Devils front line   作:白黒モンブラン

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言い忘れていた伝言を、今


Act260 message

生まれ変わった双子の銃との再会に喜んでいるティアがいる一方で、お忍びで来ていた蒼は基地内部を散歩するように歩いていた。

行き交う人形や職員が居る中で、誰一人とて蒼の存在に気付かない。

それもその筈で、今の蒼は極限にまで魔力を抑えており謂わば霊体の様な状態を維持している。

だから誰一人とて蒼の存在に気付かないのは当然と言えた。

 

(しっかし、まぁ…恐ろしい基地だことで。見えねぇ箇所の至る所に警戒装置やら物騒な装置がついてやがる。基地の皮を被った重要塞かい、ここは)

 

霊体の状態だからこそ、壁など何ら障害にはならない。

故に外部からの侵入を警戒する為に備えられた無数の装置を見て蒼は軽く戦慄していた。

 

(今更言うのアレだけどさ、うちの基地は此処との付き合い方を考えるべきじゃないかねぇ…。まぁ、今の今までイイ感じにやって来たんだ。喧嘩して、疎遠って事にはならねぇと思うが…さてはて、この基地の皆さんからしてS10地区前線基地はどう見られているのやらか)

 

そんな事を思いつつも蒼は一度足を止める。

そしてゆっくりと後ろへと振り返った時、そこに映った影を見つめた。

近場の物置を映し出す影。そこに立つ物の影を映し出すだけの至って普通のソレ。

だが蒼は見抜いていた。その陰に潜む"何か"に。

 

(よぉ、退くならさ…今しかねぇぜ…?

 

「…!?」

 

何ら変わりのない声。

最後に告げた警告でさえ、何ら気迫すら感じさせないものにも関わらず、まるで恐れたかのように影はその場からそそくさと退散していく。

誰にも気づかれる事無く、しかしてその去り際を見ていた蒼は軽く肩を竦める。

 

(こりゃ…あの歌姫様(M82A1)にも挨拶しねぇとな。おたくのペットがやんちゃしてたってな)

 

影が見えなくる程に遠ざかったのを確認すると再び歩き出す蒼。

周囲を見渡しながら、ふと彼は呟く。

 

「さぁてと…どこにいんのかねぇ、ユノのお嬢は」

 

お忍びで訪れ、現在進行形で探している人物の名を口にしつつ人をすり抜け、人形をすり抜け、壁をすり抜け早期警戒基地内部を歩き回る。

だが目的の人物は中々に見つからず、憩いの場らしき中庭と思われる場所に訪れた辺りで蒼は足を止める。

偶然にも足を止めた訳だが、まさか探していた人物がこの中庭にいたと思わなかったのだ。

 

「今日も平和だねぇ」

 

「そうですわね。今日はS10地区前線基地からの配達だけですし、特に問題はないかと思いますわ」

 

愛する娘と共にこの中庭で平穏な一時を味わうは蒼が探していた人物であるユノ・ヴァルターとクリミナ。

二人の関係性はギルヴァの中にいた時から察していた事もあり、和んでいる一時を邪魔する事に気が引けつつも、蒼は二人の元へと歩き出す。

当然ながら歩み寄ってくる蒼に二人は気づかない。だがこの子だけは違った。

 

「ん?どうしたの、ルキア」

 

「だっこ!」

 

「だっこ?でも、そこには誰も居ないよ?」

 

ユノの言う通り、ルキアが向く先には誰もいない。

娘の不思議な行動にユノもクリミナもお互いに顔を合わせ首を傾げる。

一方で蒼は自身を認識している子供に驚きを覚えつつも笑いを抑えていた。

 

(どういう訳かこの娘は俺をハッキリと見えてる。小さい頃は見えないものが見えたりするとも言うが、ここまでとなりゃ相当な気もするが…ま、今はそんな事はどうでもいいかね)

 

気づかれたからにはいつまでも姿を隠している訳にはいかない。

肩を竦めつつ蒼は声を上げる。

 

「ハハッ、こりゃ参ったね。おたくのお子さんにバレちまうとは俺もまだまだってやつかい?」

 

「っ!?」

 

