった双子の銃。
モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルートをティアさんへ託します。

という訳でモデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルートの紹介を軽くておきます。

【モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルート】
:モデラート&ラルゴをティア用にマギーが仕立て直した双子の銃。
ベレッタM96FSをベースにしつつも、ベレッタM8045を使用。それに伴い口径が40口径から45口径へと変更されている。
以前の姿から大幅に変更されている訳だが、最早それは一から作り直したと言っていい程で、全てのパーツを一から見直し、使用する材質までも吟味する程の大改修が施されている。
その完成度は非常に高く、体に馴染むどころか同化しているのではないかと錯覚してしまう程の完成度を誇る。
またこの双子の銃も音楽用語を使用しており、造語ではあるが【モデラート・レジェロ】は「中くらいの速さで、軽く優美に」を意味し、【ラルゴ・リゾルート】は「幅広く、緩やかに。決然と」を意味する。

次回はお忍び訪問している蒼さん編。
もうちょいお付き合いくださいませ
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