突然響いた声と共に現れた異形の存在。

我が子を守るようにして抱え後ろへと下がるユノにクリミナが前に飛び出す。

あからさまに警戒している様子を見て蒼は両手を上げ、降参の意を示した。

 

「安心してくれよ…っつても信用ならないか。ならここで自己紹介させてもらう」

 

上げていた腕をゆっくりと下ろし、蒼は片足を引きつつ上半身を下ろしながら一礼する。

 

「俺の名は蒼。本名じゃねぇが訳合ってそう名乗らせてもらっている。幸せな時間を邪魔するような形で姿を晒した事、どうかお許し頂きたい」

 

下げていた体をゆっくりと起こすと蒼はユノを見つめつつ言葉を続ける。

 

「長らくの間、ギルヴァが世話になったな」

 

「ギルヴァさんの事を知っているの?」

 

自身が知る知人の名が出た事に反応し、蒼へとそう尋ねるユノ。

その問いに蒼は頷き、口を開いた。

 

「長い付き合いさ。嘘かどうかを知りたいならギルヴァ本人に尋ねてくれ。()()()()()()()()()()のはお嬢が一番知っているだろ?」

 

「!」

 

嘘を言う性格じゃない。

それは初めてギルヴァとブレイクと出会い、彼らの事を、悪魔の事を聞かされた後にユノが発した言葉。

その言葉を知っているとなれば、その時から蒼が存在していたという事になる。

だがまだ不安は残る。それが僅かに表情に出ており、それに感づいた蒼は仕方ないかと前置きを口にして言葉を続ける。

 

「怪しいと思われてもいい。だが三つほど伝えたい事があってね。それだけ聞いてくれたら俺は退散する。どうだい、聞いてくれるかい?」

 

手出しはするつもりはない。

蒼の態度にそれを感じ取ったユノ。少し逡巡しつつクリミナの顔を見つめた後に蒼の方を見て頷く。

それを了承と判断した蒼はありがとうと礼を口にしつつ三つの伝言を伝える。

 

「まず一つ目でティアに伝えてくれ。俺からの餞別…あの大剣に"スパーダ"の名を名乗る事を許すって事を伝えてくれ。まぁ俺からというとよりも、あのスパーダ本人からの伝言だと伝えてくれたらありがたい。それで二つ目はあの歌姫様(M82A1)にだ。何時ぞやの事に対して礼を伝えてほしいのと、ペットの躾はちゃんとやるように伝えてくれ」

 

「分かった。それで三つ目は?」

 

それを問われ、蒼は笑みを浮かべる。

そして何処からともなく一振りの大剣を出現させるとその切っ先を地面に宛がいながら告げた。

 

「俺たちの事、信じてくれてありがとよ」

 

「…!」

 

「上っ面だけでも良かった筈だ。でもお嬢達は信じて、そして何度も手助けしてくれた。礼一つ返せないままなのは俺の性分じゃないんだ」

 

地に突き立てた大剣の柄に手を添え、蒼はユノを見つめる。

 

「最大の感謝を、ユノ・ヴァルター。汝の行く道に悪夢無きこと。そしていずれまた会う時があれば──」

 

「のんびりとした平穏な日に会おう、かな?」

 

「…ああ、そんな時に会おう。今度はギルヴァと一緒に、な?」

 

「うん、楽しみに待ってるよ、蒼さん」

 

「それはこちらもさ」

 

お互いに笑みを浮かべ合い、そして蒼は地に突き立てた大剣を回収してその場から静かに去っていく。

本来の目的を果たした今、これ以上ここに居座る必要はない。

そそくさと基地の外へと出るとゼーレが乗って来たバンの荷台で待機。

そして蒼という存在が来ていた事を一部の者しか知らないまま、蒼は揺れるバンの荷台の上で静かにS09P地区を離れるのであった。




はい。これにて蒼さんのお忍び訪問は終わりです。

本来であれば早い段階で蒼によるお礼を伝えるべきだったのですが、思った以上に遅くなってしまい、そして今漸くという形で初めて出会った時のお礼を伝える事が出来ました。まぁ+αがついてますけどね。

さてはて生まれ変わった双子の銃を渡し、お礼を伝える事が出来ましたので次回投稿は遅くなっても良いよな!

では次回ノシ
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